この素晴らしい世界に探偵王子を!   作:パザー

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短めと言ったな、あれは嘘だ。
そしてお久しぶりです


閑話・その弐

「ほんとすいませんでした。命だけは…」

 

 

 未だ住民たちも数多く往来する通り。そこに長い青髪を携えたいつも何かと厄介ごとを持ち込んでくる女神、アクアがそれはそれは見事な『Japanese DO☆GE☆ZA』をしていた。それだけには留まらず、掘削機かと言わんばかりにおでこを地面に擦り付ける。

 

 なんたってそんな無様で愉快なことになっているのか。多分エリスがこの光景を見ようものなら腹を抱えて笑うと思う。

 その理由には時間を少し遡り、アクアが明智に髪飾りを砕かれた直後へ。

 

 

「ーーーな、なによそこまでする事ないじゃない!!どうしてくれるのこの『まじかる☆アクアちゃんアクセサリー』!粉々じゃないの!!謝って!!謝ってそして弁償して!」

 

 

 少しはマズイと思ったのか躊躇う素振りを見せるが、下手に出たらこちらに不利益が発生しそうなもの。あくまで被害者のスタンスを貫く。とても腹立たしいものである。

 

 しかし明智はそんな彼女には目も暮れず、事務的に機械的に、こちらが被害者であるという正当な理由。そして髪飾りは何かしら弁償及び代替を用意するからお前もこの道具の損失額を弁償しろ。以上の内容をまるでお経か呪詛のようにツラツラと述べる。

 その微塵たりともアクアの癇癪を受け入れる気のない毅然とした態度と、そして怒りと殺意をもはや隠す気もなく彼女に叩きつける様な形相と話し方。

 

 そんな明智に流石のアクアも身の危険及びもはやどうしようもなさを感じてまるで流れるかの様に、件の『Japanese DO☆GE☆ZA』をするに至ったのだった。

 

 

「あの…私、ほんとにお金なくて……そんな弁償額到底用意出来ないと言いますか…」

 

「………はぁ…もういいよ」

 

 

 気づけば辺りにはまばらにだが人も集まってきている。どうにも支払いは見込めそうにもないし、と呆れたように明智はため息を吐く。

 普段なら許されたとすぐにでも調子になりそうなアクアも流石に自重して少ししょげたような表情をしている。

 

 

「それじゃ僕は行くけど……次こんなことがあったら流石に許せないと思うから、そこの所ちゃんと覚えておいてね」

 

「はい……本当にすいませんでした…」

 

 

 背後で変わらずしょげているアクア。この街の外壁よりも厚い面の皮、図太さ、厚かましさを持つ流石の彼女にもあの殺意と圧力は応えたらしい。

 そんなこんなで彼はあの駄女神へのやらせない気持ちともはや使い物にならなくなったテレポート水晶を抱えて自身の家の予定地へと向かうのだった。

 

〜*〜

 

 そして到着したのは喧騒溢れる街からは少し離れた土地。辺りにはまばらにしか他の家は散見されず、風通しや日当たりも良い。中心部から離れているという理由で余っていた土地だが、彼にとってはむしろ好都合であり即決だった。

 

 ただ一つ、余っていたもう一つの理由に墓地がもはやお隣さんかのような距離感覚にある。元の世界では別にそこまで気になる要素という訳ではないが、この世界にはゾンビなど、死体がモンスターとして襲いかかって来るだなんて事があるため、敬遠されがちなのである。

 まぁそれも大して明智には関係ない。別に倒せるし。この男、堪忍袋が意外とキレやすい事以外は無敵なのかもしれない。

 

 

「ーーーへぇ、意外と良い感じじゃないか」

 

 

 元々ここに建っていた、半壊状態であった古民家の枠組みを残してのリフォームに近い作業だった為か、ものの2週間弱でほぼ完成形に近い部分まで竣工していた。

 隣の墓地こそ景観的な意味で少々気になりはするものの住めば都というもの。先程までのうんざりとした気持ちから一転、意外と心を躍らせていた。

 

 今日は工事も休みだったために、完成前の住宅でくつろぐという案外ない体験をしながら彼は先に購入して運ばせておいたソファで本を読みながら時間を潰していると時刻は夕暮れ時となっていた。

 

 昼間の陽気もだんだんと消え失せて夜の冷気が漂い始める。流石に何もない部屋、更にソファで寝る気は起きず、彼は立ち上がる。

 

 そしてドアに手をかけ、外に出ようとする。その時だった。

 

 

「…爆裂……」

 

「ボソッと呟くなよ。今日はもう撃ったんだし街中なんだから我慢しろよ。ほんとにマジで」

 

「はぁ…はぁ…ゾンビメーカー……無数のゾンビに囲まれ、私の肢体を弄びながら…ふへへへ……」

 

「……」

 

「…どーしたアクア?普段のあの口煩さはどこへ行ったんだー?」

 

 

 そんな会話が聞こえてきた。当然彼は外に出ようとした動きを即座に停止する。聞こえてきた会話の内容から察するにあの忌々しい一行が隣の墓地にクエストか何かに来たのだろう。だがなんたってそれが今日、そして更にここなんだと自身の不幸を呪う。

 しかし、うだうだしていれば何かこの家に被害があるかもしれない。流石にそれは避けねばと意を決して外へ踏み出す。

 

 外に出ると隣の墓地にはやはりサトウカズマの一行。そして更に腐乱した死体が動く異様な光景とその死体達の奥に佇む黒いボロ切れを纏ったかのような人影が。

 ゾンビというのは現実では初見ではあったものの知識としては蓄えがあったため大して動揺はない。ただそれ以上に恐ろしい事にあのダクネスがゾンビ達に向けてその剣を勢いよく振り上げていた。

 

 そして明智に電流走る。

 

 

(ーーー絶対すっぽ抜ける)

 

 

 そんな直感に突き動かされ、彼の身体は家を守るようにして構える。

 彼のどうしようもない不幸と彼女の絶望的な不器用さが奇跡のマッチングを起こし、思った通りに彼女の手から剣が勢いよくすっぽ抜けた。

 

 そしてやはり案の定それは高速でこちらに向かって飛んでくる。このまま何もしなければ自分及び家の外壁にオシャレな形の覗き穴をこしらえる事になるだろう。

 

 

「ーーーーフッ!」

 

 

 しかし予見していた上でならば対処は容易いというもの。

 横に身体をずらし、自身の真横に飛んできた剣に八つ当たりを含めて全力で拳を叩きつける。

 魔法で強化された明智の本気の拳が叩きつけられた結果、刀身はそれはそれは綺麗に真っ二つに折れた。破片の1つも出さないほどに。

 

 そしてその光景に唖然としているサトウカズマ一行。しかし彼らの脳裏には確実に『怒らせちゃいけない』という認識が今一度強く刻み込まれた事だろう。

 

 

「ーーーーへ?ど、どどどどーしてアケチさんがここに…?」

 

「ここが僕の家だから。まだ建設途中ではあるけどね」

 

 

 顔面蒼白のアクアが蚊の鳴くような声で問いかけて来る。それに明智が冷静に淡々と応える…が、そこに時間が再び動き出したかのように固まっていた者が。

 

 

「あああーーっ!!わ、わた…私の…剣……こんな真っ二つに……うっうぅ…」

 

 

 ダクネスがそんな2人のことなど意にも介さない様に彼の足元に転がるもはやダガーのサイズ感になってしまった剣の残骸を拾い上げる。

 生粋の、筋金の、超絶怒涛のマゾヒストでもこの方向性の嗜虐というのは応えるらしい。

 余程ショックなのかきちんと悲しそうに、若干の涙も浮かべる彼女の姿にこれまで煮湯を飲まされてきた明智にも2割ほど申し訳ない気持ちが浮かび上がる。ちなみに残りの8割はスカッとした晴々しい気持ち。

 

 

