この素晴らしい世界に探偵王子を!   作:パザー

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え…また半年弱空いてる…うっそだぁ…


第8話

 クリスが彼の家を後にしてから少し経った頃。あんな出来事があったためかどうにもじっとしているのも限界を迎えていた。

 時刻は夕刻。街の人並みもまばらになってきた頃だろう。気分転換にと彼は街へ繰り出した。

 

 朝からクエストに出向いていたであろう冒険者がくたびれた顔、楽しそうな顔、少し不満気な顔と様々な様相で歩いている。見渡しているだけでも昼時や朝時より様々な情緒が見受けられる。

 

 こうして知らない人の顔を観察するだなんて事、初めてのように感じられた。彼の観察する対象はあくまで事件の容疑者か関係者ばかり。

 

 東京の街を行く大勢の誰でもないどこかの誰か。彼らの顔を自分は見ていただろうか。なぜそんな記憶がないのか…恐らく自分自身も目を逸らしていたのだろう。

 

 自身の目的遂行のため、そう言い聞かせて獅童の言いなりとして精神暴走事件を起こし、多くの人を巻き込んだ。そんな自分が殺す事になるかもしれない人たちから少しでも目を背けたかった。仕方ないのだと思い込んだ。

 

 自覚している自身の良心や正義感に蓋をして言いなりになった。獅童パレスで迎えた最後、そこで自分はようやく自身の心に従って動くことができた。それは怪盗団ーーー特に『雨宮蓮』のおかげだ。

 

 そんな彼の姿を騙る『ヤルダ・バオト』という神。奴だけは打倒しなければ。そう彼は堅く決心した。

 

 そんな事を考えながら道ゆく先。何やら大仰そうな荷台にそこに乗る大型のモンスターを捕獲するようであろう鉄の檻。しかしその鉄の檻はやけにボロボロになっている。

 

 そしてその荷台を引くのはサトウカズマ達一行。件の鉄檻の中にはあの憎きアクアが虚ろな目をして体育座りしていた。何やら口ずさんでいるようだがそこまでは聞こえてこない。

 

 側から見ると人攫いとこれから売りに出される少女。彼らのクエストの一部始終を見ていたためにそうなった経緯は察せるが、あんな光景はまぁただの間抜けな犯罪者どもだ。現に周囲からはマジマジと見られてはいないが、恐ろしいほどの視線が浴びせられている。

 

 

「女神様!?女神様じゃないですか!!」

 

 

 関わりたくないが故に黙っていたが、カズマ達の背後からそんな声と共に焦った様子で駆け寄ってくる影が1つ。

 

 藍色を基調とし、細部に金色の意匠が施された甲冑に茶髪。明智に負けずとも劣らない端正な顔立ち。というか、若干彼に似ている。

 

 

「女神様!そんな所で何をされてるんですか!?ーーーふんっ!!」

 

「うえぇっ!?」

 

 

 相変わらず虚ろでまるで彼の声が聞こえていないかのような態度のアクア。そんな彼女を見かねたのか、男は鉄格子をその身一つでひん曲げた。

 驚いているだけのカズマ達を他所に、男は構わず言葉を続ける。

 

 

「女神様!女神様!どうしたんですか!?」

 

「女神…女神!そうよ私は女神アクア!……で、あなた誰?」

 

「知らない人なのかよ…」

 

 男の言葉に…というか女神というワードでようやく彼女の目に光が戻る。そして開口一番のそんな言葉に彼は慌てて腰に下げたやけに仰々しい剣を彼女に見せる。

 

 

「僕ですよ!御剣響夜です!貴方からこの『魔剣グラム』を授かってこの世界に来た御剣響夜ですよ!!一体どうしたんですか!?」

 

(こいつ…自分が女神ってことも、こいつのことも忘れてやがったのか…)

 

「…あ、あぁ!そうよね!御剣響夜!もっ、もちろん覚えてるわよ!」

 

((((嘘をつけ…))))

 

 

 慌てて取り繕うように答えるアクア。そんな彼女を見てとても個性の強いカズマやめぐみん、ダクネスに明智の思考が珍しく一致した瞬間であった。

 

 

「それで…その人達は?」

 

「パーティーメンバーだけど?」

 

「パーティーメンバー…ここで冒険なさってるんですか?」

 

「そうだけど?」

 

「…寝泊まりは?」

 

「馬小屋だけど?そこの男と2人で」

 

