この素晴らしい世界に探偵王子を!   作:パザー

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前まで2ヶ月間隔だったのにどうしてこんなことに…


第4話

 …佐藤一真。そう名乗った自分と同じ日本からの転生者。ひょんなことから一緒にクエストへ行くことになったのだが…

 まず青髪の女。口ぶりからしてこれまでにもあのカエルと戦って尚且つ打撃が効かないというのが分かっているだろうに打撃を繰り返していた。学習能力がチンパンジー以下なのか。

 そして黒髪の女。頭おかしいんじゃないか。なぜ俺やあの女がいたのにあんな大爆発を起こした。それになんだ魔力切れで動けなくなってるじゃないか。アホすぎないか。

 最後に佐藤一真…シンプルに弱い。一応常識人だろうが、シンプルに実力がカスだ。

 

 

「…まさか大爆発に巻き込まれるとは思わなかったな。そもそも君たちマトモに戦う気はあるのかな?僕にただ働きでもさせるつもりだったのかい?」

 

「ーーーほんっっっっっっとにすいませえええええええん!!!」

 

「ひぐっ…うぅ……私…また汚された……」

 

「我が爆裂に一切の悔い無し……うへへへぇ……」

 

「すいませんすいませんすいまっせえええええええん!!!」

 

「……まず君たちマトモに連携とかってのがーーー」

 

 

 あまりにも行き場のない怒りに思わず説教をし始める明智。雄大な高原のど真ん中で仁王立ちして説教を始める男とその説教を受ける少年少女。とても奇妙な絵面だ。そして少しずつ説教にも熱が篭ってくる。

 

 

「ーーーだからこんなクエストにも苦戦するような……」

 

「「「あっ…」」」

 

 

 説教に熱が篭れば当然、それに集中し、視界が狭まる。視界が狭まるということはつまり、周りがよく見えなくなるということだ。そして今一度言おう。彼の幸運ステータスはびっっっっくりするくらい低いのだ。

 

 

「ーーーんぐっ」

 

「「「………」」」

 

 

 奇跡的に爆裂魔法から逃れたカエルが1匹、明智を飲み込んだ。カエルの大きな口からはなぜかピクリとも動かない彼の白い脚が飛び出しており、少しずつ、少しずつ嚥下されていく。

 そして彼の脚がすっかり飲み込まれたその時、どこからともなくグリフォンが飛来、カエルを鷲掴みにする!だがしかしそのグリフォンを追いかけてレッドドラゴンが辺りを焼き尽くしながらグリフォンに襲いかかる!さらに更に無数のワイバーンが餌を追い求めてグリフォンの持つカエルに凶牙を突き立てようとする!

 一瞬にして何故か襲来した凶悪モンスター達により地獄絵図と化した長閑な高原。これも明智とアクアの恐ろしい不運持ちが邂逅したことによる超常現象なのだろうか。

 もはやカズマたち3人は笑うしかない状況を通り越して真顔だった。ただただ立ち尽くしてこの天変地異を眺めるしかなかった。

 

 そしてそんな渦中にいる明智はというとーーー

 

 

(なんなんだこの世界は…本当に……あの女神とかいう奴いつか復讐してやる…)

 

 

 もうすでに息絶えているカエルの体内で末恐ろしい事を画策していた。逆恨みも良いところである。それはそれとして彼は既に…

 

 

「……人を振り回すのも大概にしろよ、獣どもが」

 

 

堪忍袋の緒がぶちぶちに千切れていた。

 

 

「『ペルソナ』ァァ!!」

 

 

 メギドラオンを放ちながら大暴れする明智がカエルの中から飛び出す。その鬼気迫る形相は魔王よりも先にこの世界を滅ぼしてしまいそうだ。あまりの怒りと渾身のメギドラオンの巻き添いを食らったことによりグリフォン達も退散していった。

 これにより、アクセル近郊の平原には悪魔が出るーーーそんな噂が立つようになったとか、なってないとか。

 

〜*〜

 

 そしてぬめぬめの明智とその一行はアクセルに帰還。出発時の晴れやかな様相は見る影もないほどにくたびれ、満身創痍という風貌だ。

 