「ダ、ダクネス……ちょっと!いくらすっぽ抜かしたダクネスが悪いとはいえ、少しは申し訳ないみたいな気持ちがないのですか!?」

 

「…そりゃあ申し訳ないとは思ってるよ。ただこれまで君たちに散々嫌な目に遭わされてきた訳だし…それに剣の方は簡単に直せる様折っておいた。弁償だってしていい。だけどね、それをするとこちらにも弁償してもらわないと気が済まない案件があるんだけど…」

 

 

 叱責するめぐみんと冷静に受け答えする明智。彼に視線を向けられたアクアは俯きバツが悪そうにする。

 

 

「…おいちょっと待て。お前、今度は何やらかしたんだ?」

 

 

 カズマがアクアに圧迫する様に問い詰める。依然バツの悪そうな彼女は流石に申し訳なさそうに口を開き、

 

 

「……アケチさんのテレポート水晶全部お釈迦にした…お値段ホニャララ…万エリスだって」

 

 

 値段を小声で聞かされたカズマがどんどんと青ざめていく。そしてダクネスの方へ駆け寄って行って彼女の襟首を掴む。

 

 

「ーーーおいダクネス!残念だけど剣のことは諦めろ!ほら、今回の報酬でまた新しいのを買えばいいだろ!?」

 

「ぐすっ……やだぁ、この剣がいいのぉ……」

 

「なんで幼児退行してるんだよ!!剣1本くらいでお前のメンタルどうなってるんだよ!」

 

「ーーーって、カズマカズマ!大変ですいつの間にかゾンビの数がえらい事になってますよ!もうゾンビパーティーって感じです!!」

 

 

 なぜかしょげて幼児退行したダクネスを引きずって行こうとするが彼の貧弱な膂力では全然進まず、ワタワタとしているとめぐみんが焦って大声を出す。

その声の方を見てみると最初は片手で数えられる程度の数がいつの間にか墓地内に隙間のないほどに増えていた。

 

 視界を埋め尽くさんばかりのゾンビ達。そして後ろで心なしかほくそ笑んでいるように見えるゾンビメーカー。新居だというのにもはや泣きたくなるほどの大惨事だ。カズマ達の対アンデットのスペシャリストアクアも、すっかり明智に萎縮してしまってあまり乗り気ではない様子。

 

 まさかこんなことになるなんてーーーそんな後悔がカズマの脳内をよぎる。

 

 もはや八方塞がりといった感じで、思考は空回りを続けて身体への信号は何も送られない。立ち尽くすカズマに明智から声がかかる。

 

 

「ーーー後ろのゾンビ達、片付けてあげてもいいよ。ただし条件付きでね」

 

「えっホントに!?!?じゃあぜひ!!お願いします!!てか早くしてえええええええ!!」

 

 

 その一言で台風一過のように急激にカズマの表情が晴れやかなものとなる。しかしもはや肩に触れられる範囲まで近づいてきていたゾンビに絶叫を上げながら逃げ回る。

 

 そしてその直後、ゾンビ達は上空から降り注ぐ光の矢に穿たれ、まるで粒子のようになって散って逝った。

 明智の方へ目を向けると彼が『ペルソナ』と呼ぶ大男がどこからともなく出現している。おそらくは彼の持つ弓矢がゾンビやゾンビメーカーを一掃したのだろう。

 救われはしたものの、どんな絡め手を使おうと埋まることのないどうしようもない力の差を改めて見せつけられ、彼の出した条件というのがひどく恐ろしく、なんならさっきのゾンビ達の方がマシだったんじゃないかという疑念が浮かび上がる。

 

 

「あのー…それで…条件というのは…?」

 

「簡単だよ。そこのアクアさんにお釈迦にされたテレポート水晶の弁償だよ。借金て形で分割で返済してもらっても構わないから」

 

「…へ?それだけ?それだけならまぁ…」

 

「あのテレポート水晶は子機とか沢山あってそれも全滅したから、全部せしめて値段は5000万エリス。1ヶ月につき2割、利息として5000万から1000万ずつ上乗せして払ってもらうから、頑張ってね」

