この素晴らしい世界に探偵王子を!   作:パザー

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ゴールデンカムイ全部読みました


第7話

 ウィズの断末魔が轟いた3日ほど後、明智はクリスに召集されていた。マイホームの竣工する日だというのに、そんなタイミングの悪さに少しイラつきながらも彼は待ち合わせ場所のギルドへ向かった。

 

 そして料理に舌鼓をうつクリスの後ろ姿を発見。思えば彼女とはあくまでダンジョンに一緒に赴くだけの間柄なだけに、なんだかそんな彼女の姿を見るのは新鮮な感覚がする。

 

 

「やぁ。食事中で悪いけど、早速用を聞こうか」

 

「ーーーングッ…っと、やぁアケチ君。悪いねあたしだけこんな食べちゃってて。それで話なんだけど、どうやらとある湖に物を汚染したり、モンスターを呼び寄せたりするとか…とにかく、いろんな悪影響を撒き散らすだなんて傍迷惑な神器が埋まってるらしいんだ。その回収だね」

 

「なるほどね…確かに埋まってるくらいなら僕の能力で簡単に見つけられるだろうけど…モンスターとか言ってたけどその辺りは大丈夫なのかい?」

 

「うーーんまぁ…何匹かはそりゃいるだろうけど、まぁ大丈夫だよ!なんとかなるなる!」

 

「はぁ…楽観的だね。まぁそんなに面倒な訳でもなさそうだし、手早く済ませに行こうか」

 

「話が早いね〜それでこそ!それじゃあ早速行こうか!」

 

 

 器用に話を進めながらどんどんと料理を平らげたクリスが立ち上がる。そしてそのまま2人は冒険者ギルドを後にするのだったーーー

 

〜*〜

 

 目的地への道すがら。2人は少しだけ深い森の中を歩いていた。特に会話を交わすこともなく淡々と歩く2人。しかし沈黙が我慢ならなくなったのか、やはりクリスの方から口を開く。

 

 

「ねぇねぇ。そういえばアケチ君、家建てたんだってね」

 

「ーーー相変わらず耳聡いね。どこで聞いてくるんだい?」

 

「あんまり大きい街じゃないからね〜。街を歩いてたり何気なく話してるうちに色んな噂が入ってくるものだよ?」

 

 

 もはや自分のプライベートの何もかも監視されてるんじゃないかと若干の辟易を覚える。日本でもそうだったのだが、噂による情報網というのは本当に恐ろしい。壁に耳あり障子に目ありとは本当によく言ったものだ。

 

 

「どうして家なんて建てたの?十分宿暮らしでもいいと思うんだけど」

 

「…1人になれる拠点が欲しかったからーーーかな。君と僕のこの仕事だってあんまり人に聞かれない方が都合がいいだろうしね」

 

「なるほどね〜あたしとの仕事にそんな熱を向けてくれてるなんて嬉しいよ〜このこの〜」

 

「…何か良いことでもあったのかい?どうにも今日はご機嫌なようだけど」

 

 

 なぜこんなだる絡みのような話し方をしているのだろう。なんだかアクアの面影がチラつく彼女の態度に琴線を逆撫でされる。

 

 

「いや別に〜?なんでもないよ」

 

「そうかい…」

 

 

 なんだか返事するのもダルくなってきた明智は適当な返事をする。しかしそんな返事も彼女はまるで気にしていない様子。無敵なのかこの女は。

 

 しかし、次の瞬間。鬱蒼とした脇の森から何者かが飛び出す。その何者かは勢いそのままに2人へ襲いかかる。

 奇襲とはいえ、それで遅れを取る彼ではなく、背後から迫っていた男を肘鉄で沈める。そして改めて辺りを見渡す。

 

 身体や顔には何かの模様が描かれ、動物の毛皮などをあしらった野性味あふれる服装。そして掲げているダガー。『山賊』という言葉から連想される姿そのままと言っていい風貌をした男達が4人いた。

 

 こんな状況だと言うのにやけに静かな隣のクリス。目をやるといつのまにか彼女は後ろ手に拘束されて捕まっていた。そして彼女を拘束しているリーダーと思しき男が下卑た笑みを浮かべる。

