ハイスクールD×D The Aloof Valiant   作:じゃんろせりま

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混沌校舎のディアボロス
第1話 転生、再び


「いっけぇぇ、ホープ! ホープ・剣・スラッシュ!」

「ぐぉぁぁぁ!」

少年は『過去』を見ていた。目に見えるもの全てに覚えがある。だが、視界は若干ぼやけていて、はっきりとは見えない。しかし、目の前にいる二人がそれぞれ何かを従えて戦いをしているとは認識できる。群青色に近い髪色の、紫色に染まったボディ、そしてその胸部には、中心部で赤紫色の光を放つ(ぎょく)みたいなものから、複数の青色のラインが独特な形を成している、何かの象徴と思わせるような形のものがついている、それでいて、肩部や肘等、体の所々に黄色と黒色の装飾物が見える、『人』と呼ぶには程遠い少年と、前髪部分が赤色でそれ以外の部分は黒髪という、独特な髪型をした少年、赤のベストに白のズボンが際立つ少年との戦いだ。

そして、黒色の槍使いと思われるものが、ボディカラーが金と白の剣使いにその身を斬られるや否や、勝負は決したようであった。人外少年は、剣使いの攻撃の余波で数メートル吹き飛ばされ、地面に仰向けに倒れ伏す。左手首に着けていた、黄色と黒色、ボディ全体からは鮫の頭部を彷彿とさせる、奇抜な形をしたものの中心部に表示されていた数字は0を示していた。

「(そうか……、オレは確か、遊馬とのデュエルに負けたんだっけな……)」

「……ぅが、……ょうが…!」

「(ったく、死人であるオレをまた呼ぶ声か、今度は何に転生されるんだ? まぁ、少なくとも、こんな『真っ白な空間』から抜け出せるならそれはそれでアリかもな……)」

少年がいるのは、周囲には何もない、上下左右見渡して見えてくるのは、その空間の持つ色である『白』のみである。そして、この空間に初めて音が入り込んできた。

 

★★★

 

――――――――――――――――――どういう事だ。

少年は、思考を必死に働かせ、今の事態の把握に専念している。少年の視界は、さっきとは打って変わって、学校の教室に、大体40人の生徒が座っている、自分にも見覚えのある、いわゆる授業風景というもののそれであった。全員が板書を写したり教師の話を聞いているわけではなく、中には机に突っ伏して寝ていたり、窓の外をぼんやり見ていたりする生徒も多数いた。少年は前者の一人であったらしく、彼は『りょうが』と呼ぶ声に導かれ、『意識を戻す』や否や、机に突っ伏していた自分の体を起き上がらせたところであった。『りょうが』という言葉には大いに聞き覚えがあった。それは、彼がかつて初めて『転生』した人の名前であったからである。

「(何故『凌牙』という名が再びオレの耳に入ってくる? 更に周りのヤツらは誰だ? 誰一人として見覚えがねぇ。そもそも、オレは遊馬とのデュエルに負けた後どうなったんだ? 今のオレは何者なんだ?)」

次々と疑問が浮上してやまない凌牙に、先程、『りょうが』と呼びかけた、茶髪の少年が再びこちらの顔を見て口を開く。

「おい、凌牙、先生に指されてるぞ……!」

ヒソヒソとした小声で少年は教卓に居る教師を右手人差し指で指さして言う。凌牙はその指先を辿ると、全身赤ジャージ姿の、短髪で、熱血教師というイメージの、強面な容姿の教師が、右手に数学の教科書もち、左手に一本の白のチョークを握りながら、凌牙を見ている。

「凌牙、早くこの問題を解いてくれ、授業がすすまん」

「お、はぁ……」

本来なら身の回りで起きている様々な事象についての思考作業に没頭したいところではあるが、このまま授業を放置して面倒事を増やすわけにはいかないと心のどこかで感じていた凌牙は、教師のいう通り、立ち上がって、教卓の後ろにある黒板まで歩いていき、白チョークを右手に持って目の前にある数式の答えを書いていった。