 

 問答の度にどんどんと御剣が困った様子になって青ざめていく。そしてその最後の問答を皮切りに、大きく項垂れた。しかし、これはいけないと咳払いして再び質問攻めが始まる。

 

 

「…ごほん!僕はこの魔剣や仲間達と共に、貴方から仰せつかった魔王討伐を目指して冒険しています。ほら、2人とも女神様に挨拶を」

 

 

 彼に言われて少し後ろで眺めていた少女2人が前へ出てくる。緑髪にポニーテールの少女、赤髪に三つ編みの少女。どちらも重装備な御剣と違ってクリスを思わせるような、少し扇情的な薄着をしている。ちなみに彼が喋っている間、カズマ達は何一つとして喋っていない。ずっと彼が1人で喋って進行している。側から見ている明智からは中々に見るに耐えなかった。

 

 

「私はクレメア!職業は戦士!女神様とか知らないけど、キョウヤは私のものなんだから!」

 

「こ、こらクレメア、女神様の前で…」

 

「クレメアめぇ……私はフィオ!職業は盗賊!で、貴方達は?」

 

「我が名はめぐみん!アクセル随一のアークウィザードにして、期待のーーー」

 

「サトウカズマです。冒険者です」

 

「ダクネスだ。クルセイダーを生業にしている」

 

 

 自己紹介になった途端に目が輝きだしためぐみんの名乗りをぶったぎり、冷めた目をしているカズマとダクネスが淡々と自己紹介を済ませる。

 御剣の腕に抱きついてこれでもかとアピールするクレメア。自分本位で話し続ける御剣。まあ彼らがこんな顔と態度をするのも無理はない。

 

 

「カズマカズマ。私の名乗りを邪魔するとはいーい度胸ですねえ。私のこの杖改め『制裁を下せし深紅の錫杖(ぽこぽん太郎)』でボコボコにしますよ?」

 

「あー悪かった悪かった。てかなんだよその名前」

 

「サトウカズマ…君以外は全員上級職か。なるほど、上級職の彼女たちの高い能力に頼りきって甘い蜜を吸っているような寄生冒険者…だなんて事はないだろうね?」

 

((カチコーーーーン))

 

 

 カズマともう1人、どこかで堪忍袋の緒が切れる様な音がした。そしてカズマは完全に彼を相容れない奴として認定した。

 

 

(寄生ねぇ…そんなの出来るんならやってみたいけどねぇ!!そんな甘い汁啜ってみたいよ俺だって!!!)

 

 

 爆裂魔法しか使えない一発屋。攻撃の当たらない頑丈さしか取り柄のないドM。口を開けば人を煽り、何かをすれば厄介事を持ち込む駄女神。

 そんな彼女たちからクエスト関係で甘い蜜を吸えた事なんて一度もない。むしろ毎度毎度辛酸を舐めさせられている。

 これまでの苦い思い出がフラッシュバックし、とうとうカズマも反撃に出る。

 

 

「そんな事する訳ないだろ。てかこのパーティーのリーダーは俺だし」

 

「何だって…君が?」

 

「えぇ。カズマの作戦にはいつもいつも助けられてます」

 

「そうだな。今回のクエストもカズマの作戦で安全に切り抜けることができた」

 

「…その作戦と女神様の入っていた檻は何か関係が?」

 

「ええ。私をこの中に入れて、ワニがうじゃうじゃしてる湖に放り込んでひたすら浄化魔法を…」

 

「はあああぁぁ!?なんだって!?女神様をそんな扱いするなんて…なんって罰当たりな事をしてるんだ!!君の倫理観や道徳心はどうなってるんだ!!」

 

 

 彼のその強い正義感が故か、いてもたってもいられず御剣がカズマの胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす。御剣のソードマスターたる強靭なステータスとヒキニートカズマの貧弱なステータスではカズマがなす術なくぐわんぐわんと揺らされるままになる。

 そんな様子を見て流石のアクアやめぐみん達もフォローに入る。

 

 

「ちょ、ちょっと!たしかにちょっと怖かったけど、結果的に上手く行ったんだからいいのよ!それに何故か思ってたより早く終わったし!なんだかんだ楽しい日々を送ってるし!」

 

「おい!いくらなんでもやりすぎだぞ!」

 

「女神様!!こんな残虐非道な男とどうしてずっと一緒にいるのです!!早く元の世界にお戻りにーーー!!」

 

