あべこべ世紀末、転生先は地獄だぜ   作:abc2148

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前途多難

胸が燃えているかのように熱い、空気が粘り気でも持っているのか吐き出すことができない。それでも少年は自らの身体に鞭を打ちながら走り続ける。未熟な身体は既に限界を超えて悲鳴を上げる。しかし少年は脚を動かす事は辞めない。

 

──死にたくない

 

──生きたい

 

知識だけしかなかった頭の中には感情が、原始的な生存欲求に基づいた恐怖が芽生えてた。その感情が今にも倒れそうな身体をギリギリの所で支え──そして少年は建物の外へ出ることが出来た。

 

少年の眼前に広がっているのは灰色の空。今すぐにでも雨粒が降り注ぎそうな分厚い雲が空を覆い太陽の光を遮っている。それが少年の初めて見た外の景色であった。

 

だが呑気に風景を鑑賞する時間は少年にはなかった。疲労困憊の体であるが周りから多くの音が聞こえてくる。会場でも聞こえたサイレンの音はより大きな音で辺りに響き渡り、その中には銃声と悲鳴、怪物の雄叫びが混じり、目線を空から地上に移せば沢山の廃墟が立ち並び其処彼処で閃光が瞬いている。

 

会場の外にも戦場は広がっていた、危機を脱していない事は一目瞭然だった。故に少年は息を整えるための最低限の休息をして直ぐに動き出した。

 

しかし少年に行く当てはなく、それ以前に自分がどこにいるのかすら分からない。逃げた先に何が待っているかも分からない。それでもあの会場の中に留まっていれば待っているのは確実な死であったことは間違いがない。それならば待ち受けるのが同じ破滅だとしても、まだ悪足掻き出来る余地が残っている外のほうがマシだと結論を出す。

 

恐怖から始まった感情は少しづつ少年の頭蓋の中で花開く。恐怖を覚え、怒りを感じ取り、そして今喜びを少年は知りつつあった。この逃走の先には生存と自由と呼ばれるものが待っていると無意識に期待していた。

 

しかし現実は其処まで甘くは出ていなかった。少年が手に入れようとする自由、その代価を取り立てるかのように逃げる先に何かが現れた。

 

少年の背丈を軽く超える大きさに細くも発達した四肢、口には鋭い牙が生え揃い唸り声を鳴らし、その背には生体部分から突き出るように生えた大型の銃器を背負っていた。

 

『量産型生物兵器警備七型』

 

頭の中にある知識が適切な情報を提示、その内容を理解してしまった少年は顔を青ざめる。

 

逃げられない、それが簡単に分かってしまうほど目の前にいる『敵』は強すぎる。もし適切な装備があれば──、そんな事を考えてしまうが現実はどうしようもなかった。仮に装備があったとしても正面から戦えばたやすく殺されてしまう、それ程の隔絶した差があった。

 

会場の外に偶々いたのに出くわしてしまったのか、それとも狙っていたのかは分からない。そして分かっていることは敵である生物兵器の目が少年を捉えているの事だ。

 

見つめられている少年は体中の血が凍ったのではないかと錯覚した。それでも此処で何かをしなければ殺されるしかない、金縛りにあったような体を相手からは分からないように少しずつ動かす、視線を左右に動かして何がないかと動かす。物でもいい、人でもいい、この際会場にいたガラの悪い人でも構わない、まさに藁をも掴む気持ちで視線を動かす。

 

しかし残念なことに其処には何もなかった、誰もいなかった。非情な現実しか其処にはなかった。

 

そして生物兵器が動いた。

 

「ガァァッ!」

 

「ぴゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

生物兵器の生え揃った鋭い牙が少年の頭蓋を嚙み砕こうとし──その噛みつきは空を切った。運が、もしくは悪運がまだ残っていた。腰を抜かして尻餅をついた少年の頭上を生物兵器が勢い良く通り過ぎていく。そして怯えながらも目を瞑ることがなかった少年は通り過ぎていく敵を見て、すぐに逃げ出す。

 

再び灼熱に胸を焼かれる逃走が始まる。だが今回は追跡者が、捕食者が背後から迫ってくる。その脚は少年とは比べ物にならない程に発達している、その体躯から繰り出される一歩は少年を遥かに超えるものだ。そんな敵に対して只走っていては簡単に追いつかれてしまうのは嫌でも理解できてしまう。故に少年は建物に空いた穴や障害物の隙間といった僅かに空いた空間に飛び込むように逃げ続ける。敵よりも小さな体を生かして逃げるしかなかった。