 

 

「ヒッヒッヒ。一瞬で1人やられちまったのは想定外だったがーーー動くんじゃあねぇぞ?少しでも反抗の態度を見せたらこの女の喉笛を掻き切るからな!」

 

 

 そんな男の言葉よりも彼の中で疑念が渦巻いていた。装備や先程の動きを見るにこの男達はせいぜいが街のチンピラをいくらか強くした程度。そんな彼らにクリスが大人しく拘束されているのが彼には解せなかった。

 何故か何もしないクリスを他所に他の3人がジリジリと彼へとにじりよる。恐らくは最初に倒した男が背後から一撃で落として、というプランだったのだろうがーーーそれにしても特段焦りも燃えもしない状況に彼はため息をこぼす。

 

 

「反抗の態度……ねぇ。残念だけどもう済ませてるんだ」

 

 

 迫り来る3人の男達。襲われた瞬間にすでに配置していた『トリックダガー』が彼らの腕や足を切り裂く。一瞬で1人となってしまったリーダーの男から笑みが消え失せる。そして焦りを浮かべるものの流石にリーダーといったところだろうか。即座に煙玉を叩きつけて辺りの視界を遮る。

 あり得ないだろうが念には念ということで毒を警戒して明智が後ろへ跳ぶ。ものの十数秒したら煙幕は霧散していった。そして、クリスの姿もそこにはなかった。

 

 2人のいたそばの木には荒々しく

 

 

『北東の洞窟に来い』

 

 

 とだけ簡単に掘られていた。

 面倒だとやけに最近増えたため息を再び漏らす。そしてゆっくりと地面でのたうっている山賊達に向き直り、ペルソナこそ出さないが本性を表に出す。

 

 

「ーーーおい、北東の洞窟には何がある?」

 

「あ、アジトだよ…ヘヘッあの女終わったな……早く行かねぇとアジトにいる全員に()()()()て大変な事になるだろうなぁ…あァ俺も味わいたかったなぁ…」

 

 

 言葉を聞いた明智が無言でさらに男を斬りつける。ダガーで切り裂かれた足が引っ張れば千切れるのではないかという所までに開き、男は苦悶の叫びをあげる。

 

 

「ーーー余計なことを喋るなよこのクズが。殺しはしないでやる。聞かれた事だけ答えてろ」

 

 

 一切躊躇も容赦もない明智の態度と言葉、そして経験したことのないような痛みで男は先程の態度とは見る影もないほどに萎れた様相をしている。

 

 

「人数は?」

 

「く、詳しくは分からねえ…ただ、全員いるんならだいたい30人くらいだ…」

 

「お前みたいな奴らの集まりか?それとも腕に覚えのあるやつばかりか?」

 

「殆どは俺たちみたいなのだ…けど、ボスだけは俺たちが束になっても敵わねえような化物なんだ…な、なぁこんだけ喋ったんだ、だからーー」

 

 

 男が縋るように言葉を発する。そんな彼を明智は変わらず冷ややかな目で見下し、有無を言わさずに踵落としを脳天に叩きつける。

 

 

「余計なことを喋るなって言ったろう」

 

 そう吐き捨てて明智は北東へ歩みはじめた。

 

 

〜*〜

 

 そして場所は件の北東の洞窟。

 鬱蒼としたその奥に後ろ手で拘束されたクリスが何故だかとても図々しく胡座をかいていた。

 と言うものの、時間は少し遡ってクリスがここに連れ込まれた直後へ。

 

 

「ーーーとっとと離してくれるかな?」

 

「は?この状況で何言ってーーー」

 

 

 それまで大人しくしていたクリスが突如担がれていた男の肩からするりと抜け出す。そして膝をへし折らんばかりの蹴りをかまし、体勢が下がった所へつま先が男の顔面にめり込む。

 

 悶える暇もないほどに一瞬で意識がトンだ男を見て、少し奥の方にいた10数人ほどの仲間達がぞろぞろとこちらへ向かってくる。

 

 