「帰れない」

 

「へ?」

 

「ーーー私、そこのカズマさんに転生特典として連れて来られたから。魔王を倒さない限り帰れないのよ」

 

「は、はあああぁぁぁ!?!?サトウカズマ、君!!女神様を凶暴なワニのいる湖に放り込み、馬小屋で寝泊まりさせ、あまつさえそんな事を強いるだなんてーーーどうしてそんな事を女神様にするんだ!!」

 

「むしゃくしゃしたから」

 

「むしゃくしゃしたからだと……!?もういい、女神様!ぜひ、うちのパーティーにお越しください!僕は必ずや魔王討伐を成し遂げてみせますし、女神様がいてくれればヒーラーとして更に戦力アップだ!それに他の2人もどうだい?歓迎するよ!一緒に冒険に行こう!大丈夫、僕にはこの魔剣や2人がいるから!」

 

 

 こちらの事情や心情などまるで考えない怒涛の御剣の言い草にもはや嫌そうな顔を通り越して小動物の様に険しい顔をしながら唸り声をあげるめぐみん達。3人とも我慢ならぬ様だ。

 

 

「どうしましょうカズマ。何故だかこの人に無性に爆裂魔法を撃ち込みたくなりました」

 

「基本受けの私だが、この男に対してはどうしても殴りかかりたくなってしまう…」

 

「カズマさん。見てらんないんですけど。想像以上に痛くて見てらんないんですけどあの人」

 

「ーーーてな訳で満場一致で『No』だそうだ。じゃあこれでーーー」

 

 

 都合の悪いことは全てシャットアウト。彼らの言い分などまるでお構いなしに話を続ける。

 

 

「ではサトウカズマ。僕と勝負しろ。僕が勝てば……うん?君は…」

 

「ちょっとあんた!何よ急に出てきてーーーヒィッ!?」

 

 

 御剣の話を遮る様に明智が路肩から彼に向かって歩み寄ってくる。強気なクレメアが止めようとするが、彼の目を見て一瞬で心が折られた。

 

 若干俯き気味で、彼の少し長めの前髪から覗かせる陰った目はとんでもないほどの怒気を孕んでいた。

 

 彼の前まで来た明智は甲冑などの装備も込みで中々な重量になっているであろう御剣の腹を蹴り付け、壁に吹き飛ばす。そして悶える御剣に一切の容赦をかける事なく、アイアンクローで彼の体を壁に押し付けながら持ち上げる。

 

 

「ーーーいい加減にしろよお前。目的も何もかも人から与えられた『偽物』。 そこの女神とやらの言いなりになって木偶の坊みたいに魔王討伐だのと…それになんだ。 魔王討伐の意思も『魔剣グラム』とやらの力で、万事うまく行ってきたが故の全能感、つまりは力に酔ってたんだろう? それで周りの奴らは自分をもてはやし、慕ってくれる人間がいるーーー与えられた力の言いなりになって達成した功業!チープな正義感で語る綺麗事はさぞ気持ちが良かっただろう!!なあ!!?」

 

「ちょっ…ちょっとあんた…やめてよ!キョウヤを離してよ!」

 

 

 頭を握り潰さんばかりの握力と悶えて抵抗できずいるキョウヤを見て、怖気付いた心を震わせて2人が明智の元に詰め寄る。

 彼に思う存分の言葉を吐き捨てて満足したのか、明智は御剣を離して背後の2人へ向き直る。

 

 

「なんなのよあんた!いきなり出てきたと思ったら、キョウヤに酷いことするし好き勝手言うし!なんなのよ!」

 

「……勝負するっていうのなら受けて立つよ。冒険者ならそういうのも得意だろう?それとも、彼に戦闘は任せてばっかりの『害悪な寄生冒険者』なのかな?」

 

「……っ!勝てないバカな戦いはしないわ…キョウヤ!大丈夫!?」

 

 

 彼女たちは分かりやすく動揺し、悔しそうにキョウヤの元へ駆け寄る。そしてすっかり蚊帳の外なカズマ達はその光景をただただ見つめている事しかできなかった。

 

 

「あ、あの〜……アケチさん?」

 

「…やぁ皆さん奇遇だね。でも僕、そろそろ帰るから、お暇させてもらうよ」

 

「待て…待てよ……」

 

 