――――――――――午後12時20分。

授業終了を知らせるチャイムが学校中に響き渡ると、教師は、今日の授業はここまでという発言をした後、教卓を片付けて教室を去っていった。

12時20分からはお昼休みの時間である。ランチボックスを持参している生徒もいれば、購買に行ってパン等を買う生徒もいる。一部には昼食はとらないという者もいた。そんな中、隣の茶髪の少年は、リュックを背負って何処かに移動しようとしていた。

「なぁ、凌牙、これから松田と元浜と飯を外に食いに行くんだけど、一緒にどうだ?」

――――――――――――――数分間の沈黙。

右ひじを机について、右手で顎を支えながら窓のそとをぼんやりと眺めていた凌牙であったが、決して隣の少年の話を聞いていなかったわけではない。ただ単に、なんと返しをしたらよいかがわからないだけである。そもそも、松田と元浜という名前自体に聞き覚えなど、凌牙にとってはなかったわけであるのだから。茶髪の少年がうーんと困った表情を浮かべ、じゃあまた今度なと一声かけて、教室を去ろうとした時、凌牙の口が開いた。

「おい」

「お、一緒に飯食うのか!?」

「俺は誰だ?」

「へっ?」

窓にやっていた視線を、少年の方に向けて訊ねる。少年は、凌牙の質問が予想外すぎてか声を裏返してしまった。少年は軽く剣呑さと困惑を顔にだし、凌牙の右肩に右手を伸ばして置き、口を開く。

「何言ってるんだよ。お前は凌牙。神代凌牙。俺、兵藤 一誠(ひょうどう いっせい)の友達だろ?」

この兵藤一誠という少年の発言のおかげで、事が更にややこしくなったと感じたのか、凌牙は、なんだと、と口にして険しい表情を少年に見せる。勿論、目の前の兵藤一誠という者と交友関係を結んだことなど覚えがない。更には、松田と元浜という者とも、この少年の言っていることが正しければ、本来なら何かしらの関係は或るという推測が立つのだが、『凌牙』にはそんな関係はない。だが、この少年の発言のおかげで得られた収穫は話がややこしくなったという事だけには限らなかった。

(そうか、オレは再び、『神代凌牙』に転生したのか)

かつて『凌牙』は、前世にあった、ハートランドシティという街で起こった車同士の衝突事故で死んだとされる神代一家の長男、神代凌牙に転生し、その生はある少年との決闘で終幕を迎えた。そして再び神代凌牙へと転生。再び一人の『人』としてその生の歩みを始めた。凌牙は一瞬、頭の中で『アビス』をイメージした。

『アビス』とは、『凌牙』の前々世、否、それよりも一つ前の前世の『凌牙』の家来的存在である、巨大な体躯、青と金色のアーマーが特徴の、黄金の槍を扱う槍術師で、その正体は、≪No.73 激瀧神 アビス・スプラッシュ≫という魔物(モンスター)でもある。実はこの『アビス』が、前世の神代凌牙への転生を行った張本人である。

だが、今回は、『アビス』の取り計らいによるものではないという思考に至る。何故なら前回の神代凌牙への転生時には、『アビス』は『凌牙』に報告を行っていたが、今回はそれがないためである。

となると、今回の転生はどうやって行われたかが問題となってくる。そして、何故、またもや転生先が、神代凌牙であるかという問題も出てくる。これらが、ややこしさの正体である。

「そ、そうだったな一誠。悪いが、オレは、今回はパス。松田と元浜にもまた今度と言っておいてくれ」

「お、おぅ。じゃ、じゃあな」

一誠は右手を振りながら走って、教室の後ろの方のドアから去って行った。凌牙は、一誠が勝手に自分の名前を宣言してくれたこともあり、一誠の友達である『神代凌牙』を最大限にかぶって返せた気がした。これ以上話を面倒にするわけにはいかないという思いもあって、俳優並みの演技に力を注いだ。それにしては、一誠の反応は未だ困惑を含んでいた。これには少し残念な気がした。

(この状況、『ヤツ』なら易々と突破できただろうな)

そんな独り言を頭の中で漏らしながら、長々と座っていた椅子から立ち、机にかかっていたスクールバッグを右手で持って教室を出ようとした矢先である。数人の女子がこちらによって来るのが見えた。

