この素晴らしい世界に探偵王子を!   作:パザー

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体調不良が続いたり(コロナではないよ)内容が思いつかなかったりでまたえらい事空いちゃった


第6話

 その言葉を受けて辺りの冒険者達がざわつき始め、犯人と思しき少女を探し出す。その視線の先にいた紅魔族のアークウィザード、めぐみん。彼女こそが犯人…なのだが、彼女がふいっと後ろの魔法使いに視線を向ける。すると彼女に集まっていた視線もその魔法使いに向けられて…

 

 

「えっ?私!?爆裂魔法なんて使えないよ!あの、私、まだ駆け出しで…小さい弟達もいるのに…まだ死にたくない…!」

 

 

 そう弱々しく訴える。流石に良心の呵責からか、めぐみんが恐る恐るながらも自分から一歩前へと歩み出す。

 

 

「お前かぁ!!ねぇなんでこんな事するの!?倒しに来るわけでもないのに毎日ポンポンポンポンと…!!頭おかしいんじゃないのか貴様!!」

 

「…ッ!我が名はめぐみん!!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者!!」

 

「めぐみんてなんだ、ふざけてるのか」

 

「ち、違うわい!!我は紅魔族の者にしてこの街随一の魔法使い!我が策略によりこうしてこの街に1人やってきたのが運の尽きです…!」

 

 

 必死の名乗りも一蹴され、どう見ても強がりでしかない出任せを放つめぐみん。絵面はもはや絶望の来襲からドタバタコメディへと変わり果てている。

 期待外れだな、と明智もこの茶番に愛想を尽かして背を向ける。しかしバルディアとめぐみんの会話は弾み…

 

 

「ーーー言ったでしょう!私には策があるとーー運がなかったですね、今この街には私を始めとし、期待の超新星がいるのです!それでは…お願いしますアケチ先生!!」

 

「……なんだって?」

 

「他力本願じゃないか。もしかしてお前バカなのか?」

 

「だっから違うわい!バカじゃアークウィザードになれませんよーだ!!バカはそっちですベロベロバー!!」

 

「……まぁいい。そのアケチってのはどいつのことだ」

 

「………はぁ」

 

 

 なるべく目立たないよう見学に来ていたつもりがしっかりとバレていた。この格好とやはりひっくい幸運ステータスによるものか。逃げたなんだと今後グチグチと言われるのも気に食わないため、彼は踵を返してベルディアの前まで出てきた。

 

 

「…僕がその明智だよ。で、何をするんだい?」

 

「ほぉ。この俺を前にして微塵も怖気付かないか…面白い。本当はそこな頭のおかしい魔法使いへの注意だけのつもりだったが…お灸の1つでも据えてやらんとな。申し訳ないが貴様には少々とばっちりを受けてもらおうか。その方が()()()()だからな」

 

 

 そう言いベルディアが赤い目を光らせ、手のひらから赤黒い魔力の塊を放つ。高速で接近するそれを一目見ただけで彼は直感する。前の世界では今の自身が苦手としていた呪怨属性の魔法。それと同じか限りなく近いものだと。

 当然回避は間に合う。しかし彼が身を動かした途端に誰かが自分の目の前に割って入り、魔法はその人へ着弾する。

 白と黄を基調とした鎧。そして日を受けて煌めく美しい金髪を見間違うはずもない。ダクネスが彼の前へ割って入ったのだった。

 

 魔法を受けた彼女はうずくまり、黒い炎の残滓のような物を身の回りに漂わせている。ベルディアも少しばかり驚いていたが再び口を開く。

 

 

「ふっ…少々思惑とは違ったがまぁ良い。聞け、魔法使いの娘よ。その騎士には死の呪いをかけた!予言しよう。その騎士は1週間後に地獄の苦しみを味わいながらその命を終える!自分の愚かな行いを仲間の死を通して精々反省する事だな」

 

「…!そ、そんな……ダクネス…」

 

「だがアンデッドに身を堕とした俺でも、生前は真っ当な騎士のつもりだった。その勇敢な騎士に免じて慈悲をやろう。解きたくば…」

 