 鬼神のような怒気を放っていた様子から一転。そんな面影はか程も見せずに普段のさわやかな笑顔を浮かべる明智。そんな彼の瞬時の変わり様にカズマ達は背中に何かゾワゾワとしたものが奔るのを覚えた。

 しかしそんな彼らを他所に、クレメアとフィオの2人に庇われながらもフラフラと立ち上がり、明智を睨みつける御剣がいた。

 頭の痛みからか足元はおぼつかず満身創痍だが、心は折れていないという事がその目から伝わってきた。

 

 

「…へぇ。少しはタフみたいだね」

 

「君が…どうしてそんなに怒ってるのか…僕には分からない…でも…仲間を『害悪』だなんて馬鹿にされて、僕の意志も『偽物』だって……そんな事言われて…言われっぱなしでいる訳にはいかないだろ……!!」

 

「じゃあかかってきなよ。こんなに口で言い合ってばっかりじゃ埒があかないだろう?」

 

「ーーー言われなくとも!!」

 

 

 弾き出されるように御剣が明智に飛びかかる。腐っても高レベルのソードマスターという上級職の男。やはりステータスは相当なようなもので、ベルディアに勝るとも劣らないレベルだろう。

 しかし、現実というのは時に残酷なまでに飾らない。この世に奇跡などは存在しないとそう思わせる様な歴然とした力の差。それが御剣に暴力として襲い掛かる。

 

 なんなく大振りの拳を避け、反撃のジャブ。当然躱せるはずもなく直撃した御剣の顔がのけぞる。そして大きく伸びた喉に貫手。息ができずに悶える彼を冷たい瞳で明智は見つめる。

 完全に勝負あり。どう見ても完敗だ。悶える御剣に明智が口を開く。

 

 

「その魔剣とやらを抜かなかったのは評価してやる。抜いてたら僕も本気で殺しにかかってたがーーー」

 

「キョウヤにーーー」

 

「何してるのっ!!」

 

 

 淡々と言葉を浴びせる明智の背後から、震える足腰を叱責してクレメアとフィオが飛びかかる。 手にはそれぞれ両手剣とダガー。混じり気ない怒気と殺意がひしひしと彼に向けられている。

 しかし彼が簡単に不意打ちを許すはずもない。2人の刃は呆気なく躱され、それどころか反撃に顔面に裏拳をかまされた挙句に腹を踏みつけられる。そしてバインドで地べたに磔にされる。

 

 

「身の程も弁えられないのかい?勇敢と蛮勇は違うよ」

 

「〜〜〜〜ッッ!!」

 

 

 唇を噛む2人。血が出んばかりに悔しがる激情も、怒りもまるで彼には届かない。そしてそれを倒れ伏して見ている御剣。

 悶える2人と冷たく彼女たちを見下す明智。こうして地に伏して危機に対して手も足も出せずにいるだなんて経験はなかった。

 

 こんなにも悔しいのか。こんなにも怖いのか。これがーーー絶望か。

 

 そんな思考が彼の脳内を渦巻いて支配する。そんな時に思い出される先程の明智の言葉。『偽物』だと。

 ようやく自覚する。あぁ、『絶望(これ)』を味わずして言ってきた自分の言葉はそれ程に薄っぺらいものだったのだと。 自分以上に自分を見透かしていた彼に対して改めて恐れと畏敬のような念を抱く。

 

 しかし今までの人生も、ここでの人生も。まるで運命のような何かが彼にそうさせているのだろうか。御剣響夜という男はどこまでも『主人公』なのだ。

 

 味わった絶望。彼は今それを知ったのだ。ならば次はそれを乗り越えるのみなのだ。

 

 

「ーーーへぇ。まだ立ち向かってくるのか」

 

「ここで立ち向かわなきゃ…なんだかうまくは言えないけど……自分の中の何かが変わっちゃう気がする……僕が僕を裏切らないために…君に立ち向かう…!!」

 

 

 足元もおぼつかないほどの頭痛に呼吸も未だ整っていないだろう。満身創痍だ。それでも彼は立った。自棄や怒りからではなく確固たる意志を持って。彼の目がそれを物語っていた。

 その瞳の中に明智は『()()』に近しいものを見た。先程までの傲慢とも取れる冷酷な態度を取りやめ、油断や見下しなどの一切ない本気を彼に向ける。

 

 

「…君をみくびってたみたいだ。じゃあ、僕も僕を裏切らないために君を肯定する訳にはいかないーーー本気で行くよ」

 