「何もしないならこのまま縛られててあげる。だけどそうじゃないならーーー」

 

 

 クリスのその言葉が終わる前に、既に3人の男は彼女へ飛び掛かろうとしていた。

 そんな彼らを見て驚くでもなく案の定と、呆れながらも彼女は駆け出す。この際だ、怖気付かせるためにも少し派手目に暴れてやろう。そんな女神らしくない思惑を秘めながら。それもこんな小悪党とも呼べないチンピラ共など今すぐボコボコにしたいのを抑えるための解消手段だ。

 

 向かってくる男たちに対して彼女も大きく跳躍し、そのお互いの勢いで先頭の男の顔面を思い切り踏んで地面に叩きつける。

 その刹那にようやく追いついたもう1人の男の顎をハイキックで的確に穿つ。最後の1人は先程の勢いはどこへやら。瞬く間に2人やられたのを見てすっかり怖気付いてしまっている。

 

 拘束されているもののこの場は一瞬で彼女が掌握したも同然。ふうと息を漏らして先ほどまで拘束されていた位置へ踵を返して歩き出す。しかし、次の瞬間、彼女の視界は揺らぎ、世界がブラックアウトしだしていく。

 同時に覚えた背後からの衝撃の方へなんとか薄れゆく意識の中で目をやると、そこには彼女よりもこの場に似つかわしくない青年のようなシルエットが立っていた。髪型などは全く違うが、まるで明智のような背格好をしたその姿をーーー

 

〜*〜

 

 そんなこんなで彼女が目を覚まし、痛い目を見たせいで大人しくしておこうと渋々受け入れつつも、山賊どもの言いなりになるのは癪だからとせめてもの反抗として図々しくしてるのだ。女神の割にやる事がみみっちい。

 辺りを見渡すとやはり同じような姿をした山賊ばかり。何故か全員少し萎縮しているように見えるが原因は考えてもまるで見当がつかない。

 そして自分の少し手前にある横穴に、先程から誰かの気配が漂っている。それも、なんとなく張り詰めたような緊張感が。恐らくは自分を気絶させた人物だろう。攻撃されるその時までまるで気配も予兆も感じられなかった辺り、相当隠密には長けているのだろう。不意打ちだからやられたのであって、正面きっての戦いならば負けない…そう信じたかった。

 

〜*〜

 

「ここか…」

 

 

 ぽっかりと口を開けた岸壁の前で明智は呟いた。山賊の1人が言っていた北東の洞窟ーーーここがアジトだろう。中から多くの人の気配に加えて壁には松明がまばらに見受けられる。

 

 『千里眼』で確認した所、中には十数人。罠らしきものは見つからなかった。クリスが捕まってさえいなければ、ペルソナで洞窟ごと発破して入り口を塞いでしまうのだがーーー当初の目的から逸脱した状況に頭が痛くなる。何をやってるんだという悪態が誰もいない虚空に吐き出される。

 そんな無駄なことをやってしまう自分もつくづくこの世界に毒されてきたなと再び気分が重くなっていった。

 

 

「ーーーなんだテメェ、何の用だ?」

 

 

 ズカズカと正面きっての突入に、早速山賊の1人が気づいてガンを飛ばしてくる。意外にも問答から入ってきたその態度に明智も一旦は手を止める。

 

 

「ここに女の子が運び込まれてきただろう?その子を引き取りに来た」

 

「あの暴力男女か…うちの奴らも何人かノされちまって手に負えねーからはいどーぞってしてぇところだが…生憎俺たちは山賊。タダでやる訳にはいかねぇな。そうだな…500万でどうだ?」

 

 

 男のニヤついた面。明らかにこちらを見下している。こちらが頼みに来ている立場なのだから、調子付いているのだろうがーーー

 

 

「足元を見るのも大概にしておけよ」

 

「あぁっ!?てめぇーーー」

 

 

 明智がそう吐き捨てて男に向けて歩み寄る。あまりにも大胆なその態度に面食らっている男を尻目に、顔面に肘鉄をかましてそのまま壁に叩きつける。

 その音を聞きつけて奥の方からは男がゾロゾロとやってくる。

 まるで機械のように駆けつけてくるその姿を見てロビンフッドを顕現させる。

 