 

だが敵は執念深く獲物と定めた少年を噛み殺そうと追い続ける。追い付かれる事もないが、距離が開くこともない。しかし簡単に捕まえられると考えていた獲物が逃げ続けるのが不服なのか次第に背覆った銃器で少年が潜り込んだ隙間を破壊するように銃撃を繰り出す。その音は段々と大きく、何より唸り声も大きくなり殺意を漲らせているのを理解してしまった。

 

そんな少年と生物兵器のチキンレースも終わりを迎える。少年が直線状の道路に出てしまったのだ。顔から血の気が引いていくのを感じる、なぜなら其処には脇道と呼べるものはなく障害物になりそうな物が皆無だから。ならば違う道を探そうにも時間は残されていなかった。

 

少年の背後から爆発音が響く、障害物は破壊された、もう直ぐ敵がやってくる。

 

決断するしかなかった。

 

後ろから追い付かれてしまうよりも先に道路を走り切り、その先にある建物に飛び込むしかない。それは少年には圧倒的に不利であり、追跡者には有利なものであっても、例え10メートルにも満たない距離であろうとも。

 

それでも少年は走るしかない。限界まで分泌されたアドレナリンが限界を既に超えた身体を動かし続ける。

 

少しでも速く──

 

少しでも遠く──

 

だが結果は直ぐに現れた。既に距離は縮まっているのだろう。

 

後ろを振り帰らずとも生物兵器の息遣いがはっきりと聞こえてくる。

 

生暖かい吐息を首筋で感じることができる。

 

此処までだった。死は背後に迫り、打開する術は無し。それでも少年は走り続け、その背に生物兵器の爪が振り下ろされ──突如地面が爆ぜる。

 

轟音と共に湧き上がる土砂、その衝撃に少年は吹き飛ばされ──流転する視界が閉じる直前に映し出したのは上半身が吹き飛ばされた生物兵器だった。吹き飛ばされた勢いのまま廃墟の壁に叩きつけられた少年は痛みに呻く事しか出来ず、それでも死に至る事はなかった。少年の背後には吹き飛ばされた土砂あり、それが衝撃を吸収したからだ。それでも残った衝撃は少年にとって苦痛に値するものだった。

 

だが痛みに蹲る少年の耳には先程よりも大きな炸裂音、そして今まで聞いた事が無い甲高い機械音を捉えた。それと同時に地面が揺れる、何かとても重いものが落ちたのだと分かった、だがその正体は分からない。脂汗を掻きながら痛み耐えている少年は謎の音の正体を確かめようと目を開き──そして目を奪われた。

 

それは巨人だった。甲高い駆動音を響かせ、人間が持てる口径をはるかに超えた大砲と見間違うような銃で並み居る化け物を殺している。

 

砲口から閃光が煌めく度に生物兵器の身体が抉られた様に弾け飛ばされていく。しかし生物兵器もただ殺されるだけでなく、その爪と牙を巨人に突き立てる。しかし鋼鉄の装甲に傷を付けるだけで壊す事は出来ず、そして巨人は銃撃だけでなく近づいた生物兵器を巨体を活かして殴り殺し、踏み潰していく。

 

それは圧倒的な暴力、虐殺であり蹂躙、無慈悲な死の嵐が吹き荒れ、それは瞬く間に終わった。

 

そして全てが片付いた時、巨人は身体の各所から青白い炎を出しながら去っていった。

 

跡に残されたのは吹き飛ばされ、潰され、原形を留める事無く破壊されて残骸だけが残された。

 

その光景を少年は始まりから終わりまでただ見ていた。心奪われたように見つめていたその姿は見惚れているといっていいだろう。

 

だがサイレンは未だに鳴り続いていた。暫くすると遠くから怪物たちの雄叫びと銃声が聞こえてきた。

 

急いで少年は周りを見渡し逃げ込める場所を探す。このまま此処に残り続けたら再度生物兵器が襲って来る可能性があるからだ。そして視線が少年が立っても余裕で通れそうな大きさの配管を見つけた。生物兵器には小さく中に入って追いかけられる事はないはず、そう考えた少年は脇目を振らずに配管に飛び込む。そして残った力で薄暗い配管の中を進み続ける。

 

背後では銃撃と雄叫びが再び響き渡っていますが少年が振り返ることはない。

 

只一つ、少年は先程の巨人の蹂躙劇を繰り返し思い出していた。

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