「なぁ、チェン……」
「仕事中の私語は慎んだ方がいい。トップの君が緩むと、下にまでそれが伝わるぞ」
「……それは、そうかもしれんが」
彼女の強い語気に次の言葉が出てこなくなれば、興味が失われたのか、視線が自身の方を外れて手元の書類へと戻っていく。いや、おかしい。
「なぁ、チェン」
「先程の言葉を聞いていたのか、全く。……で、なんだ」
「何故此処に居るんだ?」
「借りを返すと言っただろう。その一環だな」
「なんだ、そうだったのか……とはならないな?」
あんまりな答えに頭を抱えれば「私には関係ない」と言わんばかりに黙々と作業を進めるケルシーへと視線を向ける。
「いいのか、ケルシー。この組織には機密も中々多かったと記憶しているが」
「……そうならないよう、お前が仕事を管理してやればいいだろう」
それは私の仕事が増えるだけなんだが。いや、チェンの働く分を考えると丁度プラマイゼロくらいか? …………つまり、心労だけが残ると。
「隊長を務めていたんだぞ? 書類仕事は最早得意分野だ。遠慮なく押し付けてくれて構わない」
それが出来れば楽なんだがな。引きつった頬を顔の前で組んだ手で隠しては、何処か自慢げな笑みを浮かべながら“任せなさい”と胸を張るチェンに時計を指し示す。
「まぁ、仕事の話は一度置いておこう。昼休憩だ、後処理は私がやっておくから食堂にでも行ってくるといい」
あの目はアーミヤと同じだ。どうにかして仕事を手伝おうとするが、結局は増やすだけか変わらないままとなるあの目。こういう目をした人間に自由裁量で仕事を任せてはいけないと私は今までの経験からよく知っているのだ。
なに、彼女の居ない間にオペレーターからの要望を纏めた書類だけ置いておけばなんとかしてくれるだろう。あれは予算管理含め、無駄に時間が掛かる。その為にも、まずは彼女に部屋から出て貰わなくては。
「……ドクター、君は昼飯をどうするんだ」
「私か? 私は此処で食べるさ」
理性回復剤ハンバーガーの包みをひらひらと振る事で彼女に答える。
正直なところ、記憶喪失になる前から不健康だったらしい私の身体ではそれほど食事が入らないのだ。スカジがそっとポテトサラダを分けてくれるくらいである。
「……時折覗く肌がやけに青白かったのはそういう事だったんだな。なるほどなるほど……ドクターよ。私の目が黒いうちは最低限の栄養は取ってもらうぞ。今日は私の弁当を分けてやる」
良い感じに瞳をかっぴらいたチェンが想定と180度違う方向性を選択してしまった。
助けてくれと変わらない様子のケルシーへチラチラと視線を送るが
「……よし、偶にはアーミヤと昼食を取るか。コミュニケーションは大事だし、な」
眩しいくらいの笑みを向けて席を立ってしまった。裏切り者め。
……ふぅ。ここまで事が進んでしまったのなら、諦めて受け入れるべきだな。
「ほら、君の分だ。この卵焼きは絶品だぞ」
「……あぁ、有り難く貰うとするよ。私は事情により小食ではあるが、美味いものは嫌いじゃないんだ」
弁当の蓋を小皿代わりに差し出された、きらきらと輝く二切れ卵焼きの片割れを、ぽいと口に放り込む。え、何これめっちゃ美味い。記憶にないレベルの美味しさだ……三ヶ月程前に記憶喪失になったからだが。
「……凄いな、ここまで美味い卵焼きは初めてだ」
「ふふ、そうだろう。ホシグマの料理は大体美味いんだ」
いや、作ったのホシグマなのかい。まぁ、いつもスパダリ感を漂わせる彼女ならこれくらい難なくやってのけそうな気がするが。
ただ、よく考えてみると少々おかしい気がしてきた。こうして初めて気付いたが、記憶にある限り彼女が食堂に居ることはない。つまり、毎日弁当だということではないだろうか。それは、チェンが毎日ホシグマが作った弁当を食べているという事で…………いや、やめよう。これ以上考えていたら視線に邪なモノが混ざりかねない。女性はその辺り敏感だからな。
「……ふぅ、食った食った。久々にジャンクフード以外のものを食った気がする」
「次からの昼食は君の分も用意して来よう。朝と夜は自分で栄養を考えながら摂るんだぞ?」
「あ、あぁ…………いや、それは有難い話だが、ホシグマにもう一食分作らせるというのは流石に申し訳なくてな」
魅力的すぎる提案につい頷いてしまいそうになったが、この理論で行くとホシグマの負担は単純に倍だ。料理面が量を増やしてどうにかなるとしても、あの完璧なまでの盛り付けにはそれなりに時間を掛けているだろう。
「何を言っているんだ……君へ渡す物だぞ? それを他人に任せるほど常識外れじゃないさ」
「…………」
「なんだその疑わしげな目は。ホシグマほどではないが、私とて料理くらい作れる」
仕方ないだろう。厨房に立っているイメージが一切湧かないんだから。
「……こほん。まぁ、楽しみに待っておくといい。では、私は先に上がらせて貰う」
「え? あぁ……お疲れ様、今日も助かったよ」
正直、明日が不安でならないが、今更どうこうできる話でもない。
にしても、やけに退勤が早いな。何時もなら後処理まで終わらせようと夜まで残るんだが……
────
「くっ……私とした事が……っ。勢いで答えてしまったのは失敗だったな」
つー、つーと鳴る携帯電話を握り締めながら恨めしげに呟く。
訝しむようなドクターの視線につい、負けん気で「できる」とは答えてしまったが、実際は彼の見立て通り、料理など経験が無い。精々が野戦料理の基礎くらいだ。
だからこそ、ホシグマに教えを請おうと思ったのだが……
「こんな時に任務か……スワイヤーめ」
ちょっとした羞恥心からホシグマが一人の時を狙って話しかけようとしたは良いものの、随分と苛々している様子のスワイヤーに投げられた任務のせいで、つい先ほどホシグマはロドスへと赴いてしまったのだ。
「……仕方ない。まずは一人でやってみるか」
惨劇が起こるまで、あと少し。
チェンさんはポンコツ可愛くて、ホシグマはスパダリ。異論は認める。
リクエストを大体消化したら二話目書いてく予定です。
6/13 取り消し線の付け忘れを訂正
各オペレーターの第二話以降をでRー18版を書いてみるのはアリかナシか
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正座待機(アリ)
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煩悩を捨てよ(ナシ)
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NLなら許してやろうじゃないか
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百合ならいいゾ
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や ら な い か(男同士なら)