 

 

 瞬間、カズマは胃の底から何か気持ち悪いものが迫り上がってくるような感覚を覚えた。彼はどうしようもないゲスという点を除けばまぁまぁしっかりしているとはいえ、まだ10代の少年。そんな彼にいきなり負うこととなった5000万という借金は、心にとてつもない重圧としてのし掛かった。

 どうやら彼の数少ない長所の1つである結構な幸運は身内の疫病神レベルの圧倒的な不幸に叩き潰されたらしい。

 

 

「ーーーま、待ってくださいいきなり5000万エリスなんてあまりに無茶です!いくらアクアが悪いとは言っても少しくらい譲歩してくれたって良いじゃないですか!」

 

 

 呆然とするカズマを尻目にめぐみんが声を荒げる。

 確かにアクアの挑発が原因とはいえ、そんな挑発に乗せられて遠回しに煽り返した自分も自分だ。アクアには散々前科があるとしても。5000兆歩くらい譲ったとしても。

 そんな風に明智の心は少しだけ揺れ動いた。

 

 

「じゃあそうだね……僕に防御の上からでもいいから、一撃当てれたら返済額は半分にまで減らしてあげるよ。ペルソナも武器も使わない。これでどうかな?」

 

「…一撃……いやでも半額なんだ!受けない手はない…行くぞお前ら!ほら立てダクネス!いつまでもビビってんなよ駄女神!元はと言えばお前が持ってきたトラブルなんだからお前が1番働けよ!!」

 

 

 その言葉を受けてカズマは再奮起、しょげているアクアとダクネスにも檄を飛ばす。めぐみんも杖を構えて鼻息を荒ぶらせている。最も、魔力は回復しきっておらず爆裂は撃てないし、魔力があったとて撃てる状況ではないために1番のお荷物なのだが。

 

 パーティーメンバー達が各々立ち上がって行く中、カズマはというとやはり狡いことを考えていた。それもそのはず。いくら先程のペルソナも、彼の持ってる恐ろしげな武器も使わないとは言え、それでも埋めきれない力の差があることは重々承知している。

 ならばその差を埋めるのは初見殺し。1発限りの攻撃のために、全て出し切らなければならないだろうと直感した。

 

 

「ーーーさて、流石にあんまり作戦会議とかさせちゃうとフェアじゃないから…行かせてもらうよ」

 

 

 そう言って明智が動き出した。別に何を仕掛けるでもなく、ただただ武器を構えるカズマ達4人に向かって歩いてくる。

 そして5mもない距離まで近づいた途端、彼のいた所には土煙が昇っていた。当人はというと、最初からそこにいたかのようにめぐみんの正面に立っている。

 

 

「『エンチャント・ビッグ・ヘビー』」

 

「…ふえ?」

 

 

 明智が手をかざすとめぐみんの帽子が人間サイズに巨大化する。更に岩石ほどの重量を持った帽子はすっぽりとめぐみんを収監し、中からやかましい彼女の声が聞こえる愉快なオブジェクトと化した。

 

 

「うおおおおお!!『まじかる☆アクアちゃんステッキ』イイイイィィィ!!」

 

 

 恐ろしいほどの緩急を付けた動きに3人の思考がようやく追いつく。

 どうにか一撃入れねばと、他の3人よりも明らかに必死な思いでアクアが杖で殴りかかってくる。

 幸運と知能以外はやはり高水準なステータスなためか、真横からの彼女の一撃は明智の眼前にまで迫る。しかしその一撃も無慈悲に彼に到達する前に停止してしまう。

 アクアが違和感のある杖に目をやるといつの間にか『バインド』によって杖の先端と木の幹に縄が巻き付き、繋がれていた。しかし彼女の判断ははやく、早々に『まじかる☆アクアちゃんステッキ』を放棄し、再び明智に肉薄する。

 その動きを見てしょげていたダクネスも彼に迫る。左右両サイドからの拳。それでも彼は焦った様子を微塵も見せない。

 

