あべこべ世紀末、転生先は地獄だぜ   作:abc2148

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ソラ欠乏症

都市を守る戦力である軍、その駐屯地の射撃訓練場には多くの人が集まっていた。以前此処で歴代の記録に迫る勢いを見せた隊員がまた訓練場に現れるや否や前回と同じように多くのギャラリーが集まってきた。そして今回こそは歴代の記録を抜いて新たな記録を打ち立てるのでないかとギャラリー達は期待していた。

 

だがその期待は悪い意味で裏切られた。

 

撃ちだす銃弾は悉く標的を外れ、人質を取った標的は犯人を人質ごと撃ち、リロードに至っては取り換える弾倉を落す。新兵のソレかと見間違うような失敗が続いていく。以前の様な冴えは見る影も無く失敗続きの行動を見せ付けられた誰もが困惑し、落胆し、そして前回のはまぐれであると考えた。そしていつの間にか行われていた掛けに負けた素行不良な隊員は一言文句でも言おうとし……、射撃訓練場に立っていた隊員の顔を見て口を噤んだ。

 

「そこまでだ」

 

訓練中断の指示を出したのは隊員の上司にあたる隊長だ。彼女は手元にある端末、そこに表示された成績を渋い顔で見ていた。

 

「散々な結果だな……、だがそれよりも酷い顔だ」

 

射撃訓練場に立つ隊員、カスミの表情は誰が見ても悪い。目の下には厚い隈、頬はこけ、肌は白を通して青白く誰もが一目見ただけで体調不良を心配するほど。部下として普段の彼女を知っている隊長からすれば見ていられない程であった。

 

「家に帰って暫く休め、休職届は出しておく」

 

そう指示されたカスミは何も言わずに訓練場を後にしていく。その足取りは頼りなく、ふらついており隊長は自らが下した判断には間違いないように見える。その姿を見てしまったギャラリー達も後味の悪さを感じながら訓練場を後にしていった。

 

「だがどうすべきか。今のメンタルでは実戦には出せん、早めに心理カウンセラーにでも任せるしか──」

 

「イヤイヤ、多分無駄ですよ」

 

「ですね」

 

しかしその心配は的外れだと言わんばかりに同じ部隊にいる二人の部下が隊長に近づいてきた。

 

「どうせお前たちの事だから男に袖にされたとでも言うのだろ」

 

「当たりです!」

 

「第一、男以外でどうやったら彼女にあそこ迄の心理的ダメージを与えられるんですか?」

 

「……希少品の酒を台無しにした?」

 

「それは無いですね、彼女は酒の味が分かる繊細な舌は持ってません。飲めるか飲めないかだけです。」

 

「なら本当に男に振られたのか?」

 

「振られただけでああなるか」

 

「もしそうだったら冗談抜きで振られたその日には首吊ってそうだけど?」

 

隊長の周りには部下の隊員達が続々と集まり様々なことを言い始めた。

 

「ただ振られただけじゃない、金目当ての男でアイツから金を搾り取ってから捨てた?」

 

「いや、それであんなに入れ込むもの?ナオミはどうよ」

 

「そう言った経験は無いけど、そんな見るからに地雷の男に惚れる?」

 

「無い」

 

「ないな!」

 

「逆にどうしたらあそこ迄入れ込んじゃうのかしら」

 

「……ものすごく好みだった、とか」

 

「もしかしてショタ好き?」

 

「いやいや、普通に考えてイケメン好青年でしょ」

 

「大穴で爺専に一票」

 

「私はダンディー派で」

 

そしていつの間にか始まる性癖暴露大会、誰もが予想出来た流れは止まることなく場は混沌としていく。

 

「そうでしょ、あいつ男に興味ありませんて顔してるけど惚れたら束縛強そうじゃね」

 

「いや、カスミに限らず女全員が束縛強いと思うけど……」

 

「代わりの男でも見つかれば元に戻るのかな、それ以前にカスミの男ってどんな奴よ」

 

「実はそれに心当たりがありまして……」

 

「おいこら勿体ぶらずに聞かせろ」

 

「隊長も好きですね~」

 

「いいからさっさと教えろ」

 

男日照りの女所帯、体調不良の隊員を話の種にして下世話な話が大いに盛り上がるのでした。

 

そして話の種にされたカスミは頼りない脚で自宅に帰り玄関を開けた。

 

「ただいま」

 

ソラがいなくなってから何度も繰り返した挨拶。だが返事は聞こえてこない、電気の消えた薄暗い家の中には誰もいなかった。

 

「まだ帰ってこないのか……」

 

実はもう帰ってきていて散らかった部屋を文句を言いながら綺麗に掃除しているソラがいる。そんなことを職場から家に帰る度に考えてしまっているカスミだがそろそろ限界だった。

 

「言いつけを破っているぞ、怒らないから帰ってきてくれ」

 

ソファーに顔を埋めてもソラの匂いはもう消えてしまっている。何も嗅ぎ取れずただ埃っぽい空気が鼻を通るばかりだと分かっているのに何回も繰り返した無駄な行為を続けてしまう。

 

もはや何もする気も起きず着ていた服をそこら辺に脱ぎ捨て、ソファーに寝転がってしまうのがカスミの最近の習慣と化してしまった。そうしていると家主の帰宅を感じ取った家電達が自動的に起動、照明が付き、空気清浄機が動き出し、壁に掛けたヴィジョンが起動する。だが彼女にはそんな事を気に掛ける余裕はなかった。

 

「……此処は」

 

だが視界に映し出されたそれだけは違った。ヴィジョンにはランダムで様々な情報が映し出され、然るべき機関が出した情報もあれば胡散臭い情報も表示される。だが気になったのは其処ではなく画面に映し出された風景。それはソラを見つけたところだった。

 

「未確認の無人機が徘徊?」

 

如何やら最近になってあの廃墟に未確認の無人機が出現するようになった。おまけに時期はソラが消えてからだ。

 

「まさか……」

 

カスミの頭の中ではある一つの仮説が生まれた。無論根拠となるようなものは無い、強いて言えば女の勘であろう。

 

「それでも試す価値はある」

 

もしかしたら……、そんな可能性が無くも無いのだ。

 

それに待つのは疲れたのだ。

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