 

「じゃ、じゃあ僕はこの辺りで…報酬は君たちの間で分けて貰って構わないから。それじゃあ失礼…」

 

 

 嗚咽するぬめぬめのアクアと同じくぬめぬめの明智。土まみれのめぐみんとそれを担ぐカズマ。 ただでさえ珍妙な一行で街中の視線が集まっている。それとなく離れようとする明智。だがーーー

 

 

「待って!待ってよアケチさん!!私もうこんなへっぽこなヒキニートと同じパーティーだなんていやよ!!お願いわだしをづれでっで!!私たち同じカエルに呑まれた仲じゃない!言わば穴兄妹よ穴兄妹!!だからお願い〜!!」

 

「!?!?!?」

 

 

 とんでもないことを喚き始めたアクアに明智の思考がフリーズする。意味を分かってか分かってないのか、彼女はお構いなしに懇願を続け、当然彼女の甲高い泣き声は街中の注目をより集める。

 

 

「やだ穴兄妹だなんて……」

 

「よく見たら2人ともぬめぬめよ…一体どんな卑猥な穴を兄妹したと言うの…!?」

 

「あんなに小さな子まで…きっとあの男2人にだまくらかされてるんだわ!」

 

「あの甘いマスクで一体どれだけの姉や妹を作ってきたと言うのかしらあの人…!」

 

 

 人間というものは総じて噂、ゴシップが大好きである。それが最近アクセルに颯爽と現れた期待の新星とあれば尚更。主婦たちのヒソヒソ話はあっという間に伝播し、彼らを取り巻く。

 カズマがチラリと明智の方を見やる。しかし、彼の表情は何故か曇っていて見えない。こんな日が差しているのになぜ?脳の防衛機構が、本能が、彼の顔を見ることを拒否しているためだ。それほどに恐ろしい形相を浮かべるほどの怒りを、彼は煮えたぎらせていた。

 しかし、頭脳明晰な彼は怒りに身を震わせながらも、この恥辱的な状況をどうにか打破できる策を弾き出した。それはーーー

 

 

「ーーーいや今回のカエルのクエストも強敵だったね!!これからも『時々』!!だけどお世話になるよ!!」

 

 

 もう関わりたくなどない。しかし、とんでもないレッテルを貼られてこの街で過ごしていく、というのも考えたくない。天秤は面子の方に傾いた。あたかもパーティーメンバーの一員であり、この状況はあくまでもクエストによるものだと。とてもわざとらしく大きな声で彼は言い放ち、ぬめぬめのまま去っていった。

 

〜*〜

 

 流石にくたびれ、なおかつ粘液まみれになってしまった明智はギルドの経営する銭湯へ向かっていた。彼の宿にももちろんあるにはあるのだが、出自のせいなのか洒落ている見た目とは裏腹に意外と庶民的なものは親しみのあるものだった。

 シャワーでサッパリと汚れを洗い流して少し鬱陶しい前髪をかきあげて広い湯船へと向かう。少し熱めのお湯が全身を包み込みジワジワと温まっていくのを感じる。日本人である以上、この感覚というのは何物にも変え難いものだ。

 

 湯船でぼんやりとした頭にふと元の世界のことがよぎる。

 

 

(僕たちが丸喜を改心させたのは2月の初頭。時期的にもそろそろバレンタインがどうとか言われる季節か…フフッ。あいつはいろんな女性たちに思わせぶりな態度を取ってたらしいし…どうなるか(修羅場が)楽しみだな。)

 

 

 そんなことを考えているとふと隣から大きな音とともに飛沫が飛んでくる。顔にも飛んできた飛沫を払いながらその無粋な輩の方に目を向ける。するとそこには金髪に赤い目をしたチンピラのようにガラの悪い男が。一瞬イラッと来たがどうもパーティーメンバーらしい青髪と茶髪の男2人に注意されてげんなりとしていた様子で明智も引き続き浸かることにした。

 

 

「…ったくダスト。数日がかりのクエストで疲れてるのは分かるが、ここは公共の場だぞ。それに最近またこっぴどく警備員やここの職員さん達に注意されてたらしいし…ちゃんと弁えてくれよ?」

 

 

 会話からして、どうもこの男は騒がしいギルドに入り浸っている連中の中でも指折りで『アレ』な人物のようだ。だが、パーティーメンバーに嗜められて大人しくしている様子であり、明智も引き続き風呂を楽しむ事にした。

 彼は日本にいた頃、探偵王子…つまるところ、オシャレでクールな人間というのが世間から彼への認識だった。しかし彼の出世なども相まって銭湯など、庶民的な物が意外と好みであった。

 風呂を済ませ、宿に帰るとドアに何か小さな紙片が挟まれていた。開くとそこにはクリスからの書面が。どうやら以前に相談された『仕事』についての様だ。詳しいことは書面で済ませる訳にはいかないから、協力してくれるのなら明日正午にギルドのカウンターへ、とのこと。文面を読む限りは行かずとも良いのだろうが、約束を交わした以上はプライドとダクネスの襲撃から身を守るという条件が反故にされる事を考え、行かないという訳にはいかない。

 

 

「…どうにも暇しないな。この世界は」

 

 

 ふと、前の世界での忙しさと時々の暇を思い出す。

 

 

雨宮蓮(あいつ)とカフェでコーヒーを飲んでた時とか、無理やり雑な変装をさせられたな…何やってるんだと思ったが今思うと存外…いやでもあの頭と瓶底みたいなメガネはないだろ)

 

 

 探偵王子と黒い仮面の二重生活。今のように思い出に浸るなんて気の休まる時などほとんどなかった。それに比べて今この世界では珍妙な事こそ起こるものの比較的伸び伸びと過ごせている。もう死んだ身でこんな感覚が得られるのなら少しはあの女神とやらの評価も改めてもいいかもしれない。そんな事を考えながら彼は眠りについた。

 

〜*〜

 

 翌日正午頃、ギルドは相変わらずの盛況ぶりだ。冒険者たちが昼間から酒を振り回すように飲み、ウェイターの職員たちはあちこちに運んでは戻りを繰り返している。そんな中でまるで壁でもあるかのように隔絶され、落ち着いた雰囲気の石造のバー。そこにクリスが腰掛けていた。ーーーのだが、何やら3名程の人影に取り囲まれている。どうやら元の世界で言うところのナンパに近いものだろう。執拗にパーティーに加わらないか、クエストに同行しないかなど、下心が見え透いている言葉を繰り返している。 探偵王子の明智吾郎なら割って助けたのだろうが、生憎彼は今普通の明智吾郎だ。どうせ上手いこと躱すだろう。そう考えて彼は離れた席に着席して待つことにした。

 

 

「あっアケチ君!」

 

「……ハァ…」

 

 

 しっかりと勘づかれていた。当然彼女の言葉に取り巻いていた男たちもこちらに目を向けてくる。

 

 

「おー兄ちゃんがあの子のパーティーメンバーなのかい?わりぃがこれからあの子は俺たちとーーー」

 

「……嫌がってるってのが分からないのかな。それともそこまで頭が回らない浅慮な知性をしてるのかい?」

 

「ーーーあぁ!?嫌よ嫌よも好きなうちってぇだろ!何分かったような口聞いてーー!」

 

 

 案の定少し毒を吐いたらこれだ。激情と行動がリンクして抑えられないタイプ。彼の経験上、嫌と言うほど見てきた人間たちだ。

 拳が明智の顔目掛け振り下ろされる。しかし、彼は冷静に、だが荒々しく男の鳩尾に本気に近い拳をぶつける。柔らかい肉の感触とまるで呑まれるように拳が身体の深くまで穿つ感触。変に技を見せつけてやるのではなくただ一撃、力の差を明確に分からせる一撃だった。

 青い顔を浮かべて男はノックアウト。他の2人はまだ冷静だったらしく、悔しそうな顔でこちらを睨みながらも気絶した男を連れてギルドを後にした。

 

 