「凌牙ク~ン!」

「キャー! 今日の凌牙クンもかっこいいよぉ! この不良ツンツンさが堪らないよね~!」

「まーた、あの変態に絡まれてたのね!? イラッと来ちゃったでしょ? あ、でも暴力はダメだよ?」

―――何だ、この連中は。はっきり言ってお前らの絡みの方がイラッとくるぜ。

そんなことを心の中で呟きながら、フッと笑いを漏らして、黒髪ロング、黒髪ツインテール、金髪ショート等、クラスにいた容姿はかなりいいと言える複数の女子達の絡みを軽く流し、教室をゆっくりとしたペースで去って行った。

 

★★★

 

「凌牙がおかしいって!?」

右手でサンドウィッチを口に運んでそう言ったのは、スポーツ刈り、否、坊主頭がトレードマークと言えよう、容姿をパッと見て野球部ですかと問いたくなるような少年、松田である。

「ぅん。あぁ、いつものアイツらしさがちょっと無ぇってか、なんというか……」

その左隣で座っていた一誠は、母親が作ったであろう弁当のおかずの一つである、タコウィンナーを口に運んで少し咀嚼して飲み込んでからボソッと呟くようにそう吐いた。そして、その一誠の左隣でおにぎりを食べていた眼鏡の少年、元浜は眼鏡をかちゃっと、右手で位置を直す仕草をすると、満面のドヤ顔を二人に向けて話を切り出す。

「ふふふ……。さぁ、ここで神代凌牙君についておさらいしておきましょう! 彼は、駒王学園でも数少ない男子生徒の一人! 見た目は何か怖そうなイメージだけど、やる事もイメージ通り! 暴行、恐喝など、彼のやらかした問題は数知れず! それなのに、成績はあの憎きイケメン優等生木場に次いで学年2位! そして、何気に女子からの人気は高い……。あぁぁぁ! なんでだ! 何であんな不良野郎がモテるんだー! 最近の女子の間では、DQN萌えってやつが流行ってるのかあぁぁ!?」

元浜は、半ば涙目で胸中を当り散らし、自分で凌牙の事を語っているうちに、自然と凌牙に対する嫉妬心が湧き上がってくる。くぅぅ、俺もそう思うぜと、元浜と同調するように言った松田も少なからず凌牙に対しては嫉妬しているそうだ。あぁ、そうだ、神代凌牙は俺たちの友達でもあるが、敵でもあるんだと論を勝手に語りだす一誠もその一人であった。

「てか、論点ズレすぎだろ!? 俺が凌牙について話したいことはそういう事じゃなくてだ。なんか、人が変わったような、なんていうか……」

「んまぁ、時間が経てばまた、『おい、馬鹿が移るからこっち寄るな』とか言ってくるって!ささ、凌牙の話は終わらせて、周り回って走っている女の子達を見ながら、優雅なランチを続けようじゃないか!」

逸れた話を元のラインに戻そうとする一誠であったが、松田は、凌牙の変化にはあまり関心がなく、どうせ時間が経てば元に戻るというスタンスをとっていた。それは元浜も同じことで、凌牙の話題が終わると同時に、昼練習をグランドでしている女子陸上部の部員を、特に胸の部分を見ながらおにぎりを口に運ぶ作業を再開した。おぉー、乳の渓谷が見えるであります等、変態全開のコメントを松田と元浜は流している。そんな、二人を見て、一誠は、深く考えすぎかという結論に至り、自分も、グランドを走っている女子陸上部員をまじまじと見始める。彼らは、グランドの端っこにあったベンチに座っていた。女子陸上部員を見ながらお昼を食べるという考えからである。

 

★★★

 

雲一つない青空。それゆえ、昼の太陽の光は堂々と地を照らしつけている。

群青色の髪の少年、灰色のブレザー姿で、中のシャツは表に出している、一見して、不良と口走ってしまいそうな容姿の凌牙は、校舎の屋上に一人足を運んでいた。上履きの靴底から、太陽の光で暖まったコンクリート地の温度を感じる。過ごしやすいと言える陽気の中、彼は、グランドを見渡せるフェンスのところまでいき、グランド側に背を向けてフェンスによっかかる。あたりを見渡しても誰もいない。ここなら、誰にも邪魔されずに思考作業に入れる。そう思った凌牙は目を閉じ、今の状況を整理し始める。

