ソラは肉を焼いている。
薄くスライスした肉をナイフに突き刺して焙るという、なんとも豪快かつ野性的な調理法。じゅわじゅわ、と焙られた肉が焼ける音が耳に届き…、途中からブスブスと音が変わっていき…、ただでさえ赤黒い肉だったのが真っ黒に染まっていくがソラは焼くのを辞めることはない。
最早元が肉であったとは分からなくなるほどに姿が変わっていく様は恐ろしいもの。それに加えて元々あった生臭い匂いが強まっていくという散々なもの。
──これを口にしないとダメ?そもそもコレ食べれるの?
と至って当たり前の疑問と不安が空の胸の中に沸き上がるが、しかしソラの理性は湧き上がる疑問と不安を無理矢理黙らせた。なぜなら目の前の肉が今のソラが口にできる唯一の食料だからだ。
訳も分からず目が覚めた今のソラは自分が何者なのかすら分からない。そして疑問を解消するだけの時間はなく、明らかに危険な不審者たちの集団から逃走した、背後に迫る怪物に怯えながら。
そうして何やかんやあって今いる廃墟に流れ着いたのだ。そして廃墟で一休みしたソラは思い至った。
──これからどうしらいいんだ?
何も分からない。此処がどこなのか、どこに行けばいいのか、何をするべきなのか、そしてグウー、とお腹から非情な音が廃墟に響き渡る。
それは初めての感覚、腹部が締め付けられ、何かを欲している。それが意味するものは何か、ソラは混乱しながらも何故か頭にある知識から該当する事象を探す。それに掛かったのは僅かな時間、されど現状を理解してしまったソラは途方に暮れる。
これは空腹なんだと、可食が出来るものを摂取しなければ飢餓、飢えが待っていると。それを回避しなければ待っているのは死だと。
ソラは周りを見渡す、目の前に広がるのは廃墟だ。
少し移動して視界が開けた場所に移動、再び周りを見渡す、目の前に広がるのは廃墟だ。
高いところから見てみようと瓦礫をよじ登る、息も絶え絶えでたどり着いた場所から再度周りを見渡す。目の前に広がるのは廃墟、今いる建物とは別の廃墟が視界一杯に広がっていた。
「神は死んだ!」
意識せずに出てきた叫び、それがソラの心境を偽りもなく表していた。
これにはソラも困り果てました。全く見知らぬ土地での命懸けのサバイバル生活ほど無謀なものはありません。それでもやらなければ待ち受けるのは餓死といった鬼畜仕様ときたものです。
と既に神様が見放していそうな世紀末世界でソラは天に向かって叫ぶのでした。それと同時にお腹から鳴り響く空腹の知らせ、叫ぶという余計な行為で貴重なカロリーを消費してしまいました。
そして今のソラに必要なものはカロリー、体の動かすためのエネルギーが尽き掛けている現状をどうにかしなければなりませんでした。
カロリー獲得の方法は食物の摂取です。だがしかし現在のソラは食べ物を持っている筈もなく、食べ物を買うお金もありません。仮にお金を持っていても何処に行けば食料品が買えるのか分かりません。
そして食物を得る真っ当な手段を潰された以上残るは非合法な方法で手に入れるしかありません。つまりは泥棒を……とソラは考えましたが検討するに値しませんでした。そもそもこの身体で泥棒は成功するのか、身体能力も泥棒に関する技能も持っていない現状では十中八九失敗するでしょう。そして失敗でもすれば強面な方々が大手を振っているこの世界、袋叩きにあって死ぬのが目に見えています。
鬼畜仕様、此処に極まれりです。
ならばどうするのか、あれこれ考えましたが名案と呼べるものは出てきません。そんな事を何回も繰り返したソラが無駄だと悟るのに少しばかり時間がかかりました。
そして結局の所先ずは行動あるのみだと決断し廃墟の配管から危険地帯へとソラは赴いたのでした。
その収穫がソラの背後に置かれた肉の塊とガラクタの山でした。肉は今日一日で随分と見慣れたワンコ(犬型生物兵器にソラが付けた呼称)のもの。巨人にミンチにされたものから食べられそうな部位を拾ってきたのでした。そしてガラクタの山はワンコとの戦いで殺された強面の方々の死体からはぎ取ったものです。
その所業は正しくハイエナと言えるでしょう。
それはそれとして、ソラは食料?を手に入れる事が出来たのでした。そしてガラクタの中からナイフと使い捨てライター、固形燃料を取り出して早速調理を行います。
そして見事に焼けた肉が出来ました。
食中毒を警戒して真っ黒焦げになるまで火を通した肉はまるで岩石のようです。決して上手に焼けたなどと口に出せないものです。そんな岩石と化した肉をもう一つのナイフで焦げだ部分だけを削ぎ落とします。そして出て来たのは火が完全に通った食べても多分大丈夫な肉です。
それは銃声に怯え、咆哮に肝を冷やしながら手に入れた貴重な食糧でした。見た目がどうであれ……。
「いただきます」
そう言ってソラは肉を口に運びます。ちょっと生臭いけど大丈夫だと根拠もなく自分を信じ込ませながら食べた肉の味は──
「不味ッ!?」
とても食べられたものではありませんでした。ゴムの様な弾力で噛み千切れず、下手に噛めば血生臭い肉汁が染み出し、生臭い匂いが口から鼻へ出ていく。食欲減退を引き起こすゲテモノをソラは生み出してしまいました。
何となく食用にはならないと思っていたワンコの肉でしたが予想以上のもの仕上がってしまいました。一刻も早く投げ捨てるしかないと考えたソラでしたが現状食べられる物はこれしかありません。
最早諦めるしかない。人生の楽しみの一つである食事を早々にソラは諦めました。そして味も、匂いも、何もかも無視して苦行と化した食事を続けるしかないと悟りました。
それからはソラは積み上げられた肉を焼き、機械的な動作で口に運んでいき肉を胃に落とし込みました。味なんて考えません、考えたら終わりです。そうして食べ続けることで何とか胃の空腹は収まりました。
「……お腹下さないでくれよ」
食後に不安を感じながらも横になったソラは生臭い自分の息にげんなりしながらも、これから先やるべき事を頭の中に思い浮かべます。それは生活拠点をこの廃墟に築き上げる事。その為にやらなければいけない事は食料の確保、水の確保、寝床の確保、現金の確保……、やるべきことは多く暇は一分一秒と無駄に出来ません。
「生きるって大変だな~」
そんな事を他人事のように言いながら、満腹になったことで襲ってきた睡魔にソラは身を委ねるのでした。
そして伽藍洞の中にソラの自我が少しづつ芽生え始めた。