あべこべ世紀末、転生先は地獄だぜ   作:abc2148

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料理のために畑を作る

廃墟暮らしの中でソラの唯一の楽しみは食事だった。

 

モンスターのビーフジャーキーに始まり保存期間と栄養だけが取り柄の非常食。どう味わっても不味いとしか言いよう無い食材に囲まれていたが最初の頃は問題はなかった。なぜなら比較対象になりうる美味しいものを知らないからだ。それで来る日も来る日もビーフジャーキーと保存食を食べ続けた。

 

そしてソラは運がよかった。

 

日課となった廃墟の探索で偶然見つけた廃棄された地下研究所。中に入れば装置の大半は既に壊れており無事な物も電力供給が断たれているため稼働しているのは無い。それでも何かないかと施設の中を無人機に載って探索を続けていると中央制御室らしき部屋に到達した。しかし其処も施設を動かす電力が無いため分何も出来ず只分厚い埃をコンソールを眺めるしか出来なかった。

 

だが此処まで来て収穫が無いのは避けたいソラは試しにと無人機のバッテリーを施設に繋いでみた。すると埃を被ったコンソールに光が灯るがそれだけ、当たり前の事だが施設全体を動かす電力には全然届かなかった。それでも施設のデータベースにはアクセス出来るようになった。そこから自身の端末に向けて幾つかのファイルを転送してその日は撤退した。

 

ファイルの中は一言でいえば宝の山と言えるものだった。地下施設は植物研究所で大戦後の復興を目的として作られたという事から大戦の途中から資金が打ち切られて閉鎖、廃棄された事に始まり、食用植物に関するレポート、栽培方法から活用法にまで及ぶ広範囲のデータが記録されていた。

 

だがその中で一番ソラの興味を引いたのが研究所職員の私的な記録だった。名前の分からない職員はどうやらかなりの美食家だったらしく大戦で食べられなくなった食べ物や料理のデータを大量に保管していた。いつか大戦が終わった時にもう一度食べるためか再現するためかは分からない。それでもカラフルな写真で記録された料理をソラは知らずの内に涎を垂らしながら見続けた。

 

その翌日からソラは研究所の機能を復旧に挑み、それが無理だと分かると個人で可能な範囲での家庭菜園を始める事にした。種は研究所で保管されたものを使い、装置も無事な物を組み立てて栽培を始めた。そして初めての収穫で味わった野菜の美味しさをソラは噛み締めた。

 

だからこそカスミの家での食事をソラは耐える事が出来ない、故に決意する。

 

「廃墟にある栽培キットを全部ここに持って来て自前で作ってやるッ!」

 

幸いにもカスミの家の敷地面積は意外とあるのだ。これだけ広ければ野菜以外にも諦めていた他の品種も栽培出来る、そうすればカラフルなペースト食品だけの食卓から脱却して豊かにな食卓を作れるかもしれない、──いや、絶ッッッッ対に変えてやるとソラは奮起した。

 

「だからと言って此処までするとは思わないでしょ……」

 

その結果として伽藍洞の家が今や本物の工場になってしまった。稼働する栽培装置の間を無人機が絶えず移動し、各種センサーが最適な光量と液体肥料を与え、埃っぽい空気は消え植物が放出する匂いに包まれる。今まで美味しい食事とは無縁だったカスミにとっては驚きの連続だった。

 

「でも。美味しんだよね~」

 

そう言ってカスミは手に持った器に入れられたスープを飲む。程よい温かさに加え奥行きのある味とでもいえばいいのか、単純な味の合成食に慣れ切った舌には驚きの味だったが今や虜になってしまった。これで以前の合成食の味に戻れと言われて戻れる自信がカスミにはない。

 

美味しいものを食べたい、そんな理由で廃墟からこれらの機材を持ち帰って運用しているのは凄いを通り越して呆れるしかないと考えていたカスミだったが今やその考えは無い。この料理を味わうための必要経費として割り切るのは当然と言えるくらいに考えを改めた。

 

「さて、ソラはコレをどうするつもりなんだろうね。家の中に納まる程度で済めばいいけど。もし規模を拡大するなら色々入用になるね」

 

問題があるとすればこれ以上をソラが望むかどうかだ。今はカスミの大きすぎる自宅に納まる範囲での生産だが規模を拡大することは容易に可能である。倉庫の片隅には未だに組み立てられていない装置が幾つかあり、装置自体も恐らく都市で生産可能な物だろう。問題はこれ等を動かせるだけの電力と人員が手に入るかどうかだが規模を拡大するような事が無ければ心配する事も無い。現状の多品種を少数だけ生産する方法であれば自分とソラに限れば不足に陥る事はない。

 

「明日は仕事に行くけどコレ持ってけないかな?」

 

そしてカスミにとっての一番の問題がコレを明日持っていけるかどうかだった。

 

軍では食事を支給しているが内容は酷いもの、全てが合成食で統一され味も変わることは無い。限られた予算で遣り繰りする以上どうしても皺寄せが出るのが避けられない、そうして予算が削られたのが食糧関連であり、合成食しか口にした事が無い軍人達からすれば問題になるようなことでもなかった。それでも一部には自腹で食事を用意する変わり者もいたが。だがカスミはまさか自分がそうなるとは考えもせず、そして今の自分が軍の食事に耐えられるか自信が無い。

 

だからこそ職場にもソラが作った料理を持っていけるかと考えたのだが、それ以外にももう一つだけ理由があった。それはソラとの出会いを境に読みだした男女の恋物語、その中にある恋人の手作りお弁当にちょっとした憧れをカスミは抱いていたのだ。

 

だがそれは無理であり、高望み過ぎるとも考えてもいた。以前の自分からは考えられない程恋愛脳を拗らせているがソラとは契約で一時的に結ばれた関係でしかない。家での食事はともかく仕事に行く度に用意してもらえるのはそれこそ出来の悪い三流小説であり、妄想の産物でしかない。

 

「はい、これ」

 

そう考ええていたからこそ翌朝ソラから手渡された物を見てカスミは混乱した。

 

「ナニコレ?」

 

渡された包みを開けてみれば保温機能を持った容器と水筒が入っていて、試しに中を開けてみればソラが作ってくれた料理が入っていた。

 

「お弁当、我儘を聞いてくれたからそのお礼。いらないなら明日からは作らないで──」

 

「ありがと、ソラ!」

 

「こら抱き着くな、キスしようとするなッ!」

 

喜びと興奮でソラに抱き着きキスをしようとするが防がれてしまうといった一幕の後、カスミは上機嫌で仕事場に向かう。

 

「軍で自慢してやろう」

 

カスミが口にしたソレはほんの僅かな出来心から出たもの。それがこの後どんな事態を引き起こすかまでは想像も出来なかった。

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