「解きたくばだと…その下卑た視線で気づいているぞデュラハン…!」

 

「…はい?」

 

 

 うずくまったダクネスがそんな言葉を呟く。その言葉は震えているが、心なしか高揚しているような上擦り方をしている。

 始まった…。そんな風に明智はため息を吐き、デュラハンに真剣な表情で話しかける。

 

 

「…これは敵からじゃなく経験者として言わせてもらうけど…悪いことは言わないから早く逃げた方がいいんじゃないかな」

 

「は?何言って…」

 

 

 明智の言葉は嘘偽りもなく、かと言って脅しでもない。純粋に気の毒だと憐れむような本気の心配のものだ。当然それをベルディアも分からない訳ではなく、だからこそ余計に困惑する。

 

 

「…つまり貴様はこの死の呪いを解いてほしくば私に言いなりの性○具にならと言うのだろう!?そして俺好みに調教してやると、そう言いたいんだな!?」

 

「What?」

 

 

 そんな言葉にベルディアは素っ頓狂な声をあげてフリーズ。

 一応心配して駆け寄っていたカズマもそんな醜態ぶりに呆れた顔を浮かべ、明智も手遅れだったかと額に手を当て、思い悩んだような表情をする。

 

 

「その先程から私の肢体をべっろんべろん舐め回す様に見つめている視線、しっかりと気づいているぞ。とんでもないハードコア変態プレイを脳内でシミュレーションしているんだろう!!貴様の妄想の中の私がどう調教されようと、現実の私は心だけは屈しないからな!!」

 

「…待ってキッツイ何これ…嬉しそうだし……人間怖い……っておい!!周りの冒険者達も変に信じるな!!そんな目で見るんじゃない!!」

 

 

 ダクネスの言葉で緊迫していた冒険者達の間にざわざわと波紋が巻き起こる。そして10人が10人とも何かゴミかそれに準ずる汚物を見る様な目でベルディアを横目に見つめている。

 

 

「そ、それじゃあカズマ、行きたくはない…行きたくはないのだが、こうなってしまったのでは仕方ない!行ってくりゅうう!!」

 

「待て待て変態女!!ちょっ…力強っ!?待てってんだ止まれ!このゴリラゴリラゴリラ!!変態!!」

 

 

 普段の彼女なら興奮しそうな罵倒の嵐も、なんとかカズマが止めようとダクネスの腹に手を回して全体重を後ろに掛けて静止させようとも彼女は重戦車の様に進撃する。

 

 

「『エンチャント・スロウ』」

 

 

 明智がそれとなくダクネスの鎧にこっそりと魔法をかけ、鎧の駆動を制限させる。ダクネスはまるで油が切れたかの様にカクカクとした動きになり、格段に速度も落ちた。

 

 

「なっなんだこれは…!?そうか、これも既に調教だと言うのだな!?そんなに呪いを解きたいのであれば自分からその意思を見せてみろという!屈してたまるか…!ぬぬぬぬぬぬ……!!」

 

(なんで動けるんだこいつ…全身鋼鉄で固めてる様なもんだぞ…!?)

 

 

 そんな状態でも彼女は歯を食いしばり、歩みを止めない。カズマの必死の静止も届かない。その姿を見て改めて彼女の果てしない変態的欲求に明智もドン引きする。

 

 

「こうなれば……!とおおおおおおおお!!!」

 

 

 そう叫ぶと動きを制限していたダクネスの鎧はなぜかパージ。上半身は黒く身体のラインがそのまま浮き出てるかの様なピッチリとしたインナー1枚になる。そして上空へ駆けたダクネスはいつか見たルパンダイブの姿勢でベルディアへ突進。

 

 

「なんでだあああああ!!なんで鎧脱げたんだそしてなんだその跳躍力と珍妙な姿勢はあああああああ!!」

 

「くっ……『バインド』!!」

 

 

 明智が狙いを定めて放った『バインド』。それはダクネスの身体を空中でみるみると包んでいき…気づいたら亀甲縛りになっていた。

 

