転生魔王は女の子   作:A-11

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勘違い系大好き!


魔王が降ってきた!

普段からヨの魔城は死臭かぐわしき所なのだが、その晩は人間どもの最後の悪足掻きのおかげで、武具の残骸と肉片と血で、余す所無く美しく彩られておる。

ヨの待ち構える「玉座の間」にまで突入してきた勇者一行も、魔王であるヨの力の前には屈するしかなかったようだが、さすがのヨも無傷では済まぬ。

残った力を掻き集めて剣を振り上げ、虫の息で倒れている勇者の胸板に叩き下ろした途端、無意識にヨは緊張を緩める。

その時、ヨの横の空間が突然裂け、二つの眼から恐ろしいほど眩い光を放つ、巨大な岩のような魔獣が、聞いたこともない咆哮を上げながら襲ってきた。

魔獣の体当たりに対して受身をとることすら叶わず、激しく回転する天地にヨの体は叩き付けられ…。

 

「真央っ、いい加減に起きなさい! 遅刻するわよ!」

目覚まし時計のベルに負けず、母が怒鳴っている。

「芽生っ、お姉ちゃんを起こして!」

母の要請に応え、妹がヨの布団を引き剥がそうとする。

「お姉ちゃん起きろー!」

また、いつもの夢か。

いや、夢でなく転生前の記憶だ。

少なくとも、生まれた時には失われていた魔力が、長じるにつれ少しずつ我が身に戻って来ている。

炎属性の魔法が使えるようになってからは、キャンプなどの火熾しでは学級の者どもに頼られておる。

「うぅー、トイレくらいには行かせろ。」

眠い目を擦りながらトイレのドアを閉め、ヨは便座に座る。

尿の飛沫が飛び散るのを避けるために座るのではない。

転生前と違い、立ちションのできぬ体にヨは生まれたからだ。

 

「遅刻遅刻ー!」

フランスパンを咥えたまま、ヨは学校へと自転車を駆る。

ここは、剣も魔法もない異世界である。

図書館の書物などによると、剣に生きる勇壮な騎士は、硝煙くすぶる鉄の雨に撃たれ、魔力の主要な源泉たる妖精や聖獣や魔神は、神秘に包まれたその住処を人間どもの家畜に奪われ、姿を消して久しいらしい。

このため、転生後に物心が蘇った時は、非常に初歩的な魔法すら発動できなかった。

今でも、鍛錬を重ねているとはいえ村娘には変わりの無い己が身だけが、ヨの魔力の唯一の源泉だ。

その乏しい魔力では、学校への遅刻程度でイチイチ移動呪文を発動するわけにはいかない。

不意に、ヨは自転車のブレーキを握り締め車速を落とす。

と、塀の角からボールが現れ、ヨの目の前の歩道を横切って車道へ転がっていく。

まさか、自動車教習所で必ず習う、お約束の危険予知テンプレートとは!

小さい子供とは、何の予兆もなく飛び出す能力を持った、侮りがたい戦士のはずだが。

ボールではなく塀の角が現れた時点で速度を落とすのが、魔王品質の運転である。

車速を落としきらずにまだ姿を見せぬ戦士を躱すため、車体を車道側に寄せようと後方を確認したヨが見たものは、お約束の危険予知テンプレートを目の前にして、なお法定速度を維持したまま突っ込んでくるトラックである。

前方に目を戻せば、上半身の使い方も分からず腕をボールへ伸ばしたまま、下半身のみで必死に走るガキが通り過ぎる。

「痴れ者がっ!」

気付いたときには、ガキの後ろで自転車を乗り捨て、ボールを拾ったガキを抱えながら、法定速度維持に余念の無いトラックの真正面にヨはいた。

生きていればもう少し賢い奴になるであろうガキと一緒に、ヨは死亡か?

それとも、自動車免許をだまし取ったであろう運転手ごと、トラックをこの世界から消すか?

容易い判断を下すと同時に、持てる限りの魔力を集中したヨの右手が振り下ろされ、ヨとトラックの間の空間を切り裂く。

転送呪文を応用した迎撃魔法である。

移動先の制御を省略することで生まれた余裕を転送重量の増大に振り向けることで、如何なる脅威も迫り来るものならば、無条件にどこか異世界へ跳ばす事ができる。

トラックは法定速度を維持したまま、ヨの目の前の空間の裂け目へ吸い込まれる。

免許取り消し確定の元運転手には、異世界で新たな転移ライフを始めてもらおう。

同時に、ヨの後方で衝突音が響く。

思わず振り返ったヨの見たものは、先ほど異世界へ旅立ったはずのトラックだ。

ありえん!

このトラックには魔法防御の類が予め掛けられているのか?

しかし、魔力の絶えたこの世界では、失われた魔法を防御する理由も手段も存在しないはずだ。

自分が死にかけた事を察して泣き始めるガキをヨが歩道に降ろすと、運転手も運転席から降りてトラック正面へ回り込む。

「おい、オッサン、しっかりしろ!」

心臓マッサージを始める運転手の肩越しからヨの見たものは、ズタボロになった黒いマントとベコベコにあちこちヘコんだ黒尽くめの西洋甲冑でコスプレし、糸の切れた操り人形のように、有り得ない方向に脚や腕や首が曲がっている…死体か?