「凌牙様……、いえ、ナッシュ様……」

刹那、聞き覚えのある、渋みを帯びた声が脳内をよぎる。凌牙にとってはこの声には大いに聞き覚えのあるものであった。目を開き、気づくと、そこは、先程自分のいた屋上とは違い、『水中』と呼ぶべき空間にいた。だが、息は普通にできる。これは、凌牙の深層心理の空間といってもいい。そのイメージが、『水中』であったに過ぎない。そして、目の前には、体躯のいい、青と金色のアーマーが特徴の、容姿は、独特の髭、渋い高齢男性と呼ぶべき者が、左ひざを地について、頭を下げていた。この者が『アビス』である。

「おい、アビス、これは一体どういうことだ」

凌牙、否、ナッシュはズボンの両ポッケに手を突っ込み、アビスに訊ねる。

「今回の事ですが、私はこの件には一切関与していません。私にも何がなんだかわからないのです。唯、何らかのダイナミクスによって再び、同姓同名、同じ容姿を持った者、即ち神代凌牙に再び転生したとしか言えないのです……」

「……お前でも分からないのか。後、もう一つ。この『世界』のことだが、全く見覚えがねぇ。オレの今いる駒王学園なんて聞いたことない学校名だ。これについてはどう思う?」

「それも私にはわかりません。何かのダイナミクスによって、ナッシュ様が元いた世界とは別の世界、つまり『神代凌牙という者がいたこの世界』に飛ばされたとしか言えませんね……」

アビスもナッシュも困った表情を浮かべる。結局ナッシュは、納得いく答えを聞き出すことはできず、わかった事は、自分は、別の世界にいた神代凌牙という男に再び転生したということに留まった。そうか、とため息交じりで言葉を漏らしたナッシュに、それと、という接続語をアビスは発して話を続けようとする。

「この世界のことですが、この世界、デュエルの概念が存在しません」

なんだと、と驚きの表情に切り替わるナッシュ。そういえば、この駒王学園、お昼休みになっても、デュエルをする者が一人もいない。ましてや、この学校に来て、DゲイザーとDパッドを一度も目にしていない。アビスのいう事は間違ってはいないと確信に至る。自分の元いた、ハートランドシティの学校では、お昼休み等の休み時間になると、ジムのデュエル・スペースはデュエルをする者で埋まり、デュエル・スペースが空いていない時は、校庭等、広い場所に移動してデュエルをするのが日常茶飯事であった。中には、授業の時間をサボってどこかでデュエルする強者もいた。その場合は、大抵は後程生徒指導室行きになるのがオチなのであるが。

「そういえば、デュエルするやつを見かけないな。自分と切っても切り離せない関係であったデュエルの概念が存在しない、か。おかしな世界にきたものだ」

フッと軽く笑いを漏らすナッシュをよそに、アビスは話を続ける。

「そして、この世界の住人の中から、一部ではありますが、異様な能力を感じます」

この言葉を聞いた途端、ナッシュは眉間に皺を寄せ、アビスを睨む。ナッシュは屋上にくる途中、色々な生徒を目にした。が、中には疑問符を浮かべ、お前は誰だと問いただすべき者に該当する数は0ではなかった。

「やはり、そうか。オレも、屋上に来る途中、怪しいと思えるヤツは何人か目にした。お前の言っている事、この学園にも当てはまってるぜ。ここの学園、何かあるな」

「もしかしたら、この世界はその、異様な能力を使った戦いが繰り広げられている世界なのかもしれません……」

「戦い、か……」

アビスは自らの予想を述べる。そして、そこにあった『戦い』という言葉に、ナッシュはどこか哀愁さを感じられずにはいられなかった。

前の世界で、かつての仲間であった九十九遊馬達と決別し、バリアン七皇のリーダー、ナッシュとして、バリアン世界を守るためにその身を戦いに投じていった。この戦いでは多くの犠牲を出した。『敵』となった九十九遊馬の仲間たちに限らず、味方であった他の七皇

もそうである。

――――――――――――そうだ。オレは結局、みんなを守ってやることが出来なかった。何がバリアン七皇のリーダーだ。

ナッシュはどこか思いつめた表情をして、アビスに向けていた視線を足元に向ける。そして、吐き捨てるように小さな声で呟く。

「もし、お前のいっていることが正しいことだとしても、オレにとってはどうでもいい。メラグもいない、ドルベもいない、ミザエル、アリト、ギラグ、そしてベクターもいない。デュエルの概念が存在しないこの世界に、バリアン世界もアストラル世界もないだろう。オレがこの世界で戦う理由はねぇ。ましてや、異能の力をもった者同士の戦いに割り込む気もねぇ」

「そう…ですか。後、今の状況のナッシュ様に重要な情報かどうかはわかりませんが、ナッシュ様は今、バリアンの力を全て出しきれない状態にあります」

今一つ力のない発言の後の、アビスの報告。その報告はナッシュの耳に入っているはずだが、返答がない。戦う理由がないのに、戦いに必要な力云々は、ナッシュにとっては思考の範囲外であった。しかし、どこか、自分の力が少し落ちていることも分かっていたナッシュは、弱弱しく返す。

「あぁ、そうか。だが、それももはやどうでもいい。万一オレが異能の力を持った者に襲われたとしても、力は完全に失ったわけではないから、なんとかなるだろ。まぁ、それでオレが死ぬのもまたそれはそれでアリなんだろうけどな」

自分を嘲笑するような素振りを見せながらそう言ったナッシュをアビスはどこか剣呑そうにみていた。

「……ですが、この問題は時間の流れに応じて解決されていくものでしょう。もし、何者かに襲われたら、その場合は私がナッシュ様をお守りいたします」

「……」

ナッシュは無言を貫いていた。そんなナッシュに、アビスはアーマーの中から、ペンダントのようなものを取りだす。中心部で赤紫色の光を放つ(ぎょく)みたいなものから、複数の青色のラインが独特な形を成している。これこそがバリアンの象徴を示すものであった。このペンダントのようなものを、ずっと下を向いているナッシュの首に着ける。

「あと、これはあなたのものです。どうかご大切に」

ポケットに両手を突っ込んで、下を向いて、沈黙を貫こうとするナッシュは、守ってくれてもいいし、守ってくれなくてもいいと言っているようにも見えた。それでは、と一言残し、アビスがその姿を消すや否や、気が付くと、凌牙の視界は、屋上のそれへと戻っていた。

凌牙は、屋上の出口に向かっていき、ドアを開け、ドアがガチャンとしまると、階段の段差を降りていく。その時、下から上がってくる二人の女子生徒を通り過ぎるのだが、その時に頭がピリピリするような感覚を覚えた。だが、凌牙は何も反応することなく、挨拶もかわすことなく、両手をポケットに突っ込んだまま、自分の教室に向かっていった。

二人の女子生徒の一人は、紅色の艶やかなロングヘアー、容姿は端麗で、大きな乳房が特徴といえる、お嬢様と呼ぶべき者と、黒髪ロングでポニーテール、こちらも要旨は端麗で大きな乳房がある者であった。紅色の髪の女子生徒は、凌牙とすれ違う時、両目を強く見開いていた。声をかけようとも思ったが、凌牙はそれを拒むかのように先に行ってしまったように見えたため、それはやめにした。

「あら、部長、あの子がどうかしまして?」

「否、なんでもないわ、朱乃。唯、あの子がソーナのいう、『お世話させられてる問題児』かなって思っただけ」

「恐喝、暴行を繰り返し、何度生徒会と生徒指導の教師にお世話になってるのかしらねぇ。退学にならないのが不思議でしょうがないですわ、っていうところでしょうけど、実のところ言うと、部長も何か感じたんじゃありません?あの、『問題児』から」

「フフッ、やっぱり朱乃に隠し事は通じないわね……」

可憐に、そして優雅に紅の髪を靡かせ、朱乃という女性に微笑みかけると屋上に向かって足を進めていった。朱乃も微笑みながら、その後をついていったのだった。

 

 

★★★

 

 

5限の国語が終わると、そのままホームルームに入り、ホームルームが終わると同時にチャイムが校舎中に響き渡り、今日一日の学校が終わったのだった。

凌牙は国語の教科書とノート、ペンケースを鞄にしまうと、そのまま鞄を背負って教室を出ようとしていた。

「なぁ、凌牙、今日一緒に帰らねえか?」

「悪い、今日は用があるからよ」

「そっか……。じゃ、また月曜日な」

一誠は凌牙を誘うが、凌牙はそれを断った。凌牙はそのまま、鞄を背負って教室から去って行った。凌牙は、今は一人でいたいと考えていた。

転生先である神代凌牙の生徒手帳に書いてあった住所を頼りに、自宅へと向かう凌牙。歩いていくと、住宅街に入ったのか一軒家の家が軒並み並んでいる。何mかおきに置かれている街灯は、夕焼けの光と共に道を照らしていた。暫くして、噴水のある森林公園が凌牙の視界左側に入ってきた。噴水からは水が出ていて、周りでは、まだ幼い子供達が遊んでいた。そんな光景を見ながら歩いていた凌牙だが、急に凌牙の足が止まる。否、正確には

凌牙が歩みを止めた。そして、後ろを振り向き、出てこい、気づいていないとでも思ったかと声をかけると、左側にあった電信柱に隠れていた人影がその正体を現す。よく見ると、黒髪の女子で、制服を着ていた。大体高校生ぐらいの娘だろう。頬を赤く染め、もじもじとした表情で凌牙に近づく。一見、唯のかわいい女の子のようだが、凌牙はそれを終始目を細め、眉間に皺を寄せて見ていた。その表情に微笑みの文字はなかった。

「誰だてめぇは!」

「ひっ、わっ、私は天野 夕麻と言います……。ずっと、あなたのことが一目見た時から気になって……、それで……」

凌牙が荒々しい口調で少女に訊ねると、少女はその怒号にびっくりしたのか、裏返りの声を第一声としてあげたが、その後は名前を名乗り、堂々と自分の気持ちを吐露していく。少女の話が終わると、凌牙は呆れた顔をして、溜息を思いっきりつく。そして、再度、天野夕麻という少女を睨み、その口を開く。

「てめぇ、もっとマシなウソはつけねえのか……?」

「えっ……」

凌牙が転生してきたのは今日のことであるため、ずっとあなたのことが気になって、という発言にはいささか疑問を感じざるを得ない。だが、転生前の、神代凌牙をずっと気になってという可能性も無くはなかった。しかしそれにしては尾行などしなくとも、思いをそのまま真正面からぶつければいい話である。このとから更に怪しまざるをえない。プラスして、凌牙は目の前の少女から、学校の中で感じた異能の力のものとは同じではないが、それに近いようなものを感じていた。こちら側がこの世界に住む異能の力を感じ取れるのなら、この世界の者も、自分が『異能者』であることに感付く可能性はないわけではないことを凌牙はわきまえていた。自分が、『バリアン』だとピンポイントであてられることはほぼないにしてもだ。凌牙はこの観点から、何かの理由で相手の方から自分に接近してきたと考えている。

「お前、只者じゃねえな。俺に何の用だ?」

「……。あー、ここまで勘が鋭かったか~。つれないねぇ~」

天野夕麻という少女はとてつもないゲスな笑みを浮かべ、その身が光に包まれると、容姿が変化した。黒のボンテージ姿で、きわどい所が、面積の狭い黒の布で覆いかぶさっているだけである。傍から見ればいやらしい、或いはセクシーの一言だろう。その背からは黒い翼を広げ、いつ羽ばたいてもいいような態勢だ。

――――――――――――――爆笑。

凌牙は目の前の女を見てひたすら腹を抱えて笑っていた。そんな凌牙を見てクスクスと余裕の笑いを浮かべている女性。意味合いは違っていても、二人は『笑っていた』。

「悪趣味すぎるぜ! てめぇのその格好!」

「……。チッ、いい気になるなよ!」

突如女の顔から余裕の表情は消え、鬼のような形相をすると、右手に紫色の光の槍を現出させ、それを凌牙めがけて投げる。凌牙はそれを間一髪のところでジャンプし、それを避けると、凌牙は噴水のある森林公園へ、人間を軽く超えた跳躍力でジャンプしていった。幸い、森林公園にいた子供たちは、先程の間に居なくなったため、子供たちを巻き込む心配はなくなった。女も後を追うように空から森林公園へ入って行った。

―――――――――――水が湧き上がる噴水前で、一人の不良少年と、一人の黒の翼を生やした者とが対峙している。

辺りもすっかり暗くなり、夕陽の光は既に地を照らしてはいなかった。夜の涼しい風が、森林公園の木々をあおっている。風が吹きやんだのを合図に、女は再度、光の槍を現出させ、今度は手に持ったまま、凌牙に襲い掛かる。近接戦を仕掛けるつもりだろう。

槍の頭が光のラインを描きながら凌牙の体めがけて襲い掛かるが、何度突いても凌牙の体にあたることはなかった。全て当たる寸前で体を反ったりして凌牙はかわしていた。そして、ここだと思ったところで拳を構え、女の顔面めがけてそれを思いっきりぶつけようとする。

「やろぉぉぉぉ!」

「ふっ、残念ね、坊や」

空いていた左手にもう一本の光の槍を現出させ、二本の槍で凌牙を突く。

「な!? ぐぉぁぁぁ!」

凌牙は途中で体勢をずらした為、致命傷は免れたが、左肩と右わき腹をかすめてしまった。着ていたシャツの左肩と右わき腹の部分は、鮮血で染まり始めていた。凌牙は後ろに宙返りして、女と距離を取る。しかし左ひざをついた直後、凌牙は体に異変を感じる。体中がブルブルと震え始める。そして、体を動かそうにも体がいう事を聞かない。凌牙の動きは、左ひざを地に着いた途端、止まってしまう。

「か、体が、動かねぇッ……!」

「ふふっ、この槍頭に、即効性の痺れ効果のある術をかけておいたのよ。これで坊やの動きを封じたも同然。あんだけ大口叩いた割には、大したことなかったわね」

「はっ、そういう事か……」

女は首を回して余裕を露わにする。一方凌牙は左肩を右手で、右わき腹を左手で抑えながら跪いている。そんな凌牙に、二本の槍を持った女が一歩一歩、ゆっくりとしたペースで迫りくる。止まらない出血に、動かない身体に、徐々に近づく女。絶望の二文字で表せるこの状況。迫る女のその足音の一つ一つは自分の死の音でもあると感じた凌牙は半ば諦念を抱いていた。

――――――――――――――オレは、死ぬ。

この世界に転生した意味などほとんどないに等しいし、ここでこの生を終わらせるのもアリだな。転生して約6時間か、早かったが、ここで終わりだ。

そんなことを頭の中で考えていた凌牙であったが、ふと、学校での最初の会話を思い出す。

――――――――――――――オレも変だな。転生して初めて喋った言葉が、『オレは誰だ』だってよ……。笑いモンだなこりゃ。オレは…、オレは…。待て…。

自分を嘲笑しながら、今までの事を思い浮かべていると、最初の、『オレは誰だ』という言葉で、どこか引っかかる凌牙。

(……。そうだ、オレはバリアン七皇のナッシュだ! オレは、こんな、こんな目の前にいる何考えてんだかわからねぇ奴に負けるわけにはいかねぇ!)

自問自答を経て、凌牙は、自分はバリアン七皇の一人、ナッシュであることを再認識する。先程までの、死んでもいいというような思考は、一気に打ち砕かれる。凌牙はかつての戦いを思い出す。その時の自分は、バリアンのナッシュとして、その誇りを持っていた。仲間を救い、バリアン世界を救う、その意志を剥き出しにしていた。その、『ナッシュ』が、何を考えてるんだかわからない、得体のしれない女に殺される、負けるなどあってはならない。凌牙はそう思った。この、バリアン七皇としてのナッシュというプライドが、凌牙の奥深くに眠っていた、闘争本能を呼び覚ます。

「じゃぁ、神滅具を持つ子の前に、アナタから始末してあげるわ!」

槍を構えた女が、跪いている凌牙のところまで、あと数歩までと来たところであった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

凌牙が叫び声をあげると、それに反応するかのように胸に引っかかっていたペンダントの赤紫色の玉部分が甲高い音を立てて発光し出す。凌牙の体が赤紫色の光に包まれると、封じられていた体の動きが活動を再開し、右拳を構えると、再びそれを女の顔面にぶつけようとする。女は咄嗟に槍を構えるが時は既に遅く、凌牙の拳は女の頬にヒットし、女は数m吹っ飛んだ。暫くして、凌牙の体の発光は止んだ。

「オレは……、バリアンのナッシュだ! てめぇみてぇな変なやつに負けるなど、バリアンの恥だ! プライドが許さねぇ!」

「よくも……、よくも私の顔面をッ!」

女は怒りを露わにし、持っていた二本の槍をナッシュに向けて投げるがナッシュはそれを易々とかわす。

「うぉぉぉぉ!」

ナッシュはその後、左拳を作り、その左腕を天高く上げると左手首に、黄色と黒色、ボディ全体からは鮫の頭部を彷彿とさせる、奇抜な形をしたものが出現する。その中心部には何十枚かのカードが挟まっていた。

(こいつを出すのが、今のオレの限界か。バリアン体になれなかったしな。これじゃオーバーハンドレッドナンバーズはおろか、普通のナンバーズを扱える気がしねぇ。だから、今は『こいつら』で……!)

そう考えたナッシュは右手で黒色の2枚のカードを構えると、先程出現させたものに、それらを上から垂直に力強く置く。

「こいッ! 『潜航母艦エアロ・シャーク』、『ブラック・レイ・ランサー』!」

ナッシュの目の前に紫色の結界のようなものが現れると、最初に巨大な二匹の鮫、二匹の口部と頭部がオレンジ色の飛行動力源、或いはミサイル発射口のようなもので接合された、鮫型戦艦と呼ぶべき魔物(モンスター)と、全身黒色、赤色の槍を使う、翼の生えた槍術師が、結界の中から飛び出てくる。

「な、お前、『召喚師』か!? それとも『魔獣使い』か!?」

目の前に立ちはだかる巨大な2体のモンスターを目の前にして、先程の余裕の表情が打って変わって、焦りのそれへと変貌する。召喚師だの、魔獣使いだの、ナッシュにとっては聞き覚えのない言葉を羅列する女であるが、ナッシュは高らかに答える。

「オレは……、バリアンのナッシュだ! 決闘者(デュエリスト)だ!」

バリアン、ナッシュ、決闘者、ナッシュも女にとって知らない言葉をつらね、会話が成り立つことはないといってもよかったが、そんなのお構いなしに、攻撃だ、とナッシュが2体のモンスターに命令すると、空中を飛んでいたエアロシャークはミサイル発射口から、複数のミサイルを女めがけて発射する。女はすぐに飛行体勢に入り、その黒い翼を羽ばたかせ、飛行する。エアロシャークのミサイルを全てかわして安堵――――――――――――している暇は与えてはもらえない。噴水の目の前に立って、空を飛んでいる女に焦点を合わせ、攻撃の機会をうかがっていたブラック・レイ・ランサーが遂にその右手に持っていた槍を女めがけて投げうつ。すると、夜空を飛んでいた一人の女の翼が槍によって貫かれ、そのまま地に堕ちていった。女は地面に倒れ伏す。

「これでとどめだぁぁ!」

「予想外ね、ここは一旦引かなければ!」

女が倒れ伏していたところに、エアロシャークの複数のミサイルと、ランサーの槍が集中的に投下される。巻き起こる爆発。暫くして煙が止むと、大きなクレーターが出来ていた。しかし、女の姿はそこにはなかった。力を振り絞って、逃げたのだろう。

「ハァ……、ハァ……」

ナッシュは息が上がっていた。全てが終わった後にくる疲労感はとてつもなかった。この戦いはナッシュの勝利で終わった。

ナッシュの左手首についていたものは消え、それと同時にエアロシャークとランサーも姿を消す。

(オレはまだ、死ぬわけにはいかねェ!)

ナッシュは、この異世界で、再び生を誓った。ナッシュはふらふらしながらも力強く立ち上がり、一歩一歩は遅いものでありながらも、公園を去って行った。

 

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