「いやー助かったよあいつらしつこくてさ〜」

 

「…僕に押し付けておいてよく言うよ。もう少し申し訳なさそうにするか開き直るくらいしたらどうだい?」

 

「アハハハ…申し訳ない…ちょっとやりすぎちゃいそうでさ。ほんと助かったよ、ありがとう」

 

 

 いつもの軽薄な口調でクリスが明智の隣に腰掛ける。一応困っていたというのも本当だったのだと伝わる言葉に彼もこれ以上口を出す気にもなれなかった。

 

 

「ーーーというわけで、ガンガン前に出るのでこき使ってほしい!」

 

「ーーーーッッ!?!?」

 

 

 ふとギルドのどこかからそんなおっかない言葉が彼の耳に届いた。忘れる筈もない。あの変態(ダクネス)の声だ。急いだ辺りを見渡すと彼女は前日に散々な目に遭わされた佐藤一真の一行に話しかけていた。

 

 

…節操ってものを知らないのかあの女は…

 

「ーーーンンッ///どこだ!?どこから私を罵倒する心ない素晴らしい声がーー!」

 

「……バレないうちに早く取り掛かろうか。話は移動しながら聞くから早く。さぁ行こう」

 

「アッハハ……友達としてちょっと複雑だなぁ…まぁそうだね、行こうか」

 

〜*〜

 

 アクセルから2時間ほど馬車に乗り、少し大きめの隣町に辿り着いた。活気に溢れ、アクセルよりも上質な装備に身を包んだ冒険者の姿も見受けられる。そして何より、街のどこからも目に入る位置にある重厚な洋館。ギルドと思しき建物も道中見かけたが、黒の鉄柵に囲まれて遥かに存在感を放っている。

 

 

「あの建物だよ、今回の目的。決行は夜だけど、まずは下調べ。大まかでいいから警備の人員や魔道具の位置を把握しておこう」

 

「なるほどね。ただ中に入ってからはノープランなのかい?それはちょっと頂けないな」

 

「うーん…まぁノープランって言ったらそこまでなんだけどね。あの屋敷の主人、どうも偏屈な人らしく滅多に人前に姿も見せずに警備の人員が中に入って行くのも見てないんだ。だから、警備はとにかく『屋敷内に侵入させないこと』って所に全て充てられてると読んでるんだけど…その辺どう思う?」

 

「なるほど。それなら中は大丈夫そうかな。それにしても滅多に人前に姿を見せないだなんて、食料などはどうしてるんだい?」

 

「その食料の受け渡しのタイミングが唯一姿を見せる時なんだ。あの警備たちが定期的に食料を玄関に置いて行くんだ。それを取りにね。でも、深くローブを被っててろくに顔も見れないらしいよ。そのせいでなんだか霊だのモンスターだのって噂も絶えないみたいだね」

 

「滅多に姿を見せない主人に全く得体の知れない洋館か…ほんとにあるのかい?君の目的の物は」

 

 

 そんな会話を繰り返しながら馬車から降りる。目の前に広がるレンガ造りの重厚な洋館。少し離れた程度では把握しきれないほどの敷地だ。当然、比較的警備の薄い場所も無事に見つかり、そこで2人で隠密を発動させた。

 

 

「ペルソナーーーネクロノミコン」

 

 

 UFOの形をしたペルソナ、ネクロノミコンを展開して洋館の上空に配置。警備の状況を確認していく。

 

 

「すっごいね君…こんなことも出来たんだ」

 

「専門外だからとても疲れるけどね…っと、北東側の警備かな。どうにか監視も掻い潜って侵入出来そうだよ」

 

「じゃあ決まりだ。深夜に決行。オタカラを目指すよ!」

 

〜*〜

 

 そして決行の時刻。警備こそいたものの、この主人の不透明さへの疑いからか使命感を持った真面目な仕事からは程遠く、また決まった範囲をカバーする魔道具の監視も2人にとっては躱すのは容易かった。

 洋館の侵入に成功。したものの、どうにもおかしい。まるで生活している感じが感じられない。内装は建物の外観に劣らないほど、しかし不気味なほどに綺麗だ。まるでモデルハウスの様に使われていない目新しさがある。この街に何十年と存在しているにも関わらず。