「おっ、お嬢ちゃん、済まないが救急車を呼んでくれないか?」

哀れな運転手の願いを、ヨは突き返す。

「どけ、運転手。救急車を呼ぶのはキサマだ。」

親猫が子猫の首を咥えて運ぶように、ヨは後ろの襟を掴んで運転手をコスプレオッサンから持ち上げる。

勿論、村娘の細腕一本で持ち上がるほど、大の男の体重は軽くはない。

が、動転する人間は弱い。

ヨが持ち上げたというより、ヨに促されるまま、運転手は自らの脚で立ち上がって移動したというのが正確なところだ。

こうして、運転手の代わりに心臓マッサージの配置にヨは着く。

コスプレオッサンに跨ってみて気付いたが、この西洋甲冑は本格的だ。

作りが丁寧なだけでなく、ベコベコの見た目に反して、村娘となったヨの体重ではビクともしない。

愚かな運転手め、この甲冑の上からの心臓マッサージは不可能ではないか。

転生前の世界で得た剣と魔法の知識を頼りに、甲冑の紐をほどき、オッサンから胸甲をはずす。

そして、先ほどの転送呪文の後に残った魔力を、体重と共に我が細腕二本に載せる。

意外に思う向きもあるかも知れないが、魔王だからといって回復魔法が全く使えないわけではない。

戦闘中でしかヨが魔法を使う場面を見ていないから勘違いしているのだろう。

とても苦手なだけで、回復速度の遅い初歩的なものならば、ヨは回復魔法を使える。

回復箇所を絞ることで、高くはないヨの回復魔法の能力でも、破裂した心臓と大動脈程度は再生できる。

同時に心臓マッサージを行えば、まだ蘇生できるはずだ。

ヨが体重を細腕に込める度に、オッサンの血シブキが何処からかヨの顔に飛んでくるが、気にしていられない。

遂に、意識が戻ったのかオッサンが呻き声を上げる。

心臓マッサージを終えた途端、ヨの目はコスプレオッサンの左手に釘付けになった。

自身の腹を押えながら、奴の手は淡く輝いている。

回復魔法だと!?

ヨは気付いた。

どおりで、転生前の知識ですんなりと胸甲を外せたわけだ。

血塗れで判り辛いが、このコスプレオッサンは転生前のヨだ。

ならば、このデイライト運動実践中のトラックは、あの時ヨに襲い掛かった、恐ろしく光る目を持った魔獣そっくりだ。

この甲冑には、カスタマイズされた高度な魔法防御効果をヨは付加していたな。

恐らく、この甲冑に衝突して一時的に合体したために、トラックはこの世界に戻って来たのだろう。

魔王を伴って。

まずいことになった。

このオッサンが完全回復したらどうなるか、手に取るようにヨには分かる。

絶対、ヨが世界征服に乗り出すより先に、奴が世界征服を終えるぞ。

自慢じゃないが、転生前のヨは強い。

転生後のヨが魔王に追いつくには、何十年かかるか分かったものではない。

今、ここで奴を消したいところだが、この数分の間に放った大技の転送呪文と苦手な回復呪文で、魔力がすっかり尽きている。

ならば、残された手段はただ一つ!

「救急車はもうすぐ来るぞ。…って、何やってるんだ、お嬢ちゃん!」

トラックの前でまだ伏しているオッサンを物理で足蹴にするヨを、後ろから羽交い締めにして邪魔する運転手。

「ええいっ、放せ! 奴に先に世界征服されるわけにはいかん!」

矛先を変え、ミゾオチへの肘打ちでトラック運転手を倒したヨが、魔王へ顔を戻す。

すると、奴の甲冑が輝くと同時に、奴の寝ていた地面が二つに裂けたかと思うと、地面の中とは思えない異空間に奴は落ちて行った。

「魔法防御の二次発動…。」

一般に普及している単純な魔法防御では、他の魔法防御により一度反射された魔法を防御できないなどの落とし穴がある。

なので、ヨが武具に施す魔法防御は、それらの落とし穴を塞いだ高度なものだ。

今回の場合、甲冑と合体したトラックの転送呪文を無効化した後、甲冑を纏う魔王が異世界に連れ去られている状態が生じたため、それを解決しようとして、転送呪文が発動したようだ。

「ぐほっ、何すんだお嬢ちゃん、…あれっ、オッサンは?」

くっ、運転手の奴め、もう少し寝ていれば良いものを。

直近の問題の解決方法が別の問題を生み出すことはよくある。

魔王が去っても、この世界の住人に魔法の存在を知られるなら、ヨの世界征服は難しくなるであろう。

「そのっ、あのっ、救急隊員の人達が物凄く急いで運んでいきました。たぶん。」

可愛い女の子の振りをして誤魔化せば、魔法の存在を悟られることはあるまい。

 

転生前の魔王が暴れていた世界のどこかで、三人の人物がなにやら相談している。

「まさか、魔王の死が、転生した奴自身の仕業だとはな。予想していたのか、釈迦?」

「いやっ、全く。だから極楽には奴の行き場は用意していない。地獄には用意しているだろう、閻魔?」

「そりