「私を罵り、蔑んでくれ!!頼む、この通りだ!!」
「……は?」
彼の思考がフリーズした。もちろん、言っている言葉の意味は分かる。自分に罵詈雑言を浴びせてくれーーーという事だろう。そして前にいた世界でもそういった嗜好ーーー性癖を抱えている人間がいる事も認知はしている。マゾヒストという奴だ。だが、いざ目の前で自分が体験するとこうも混乱するのだ。
「あの目、人を人とも思わぬ冷酷な感じーーーあの目で見下され、こう言い放つのだ。『おいお前、とっとと金持ってこい…何?方法がだと?その無駄に実った身体は何のためにある。分かったらとっとと行け』と!クウゥゥ…//」
「ーーーーーー」
絶句だった。恐らくマゾヒストの中でもコイツは筋金入りだろうーーーいやそれにしても……気持ち悪い。とにかく気持ち悪いのだ。
そしてその嫌悪の感情は溜まりに溜まり…彼の身体を弾き出した。
「えっちょっ……どこに行くのだ!!待ってくれえええ!!!」
「ーーーーーーッ!!!!」
この異世界ではメメントスやパレスにいる時と同じ身体能力で動ける。故にそれなりに足の速さにも自信があった。だが、そんな明智の全力疾走にも後ろの変態はピッタリと引き離される事なくついて来ている。
(何なんだ一体アイツは気色悪い……!)
〜*〜
普段であればあり得ないが、やってきて2日の土地勘では変態を撒くのは難しいらしく、彼は袋小路に追い詰められていた。
「ハァ……ハァ…さぁ、もう逃げ場は無いぞ…!今度こそ私を罵り蔑むんだ…!」
「ちょっ…ちょっと、何なの君は!初対面なのにいきなり罵るとか蔑むとか…!」
「むっ確かにそうだな…私の名はダクネス。クルセイダーを生業としている者だ。ーーーーさぁこれで友達だな!さぁ!!」
そう言い、先ほどから発情しているような風貌だったがそれが限界に達したのだろうか。ル◯ンダイブの態勢で上空からダクネスとかいう変質者が落ちてくる。
「このバカ!何やってんの!」
だが、そんな彼女は後ろに現れた人影に足を掴まれ顔面から地面に激突した。その救世主に目を凝らしてみると初日に出会った盗賊の少女、クリスの姿が。
「ったく人に迷惑かけてーーーって、アケチくん?」
「あ、あぁ……助かったよクリスさん…」
「イィッタイハナ‥‥ハナガモゲリュ‥‥」
月に照らされた素っ頓狂な顔をしているクリスと顔を押さえるダクネス。美男美女が集まり立派な絵が生まれると思ったが、これでは面白おかしい奇妙なコメディだ。
「…いや、ほんとに良いタイミングだったよ。ーーーまるで測ったみたいに、ね」
「えっ!?あっ…そうそう、たまたま偶然だよ!何なにまるで私が最初から見てたみたいな言い方は!傷つくなーもう」
そう明智が含みのある言い方でクリスの方を見やる。すると彼女は一瞬露骨な動揺を見せるが、すぐにまた普段の軽薄な雰囲気を取り戻す。しかしその態度もまっっっっっさらな嘘、ハリボテである。
実のところ彼女は彼の察しの良さと少し覗かせた威圧感によりゲボ吐きそうな程に心拍は加速、脳みそも知恵熱を通り越して灰に還りそうになっているのだ。それでもボロをほとんど出さないのは女神と盗賊の二面性を持つからなのだがーーー明智は今の態度で警戒をダクネスからクリスへと移した。
「そうだ!それにしてもアケチくん、あの初心者殺しの件、凄かったね!君ってそんなに強かったのかい?」
「あぁ、知ってたんだーーーでも片腕がしばらく使えなくなっちゃったしね。そんなに凄いことじゃないと思うけど…」
「いやいや、ギルドが特別指定してるモンスターはどれもこれも一流の冒険者のパーティーが挑むものだよ?それをそれだけの怪我で倒したなんて…」
そんな話に華を咲かせていると、下の方でずっと悶えていたダクネスが不服そうな口を開く。
「なんだクリス…お前の知り合いだったのか…あと早く拘束を解いてくれないか!?緊縛プレイというのも悪くはないが鎧がミシミシ言ってるのだ!割と大枚叩いて作ってもらった物なんだ頼む!」
「あ、あぁごめんごめん…でもだめだよダクネス?初対面の人にいきなりあんな事しちゃ…いや友達だとしてもだけど…」
「す、すまない…内なる欲望が抑えられなくて…」
「ア、アハハハ……」
明智が引きつった笑いを浮かべているとダクネスがクリスの手から解放され、襲いかかってこそ来ないが確実にまだ狙われていると彼は直感したのだったーーー
〜*〜
ダクネスは痛めつけられた事である意味満足したのか退散。明智とクリスが夜道を歩いていた。
「そういえばアケチくん」
「ん?どうしたのかな?」
「君って誰かとパーティーを組んだりしないの?」
「パーティー…かぁ……」
パーティー。あまり聞き覚えはないが一緒にクエストに赴く仲間のことだろう。だが…丸喜の世界ではなし崩し的に怪盗団として戦ったとはいえ、元々彼は人を信じず、ずっと1人で暗躍し続けたこともあり誰かと戦うと言うことは彼に取っては疎ましいことなのだ。
一度きりのパーティーならば構わないが、長期的に組むとなると…というのが正直なところだ。だが、そんな事をストレートに言うわけにもいかず…
「今はあんまり考えてないかな。何より僕はビギナーな訳だから組める相手も見つからないだろうしね」
「ふぅーん…あの初心者殺しを倒したって実績がある訳だし引く手数多だと思うんだけどなぁ…どう?私とパーティー組まない?」
「…申し訳ないけど、お断りさせてもらおうかな。何より、中堅くらいの冒険者であろう君が僕みたいな初心者を連れてたらお互いあまり印象とかが良くないんじゃないかな?」
「うーん…じゃあ『取引』しない?」
「…へぇ…『取引』…話を聞こうか」
「実を言うとね、パーティーを組んで欲しいって言うよりは時々あたしの仕事を手伝って欲しいんだ。その内容がね、『神器』って言う色々とすごい能力を秘めた道具を回収するって言うのなんだけど、それを手伝って欲しい。それで報酬なんだけど…君をダクネスから守る…ってのなんだけど……」
取引材料に自信がないのかクリスの言葉はどんどんと尻すぼみになっていく。だが…
「よし、今日から君と僕は一蓮托生だ」
「うんそうだよねやっぱりこんな条件じゃダメだよ……え?なんて?」
「その取引に乗ったよ。上手く載せられてる気はするけどあの変態をどうにかしてくれるなら大歓迎だ」
「なんかごめんね…だけど、じゃあこれからよろしくだね、アケチくん」
先の一件で彼の脳裏にはメメントスの刈り取る者よりも余程強大なインパクトと苦手意識を刻み込まれてしまったのだろう。それを防いでくれて尚且つパーティーも組まなくていいとなれば即決だ。
かくして、『盗賊』と『怪盗』、そして『女神』と『人殺し』の世にも奇妙な取引関係が成立したのだった。
〜*〜
「取引ねぇ……どうにもきな臭いな」
宿に戻りシャワーも済ませた後、明智は1人呟いた。と言うのも彼はクリスに少し疑いを向けていた。
まずこの世界に来たてで一文無しだった状態でわざわざ助け舟を出した事。人の好意を素直に受け取れない捻くれ者と言うわけではない、決して。
そして次に先ほどのダクネスを止めてくれた時のあまりのタイミングの良さ。あまりにも都合が良すぎる。
最後に彼女の得体の知らなさ。こちらの世界に転生させられる前に出会ったディーテルと名乗っていた自称女神の纏っていた雰囲気やオーラの様なもの、そして自分と同じ仮面を着けているかのような嘘の気配、それらとなんとなく同じものを感じ取っていた。