 

「射殺せーーー『コウガ』」

 

 

 『コウガ』を連発して次々と男たちを射抜いていく。胸から足の辺りに目掛けて放つ。頭を狙うのは当たりさえすれば即死なものの、いかんせん的が小さい。今回のように多数なのであれば胸や足を撃って死にかけの動けなくさせれば、撤退させるために人員を避けねばならない。そして何より、死んでしまえばここの連中は仲間といえど気にかけずにそのまま突撃してくるだろう。

 

 前列の連中が撃たれて倒れたことで後ろの奴らが次々と将棋倒しになり、そしてまたなす術なく撃ち抜かれていく。

 そして死屍累々の山賊たち。その後ろから、山賊の一員とは思えないような青年の声が響いてくる。自分たちを最初に襲ってきた山賊の言っていたボスだろう。しかし何故か、その声に彼は懐かしさを覚える。

 

 

「ーーーいやはや、ここの山賊たちをこうも簡単に倒してしまうとは…流石と言った所だな。()()1()()()()()()()ーーー明智」

 

「……は?なんで…お前がいるんだ……!?」

 

 

 自身と同じくらいの背格好。山賊どもの首魁には似つかない、フォーマルな黒いロングコート。そのコートと同じ色の癖っ毛。そして大人しそうでありながらも何か強大な意志を感じさせる黒い瞳。

 見間違えるはずもない。共に戦い、殺し合い、語り合い、命を託した男。『JOKER(雨宮蓮)』がそこに立っていた。

 

 

「なん…で……」

 

 

 この世界に来てから1番の衝撃に思考も停止しかかり、鼓動はどんどん加速する。意味もなく同じ言葉を繰り返してしまう。こいつは偽物なのか本物なのか。そして本物であるなら自分と同じように死んでしまったのか。疑問も動揺も、溺れてしまうほどに次々と湧いてくる。

 

 しかし、彼はいつまでも困惑しているだけの男でもない。ヒノカグツチを抜いて全速力で斬りかかる。

 

 

「ーーーどうした?ずいぶんと余裕がなさそうに見える。らしくないな」

 

「……ッ!黙れ!なんでお前がこんなとこでこんな事をやってやがる!!死んだのか!?」

 

 

 余裕綽々と言わんばかりに圧倒的に刃渡りで劣るナイフで明智の剣は受け止められる。そしてこちらを見透かしたような態度に動揺も相まって語気が強くなっていく。

 

 

「さぁ、どうだろうな?それにしても…そんなにおしゃべりだったか?」

 

「ーーーあぁそうさ!俺は元々おしゃべりだーーー喋りすぎちゃうくらいにな!!ペルソナァ!!!」

 

 

 言葉と刃を交わしながら2人は暴れる。そんな見たこともないほどに野生的になった明智をすっかり忘れ去られてるクリス、及び山賊たちは傍観するしか出来なかった。

 そして明智が痺れをきらし、ロビンフッドを召喚。挟み撃ちを狙い、正面から斬りかかる。しかしーーー

 

 

「ーーー『アルセーヌ』」

 

 

 雨宮蓮らしき人物からも、明智と同じオーラが巻き起こり、ペルソナが召喚される。

 赤い儀礼服に堕天使を思わせるような、尾骶辺りから生える真っ黒な翼。禍々しく鋭い手足。そして燃える炎のような瞳。これも見間違えるはずがない。雨宮蓮のペルソナ、『アルセーヌ』だ。

 

 アルセーヌとロビンフッドが鍔迫り合いとなるが、いきなりの出現だった為に、本体である明智の動揺も相まってロビンフッドが弾き飛ばされる。

 

 

「『エイガオン』」

 

 

 そこを見逃されるはずもなく、ロビンフッドの弱点の呪怨属性のスキルを叩き込まれる。そしてその大ダメージは明智にも伝わり、思わず膝をつく。

 

 

「くっ……アルセーヌまで……クソッ…」

 

「さて、これで落ち着いておしゃべりが出来るな。ゆっくりと話そう、明智」

 

「黙れ…その呼び方をするな……お前は…雨宮蓮じゃあない…!!」

 

「えっちょっとーーえええええ!!」

 

「ーーー!」

 

 

 洞窟の奥まで吹き飛ばされ、衝撃を余計に受けてまで顕現させたままでいたロビンフッドの位置。そこはクリスの位置だ。

 ロビンフッドが乱雑にクリスを掴み、明智の方へと放り投げる。そして明智が彼女を受け止めると同時に2人が暴れて先程からパラパラと土煙の舞う洞窟内で特大のメギドラオンを放つ。

 

 高威力の爆発が洞窟を覆わんほどに広がっていく。こんなので倒せはしない。しかし、爆発と洞窟の崩落による二重の足止めを同時に仕掛ける。

 

 それを別段止めるような素振りも見せず、かといってメギドラオンをどうこうして塞ぐような素振りもなく、ボスは少し感心したような表情を見せていた。

 

 

「相変わらず機転が利くな。それにしても、『お前は雨宮蓮じゃない』…か。アレだけの会話と立ち合いだけで良い線を突く。さて、これから…どうなるかな。()のトリックスター」

 

 

 崩落してゆく洞窟もまるで気にせず、彼は薄らと笑みを浮かべていたーーー

 

〜*〜

 

「ごめんアケチ君…まさかこんな事になるなんて…」

 

「……拘束を解く。自力で歩けるだろう?」

 

 

 洞窟から10分ほど、明智はクリスを担ぎながら全力で疾走していた。そして当初の目的の湖の近くまで辿り着いた辺りで彼女を降ろして拘束を解く。

 しかし、彼から浮かない表情が張り付いたまま一向に剥がれることがない。初めて見るこんなにも動揺と憔悴している明智にクリスはあまり声をかけられずいた。

 

 

「…ここは湖の近くだし、ひとまずそこまで行こう?湖畔の方が落ち着けるはずだし、神器の回収も私がやってくるから、アケチ君は休んでて」

 

 

 ようやく絞り出した言葉で明智が立ち上がり、2人揃って歩み出す。しかしその足取りは重く、2人の間の空気も息苦しさを覚えたーーー

 

〜*〜

 

 湖を一望できる湖畔。ほとんど歩いていないはずなのにやっとの思いで辿り着いたそこで、2人はさらに落胆した。

 

 というのも、その湖には似つかわしくない大きな猛獣用の鉄の檻と、その中で猿のような奇声をあげるアクア。それに群がるブルータルアリゲーター。そしてそれをただただ見つめるサトウカズマ達の一行。

 

 ここ最近の悩みの一つである一行にどうしてこうも遭遇してしまうのか。今度教会かお祓いにでも行ってみようと流石に信心深くない明智も決心した。良くない霊がそれはそれは大勢、大量に住み憑いていることだろう。

 

 しかし、巨大なワニに四方を囲われ襲われるだなんていう、今後一生モノのトラウマになり得る経験をして泣き叫んでいるアクアを見ていると2人の心はなぜか少しだけスッとした。不憫だと思う気持ちは普段の彼女の悪行でどこかへとうに消え去っている。

 

 なるべく彼らに見つからないようにコソコソと湖の反対側に移動し、神器の回収に取り掛かる。…アクアの行っているクエストは恐らくこの湖を浄化するもの。クリスは出発前にクエストボードを確認していたため何となく把握していた。

 この湖の汚染は神器によるもののため、彼女がそれを回収しない限りアクアは一生ワニと戯れ続ける事になるのだがーーー少しだけそんな悪魔のような発想がよぎったが、明智の事もあり、とっとと回収してしまう事にした。

 

 

「うんしょっ……っと、とても申し訳ないんだけどさ…君のペルソナで神器の位置を大まかでいいから探って欲しいんだけど…大丈夫かな?」

 

「…『ネクロノミコン』……ここから北西の方に30mくらい離れた所に何かある」

 

 

