あべこべ世紀末、転生先は地獄だぜ   作:abc2148

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人の三大欲求は睡眠欲、性欲、そして食欲だッ!!
耐えられませんっ!


世紀末世界には危険が満ちている。荒野には遺伝子改造された危険生物が繁殖し、何処かの工場では製造段階で致命的なエラーを抱えたまま製造された無人兵器が今も何処かで生産されている。そんな世界において人間が生存するために群れを、集団を、都市を築き上げるのは当然の成り行きだった。

 

世界に数ある都市の一つ、駿河〈スルガ〉は規模でいえば中の下に位置する都市であり、出雲都市連合の加盟都市の中では下から数えた方が早い。その理由は未開拓及び除染未完了の区域が広大なためだ。都市連合の中心である出雲を中心とした都市であれば開拓と除染は完了、加えて軍の定期的な作戦によって怪物といった脅威も駆除を完了しているため住民は裕福な生活を送れる。

 

しかし駿河といった最前線に位置する都市はそうはいかない。絶えず襲撃してくる怪物といった脅威と戦うため軍事力を優先せざる得ない以上住民の生活は苦しいものになる。其処に都市連合の政治、経済、利権、その他にもドロドロしたものが加われば発展は著しく遅れてしまうのは仕方がないだろう。

 

その結果として駿河は中央から送られる破綻せず且つ発展に寄与しない程度の援助の元で都市を運営している。

 

その駿河の都市構造は二層の防壁から成り立っている。中央にある政治機関と都市の中で比較的裕福な者が生活をする上層区。軍や工場と其処で働く労働者や彼らを対象とした商売を行う中間層、そして其のどれにも入る事が出来なかった者達が集まった下層。上層と中間層、中間層と下層には区域を覆うように防壁が張り巡らされており怪物といった脅威から住民達を守っている。しかし下層を覆う防壁は存在しない、彼らの住まう土地と危険地帯と隔てる壁は無く、そこが彼らの住まいである。

 

そんな下層の端も端、目の前には荒野が広がるという土地に一軒の建物がある。それは住宅というよりも何かを作っていた工場跡というべきだろう、広い敷地面積に見合った三階建ての建物であり一階部分は柱だけを残して外壁があるだけの伽藍洞であり二階から三階部分に居住部分がある。

 

そんな広すぎる建物にカスミは住んでいた。それも少々中の悪い友人たちと喧嘩が絶えなかったという昔の悪名のせいで下層にある賃貸住宅の契約が出来なかったからだ。下層にある幾つもの不動産を巡っては断られながらの漸く見つけたのが、万が一お友達と派手に喧嘩をしても大丈夫であり周囲に被害を及ばさないというこの建物だ。

 

下層は防壁に守られていないため土地自体は安く建設費がそのまま住宅の価格となる。それに加え中古物件という事もあって予算内に収められたのは幸運だった。

 

そんな一人が住むにしては大きすぎる家にカスミは一人だけで住んでいた……だがそれもこの前まで、今は彼女の他に一人の住人、まだ少年といえるだろう背丈に短く切られた黒髪を持つソラが加わった。

 

何やかんや、……非常にややこしい取引をカスミと交わしたソラは現在カスミの家に住んでいる。部屋自体は余っており、尚且つ以前は短時間ながら監禁されていたため家の間取りも勝手知ったるもの、特に苦労も無く過ごしている。

 

そんなソラが居間のテーブルに座りながら険しい目をしている。その目が睨むのはカスミ……ではなく彼女との間にある机の上に乗っいる物、容器の中に入っている赤緑白と色分けされたペースト状の物体だ。それをカスミは大した抵抗も無くスプーンで掬っては口に運ぶ。赤緑白と順番に食べて水を飲む、その様子を見てソラは我慢できずに尋ねる。

 

「……コレ、不味くない?」

 

「そう?」

 

「昨日も朝昼晩と同じもの食べたよね?」

 

「明日は色違いにする?」

 

「いや、それでいいのか!」

 

タンパク質重視の赤!ビタミン重視の緑!カロリー重視の白!これさえあれば生存に必要な栄養を過不足なく補給できる優れもの!(味と食感はお察し下さい)

 

といったペースト状のディストピア飯に我慢できずにソラは椅子から立ち上がり叫ぶ。生産効率と栄養だけを重視したこの食べ物は人間の三大欲求である食欲を完全に殺しにかかり、食事を栄養を摂取すための作業にまで貶めていた。

 

「……これしか食べた事ないから不味いとか美味しいとかは分からないかな」

 

だがこれが無ければ下層に住む者たちは生存できない、カスミにしてみれば当たり前の事だ。その当たり前にソラは耐えられなかった。

 

「そんなに不味い?」

 

「香りも無く、不味い以前に味が無い、口に入れば全部ドロドロになるだけで食感なんてものはゼロ。コレを食べ物と呼んでいいのか甚だ疑問だ」

 

「工場で作っている合成食はそんなものでしょう。それにソラが考えている食べ物って野菜とか肉とかの高級品で上層の人達しか食べられないものだよ」

 

「……分かっているよ。汚染地域に畑を作っても駄目になる、汚染を除去したらを土地を怪物から守る羽目になる。戦力も資金も無ければ土台無理な話、結論から言えば土地が限られている現状、狭い土地で大量に促成栽培できるプランクトンで原料用意して工場で合成食を作るのが都市の人口を賄うのに一番理にかなった方法だ」

 

過酷な世界において土地は重要だ。家を作り、工場を作り、病院を作り、畑を作り……、用途は数多くあり、怪物、汚染といった問題から維持するだけでもコストが掛かり、拡大するならばコストは跳ね上がる。このコストをどうにか出来なければ現状からの劇的な改善は望めないだろう。都市としても現状を維持しているようにしか見えないが、元手が無ければ下手に動けない以上現状を維持するしかないのだ。

 

「……今度仕事が休みになるのは何時?」

 

「二日後だけど」

 

「一度廃墟の拠点に戻って置いてきた野菜栽培キットを回収したい。作り置きしていた乾燥野菜も」

 

「えっ、あそこで野菜食べてたの?何やってんの?」

 

だが既に頭のネジを幾つか無くしているとしか思えない危険極まりないサバイバル生活を送っていたソラが大人しく諦める訳が無い。人の三大欲求、食欲に突き動かされてソラは動き出す。

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