しかし、今程度の関係では彼女がボロを出さない限りは問い詰めようと上手くはぐらかされるのがオチだろう。能力を使っての恐喝も選択肢としてあるが、彼女の素性や未知の部分がある以上は下手に刺激するのも悪手だ。ならば今は素直に彼女に協力するのが最善である、そう結論づけて彼は眠りについた。
〜*〜
同じくアクセルのどこかの宿屋。盗賊の少女クリスもシャワーを済ませて思索を巡らせていた。
(明智さん…中々に手強い人ですね……今日のギルドで囃し立てられた時に少しだけボロが出ていましたが…それでもあの戦闘力と洞察力、凶暴な面とそれを隠し通す力…はぁ……ホントにあの先輩とんでもない人を……)
しかし見た目は銀髪盗賊、中身は金髪女神。外見こそ変化してはいないが中身はすっかりエリスに切り替えていた。そして思い出した先輩女神のことーーーディーテルのことだ。
地獄行きだった明智を強引にこの世界に送り込んだ結果、何やらお上の神様たちと一悶着起こしているようだが…最近はクリスとしての時間が多く、天界の動向はあまり把握できていない。顔と評価だけはいい優良(笑)女神だからそんな彼女に何かあれば耳に入るだろうが…それでも少しは不安に駆られるものだ。だが彼女にしてやれる事も特段あるわけではなく、もどかしい気持ちだけが胸の内に残る。
「それにしても…彼、ダクネスの事がすっかり苦手になってましたね……いやだからこそ取引にこぎつけられたんですけど…ビバ変態ってやつですかね」
女神にも深夜テンションというのは存在するのだ。
〜*〜
異世界生活3日目。明智はギルドで後日と言われていた特異個体の初心者殺し討伐の報酬を受け取り、装備を調達に向かっていた。
そしてギルド職員に教えてもらった場所へ向かうといかにもな石造りの建物が。煙突からは忙しなく煙が上がり、表の木製の看板には『らだいだ.』と異世界の文字ではあるが味のある筆遣いで書かれていた。
「すいませーん…」
「なんだ兄ちゃん冒険者か?悪いがとにかく武器を作ってくれだなんてつまらない話はお断りだぜ」
扉を開けるとそこには燃えるような赤い髪と同じ色をしたたくましい口髭を蓄え、十字の傷を顔の中心に抱えている壮年の男性が。だが見た目通りの気難しい性格をしているのか、開口一番に断られてしまった。
しかしあれだけ苦い思いーーー主にダクネスのせいだがーーーをして取ってきた素材だ。少しだけでも食い下がる。
「ちょっと待ってくださいよ。これを加工して欲しいんですが…」
「だから、そんなつまらねぇ話は受けねぇって…ん!?兄ちゃん、この素材…ビビッと来たぜ!ちょっと待ってなーーー!」
(……よく分からない人だな…)
明智の差し出した毛皮を見るや否や彼は目の色を変えて作業を始めた。声をかけようとも思わない程の気迫と集中力に明智はただ立って待つしかなかった…
「出来たぜ!ひさびさに良いアートが作れた!」
「ありがとうございます…」
出来上がったのは灰色の毛皮を琥珀の様な素材で閉じ込めて整形されたブレスレット。そして水晶の様な水色の小さな宝石が埋め込まれており、毛皮だった頃よりも確実に力を感じられる。
「その水晶に触れればその毛皮に込められた能力が発動する様になってるぜ。それにしても兄ちゃん、良いモンを持ってきてくれたなーーー気に入った。お前の持ってきた素材なら特別価格で加工してやる。今回みたいに上等なモンならタダでな!」
「ど、どうも…」
どうにも明智にはこの店主のテンションは歯痒い物らしく、言葉切れが悪くなる。だがギルド職員が心配するほどに気難しい人物に思ってもない形で気に入られたのは僥倖だった。
〜*〜
鍛冶屋を後にした明智。昨日一昨日と闘い詰めだった為に今日は勝手に休暇としているのだが、いざ休暇というのも何をして良いのやら。ひとまず街をまだ知らなすぎる為に特に目的地も決めず歩き回ることにした。
アクセルの街並み。建物や服装の様式などは日本とかけ離れてこそいるものの、立ち並ぶ出店や洗濯をする主婦など平和を体現した様な風景に気分は海外旅行だ。旅行と言っても永久滞在なのだが。
「…お腹空いたな」
ふと呟くと今まで自覚してなかった猛烈な空腹感に襲われる。と言うのも昨夜の変態のせいで降り積もった倦怠感により朝食をすっぽかし、時刻も昼過ぎ。腹が減らないわけはなかった。気乗りはしないが、あの騒がしい冒険者ギルドに行くことにしようか…というのも、あそこの食事は量の割には安いのだ。今でこそ懐は潤っているが、それで調子付いて浪費するのも今後に良くない。そして彼は冒険者ギルドへ歩を進め始めた。
〜*〜
佐藤一真。16歳。引きこもり。
ひょんな事故で命を落とし、向かった先は異世界。それも女神を引き連れて。心のどこかで自分に秘められた能力が覚醒するんじゃないか。そう考えている時期もあった。
しかし、カードに記されたのは幸運と知識以外特に目立ったところのない低めのステータス。そしてステータスこそ高いものの、その無鉄砲さと頭の無さで厄介事を引き起こすなんちゃって女神。期待のルーキーとして名を馳せるはずが、そのポジションもなんだかスカしてるよく分からないイケメンに取られた。
そんなこんなで彼は早くも秘められた力だのの妄想は頭の片隅に追いやり、現実を見つめることにした。
つい先日に中学生くらいの美少女がパーティーメンバーになし崩し的に加入。我が世の春ーーーそんな事を思ったが、その美少女も結局は一発屋で基本役立たずである事が判明して彼は再び大きく肩を落とした。
「何よカズマさんそんな浮かない顔して」
「うん…なんだ……先が思いやられてな…」
「おい、アークウィザードとアークプリーストの上級職2人を連れておきながら先が思いやられるとはどういう事ですか。詳しく聞こうじゃありませんか」
「………はぁ……」
なぜこいつらはこんなに自信たっぷりなんだろう。その自信とかいうステータスを常識と知能ってステータスに割いてくれよ…そんな悪態が頭の中をよぎるがもはやそれを言う気にもならなかった。
そんな時、冒険者ギルドの扉が開いた。別に何も珍しい事ではないがふと目をやるとそこには件のよく分からないイケメンの姿が。整った目鼻立ちもそうなのだが、なんとなく自覚しているヒキニートのヌメヌメしたオーラとは違ったマジモンのイケメンのオーラのような物がヒシヒシと伝わってくる。
(しっかしあの顔どっかで……)
そう思いボーッと彼を眺めていると視線を感じたのかこちらに振り向く。儀礼的無関心ーーーそんな日本人の性質に縛られ、カズマは慌てて目を逸らす。
ロクに学校にも行かず、ゲームとネットに没頭していた彼だったが、2ちゃんなどの掲示板からのある程度偏った情報ではあるがめちゃくちゃに世間知らずというわけではない。
そんな知識に引っ掛かったイケメン…探偵王子だ。その甘いマスクや高校生ながら冗談も言えるウィットに富んだ言動。そしてその数年前にもいた初代の探偵王子の存在もあり、一躍時の人となっていた。掲示板では彼を持ち上げるスレッド、叩くスレッドもあり、なんだか得体の知れないしいけすかない奴だな…そうカズマは感じていた。
その探偵王子がこの世界にいる…つまりは死んだと言うことだろう。沢山の女の子が悲しんでくれたんだろうな、医者達や挙げ句の果てに家族にまで笑われながら死んだ俺とはえらい違いだな。
「ん?どったのカズマさん。そんなヌメヌメした顔して」
「何がヌメヌメした顔だよ。引っ叩くぞ…いや、少し気になる人がいてな」
「き、気になる人!?何を言ってるんですかカズマいきなり…!」
「そんなコテコテのボケはいいから…ほら、あの茶髪の人だよ。初心者殺しがどうとかで昨日騒がれてたーーー」
「あぁあのなんだか癪にさわるイケメンね…何よカズマさん。ヒキニートだからってあんな勝ち組みたいな人に嫉妬でもしてるの?」
「お前は後でガチで泣かすからな」
やけに煽ってくる駄女神に普通にイラッとして頼んでいた料理をまた一口頬張る。なんで少し気になっただけでここまで言われなければならないのか…それにしてもあの探偵王子、確かにいけ好かないが実力は凄まじいものだ。どうにか協力でも取り付けられたらいいんだが…
「何よ!この高貴で優秀な女神様にそんな事していいと思ってるのこの罰当たり!!」
「お前それマジで言ってんのか!?昨日のジャイアントトード討伐だってテメェが生き急がなきゃもっと楽に済んだもんをよ!!何がゴッドブローだ何がゴッドレクイエムだよ!!クソ雑魚パンチじゃねぇか!!」
「雑魚パンチですって!?良いわじゃあホントに雑魚かその身体で確かめさせてあげるわよ!!さぁそこに直りなさい!!」
2人のしょーもない口論はどんどんエスカレートし、ギルド中に響くほどになっていく。自然と視線も集まり、悪目立ちする。
そしてその中の視線に一つ、2人に突き刺さるものが。
「「ヒィッーーーー!」」
初めて浴びせられた恐ろしいほど純粋な殺意。その視線の先に恐る恐る顔を向けるとあの探偵王子が王子だなんて異名とは程遠い目つきでこちらを見ていた。だが、その殺意も一瞬で引っ込んだかと思うと彼は食事を再開した。
「ね、ねぇカズマさん。私人生で初めて人の目を見てちびりそうになっちゃったんですけど…泣いちゃいそうなんですけど… 」
「何あの目…ライオン?俺たちチワワ?ていうか間違いなくやられる…これ以上下手なことしたら間違いなく首が飛ぶぞ…お、おいめぐみん。お前も気をつけ…めぐみん?」
「おいお前!!私のパーティーメンバー達は確かにうるさいですが、何か言いたいことがあるのなら聞こうじゃないか!!」
一瞬でさっきまでの喧しさは縮み上がり、小動物のように震える2人。しかしもう1人のパーティーメンバーであるめぐみんの姿がない。辺りを見渡すと彼女はまさにあのライオンに喧嘩をふっかけている彼女の姿が。
「…いや、あまりにも落ち着いて食事が出来ない無粋な人もいるものだなって少し驚いただけだよ。気にしないで」
「確かに落ち着きはありませんが…いや、その通りですね。失礼しました」
スタスタとめぐみんはカズマ達の元へ帰ってきた。
「「いや反論せんのかい!!」」
「…だって、どう考えても悪いのは2人じゃないですか。あの人の言う通り少しは落ち着きを持ちましょうよ」
「……確かになんも言えない…」
「…どうしよカズマさん、私たち一応年上なのにもう立つ瀬が……」
全くもってその通りだった。何も言い返せない。
露骨に2人の顔色は沈み、めぐみんは何食わぬ顔でポリポリと付け合わせの野菜をかじっていた。
(だが…どうにかあの人の協力を取り付けられないもんかなぁ……今のところ、癖の強すぎるこいつらの手綱を御しきれる気がしない…)
「ーーーねぇ君」
(そもそももっとステータスが高くて、潜在能力もありありだったらなぁ…ほんと、なんであの女神を連れてきちゃったのかなぁ…やっちまったなぁ…)
「ーーー君ってば」
「は、はいぃ!?」
考え事に夢中でまるで気が付かなかった。ようやく耳に入ったその声の主へ目を向けるとそこには食事を終えた探偵王子が。
なんで!?や殺される!?というさまざまな感情が渦巻く中、彼は言葉を続ける。
「ーーー君、日本人だろう?」
「えっと……あっはい…そう…ですけど…」
「やっぱり。実は僕もでね。まぁ同じ出身同士仲良くやろうよ。じゃ、また機会があったら」
「……」
終始、爽やか陽キャのオーラに気圧されて逆にヒキニートのATフィールドが全開になってしまった。
そしてあのイケメンはどこかに去って行ったーーー
「なになにカズマさん知り合いだったの!?ていうか今の陰キャっぷり酷すぎない?やっぱりヒキニートね!」
「黙れアクア、剥くぞ。ていうかな、日本人の学生にはヒエラルキーってもんがあるの。俺は底辺、アレは最上級だ。その間には決して埋まらない溝があんの。関わることも隔絶されてるの」
「ひえらる…まぁよく分かりませんが、あの人とても腕が立つようですし、スカウトしてみたらどうです?」
「そっそれだ!おーーーーーーーい!!待ってーーーーーーーーーーーー!!!」
〜*〜
そんなこんなでカズマはイケメンーーー明智吾郎をどうにか説得。彼も異世界にいる同じ日本人ということで興味を持ってくれたのか。ジャイアントトード討伐のクエストに参加してくれた。
そして、事件は起こるーーーー
「じゃ、それぞれ2匹ずつ討伐を目安で目標の10頭を目指すーーーって事でいいかな?」
「あぁ。じゃあよろしく頼む、明智さん」
「ふっふっふ…前回は散々だったけど今度こそはカエル共をそれは千切っては投げ千切っては投げてーーー覚悟しなさいよおおおおお!!」
「黒より黒く、闇より暗き漆黒にーーー」
「えっと…君の仲間はいつもああなのかな?」
「ほんとその…なんか…すいません……」
既に話している明智とカズマを尻目に突撃するアクア。詠唱を始めるめぐみん。その姿を見て明智は軽く不安を覚えた。
「『ゴッドストレート』オオオオ!!シンプルな右ストレート!!!相手は死ぬ!!!」
アクアの魔力を纏わせた拳。絶大な威力を携えた拳がジャイアントトードの表皮を穿ち……はせずに、やはりゴムボールを殴ったかのようにまるでダメージはない。
「『ゴッドブロー』!!『ゴッドレクイエム』!!なんで!!なんでよそろそろ効いてくれたっていいじゃない!!お願い!!お願いだから倒れてよ花鳥風月見せてあげるからあああああピャウッ」
必死のラッシュにもカエルはぴくりとも動じない。逆に殴れば殴るほどにアクアの方が涙ぐみ、追い詰められていく。そしてお約束という奴なのか、やはり小動物の様な断末魔を発して頭からパクリ。
アクア、討伐数0で
「………じゃ、じゃあそろそろ僕も戦おうかな…」
(ごめんなさい…ほんと…ごめんなさい……)
そして明智が3匹ほどの群れに突っ込んで行き、剣を構える。火炎の付与された剣という事もあってかカエルを次々と卸す様に難なく切り裂いていく。明智の討伐数は目標より多めの3匹。しかし、大立ち回りを演じたアクアと明智の周りには大量のジャイアントトードが。
「カズマカズマ……」
「…撃つなよ?マジで絶対撃つなよ?」
勢揃いした累計10匹ほどのカエル。それを見てめぐみんがもぞもぞしている。撃ったら明智とアクアをもしかしたら巻き込みかねない位置だ。そして興奮状態の彼女にそんな冷静な分析は出来るはずもなく…
「……あの数!!もう我慢できません!!昼下がりにもなって爆裂してないと溜まって仕方がないのです!!!穿て、『エクスプロージョン』!!!」
上空から黒の軌跡が走る。そしてその軌跡に乗り、漆黒の爆炎が降り注ぐ。大地を震わせ、辺りの大気を吹き飛ばすほどの衝撃が突き抜ける。
そしてカズマは直感する。あっ終わったと。この世の終わりの様な顔を浮かべていた。アクアはカエルに呑まれていてそれが盾になった様だ。明智も爆心地の隅にいた為に2人とも大怪我は無かったのだがーーー
「………」
「……ちょっと正座しようか君たち?」