 アクアの拳はひらりと身を翻して空を切らされる。そしてダクネスのノーコンの拳は腕を掴んで流され、勢いそのままに近くにあっためぐみん入り帽子に鈍い音を立てて直撃する。

 

 

「〜〜〜〜〜ッッ!!」

 

 

 わりかしシャレにならない感じの痛みに流石のダクネスも声にならない呻きを漏らしながら手を抑える。…少し頬が火照っているのは勘違いだと明智の脳は処理して、二度と考えないように思考の隅に封印した。

 

 

「イイッタイミミカ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"‼︎‼︎」

 

 

 ダクネスの拳がまるで鐘突きのように帽子の内部に重低音を反響させ、それでどうやらめぐみんの鼓膜に大ダメージが入ったらしい。中からもはや人のものとは思えないような叫び声が聞こえてくる。

 

 しかしそんなパーティーメンバーの咆哮も気にせず、アクアは必死に明智に拳を振りかざす。しかしいくら彼女のステータスが高いといえど、あまりにも動きが直線的で簡単にひらひらとかわされてしまう。

 

 そんな折、これまで何故か動きのなかった男がようやく動き出した。潜伏スキルでこそこそと動きながら『まじかる☆アクアちゃんステッキ』の拘束を『ティンダー』で焼き切って、再びダクネスのようにアクアと共に挟み撃ちする。

 後ろには帽子の壁。側面からはアクアの拳とカズマ自身の体によるブロック。そして正面から薙ぎ払うようにステッキを振りかざす。

 

 ガードでしか防ぎようのない構図。腕なりで受け止めてしまえば簡単に反撃の通る状況ではあるが、そうすれば彼らの勝ち。

 そんな状況でも明智はというとやはり焦るでもなく、少しばかりな感心を抱いていた。そして何よりかかってくる彼の瞳に、少し懐かしいものを感じた。

 

 

(へぇ……条件に合わせた状況作りがうまい。それにあの猪突猛進女に即興でこんなに合わせられるか…まぁでも…)

 

「アイデアは悪くない。だけどねーーー」

 

 

 背後にあった帽子をめぐみんごと持ち上げる。そして迫り来るアクアをブルドーザーのように掬い取り、そしてそのままカズマに向けて2人の入った帽子を叩きつけて吹き飛ばした。

 

 

「ーーーぶべあぁっ!!」

 

「速さ…いや基本的なステータスが足りてない。そして何より行動を起こすのが遅い…その根幹的なところが足りないから基礎で補わざるを得なくなるんだよ」

 

 

 そう言いながら手をぱんぱんと払う。

 帽子から投げ出されてノビているアクアにめぐみん。帽子に潰されてカズマは身動きが取れないでいる。そして拳の尋常じゃない痛みで悶えるダクネス。死屍累々、完全敗北。そんな様相だった。

 

 

「まぁ少しは良いものを見せてもらったし、あの5000万エリスっていうのもやる気を出させる為の嘘だから」

 

「……え?え!?嘘!?嘘だったの!?!?」

 

 

 その言葉を聞いてカズマの顔が輝きだす。その面白いくらいの七変化を遂げる顔を見て明智は言葉を続ける。

 

 

「あぁ、5000万エリスは払わなくてもいいよ。買った値段そのままの500万エリスでいいよ」

 

「ご、500万…いやまぁでも5000万に比べたらいいか……」

 

 

 再び落胆するが、完全敗北に加えて額も1/10になったこともあってか渋々と賠償金を受け入れた。500万でも結構な大金なのだが存外さっくり受け入れているのは上手いこと明智の口車と詐欺にも使われているような手口に丸め込まれているためだ。

 

 

「ーーーあと、これをダクネスさんに。街の外れにある『らだいだ』っていう工房に折れた剣と一緒に持っていけば原型を残して良い具合に仕立ててくれると思うから」

 

 

 そう言って明智は持ってきていた浅葱色の大剣ーーーベルディアの大剣を手渡した。魔王軍幹部の物と知れば彼は売り払いかねないためにそこは伝えない。

 