 上の空な明智はもはや嫌な表情一つせずにペルソナを顕現させて湖を調べ始める。そして端的にクリスに伝えると、ペルソナも引っ込めて再び上の空になってしまった。

 彼の為にも早く済ませてしまおう…そう決心してクリスは湖に飛び込んだ。幸いな事にカズマ達はアクアが襲われているのに夢中でこちらには気づきそうにもなかった。

 

 汚染された池に辟易しながらも彼女は足を進める。深さは彼女がつま先立ちでなんとか肩が飛び出す程度。女神という立場でありながらこんな下っ端のような仕事に少し嫌気を覚える。

 それもこれも遠くで猿のように叫んでいるあの先輩女神が見境なしにポンポンと送り込んだせいなのだと考えると、先輩と呼ぶのも不服に思えてきた。

 

 そんなこんなで泳ぎ進め、明智の言っていた地点に到着。中心に行くにつれて深くなっていく為か、10m弱程度はあろう深さになっていた。

 そして強く感じる神器の気配。『千里眼』を使用すると、確かに鈍く光る何かが底にあった。

 

 こんな仕事であろうと仕事は仕事。彼女の真面目な気質も相まって、不服な気持ちも奥底に仕舞い込んですっかり目の前の仕事に没頭していた。

 

 

(やっぱり神器に近づくにつれて汚染がひどくなってる…モンスターもアクア先輩に集ってたのはごく一部だったみたいだし……意外とハードな仕事だなぁ…)

 

 

 寄ってくるモンスターも難なくダガーで斬りつけて撃退。酸素も持参してきた魔道具で補充できる。しかし、汚染された池にジワジワと体力を蝕まれている。こんな水中で力尽きたら…なんて嫌な想像が頭をよぎる。

 

 しかし、これまでに幾度となくこうして神器を回収してきたその経験は伊達ではなかったらしい。少し湖底に埋まっている神器の重さに苦戦したものの、無事に引き出す事ができた。

 

 

「ーーーぷはぁっ!」

 

 

 無事に鈍色に輝く神器を傍に彼女は久々の大気を浴びる事ができた。体感時間は中々長かったが、外の状況はまるで変わっていなかった。相変わらずアクアは叫んでるし明智は無気力にしている。

 

 

「ーーー終わったよアケチ君。色々考えなきゃならない事があるみたいだけど、とりあえず帰ろう?あそこのカズマ君達の一行に見つかるとなんだか厄介な事になりそうだしね」

 

「……あぁ、そうだね」

 

 

 そう言って緩慢な動作でテレポート水晶を作動させる。ウィズが命をかけて遺してくれた貴重な物だ。死んでないけど。

 

〜*〜

 

 目を覆い尽くす光が消え、目を開けるとアクセルの街並みが広がっていた。背後には立派な明智の自宅が。ちゃんと動作さえしてくれればこんなにも便利なのかと密かに感心する明智。

 そんな明智の心も知らずか、クリスはここに来てようやく自分の惨状に気がついた。びしょ濡れの全身はもちろん、身体の至る所に汚染されていたがゆえのヘドロの様な物のぬめりが付着し、何より臭いがかなりしんどい事になっているのに気づいてしまった。

 

 

「……アケチ君。アレもこれも申し訳ないんだけど…お風呂、借りてもいいかな…?」

 

 

 恐る恐る聞いてくるクリスと即座に口が断りの言葉を発してしまいそうになる明智。

 しかしこの辺りには自分の家しかなく、そこからこんなヌルヌルで悪臭の漂う女を街に放したらどんな噂を立てられたものか。いつかのアクアやめぐみん達から受けた屈辱が思い出される。

 

 

「…まさか一番風呂が家主じゃなくて君になるなんてね。まぁいいよ、好きに使って」

 

 

 だんだんと気持ちにも整理が付き、口数も増えてきた。しかし、疲労感からか昼頃だというのに眠気が襲ってきた。

 

 

「僕は仮眠してるから、風呂を済ませたら勝手に出て行ってくれて構わないよ。それじゃあ」

 

「…ほんとごめんね…今度埋め合わせは必ずするから…」

 

〜*〜

 