 

 

「…最初はあの中心の塔こそ目当てのオタカラがあると踏んでたけどこれは…」

 

「そうだね、恐らく上…というか地上にある部分は全てブラフだろう。だとすると本命は…」

 

「「地下、だね」」

 

 

 2人の声が重なる。だが、それを看破したとて立ちはだかる問題がまた一つ。どこから地下へ、という事だ。当然、時々だが地上へ上がってきてはいるのだ。ならばとてつもない地下という事は無さそうだが…

 

 

「今、この床に穴を開けたとして都合よく降りられるかな」

 

「まぁ、可能性は0じゃないけどまずないだろうね。ただ定期的に上がってくる以上はキチンと出入り口があるはずだし、手練れには察知されるから魔法でカモフラージュってのもないと思うんだけど、どうかな?」

 

「同じ意見だよ。しかしそうなると…まいったね、中々に骨が折れそうだ。東側はネクロノミコンを操作して探させる。だから西側を手分けして捜索しようか」

 

「了解。じゃあボクが奥側から、アケチ君は手前側から探してこよう」

 

〜*〜

 

 入った部屋はどれも味気のないものばかりだった。いや、内装はもちろん豪勢で嗜好を凝らしたような家具やインテリアが置いてある。しかし、どれも生活する人によって浮き出る特徴、というのがあまりにも感じられない。

 5つほど部屋を探索したところでクリスが隣の部屋にまで来ていた。ネクロノミコンではそれらしい物は発見できず、あるとしたら彼女の所だが…

 

 

「こっちは収穫無し。そっちの方はどうだった?」

 

「ビンゴだよ。こっち来て」

 

 

 そう言われて部屋に入る。ぱっと見ではこれまでと変わりのない普通の部屋だがーーー

 

 

「この本棚かい?」

 

「おっ流石鋭いね。どうも壁との隙間から空気の流れを感じるし、ここで間違いないと思うんだけど…どう入ったものかと」

 

「…ここまで来たら少し抵抗はあるけれど…どうせ誰も通らない洋館なんだ。無理やり押し通ろう」

 

 

 そう言い明智が本棚を斬り刻む。案の定敷き詰められた様に見えた本は背表紙のみのハリボテで中からは何か物々しいからくりの機構がこぼれ落ちる。そしてその先には石造りの暗い階段が続いている。

 そして2人は意を決して歩を進めて行く。地下の湿気混じりの気持ち悪い冷気が肌を撫でる。息の詰まりそうな閉塞的な空間。こんな所に住んでいるなどロクな奴じゃあない。そんなことを考えていると開けた空間に出る。

 とは言っても先程探索した部屋より一回り広い程度。どうにも閉塞感は拭えない。しかし、それよりも目を引く物。それは彼らの前にただ悠然と立っていた。

 頭までボロ布を纏っているかの様な姿。話に聞く主人の姿だ。

 

 

「……誰だ?こんな所を見つけるだなんて余程の物好きなようだが…」

 

 

 しゃがれた声がこちらに投げかけられる。それもその筈だった。ゆっくりと振り向くそのローブの中身は骸骨。発声する器官など持ち合わせていない筈なのだから。しかし、その空の眼窪はしっかりとこちらを見つめていることが伝わってくる。

 

 

「君の持ってるオタカラを回収に来たんだけど…大人しく渡してくれるってことは…」

 

「…これを…どうにかできるのか?」

 

「…どういう事だい?」

 

「お前たちが言うのは恐らく…この球の事だろう」

 

 

 そう言い骸骨は紫煙を内包しているかの様な水晶を見せる。ゆっくりと揺らめく紫煙は何か蠱惑的な美しさをまじまじとこちらに訴えている。

 

 

「…ほんとにさぁ……」

 

「ん?」

 

「何なんだよあの女神とか言う奴!!とんでもねえもんを渡しやがって!確かに俺ァ無限の命を願ったよ!?ただそれがこんな形で叶えられるとは思わないじゃん!!」

 

