あべこべ世紀末、転生先は地獄だぜ   作:abc2148

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さあ、一緒に帰ろう

この世界における男の価値は高い。十人の子供がいれば男の数は一人いるかいないか、その希少価値によって男は都市によって丁重に保護され、何不自由のない生活を約束させられる。その恩恵は大きく、一種の特権とでもいえるだろう。だが対価としてその身体は髪の毛の一本に至るまで管理させられる。生活の全てが管理され遺伝子情報の提出は義務となり、時には望まぬ性交を強いられることもある。

 

しかし都市の財源は無限にあるわけではない。軍事費に、インフラの維持管理、行政を担う職員の給与等と財源の用途は多くあり必然的に男性保護に使われる資金も限られる。ならば保護される男性にランクを付け、支出を可能な限り絞り、保護対象を拡大する、という方針が採られる。

 

そのランク付けで評価されるのは容姿に頭脳、遺伝的優秀さといったもの。高いランクであれば誰もが魅了される容姿であり頭脳明晰といった女の理想とする男しかなる事は出来ない。そんな彼らは都市によって丁重に保護され生かされる、それに見合う義務を果たしながら。

 

だがここで問題がある。男が希少であるなら女はどうなるのか?結論から言えば女の方が問題が多い。

 

女は性欲は強い、男が貴重な世界において貴重な性交の機会を無駄にしないために遺伝子が変化したのかは分からない。だが現実として女は古来から性欲に悩まされ、その解決法は誤魔化すか発散するしかない。それは今でも変わらず時に発散において男性が重度の心的外傷を受けることもあった。そして都市において性欲を発散することは困難だ。ハッキリ言えば男を買うのにとんでもない大金が掛かるのだ。

 

男の価値はランクで示される。高いランクの男であれば実質的に限られた富裕層しか相手にせず、それだけの価値があると自らも理解しているから男も相手を厳選する。だが大多数の女達もランクを下げれば男に手が届かない事も無い。だが今度は手を出したいと思える男に巡り合えるのかという問題もある。無論抜け道が無い訳ではない。男の子を持つ母親に気に入られるか、幼少期から深い関係を結んでいれば可能性はもあるが限りなく低いものだ。因みにカスミの部隊の仲間には生身の男の代わりにアンドロイドで代用するといった猛者もいる。しかし機体に投資する金額が相応のものでないと碌な機種が無いといった生身と似たような問題もある。

 

だからこそ大抵の女は自らを誤魔化し、子を儲けたいと思ったときは人工授精を行う。それが都市に生きる女にとって当たり前のことだった。

 

だがカスミは場合は違う、廃墟で見つけたソラに出会った、出会ってしまった。

 

無論カスミも男に興味が無い訳ではない。性欲もあれば抑えきれないときは自分で慰めたりもする。今まではそれで満足していた、それ以上を望んだことは無かった。

 

結論から言えば飼いならす筈が逆に骨抜きにされた、それだけだ。

 

自宅では甲斐甲斐しく家事をして食事を作ってくれる。

仕事に行く時には「いってらっしゃい」と言い帰ってくれば「お帰りなさい」と言ってくれる。

寝る時に抱き枕にすれば温もりを感じながら眠る事が出来る。

まだ年齢が幼い故に性的に手を出してはいないがそれも時間の問題だ。我慢できるだけの理性が残されているかは非常に怪しい。

 

だからこそカスミは取り戻したいのだ。危険を冒してまで廃墟に来たのもそのため、それが最初から上手く行くなんて考えていなかったが幸運に恵まれたカスミは再度ソラに会う事が出来た。

しかし幸運は其処まで、カスミの姿を見た瞬間にソラは逃げ出したのだから。無人機に乗り込んだソラの移動速度は思いの外速く、呆けていたカスミの視界からあっという間に消えてしまった。

 

だがその程度で諦めるカスミではなかった。

 

「待ってくれ、どうして逃げるんだ!」

 

「貴方が追いかけてくるからですよッ!」

 

逃げたソラの後を追うようにカスミはビルの中を突き進む。軍で使用している物に限りなく近い民生品の強化外骨格が人工筋肉を軋ませ人体の限界を超えたスピードを叩き出す。

 

「こんな危険な生活はしなくてもいいんだ!家に帰ろう、命の危険に怯える必要はないんだ!」

 

カスミはソラに訴える、此処での生活は危険だと、安全な私に家で暮らそうと。その言葉に偽りはなく、カスミの本心からの言葉だ。

 

「そうですよ、同意しますよ、正論ですよ、だけど!」

 

そんな事はソラ自身も理解している。快適そうに見える廃墟での生活も現状上手くいっているからであり想定外の問題でも起これば廃墟生活は簡単に崩壊する。その問題を理解していながらも此処に留まるのはソラなりの理由がある。

 

「だって貴方束縛きつ過ぎるんですよ!」

 

廃墟と化したビルの中にソラの叫びが木霊する。

 

「自由に行動できるのは家の中だけ、外出は禁止で玄関や窓は開けられず監獄ですか!おまけに何を言っても取り合ってくれない自由意志の完全否定!そんなの愛玩動物と同じじゃないですか!俺はペットに堕ちてまで生きたいとは思っていないんです!」

 

それが都市を離れ廃墟に居を構えるソラの理由、都市に生きる男でソラと同じ考えを持つ者は皆無であろうことは想像に難くない。安全か自由、その二択の中でソラは自由を選んだだけ。だからこそカスミの束縛には耐えられなかった。

 

「……それが、それがどうだっていうんだ!」

 

だがソレをカスミが理解する事は無かった。

 

「死ぬ事も無い、飢える事も無い、寒さに凍える事も無い、殺されることに怯えなくていい!こんなにも恵んであげたんだからお前の全てを求めてもおかしくは無いだろ!」

 

これがカスミの考え、カスミの本質。他者を理解する事も無く才能で生きてきたが故の弊害。

「だけど私も悪かった、お前の気持ちも知らずにいた事も謝る、だから一緒に帰ろう」

 

「チクショウ、全然反省も理解もしていねぇ!」

 

結局の所、言葉で分かり合うのは不可能なのだ。カスミはソラの気持ちが分からず、相手に押し付けることしか知らない。相手を理解しようとする事に思い至らないのは彼女の生きた人生でソレが必要とされなかったから。

 

「……分かりました、この場で証明します」

 

だからソラは示すしかない。カスミにソラがどういった男なのか。

 

「もう二度とその減らず口が言えないよう、ボコボコにします!」

 

逃げるのではない、貴方の庇護が無ければ死んでしまうような非力な人間ではないと、力をもってして彼女に示す、それがソラの選択。

 

「……そうか、分かった」

 

そして彼女も選択する。これまでと同じように。

 

「だったらもう一度、力ずくで連れ去ってやる!」

 

欲しいものがあれば奪う、それが彼女の本質だ。

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