エピローグ1
荒野が広がっている。
草木は一本も生えていない。
あるのは土と石、遠くには岩山が点在している。
命の息吹は此処には皆無、乾いた風が吹き抜け砂を巻き上げるだけ
──10分前までは
今や轟音が轟き、猛烈な勢いで砂塵が辺りに吹き荒れる。地面は絶えず震え続け、突如地面が爆ぜればクレーターが大地に刻まれる。その数は既に十を越えているが留まるところを知らない。
天変地異に相応しい現象、その現象は二カ所で──いや、二機の鋼鉄の機動兵器が生み出している。
一つは真紅の機体だ。全高10mもある人型の兵器は可能な限り無駄を削ぎ落としたフレームを中心に構成されている。武装は右腕に装備した盾を兼ねた実体剣、左腕に小型軽量の機関銃を装備する。だが最大の特徴は背部、腰部、肩部に接続された大型のスラスターだ。
真紅の機体は高機動性と格闘性能を重視して設計されている。大型スラスターが齎す推進力は機体を縦横無尽に飛ばし生半可な機体では視界に捕らえる事は出来ない。
もう一方の機体は灰色の機体だ。全高は8mと小さく、真紅とは違い洗練されたフレームではない。だが武装は目を見張るものだ。両腕にはガトリング砲、左肩部には大型の散弾砲、右肩部には近接信管を備えた多連装ミサイルコンテナ、また機体各所には追加の弾薬庫を装備している。
大抵の機体であれば重量過多によりまともに移動できないだろう。だが灰色の機体は重量を物ともせずに荒野を移動し続けている。それを可能としているのは灰色の機体の脚部が四脚であるからだ。重量級の二脚に匹敵する脚が四つも備わった四脚は灰色の機体重量を難なく支え移動を可能にした。
真紅と灰色、二機の機体は荒野を舞台に戦っている。だがその内容は一方的なものだ。弾丸を、散弾を、ミサイルを。灰色の機体は持ち得る火力を真紅の機体一機に投入をする。狙われた真紅の機体はそれらをスラスターを駆使して回避する。一発でも被弾すれば、わずかでも動きが鈍れば破滅する運命にあるのは真紅の機体だ。
真紅の機体は反撃の機会を見いだせず、反撃しようとすれば接近しなけれなならない。だが灰色の機体は接近を許さない。引き撃ちをして繰り出すのは圧倒的な弾幕。真紅の機体では耐えきることは不可能だ。
灰色の機体の勝利は揺るがず、真紅の機体がスクラップになるのは時間の問題、この戦いを見た誰もがそう思うだろう。
──だが事実は全くの逆だ。
「当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれーーーーッ!」
灰色の機体のコックピット、その中に搭乗するパイロットは叫びながらトリガーを引き続ける。網膜に投影されるレティクルは真紅の機体を捉えるようとするがそれは叶わない。故にパイロットは機体の進路を予測して弾幕を張るしか出来なかった。それが戦闘開始から続いているのだ。
実際のところ追い詰められているのは灰色の機体だ。幾ら驚異的な火力を持っていようが当たらなければ意味はないのだ。だからと言って正確に狙いを付けようとすれば隙を突かれる。
相手は高機動で格闘戦に特化した機体。対して四脚の機体は射撃に特化した機体、格闘戦など想定していない。真紅の機体に格闘戦に持ち込まれでもしたら一方的に倒されるしかない。
だからこそ灰色の機体は距離を保った状態で圧倒的な弾幕を展開し圧殺するしかないのだ。余裕などない、それしか勝ち筋がないのだから。
だが現実は非情だ。スラスターが生み出す推力で悉くを躱し続ける真紅の機体。それを理解しながらも灰色の機体は絶えず弾幕を張り続ける、張り続けるしかない。
そして限界が訪れる。
「ッ、弾切れッ!」
網膜に映し出されるのは残弾ゼロの表示、耳には警告音が絶えず響き渡っている。可能な限り拡張した追加弾倉も使い切ったのだ。
残されたのは何の反撃手段も持たない鉄塊。そして灰色の機体のパイロット、その耳に通信が、声が届く。発信先は真紅の機体だ。
「今から迎えに行くよ」
真紅の機体が動き出す。スラスターを全開に吹かし急速に接近する。
「クソッ!」
灰色の機体は残弾0の武装を急ぎパージする。少しでも機体重量を軽くし、なけなしのスラスターを吹かして逃げ出す。例え最後の悪あがきだとしても。
「逃げないで」
だが結局のところ無駄な行動でしかなかった。真紅の機体は容易く灰色の機体に追いついた。そして右腕に装備した実体剣を展開し振り抜いた。
・警告・脚部左後脚信号途絶、大破しました
真紅の機体が再度振り抜く。
・警告・脚部左腕信号途絶、大破しました
・警告・頭部信号途絶、大破しました
・警告・脚部左前脚信号途絶、大破しました
・警告・姿勢制御、現状維持困難、転倒します
灰色の機体が機体を傾け倒れる。残った運動エネルギーが地面を削りながら機体を進ませ、止まった。
・警告・戦闘能力0、直ちに機体を破棄、脱出してください
・警告・戦闘能力0、直ちに機体を破棄、脱出してください
・警告・戦闘能力0、直ちに機体を破棄、脱出してください
コックピットの中は赤色灯で真っ赤に染まる。だがパイロットは警告を受けながらも動かない。なぜなら転倒の衝撃をもろに受け意識を失ったからだ。
「つかまえた」
誰も聞き届ける者がいないコックピットの中で、喜色に満ちた声が響いた。
息抜きです。これも不定期なので余り期待しないでください。