〜*〜

 

 そこからの事を御剣はほとんど覚えていない。何か顔面に特大の鈍器で殴られたかのような衝撃を覚えたそのすぐ後に意識はトんでいた。 しかしそんなのはまるで嘘だったかのように彼にも、フィオやクレメアにも怪我は何もない。

 目が覚めた時に3人はアクセルの適当な宿屋に詰め込まれていた。恐らくはあの時から丸々一晩眠りこけてたらしく、爽やかな朝日が眩しかった。

 

 

「キョ、キョウヤ!大丈夫!?昨日あんなにーーー」

 

「もう私心配で心配で…キョウヤァ……」

 

 

 呆けている御剣に半泣きで抱きついてくる2人。彼女らの口振りや心配さ加減からして恐らく自分はあの後彼にそれはもう完膚なきまでに叩きのめされたのだろう。

 

 

「大丈夫だよ。どこも痛まないし、なんなら調子がいいくらいだよ」

 

「そ、そっかあ…よかったぁ……でも、ホントになんなのよあの男!いきなり出てきたかと思えばキョウヤにあんなに酷いことして…」

 

「あっはは…そんなにすごい負け方をしたのか…僕は…でも、彼の言葉には考えさせられたし、それでまた成長できた気がする」

 

「そ、そうね…私たちの怪我も彼の魔道具で治してくれたし…なんだったのかしら…名前も分からないし…」

 

 

 一行は難関を乗り越え、また少し成長したという実感と微妙に煮えきれないモヤモヤを感じながらしばらく宿屋で過ごし、また旅に出たのだったーーー

 

〜*〜

 

 明智の渾身の拳が御剣の顔面をクレーターのように穿つ。拳と叩きつけられた衝撃がカズマ達の肌を撫でるように伝わってくるほどの威力にただただ驚くしかできずにいるカズマ一行。

 

 以前のジャイアントトード討伐などで彼の戦闘力の高さは嫌というほど感じていたが改めてその恐ろしさに萎縮してしまった。流石のダクネスもあんなパンチは食らいたい気になれないのか青ざめている。

 

 

「…アクア、本当にお前喋るなよ今は。頼むから」

 

「…分かってる。流石に命が惜しいもの……」

 

「うっ…アケチのあの攻撃力…是非とも我が爆裂魔法と対決していただきたいです!おーーむぐっ!?」

 

「「ほんとにやめとけ(やめときなさい)よお前!!」」

 

 

 とんでもないことを言い出しそうなめぐみんを珍しく必死に静止する2人。ダクネスはなんだか先ほどの青ざめた顔から少しずつ赤くなっていっておかしなコントラストが顔面に形成されている。抑えられないマゾが溢れ出しているのだろう。先ほどの御剣の惨劇を見ても疼く辺り本当に救いがない。

 

 

「ーーー君たちはクエスト帰りかな?」

 

 

 そう明智から話しかけてきた。突然の出来事と先程までの真剣さはどこへやらと言いたくなるようななんだか恐ろしい笑顔。

 カズマ達4人の心臓がキュッと締め付けられたように跳ねる。

 

 

「どっどど…どうかなさいました?」

 

「なんでそんなに畏まってるのかな…まぁいいや。君たちも見たところクエスト帰りなんだろう?早くギルドにでも行ってきた方がいいんじゃないかな。ほら、周りにこんなに…」

 

 

 実は明智は彼らのクエストの一部始終を見ていたのだが、そんな事なんて知らず今ここで初めて会ったかのような態度を取る。そして明智の言葉を聞いてカズマ達が周りを見渡すと言葉通りに物陰から覗くような影が多く見られた。

 

 既にパンツの件だったりと悪評の多いカズマはめぐみん達を引き連れてそそくさと退散していった。まるで他人事のようだが、明智も彼には負けるものの、それなりに悪評が付いているのを忘れてはならない。

 

 

「さて…と。良かったら運ぶの手伝ってくれるかな?クリスさん」

 

「…あはは、バレてたか」

 

 

 そう明智が周囲に言うと建物の陰からクリスがそそくさと出てきた。最近の彼女は明智の調査が故仕方がないがストーカー気質と物陰に潜むのが板についてきている気がする。本当にそれでいいのか女神。

 