 目が覚める。そこにはいつかに来たベルベットルームの光景が広がっていた。そして、イゴールも彼の前にこちらをギラギラと開かれた目に薄らとした笑みを浮かべて座っていた。

 

 

「フフフ…どうやら、予想外の人物と出逢われたようですな。お客様」

 

「…なんでアイツが…いや、アイツによく似た誰かがいるんだ?アルセーヌも使う事が出来ていた…だが、決定的に何かが違う。言い表せないが…前にアイツと戦った時と今回とでは確実に何か違和感を感じた」

 

「あなたが遭遇しなさった『雨宮蓮』のような男…()()は、元は言ってしまえばシステムのような物でございました。人々の願いを叶える万能の願望器たる聖杯。しかし大衆の怠惰たる願いにより歪み、人を管理する統制の神と化しました。ただし最終的に大衆はソレを拒絶し、進むことを、そして怪盗団を望んだ事によって倒されたのでございます。ですが…偽りとはいえ、一度は強大な力を手にした神たる存在…この世界に転移し、再び根を張っていたのでしょう」

 

「願望を叶える存在……もしかして…」

 

「ええ。あなたのその強大たる力と願望により、斯様な姿と力をもってこの世界に現れる事ができたのでしょう。そしてもう一つーーーあなたのそのワイルドの能力は、かの存在によって与えられた物なのです」

 

「ーーー!つまり、僕はヤツに選ばれて、アイツはあんたに選ばれたということか」

 

 

 イゴールの言葉が衝撃のように脳を巡る。そして自身の力があんなものに授けられた物なのだという嫌悪感。そして父親だけでなくヤツにも影で操られていたのだと思うと静かに、しかし膨大な怒りが湧いてくる。

 

 

「かの偽りの神の名は『統制神ヤルダ・バオト』。この世界であなたが自分の意思を今度こそ貫きたいというのであれば、打破しなければならない存在でございます」

 

「『ヤルダ・バオト』…統制だなんてのはもうごめんだ。この世界が結果的に救われようと滅びようとなんでもいい。やってやるさ」

 

「フッフッフ…そう言って頂けると思っておりました。度々申し上げますが、誰かとの関わりとその力…それを努々、お忘れなさらぬよう」

 

〜*〜

 

 クリスは何故かこの家で1番最初のシャワーを浴びていた。温水で冷え切っていた身体も温まり、意識が少し朦朧とし、多幸感に包まれる。

 しかしそんな中でも彼女の中では今日の様々な出来事が渦のように思考を掻き乱していた。

 

 まずあの山賊の件。元はあの辺りに山賊が出ると聞いていた。構成員や首領も手配書の限りでは大したことはないはずだった。だからこそ、自分がわざと攫われて彼が果たしてどのような行動を取るのか。そして人殺しをするのか。それを確かめようとしていた。

 

 酒に酔っていたのも、思わず反射で山賊に反撃して攫われずに終わってしまうことを防ぐ為。そしてもしも彼が助けに来なくとも、あの程度の山賊ならば多少酔っていようと問題なく倒してしまえると踏んでいた。

 

 しかし、手配書で見た山賊の首領。それと彼女達が遭遇した人物とは明らかに人相や背格好が違っていた。つい最近に首領の首がすげ変わっていたのだ。あんな山賊達を統率する為に必要なのは、カリスマや時間、そして人望などだろう。しかし何よりも手っ取り早いのが『圧倒的な実力差による恐怖』だ。

 

 そして最も気掛かりなのは明智の動揺。発言からして顔見知りだったのだろう。更にそれは恐らく前の世界での顔見知り。

 明智に関する資料の読み直しと回収した神器に関する報告や、アクアと同じく先輩女神のディーテルの処分の顛末や事情聴取をせねばと再び降り積もった仕事にため息が漏れる。

 

 ただ、協力関係にあるとはいえ彼がわざわざ自分を助けに来てくれて、誰も殺すことなく事態を収めたという事実。それが彼女の胸を少し軽くさせた。元々無いから軽いけど。





5000字くらいにすれば投稿頻度もう少し上げれるとは思うんだけど今の1万字ちょいとどっちがいいのだろうね。良ければ意見お願いします。
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