 

「だからなんでだあああ!!なんでお前はかけられた魔法まで変態プレイに染め上げることができるんだ!!」

 

「くっ…まだ城にも行ってないと言うのに早速緊縛プレイか…!!だがまだまだ!!こんなものじゃ私は屈しないぞ!!具体的には、もっとキツく縛ってもらわないと!!」

 

「もーお前黙れ!!本気で黙ってくれ300円あげるから!!」

 

 空中でバタバタと跳ねながらそんな事を喚くダクネス。もう明智もベルディアもカズマも瀕死の様相を浮かべている。

 

 

「……早く逃げてくれるかな。もうこれ以上は僕も…耐えかねる」

 

「…はっ!思考が理解を拒否していた……助かった、礼を言うぞアケチ!!」

 

 

 既に死んでいるがようやく生気を取り戻したベルディアは馬を翻して背を向ける。そして去り際に…

 

 

「そ、そこの魔法使いよ!仲間を助けたくば我が城へ来る事だな!!果たして俺の元に辿り着けるかな!ハーハッハッハー!!……はぁ…」

 

 

 そんな威勢のいい言葉と隠し切れない心労のため息を吐いてベルディアは去っていったのだったーーー

 

〜*〜

 

「私の…私の理想郷(ユートピア)……ていうかゴリラゴリラゴリラって…いくら私だからと言って…乙女なんだぞ…」

 

 一応は魔王軍幹部の襲撃を退け、街を守ることができた。しかし一件落着とはいかない。

 カズマ達一行のテーブルでは、おかしな方向で落ち込みいじけているダクネスはいいとして、めぐみんはバツの悪そうに俯き一言も発しない。しかし彼女の紅い目は心なしか潤んでいる。

 

 アクアやカズマがなんだかんだと言い合う中、めぐみんが俯いたままではあるものの何か吹っ切れたかの様に立ち上がる。

 

 

「ちょっと、あの城まで行ってあいつに爆裂魔法をぶちこんでダクネスの呪いを解かせてみせます」

 

 

 涙を拭い、そう告げるめぐみん。誰の目にも明白なほど自棄になっている。怖くはある。そんな事をできる自信もない。

 あのデュラハンとアンデッド達の蔓延る城。そこに爆裂魔法1発だけの自分が行ってもどうなるかは想像に難くない。

 だが、ここで行かないという選択を取るのは彼女の紅魔族随一の魔法使いとしての矜持が、良心が許さない。

 震える身体を必死に抑え付け、ひり出した言葉。もう後戻りもできない。

 

 そんな彼女を見てカズマが優しい声色で諭す様に口を開く。

 

 

「俺も行くよ。元々お前の爆裂の日課に付き合っててあの城のことも知ってたんだ。こいつは俺たち2人の責任だ」

 

「カズマ…」

 

「よしてくれ2人とも!私のためにーー!それに魔王軍幹部の根城だ!!駆け出しの私たちじゃ危険すぎる!」

 

「ーーおいおいダクネス。誰が俺たち2人だけって言ったよ。いるじゃないかこの街には…魔王なんかも目じゃなさそうな期待のスーパールーキーが!」

 

「ーーー!はい、そうですね!行きましょうカズマ!」

 

 

 カズマの言わんとする事を察しためぐみんは期待を込めた目を浮かべてカズマと一緒にギルドの外へ出て彼の姿を探す。

 彼のよく目立つ格好はすぐに見つかった。2人は彼に駆け寄り、背中から声をかける。

 

 

「俺とこいつは今からアイツの城へ行きます。でも、こいつは爆裂魔法しか使えないしそれも一回きり。俺も初級魔法と初歩的なスキルしか使えない駆け出しの身。きっと幹部の元へ辿り着く前に2人とも死ぬ」

 

 

 明智はこちらに背中を向けたまま黙っている。哀れに思っているのか、無様に思っているのか、それとも思慮にも掛けていないのか。何も分からない。しかしカズマはそれでも、唯一の希望に縋るために意を決して頭を下げる。

 

 

「お願いします!俺たちと一緒に城へ来てください!報酬はいくらでも出します!!だからーーー」

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

 

 カズマの必死の訴えの後ろで何か眩い光が発せられる。無視するわけにも行かずカズマは目を向ける。すると、アクアがダクネスに向けて魔法を放っていた。

 青く優しい光がダクネスを包み、彼女の身体からは汚れの様にあのベルディアの魔法が染み出し、空へと消えていった。

 光もあの魔法も消えた後、周りの冒険者達の視線が集まる中でアクアは得意に笑う。

 

「フフン、私にかかれば呪いの解除なんてイチコロよ!」

 

「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」

 

 

 周りの冒険者達から凄まじい熱気と歓声が巻き起こる。『セイクリッド・ブレイクスペル』は対象のかけられた呪いや魔法を解除するスキル。

 だが、実力差のある者にかけられた魔法には効果がない。だが、彼女はどれだけ腐り威厳がなくなっても女神という事なのだろう。プリーストとしての能力は業腹だが最上級ということを認めざるを得ない。

 

 

「…すいません、さっきの話は聞かなかったことに……」

 

「……ふむ…」

 

 

 その言葉を聞いた明智は再び歩き始める。誰にも聞こえない様な思い悩む声を漏らしながら。

 

〜*〜

 

「ぅおっそおおおおおおおおおおおおおおおおおいいっっ!!!」

 

 

 件の襲撃から1週間と少し。死の呪いの宣告は1週間。この間にあの魔法使いや冒険者達は姿を見せなかった。つまり、奴らは褒められたものではないが、変態とは言え、めちゃくちゃに気持ち悪いが、身代わりになったあの騎士を見殺しにしたという事だ。

 そのやるせなさに怒号をあげる。自分以外は自我を持たないアンデッドだらけの城でそんな事しても虚しいだけだが、叫んでしまうほどに激情を抱えていた。

 しかし、怒鳴っていて気付くのが遅れたが城のアンデッドが次々と消え、何かが近づくのを感じ取る。

 

 正面の大きな扉がゆっくりと開く。大きな扉からは不釣り合いな背丈の人間が姿を表す。 白と金を基調とした儀礼服に真紅のマントと額から鼻までを覆うペストマスク。

 服装こそ違うもののいつかの時にあの変態騎士から逃亡の手助けをしてくれた男だ。

 

 

「ほぉ、貴様が来たか。アケチ」

 

「…いきなりだけど悪い知らせがある。聞きたいかい?」

 

「…なんだ?」

 

「君のかけた魔法は解除されたよ。残念ながらあの変態はまだ生きてる」

 

「ゔぉ?……まじでか?」

 

 

 あまりの衝撃にまたまた素っ頓狂な声をあげる。驚きというよりもどちからと言えば信じたくないという気持ちの方が大きそうだ。 解除されてまるで自分のことなど相手にせず暮らしている奴らと、あんな馬鹿そうなプリーストに解除されたという知らせが彼の心を痛めつける。

 

 

「本当だよ。全員しっかりと生きてる」

 

「あそこって駆け出しの街なんだよね?」

 

「そう呼ばれてるね…心中お察しするよ」

 

「…まぁいい。ここに来たってことは…そういう事(殺し合い)だろう?」

 

「話が早いね。それじゃあ、やろうか」

 

「だが…まずはこいつらの相手をしてもらおうか。ここの道中にいた奴らとは格が違うぞ」

 

 

 ベルディアが指を鳴らすと彼の前に10数体のアンデッドが召喚される。肌は腐り、目や腕の欠けた亡者が明智に向かってくる。

 

 

「…ふん。そういうのやめないかい?相手にならないから」

 

 

 明智が同じように指を鳴らす。するとアンデッド達がその手足がちぎれようと、頭が飛ぼうと襲いかかってくる不死性の意味もないほどに切り刻まれる。『トリックダガー』と『エンチャント・ファスト』の合わせ技で放たれた幾星霜の刃が亡者共を細切れにしたのだ。

 その光景を見て兜の奥で微かに笑い、ようやくのマトモな戦う相手を得たことによる昂りを抑えられないベルディアは声を荒げる。

 

 

「このくらいやってもらわないと話にならないからな。さぁ、行くぞ!!」

 

 

 ベルディアの浅葱色の大剣と明智の真紅のサーベルが衝突する。お互いに一歩も引かず鍔迫り合いは拮抗する。しかし体躯も、得物のリーチも重さもベルディアに分がある。次第に明智が押され始める。

 

 

(まともに斬り合っちゃあまりにも不利だな…なら……)

「『コウガオン』!!そしてーーー」

 

 

 身を翻しベルディアから距離を取る。そしてロビンフッドからのコウガオンによる恐らくはアンデッドに効果大であろう祝福属性の狙撃。そしてエンシェント・デイRによる機雷攻撃。

 逃げ場はない。 無数の弾幕がベルディアへ降り注ぐ。

 そして土煙が晴れーーーそこには少々汚れただけのベルディアが悠々と立っていた。

 

 

「…いい鎧だろう?大抵の魔法や遠距離攻撃は防いでくれるんだ」

 

「…チッ。厄介な…斬り合うしかないって事だね……」

 

「分かってくれたなら何よりだ…そら行くぞッ!!」

 

 

 再び両者の剣が火花を散らす。先ほどよりもこちらに分のある手数で押そうとはしているが、確実に一太刀一太刀を防ぎ反撃を入れてくる。

 そして均衡は崩れる。

 無理のある大振りの一撃。それをなんなく弾かれ、彼の身体は大きくのけ反る。そしてそのガラ空きの胴体に袈裟斬りを叩き込む。常人ならば両断されてしまいそうな一撃。防御力も上がっているとは言え彼の身体に深く真一文字の刀疵が刻まれる。

 

 

「…ふん、ここまでか。まぁ楽しめたよ、アケチ」

 

 

 倒れて動かない明智に一瞥し、刀を納める。

 死んでいないにしてもマトモに戦うことも困難になるような傷だ。自分の勝利に疑いようはない。

 だがーーー

 

 

「クックック……そいつはこっちのセリフだ。この世界に来てからそこそこ強いやつと戦ってきたが、やっぱり鈍ってるな…久々の全力だ」

 

「…おいおい嘘だろその傷だぞ……それにこの世界だと…?」

 

「ーーー顕現しやがれ!!『ロキ』ッッ!!!」

 

 

 彼の意味深な発言に困惑するベルディアを他所に、血塗れの彼の身体を黒のベールが包む。みるみると全身を包み込んでいたベールが剥がれ、中から装いを新たにした明智が出てくる。

 白や金を基調とした儀礼服は見る影もなくなり、まるで囚人服のような黒と紺の服にボロボロになった漆黒のマント。腕にはまるで獣の爪を思わせるような鋭い手甲が装着され、そして何より真紅のペストマスクは黒く頭部全体を覆うようになり、禍々しい棘が生えている。

 背後には全身白と黒のツートンカラーに赤黒い髪の毛のようなものを生やし、全てを嘲笑うように上がった口角と真紅の歯が覗かせている細く長身の男が剣の上に腰掛けていた。

 

 

「さぁ、第2ラウンドだ。これまでの僕と同じだなんて思わない方がいい」

 

「……ッ!」

 

 

 真っ黒な明智が一瞬で肉薄し、斬りかかる。先程まで自分の斬撃を防ぐのでほぼ手一杯だった人間と同一人物だとは思えないほどの重く鋭い斬撃だ。

 これまでとは打って変わり今度はベルディアが防戦を強いられる。反撃も許さないほどの無慈悲な斬撃の嵐が降りかかる。

 

 

「ーーー良いだろう!!俺も全力で相手をしてやる!!」

 

 

 ベルディアが距離を取り、自身の頭部を城の天井近くへ放り投げる。頭部は空中から落ちることなく静止し、辺りを禍々しい彼の魔力で包み込みドームのような空間を形成する。

 