 そして2人はそれぞれ気絶した御剣達を担いで歩き出した。2人の間にはなんとも言えない気まずい雰囲気が流れる。

 あんな事があった日のうちに加えて、盗み見がバレたのだ。余程神経が図太くない限りは堪ったものではないだろう。

 

 

「ーーーどうして最初、彼のことそんなに毛嫌いしてたの?」

 

「…嫌悪感かな」

 

「途中からはなんだかやけに真剣だったけど…」

 

「…見せられたから、かな…どうしてそんなに僕の事を聞いて回ったりするのかな。確かに好奇心旺盛なタイプなんだろうけど…それにしたって君、おかしいよ?」

 

 

 話を聞きながら宿の手続きを済ませて御剣達を部屋に放り込む。以前ウィズの店で買った特大の回復ポーションを苦労しながら小分けした瓶を雑に振り撒いて彼らの回復を済ますと、2人は正面から相対する。

 

 そして明智のテレポート水晶で2人は明智の家の前へ。完全に人の目のない2人だけの空間。尋問に近しい重苦しい空気感が2人の間に流れる。

 

 

「ーーー悪いけどもう『まぁいい』で流したりはしないよ」

 

 

 そう言って少し魔力を滾らせる。彼の判断次第で1秒後にでも殺し合いが始まりそうな緊迫。そしてクリスは生唾を飲みーーー

 

 

「……分かりました。全て話します」

 

「ーーー!そんなキャラだったのかい、君って」

 

 

 わんぱくやボーイッシュ、快活といった言葉の似合う普段のクリスとは打って変わって澄んだ丁寧な物腰の会話。ただ口調を変えただけではないと明智は直感する。

 そしてクリスは光の粒子に包まれ、それが霧散したかと思うとそこにはクリスと同じ銀髪。しかし腰あたりまで伸びたそれはもはやシルクのような美しさを携え、その美しさを更に際立てる修道服に身を包んだ少女がそこにいた。

 

 

「私の本当の名前はエリス。ディーテルという女神に頼まれて貴方を調査することになった女神です」

 

「ーーーディーテル…女神……なるほどそういう事か…」

 

「理解が早いですね。ここに転生する前に聞いたかと思いますが、本来貴方は地獄行きになるはずだった身。そんな貴方が送り込まれたとあれば、この世界を担当する女神である私はいざという時のためにも貴方を監視する必要があったのです」

 

「…それで?こんなあっさりと正体を明かしたってことは僕はやっぱり地獄行きなのかな?」

 

「…地獄が怖くないのですか?」

 

 

 女神であるということに多少は驚いた様子を見せたが、彼の中でこれまでの不審な彼女の行動に女神であるということで合点する所が幾つもあったのだろうか。妙にすんなりと受け入れ、自身の行先を尋ねる。

 

 

「正直…私には貴方が分かりません。悪人なのか善人なのか…そして地獄へ行ってもらうべきなのか。その恐ろしい二面性は何なのですか。どちらが本当…なのですか」

 

 

 物寂しげな顔をするエリス。心の底から分からなくて理解に苦しみ、そしてちゃんと理解しようとしているが故の苦悩だと感ぜられる。そしてそれに対して明智はーーー

 

 

「僕もどっちが本当かだなんて分からないよ。少し前までは白い方の自分が偽物だと、そう思ってた。少なくとも黒い方の時に抱いてる怒りは確かに本物だと感じられたしね。でも最近思うんだ。白い方の自分も、そうなっているからには何か理由があるって。だからーーーどちらが本物なのかとか、そう言う意味はこれから作っていくことにしようと思ってる」

 

「ーーーー」

 

 

 その言葉を聞いてエリスは黙りこくる。嘘や適当に騙される彼女ではない。きちんと彼の言葉を反芻しながら自分はどうすべきかと問いかける。

 

 

「……分かりました。貴方の行動はこれからも見させていただきます。貴方なら下手に私に媚を売るような真似もしないでしょうし…次に私がこの姿で貴方の前に現れた時。その時に答えを聞かせてくださいね」

 

 

 そう言い彼女は微かな笑みを浮かべる。その笑顔は女神の名に恥じぬ、人を救うほどの眩しいものだ。そして明智はそんな彼女を見て、また今度と言うように無言で手を振り家へと入っていったーーー




実はだいぶ前にほとんど完成してたんですけど締め方が分からず迷走してたら色々忙しくてこんなことになってしまいました。ごめんなさい。
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