 

「ーーーほら、早く帰ってくれるかい?僕も宿に帰らなきゃだから」

 

「あっはい…し、失礼しました!そしてありがとうございますほらダクネス!いつまでも悶えてないでめぐみん担いで行くぞ!」

 

「ーーーアケチ、本当にいいのか?あまり刀剣に関しての知識はないがこれ…相当な業物じゃないのか?」

 

「…別に良いって言ってるだろう。どうせ棚ぼたの物だから。それに…ここまでしてあげたんだから、少しはそのマゾヒスト的な行動を抑えてくれるかな」

 

 

 彼の冗談のような、実はとても切実な願いにダクネスは笑みをこぼしてカズマと共に2人を担いで去っていった。

 その後ろ姿が消えた頃、彼はため息を吐いた。もちろんあのパーティーにまたまた面倒事を起こされた為ーーーというのもあるが、確実に彼は感じていた。この争い…とも言えないような喧嘩の一部始終を見ていたもう1人の存在を。

 

 

「そこの墓地の影で何してるのかな…ウィズさん?」

 

「うぇっ!?き、気づいてたんですか…」

 

 

 と言って墓地の方に声をかける。そしてその木陰からあのひ弱な彼女の驚きの声が聞こえてきた。

 

 

「隠れるのは不得手みたいだね、結構バレバレだったよ。それで…早く質問に答えてもらおうか」

 

 

 隠れるだなんてのは何かしら後ろめたい感情が故の行動。それが故に彼は少し圧をかけながら問い掛ける。

 しかしあのアクアでもビビり上がらせた圧も、やはりウィズにはあまり効いていないようだった。

 

 

「あはは…えっと私、実はこの街の色々な墓地に漂ってる魂を鎮めるっていうのを街の人達から頼まれてまして…それで今日はここの墓地だったんですが、あんな事になってたなんてつゆ知らず…」

 

 

 なんていう珍妙なトリプルブッキングだろう。人気アイドルでもこんなパンパンのスケジュールは組まない。

 …こんな土地と建造物がまぁまぁ安めの値段で紹介されたのもこの墓地のせいだったのではないかと今になって思えてきた。そしてあの妙にテキトーそうだった不動産のおじさんに少しずつ怨嗟の念が湧いてきた。

 

 

「それで以前にも同じようにしてた時、あのアクアさんに私浄化されかけちゃいまして…」

 

「なるほどね…お互い、アクアさんには苦労させられるね」

 

「え、えぇ……でもカズマさん達は私が魔王軍幹部である事を黙っててくれてますし…」

 

「…魔王軍幹部だって?」

 

 

 まるで日常会話のように出たカミングアウト。その言葉に明智が怪訝そうな顔を見せ、ウィズがこれ以上ないってほどにやっちまったという顔をしている。

 2人の間にしばしの沈黙が訪れる。流石の明智にもこんな事態は想定外でどうしたものかと試行錯誤。ウィズもウィズで思考がショートしそうなほどに焦っている。

 

 

「…どうにも只者じゃないって思ってたし、リッチーだっていうのも聞いたけど、まさか魔王軍幹部だったとはね…それじゃあアレかな。僕が倒したベルディアの仇討ちにでも来たのかな」

 

「……へ?アケチさん、ベルディアさんを倒したんですか…?」

 

「……」

 

 

 お互い口を開くたびに墓穴を掘り合っている。何か大きい暴露をした方が勝ちという勝負でもしているのだろうか。

 ウィズの驚いた顔を尻目に心の内で頭を抱える。

 

 

「はぁ……どうやら、お互いおしゃべりが過ぎるみたいだね」

 

「え、えぇ…もう言ってしまったのでアケチさんにも説明しますが、私幹部と言ってもあくまで魔王城の結界の維持を頼まれてるだけのなんちゃって幹部なんです。何か争いをする気もありませんし、悪事を起こそうともしてません。現に、私に賞金はかかってませんしね。それで…アケチさん、ベルディアさんを倒されたっていうのは…」