 

「小癪な真似を…蹴散らしてやる」

 

「うおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 

 全力と謳った通り、ベルディアの膂力も格段に向上する。2人の斬撃は一撃だけで辺りの空気を、大地を震わし、古城からは軋む音が鳴り響く。

 

〜*〜

 

「……」

 

「どしためぐみん?なんだか神妙そうな顔して」

 

 

 冒険者ギルドにて食事を楽しむカズマ一行。なぜか急に食事の手を止めて物憂げな表情をするめぐみんに声をかける。

 

 

「…いえ、なんだかその……どこか、離れたところなんですけど…とても大きくて……嫌な魔力の感じがしまして。こ、怖くはないですよ!紅魔族に怖いものなんてありませんから!」

 

「なんなんだよその強がりは…それにしても嫌な魔力か…おい駄女神、最近またなんか面倒事を起こしちゃないだろうな」

 

「なんで私なのよ!!そんな事しないわよ!そう言うカズマさんこそ、前の魔王軍幹部とかいうのに日和っちゃって全然クエスト行ってないじゃないのよこのヒキニート!」

 

「おー上等じゃねぇかこの駄女神!それじゃあテメェが大活躍できるようなアンデッド退治のクエスト受けてやるよ!!ぜんっぶお前やれな!泣いても知らねぇからな!!」

 

 

 カズマがギルドを見回してみると確かに魔法職らしい冒険者は皆一様に大なり小なりめぐみんと同じような表情を浮かべていた。

 それを見て同じように彼も不安を煽られるがそんな事もつゆ知らずに舐めた口を聞くアクアにいつもの漫才を繰り広げる。

 

 

「アンデッド退治か…それはまた私の肉壁が必要そうだな。早速行こう」

 

「…いや行かないからな?行くにしても、ここ最近のあの魔王軍幹部の熱りが収まったからだ」

 

 

 そんな冒険者たちの喧騒と会話を2階から眺める小さな影が1つ。その影はいつの間にかギルドを去っていたーーー

 

〜*〜

 

「うおおおおおおおっっ!!」

 

 

 激しい剣戟。ベルディアは必死の雄叫びをあげて明智に立ち向かう。しかしその威勢も虚しく、彼の鎧は少しずつ切り刻まれていく。

 当の明智はまるで機械かのように冷徹に、しかし確実に殺すと言う意思を孕んだ一撃を次々とベルディアに叩き込む。

 

 しかし、ベルディアも剣しか振れない訳ではない。距離を取り紫の魔力の塊を幾重にも明智に向け放つ。1発1発が上級魔法に相当するが…

 

 

「ハッ!残念だったなぁ、今の僕にテメェの魔法は何も効かねぇよ!!」

 

 

 アンデッドたるベルディアの放った魔法は呪怨属性に相当するもの。今の明智にとっては無効であり、毛ほども意に介する必要はない。

 

 

「先程までとは剣筋も気迫も何もかも違う…一体なんなんだこいつは…!?」

 

 

 そしてしばらくの膠着状態のうち、明智が仕掛ける。 ベルディアを自身とで挟むように配置したロキ。当然それも認識してはいるだろうが、明智が攻めの手を強めてそれを許さない。

 

 

「そのまま死ね!!ペルソナァ!!」

 

「俺の放り投げた頭のことを忘れたか!このくらいーーー」

 

 

 背後のロキから放たれた特大の斬撃『レーヴァテイン』。城の床を裂きながら突進してくるそれもベルディアは天井にある頭部で把握している。

 彼の剣士としての技量の髄によるものか、斬撃をまるで巻き取るようにいなし、あろうことかそのまま明智へと放ち返す。

 

 

「甘えんだよカスが。そのくらい想定済みだ」

 

 

 しかしそんな事態にも彼は少しも焦ったような表情や様子を見せない。懐から取り出したのは先端に緑と紫の甲殻のような物で装飾された小ぶりの扇。 彼がそれを斬撃の直撃する寸前で振るうと再び斬撃はベルディア目掛けて直進し始める。

 

