負ける要素はなにひとつない、それがカスミの予測だった。
廃墟でソラを探すために調達した武装、軍で使っている物に限りなく近い物で揃えた物はカスミの望んだ性能を発揮してくれた。それでも単独で行動する以上携帯する火器は些か増強したものでなければならなかった。アサルトライフルが一丁、大口径ショットガンが一丁、発煙、閃光手榴弾、サイドアームにナイフにハンドガン。都市の勢力範囲から外れているならば最低でもこれぐらいないと危険だ。
拳銃弾程度であれば無人機に大したダメージは与えられない。だがライフル弾といった貫通力のある弾丸だと無人機の薄い装甲など紙同然、最弱の無人機の名前に相応しく穴あきチーズになってしまう。それが強装弾であるならどうなるか?答えは単純、アサルトライフルのフルオートを浴びた無人機の装甲は削られ、フレームを引き千切られ、内部機構を砕かれスクラップに代わる。ショットガンのスラグ弾に至ってはただの一発で胴体に大穴を開けて無人機を屑鉄に変える。
だが真に恐るべきはカスミの魅せる戦技、二丁を上手く使い分け、無駄なく、素早く、迅速に、最小限の動きで無人兵器を破壊し続ける。その力はソラの想定をはるかに上回っている。
「強い、いや違う、上手いなチクショウ!」
火器の強さもあるだろう、それに加えカスミは銃の性能を遺憾なく発揮し、かつ鍛え磨かれた戦技を持ってソラに迫るのだ。その姿は鬼気迫ったものであり、ソラに対する歪んだ執念が一目で見て取れる。
「出し惜しみは無しだ!13から24号起動!」
──だからと言ってもう一度捕まるの御免被る。
ソラは現在制御下に置いた全ての無人機を起動する。その瞬間にビル全体から甲高い機械の駆動音が木霊する。音は重なり合い反響し増幅された音がビルを揺らし起動した無人機の数の多さを雄弁に語っていた。時間稼ぎに徹すれば新たな無人機がソラの元に増援に駆け付け──
「させるかぁッ!」
カスミは直後懐から手榴弾を取り出し、投げた。放物線を描いて飛んでいく手榴弾の行く先は一本の通路、そこはカスミとソラが戦うフロアに通じる唯一の道。その中に手榴弾は吸い込まれるように入っていき……爆発を起こした。爆風と衝撃波が脆くなった天井部を崩壊させ、その瓦礫は通路を塞いだ。
「残念……でしたッ!」
目論見通りに通路が塞がったのを確認すると同時にカスミは外骨格の人工筋肉が軋むほどの出力で駆ける。残りの無人機は四体、一体はソラが搭乗する為なのか武装は無し、残り三体を破壊すれば全てが終わる。
「一体」
満たせなかったモノが漸く満たされる。そう考えるだけで身体は軽くなる。
「二体」
だがこの落とし前はどうつけようか、もう二度と逃げ出さないようにどうすればいいんだろう。
「三体ッ!」
だけど先ずは抱きしめてその匂いを思う存分堪能してからだ。ほら、もう簡単に手が届くとこ──
「……ここで奥の手」
その小さな声が聞こえた瞬間、天井が崩れた。
カスミは融けかけた思考を引き締め急いで崩落に巻き込まれないように距離をとる。そして瓦礫が二人の間に降り注ぐと共にソラとカスミの間に何かが落ち、それの姿を目にしたカスミは顔を引き攣らせた。
「無人二足歩行兵器」
それは軍でも運用している無人機の一種、人間の下半身の様な脚部を持ち、胴体には各種センサーと機銃を搭載するあらゆる環境に対応可能な兵器。人の背丈を優に超えた4m巨体は並の歩兵など簡単に蹴散らし、追加装備を施すことによって簡単に強化もできる代物だ。
「凄いなソラ、これが最後の切り札?」
「正真正銘、最後の切り札ですよ。これなら流石に貴方でも勝てないでしょう。だから最後通告です、この場から立ち去って二度と此処に来ないでください。そうしてくれるなら手は──」
「断る」
ソラが最後まで言い切ることは無く、ソラの言葉を遮ったカスミには迷う素振りは何一つ無かった。
「……死にたいんですか」
「そうだね、確かに下手をすれば簡単に殺されてしまうよ」
幾らカスミが優れた兵士であったとしても勝負は既についているようなもの。その事実はカスミ自身も認識できているようで下手をすれば死んでしまう事も理解できている。
「でもね、此処でお前を諦める事の方が死ぬほど辛いんだよ」
そんな些細な懸念は此処で引き返す理由にはなりはしない、それだけで踏みとどまれる程度の思いではない。
「初めてだったんだよ、お帰りなさいって言われた事も、一緒に寝た事も、食事をしたことも全部……全部初めてだったんだよ。それが無くなった後はどうにかなっちゃいそうだった。一人は寂しくて、寒くて、悲しくて。でもそれ以上にまた会いたい、一緒に暮らしたいって思いが強くて此処まで来たんだ」
カスミ自身も言葉に出来ない思い、それを表現するには幾分かの時間が必要だった。そしてその時間は致命的な隙であり……だけれどもソラは無人機をカスミに仕掛けるようなことはしなかった。ただ黙ってカスミの言葉に耳を傾ける。それは一緒に暮らしていた時と変わらない優しさであり、その思いやりはとても居心地がいいものだった。
「何ですか、ソレ、告白ですか?」
「告白……そうだね、これは告白だよ。ソラ、私は君が好きだ、出会いは最低最悪のものだったけど、この思いに偽りはない、だからもう一度一緒に暮らさないか」
その思いに至るまでの道筋が酷いものだったと自覚はしている、その思いが何処か歪んでいるのも自覚している。それでもカスミはソラを好きになってしまったのだ。
「けど其処に俺の自由はあるの?」
ソラの問いにカスミは答えない、答えられない。
それが答えだった。
「なら俺の答えは変わらない。これが本当に最後です、此処から立ち去ってください」
「それは出来ない、だからソレも直ぐに屑鉄にして君を攫うよ」
交わらない思いを届けるにはこうするしかない。黒鉄の兵器は動き出し、銃には弾丸が込められた。