 

「…本当だよ。以前街に訪れた折、奴の城に乗り込んで倒した。ダクネスさんに渡したのが奴の残した剣だね」

 

「そ、そうでしたか…良かったんですか?魔王軍幹部の剣なんてそれこそ色々な冒険者や貴族が欲しがるような物でしょうに…」

 

「いや、大剣っていうのが妙に性に合わなくてね。それにちょうど良い機会だと思って。なんだかあの剣気持ち悪かったしね」

 

 

 2度死してなお罵られるベルディアに流石のウィズも少しばかり同情を覚える。

 

 

「…同僚を殺した男が目の前にいるっていうのに意外と平静なんだね」

 

「い、いえ少し悲しい気持ちもありますが…あまり関わりはありませんでしたし…その…彼、私と会うたび手が滑ったとか言って頭を転がしてスカートの中を覗こうとしてきて…正直気持ち悪かったですから…」

 

 

 多分ベルディアは今頃地獄で血の涙を流してる事だろう。かく言う2人も自分で発言しておいて流石に可哀想だと思ってきた為、彼の話題は流れていった。

 

 

「ーーーまぁ、お互い戦うメリットも理由もないっていうのが分かって良かったよ…そういえば、前にあなたの店で買わせてもらったテレポート水晶なんだけど、登録のリセットってできるかな?」

 

「…?え、えぇ。少しお時間はいただきますが、可能ですよ…え?全部同じ地点が登録されてる…なんでぇ……?」

 

 

 アクセルへの帰路を歩み始めた明智とウィズ。彼から受け取ったテレポート水晶の袋を受け取り、中身をチェックしたウィズが困惑した声を漏らす。もはや経緯がアホらしすぎて明智は説明する気力も起きなかったーーー

 

〜*〜

 

 宿に戻り、明智は今日の出来事に思いを馳せてため息をついた。500万の大金を叩いた買い物。そしてそれがお釈迦になり、更にはカズマ達にほぼタダ働きをさせられ、自身の倒したベルディアの戦利品も、今後あれを言い訳にしてダクネスから逃れるために渡すという、あまり賢いとは言えない判断を早く話を済ませてしまいたいがためにしてしまったりと散々な1日だった。

 そして得られたものはというと、今後カズマ達がチマチマと返済してくるであろう総計500万エリス。大金とはいえ、彼がその気になればあまり労せずに稼げる額だ。

 

 そんな雀の涙ほどの儲けに、今一度大きなため息を漏らしたのだったーーー

 

〜*〜

 

 翌日、ウィズ魔法具店にて。

 ウィズは早速、昨夜明智から受け取ったテレポート水晶のリセット作業に取り掛かろうとしていた。

 テレポート水晶に編み込まれた魔法を紐解き、刻まれた魔力を放出してリセットするという困難な作業。彼女が優れた魔法の知識と技術を持ち合わせているとはいえ、中々に骨が折れる作業だ。

 

 しかし、カズマ達一行に加えて明智も自身の正体を黙っていてくれる人間でいて、尚且つ彼はこの店では珍しく何度か買い物をしてもらってるいわばお得意様だ。買ってから1日も経っていないというのもあって、彼女は普通なら大金を取る作業を無償で引き受けた。

 そういった優しさや愚直さが彼女の魅力でもあるのだが、それらが同時に商才の無さをとんでもない物に仕立て上げていると言う事を、彼女はまだ自覚していない。というか一生自覚しないだろう。

 

 そんなこんなで作業は進み、とうとう魔力を放出する最終行程に入る。

 水晶達が怪しく輝き出し、魔力が溢れ出す。と同時にウィズは少し違和感を覚える。

 今一度思い出してみよう。その水晶は誰の魔力によってそんな事になってしまったのかをーーー

 

 

「ほげえええええええええええぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 溢れ出したアクアの魔力により浄化されそうになるウィズの断末魔が店の外にまで響いた。

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