 

 いきなり骸骨は堰を切ったかの様に怒鳴り始めた。先程の厳かな口調もどこへやら。完全にただのチンピラの様になっている。

 

 

「こっちの世界で更に無限の命もあれば俺だって…俺だって女と1発ーーいや1発と言わず何発だって!!あんな事こんな事出来ると思ってたんだよ!!それがなんだバカみたいな貴族に無茶振りされてパーティーは全滅!俺も死んだかと思いきやこれの効果で死ねずにこんな白骨の状態でもう3年だ!!ふざけやがってあの女神もし会えたらめちゃくちゃに…」

 

「「……」」

 

 

 絶句だった。この男はかなり困難な人生を送っていた。というか今も送っている。だが、なんだか動機とその口調のせいで妙に同情しづらい。

 

 

「もーほんとに!早く死なせてくれよ!!こんな容姿のせいで外も碌に出歩けないからこんな生活をして!もう早くーーー!」

 

「『セイクリッドエクソシズム』」

 

 

 突然骸骨の足元から青白い光の柱が立ち昇る。包まれた骸骨は心なしか安らかな表情を浮かべ、水晶の紫煙もいつの間にか消えていった。

 明智が少し驚きながら振り向くとそこには肩で息をしながらやるせない表情をしたクリスが。

 

 

「……あっご…ごめん!いきなりやっちゃって…なんだか色んな意味で見るに耐えなくて…」

 

「…そうだね。まぁこれにて目的は達成したわけだし、行こうか」

 

 

 なんともやるせない雰囲気のまま、2人は洋館を後にしたーーー

 

〜*〜

 

 街で一泊し、翌日の昼。アクセルへと帰還した2人は別れ、明智はひとまず食事にギルドへと向かっていた。

 

 

(クリス…あの呪文は盗賊じゃ覚えられないはず…それに奴は女神から貰ったとか言っていたな。どうしてそんな品の回収を?そしてどうしてあそこまで身を隠していた存在を知っていたんだ……ますます怪しいな…)

 

 

 そしてギルドの扉を開けた瞬間。

 

 

「『スティーーール』!!」

 

 

 眩い光が彼の目の前に広がる。そして光が収まり目を開けると…なんだか下半身に風を感じる。まるで何も履いていないかの様に。

 明智が静かに自分の下半身に目を向ける。目に入るのは地肌と下着であるはずのパンツ。そして次に光の発生源に目を向ける。するとそこには引き攣った、今にも死にそうな真っ白な顔でカズマが彼のズボンを手にしていた。幸い珍しく他の冒険者はほとんどいない…しかし、横には顔を赤くしためぐみんと正面にはアクアと変態(ダクネス)の姿が。

 早歩きで明智がカズマに歩み寄る。そして流れる様に彼からズボンを取り上げて履き直す。その間まるで時間が停止したかの様にカズマは動かない。

 そして彼が服を着直しーーー手始めに腹部に2発ジャブ。しかし彼の腕力とカズマの貧弱さによりその身体は浮き上がる。下を向いた顔面にサマーソルトキックを叩き込み、トドメに踵を後頭部に落とす。

 流石に殺しにかかるほどではないがそれでもカズマは地面でノビてピクピクと虫の様に震えている。

 

 

「2万回死ね」

 

 

 そう明智が吐き捨てギルドを後にする。すると止まっていた時間が動き出したかの様にパーティーメンバーたちが彼の元へ駆け寄る。

 

 

「カズマさん…今のは同情するわ……今度ご飯奢ったげる」

 

「流石の私も今のは遠慮したいな…無事かカズマ?」

 

「ど、どうして……こんな目に…俺が何をしたって…」

 

「いや、女の子のパンツを散々剥いたじゃないですか。報いですよ報い」

 

 

 どうやら、ちょうどスティールの場面に出くわしたと言う彼の不幸さとレベルキャップをものともしないカズマの幸運によるスティールがこの惨劇を産んでしまったようだ。

 そしてカズマは無闇矢鱈にスティールは使わない…そう深く心に誓った。

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