あべこべ世紀末、転生先は地獄だぜ   作:abc2148

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12/17、大幅改定を行いました



ハッピーバースデー!
すべての始まりの日


目の前には暗闇が広がっている。

 

視覚が全く機能していない闇の中、その中にいるのは一人の少年。色白の肌に艶やかな黒髪の短髪を持つ少年は幼く、しかしその眼だけが異彩を放っている。焦点が合うこともなく何も見ていないような伽藍洞の目。見る者に不安を抱かせるような容姿をしている少年はまるで人形のようだった。

 

だがそれも仕方がないことだった、なぜなら少年には自我なんてものはないからだ。

 

少年には過去がなく、経験がなく、そのくせ分不相応の知識だけが脳に刻み込まれた不自然な存在だ。故に何をするかもわからず只目覚めてからというもの感情もなく周りを見つめることしかしてこなかった──周りを行きかう言葉が何を意味するものかも知らずに。

 

そして現在、目覚めてから幾許かの時間が経過した今、少年は自我というものを構成しようとしていた。とはいっても突如として自我に芽生えた訳ではなく脳に刻み込まれた知識を骨格にした自我は薄く、外部からの刺激に僅かな反応を返す程度だ。

 

それでも目覚めた時と比べれば雲泥の差であり、少年は感情を欠いた頭脳で情報収集を行う。そうすれば視覚以外の五感から様々な情報を取り込めた。

 

埃っぽいにおいに乾燥した空気、それに加えて何かしらの音も聞こえて──

 

「本日の目玉商品はこの小さな少年デーース!」

 

突如として暗闇から勢いよく光が差し込んできた。それだけでなく視覚以外の五感からも先程とは比べ物にならない程の情報が流れ込んできた。

 

これが感情を持った人であれば事態の急変についていけず呆然としていただろう。だが自我が限りなく薄い少年は冷静に情報を整理して現状を理解しようと試みた。

 

そして理解してしまった、今の自分はオークションに出品──分類としてはペット兼奴隷という最低最悪のもの──されていることに。

 

その事実を理解した少年の頭脳は見びき出した結論は一つ──これは非常にまずい事態なのでは?

 

しかし知識だけが先行して導き出した結論に対して少年の反応は鈍いもの、感情が欠けた状態では結論に対しての評価が上手く出来なかった。

 

「用途は様々!遊びもよし、薬漬けにして壊すもよし、切り刻むといったサイコな用途にも扱えます!」

 

一通り謳い文句は言い終わったのか、会場の彼方此方から数字を告げる声が挙がる。

 

10000、20000、50000、100000、560000、1000000・・・・・・

 

入札価格は留まることなく上昇していき、それに伴い会場には熱気が満ちていく。その様子を冷めた目で見ながら少年は詰め掛けている人々を見回す。

 

体中にタトゥーを刻み込んでいる人、明らかに危ないお薬をキメて目が血走っている人、果てには武骨な銃器を体中に抱えた人。野蛮人、無法者、蛮人、危険人物、といった言葉を体現したような人ばかりが狭苦しいオークション会場に詰め掛けていた。そんな彼らが一心に見つめているのが自分だと認識した少年は背筋に何とも言えない感覚を味わう。

 

だが感覚を抜きにしてもこれは非常に危険な状態であることは間違いない。だがどういった目的で自分を買おうとしているのか、それが皆目見当が付かない少年は徒に背筋を這う感覚を味わうしかなった。

 

「250万!」

 

「300万!」

 

「300万いただきました!これ以上のお客様はいますか?いないようで36番の客様が落札しました!」

 

そして熱狂に包まれた競売も終わりを迎えた。300万という価格が余程嬉しいのか司会者の女は満面の笑みを浮かべながら少年を連れて舞台袖へと歩いていく。スポットライトが当たる会場とは違い薄暗く埃っぽい舞台裏、そこには一人の人間のようなものがいた。

 

脂ぎった顔を厚化粧で覆い隠したような醜悪な顔に、頭から下は境目がわからない程の肥満体系、辛うじて性別は女だとわかるのは毛深くないからか。一言では言い表せない程の醜悪な人間が少年を血走った目で見つめ舌なめずりをしていた。

 

ここでようやく少年は背筋から感じる感覚の正体が分かった。それは恐怖であり、耐え難い嫌悪、得てして本能に由来する負の感情であった。

そして理解せざる得ない、これから先に待ち受ける所業を、自身が地獄の入り口の一歩手前に立っていることに。

 