 

「んなあああッ!?」

 

 

 自身の技術の髄を凝らして放った斬撃返しをいとも簡単に対処され、あろうことか全く同じことを簡単にやり返され、ベルディアが驚きの声と共に斬撃を浴びる。 先程の明智のように鎧を斜めに大きく裂かれ、辺りを覆っていたドームのような魔力も霧散する。

 

 

「な、なんだそれ……」

 

 

 倒れたベルディアが苦悶の声を上げながら明智に問う。既に明智も剣を納めてペルソナも顕現させていない。

 大きく裂かれた傷口からはアンデッドのためか血こそ出てないものの、魔力が絶えず漏出し、瀕死の様相を訴えている。

 

 

「こいつはエルダードラゴンの素材から作ったものだ。物理攻撃を流したり跳ね返したりできる」

 

「その『ペルソナ』とかいうのだったり……とんだびっくり人間だな貴様は…まぁいい…俺の負けだ。この大剣でも持ってけ」

 

 

 消えゆくベルディアが近くに放り投げられた大剣を指差す。

 

 

「しかし…貴様はこの世界の住民じゃあないのか…そう考えればさっきの言動や能力にも合点が行く……ところでだ…本当の貴様はどっちだ?」

 

「……何?」

 

 

 そんな思いがけない問いかけに少し混乱する。思えば自身のこの姿と普段の姿。両方を知る人間はいずれも自身のことをよく知る者たちだった。

 明智のことをあまり知らないベルディアだからこそ出てきた素朴な疑問。しかし、そんな疑問に彼は言葉を詰まらせる。

 

 

「…そんなの、今の僕が本当に決まっているだろう」

 

「そうか……1人…なのだな……」

 

 

 それを最後に、ベルディアは消えていった。城が静寂に包まれ、明智は残された大剣を手に取りながらベルディアの最後の言葉を心の中で反芻していた。

 

〜*〜

 

 先の苛烈な戦い。人知れず始まり、人知れず終わった戦いだったがただ1人、それを見届ける影がいたのを明智は知らない。

 アクセルの街から全速力で向かいたどり着いた廃城。城のそこら中に鋭利なもので抉られた傷とアンデッド達の死体。そして辿り着いた大きな空間では今まさに決着がつかんとしていた。

 

 対峙するは片や漆黒の鎧を纏いし魔王軍幹部のベルディア。そして片や同じく漆黒の外套に身を包んだ明智。

 別人のように変わり果てた彼の姿にクリスは驚きを隠せずにいる。もちろん彼のあの姿についてはディーテルからの資料で確認していた。しかし百聞は一見にしかず。これまで見ていた彼のロビンフッドを使役する姿とはどうしても結びつかない。

 

 度々顔を覗かせていた彼の凶暴性。あれはほんの氷山の一角であった事を嫌と言うほどに痛感させられる。

 

 そして決着が付き、床に伏したベルディアとそれを見下す明智はしばらく何か会話を交わしている。内容こそ分からないが、ベルディアが時を迎えて消えて行く。

 明智も去り、静寂が訪れた古城。そんな静謐とは裏腹にクリスの胸の内には複雑な感情が渦巻いていた。

 

 

(彼のあの姿…そしてあの凶暴性……やはり彼は悪人なんでしょうか…でも、これまでにこの目で見てきた彼も事実…それにペルソナという能力は自身の心の写し鏡のようなものらしいですし、だとしたら彼の中にはあんな対極の心が同時に存在してるんでしょうか……)

 

「……はぁ……」

 

 

 気づけばため息が漏れていた。明智吾郎。彼の特異すぎる存在に、エリスの中に築かれていた『悪人、罪人というのはどうしようもなく悪だ』という固定観念が揺らぐ。まるで自分のこれまでの女神としての経験、生を真っ向から否定されたような感覚。

 しかし、悪の面も持っている。そして彼のそれはあまりにも危険だということを今回の一件で思い知らされた。なれば自分はこれまで通り彼を裁く必要があるーーーそう彼女は結論付けたのだった。

 

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