感情を獲得した少年は自らが持つ知識を総動員する。目的は現状からの逃走、だが視線を動かして得られた情報は無情にも逃走は不可能だと告げる。会場の至る所にいる銃を持った職員、それに加え会場には数多くのならず者達が今も詰め掛けているのだ。

 

最早少年の運命は此処まで。現状で可能なことは速やかなる自殺を敢行しこの先に待ち受ける未来から逃避する事しか残されてはいなかった。だが自殺のための道具を手に入れる事も叶わず、破滅へと向かうしかなかった。

 

一歩進めば鼻が曲がりそうな異臭を嗅覚が感じ取り、二歩進めば濁った吐息を聴覚が拾う。鳥肌が立ち、踏み止まろうとすれば司会者である女が力尽くで移動させる。

 

諦めるしかない、沸き立つ負の感情を感じながら少年の人生は此処で終わりを迎える

 

 

 

 

 

──ことにはならなかった。

 

運が良かった。若しくは悪運に恵まれたのかは分からない。

 

突如として足元が大きく揺らぐと同時に爆発音が響き渡る。あまりの揺れの大きさに少年を含めた誰もが地面に転がり、それに遅れて会場のか外からけたたましいサイレンの音が鳴り響く。それはオークション会場の隅々まで響き渡り、俄かに会場が騒がしくなっていく。

 

少年を競り落とした女も司会者の女も表情を青くしながら急いで駆け出していく

 

──少年を置き去りにして。

 

「なにこれ、どうゆうこと?」

 

突如として舞い込んだ自由、あまりの事態の急変に対応できなかった少年は呆然とする。だが再度起きた爆発音で我に返ると即座に移動を開始、人目に付かないように隠れながら舞台裏を移動していく。

 

暫くするとオークションを出た少年が目にしたのは大広間のような空間に集まっている人々だった。どうやら司会者を中心として武器を持った人達が簡易的なバリケードを築き始めている所であり、籠城戦を行う構えを見せていた。

 

それは最悪な展開といえるだろう。籠城戦が成功してしまえばオークションは再開され、落札された少年は今度こそ売り払われる。そこに少年の意思が介在する余地はなく、抵抗すら許されないだろう。そうならない為には別の通路を使って逃げる必要がある。少年は急いで別の通路を探し出そうとするがそれらしいものはバリケードを築いている通路しかなかった。

 

それでも他に通路はないかと少年は隠れながら必死に探し出し、見つけ出すことができた。

 

──大広間の壁の一角が盛大に爆発することによって。

 

轟音とともに壁が崩壊し、吹き飛ばされた瓦礫がならず者達を打ち据える。運が良かったものは生き残り、運が悪いものは身体を文字通り瓦礫にズタズタに引き裂かれた。

 

幸運にも少年は爆発の衝撃に会いながらも隠れていたお陰か怪我を負うこともなかった。それでも少なくない痛みを感じる身体は思い通りに動かす事が出来ず蹲ったままだった。

 

だがそれが少年の命を救った。

 

壁から入ってきたモノは少年の存在に気付くことなく大広間に入っていく。生き残ったならず者達はその姿を見て恐慌状態に陥り、銃撃戦が始まった。銃撃と叫び声が響き渡る、それを痛みから回復した少年は見てしまった。

 

血走った目に太く大きく異様に発達した二本の腕、それを包んでいるのは金属質な毛皮を持つ怪物。銃弾を物ともせず、ならず者達に接近しては巨大な腕を使って殴り殺す。時に生きたまま噛みつき咀嚼していく。

 

身体を血で紅く染め、口を動かせばボキッと何かが折れる音を立てながら人肉を咀嚼していくその姿を見た少年は震えが止まらなかった。

 

「マジかよ……、夢なら覚めーー」

 

と変なことを口走った少年だが最後まで言い切ることはなかった。なぜなら怪物が作った壁の穴を見てしまったからだ。

 

怪物は未だにならず者達の相手をし続け、その視線は少年をとらえてはいない。戦場と化した大広間では怪物を殺そうと未だに多くの銃声と、怪物が殺していく者達の悲鳴で満ちていた。

 

それは正に地獄の底に届いた一本の蜘蛛の糸。だがその細い糸は下手をすれば簡単に千切れて仕舞い、それ以前に糸にたどり着く前に巻き込まれて死んでしまう可能性もあった。

 

──それでも少年が生きる道はこれしかなかった。

 

覚悟なんて大それたモノはない、勇気なんて陳腐なモノも持ってもいない。

 

ただ死にたくない、生きたい、少年の身体は走り出す、原始的な生存本能に突き動かされて。

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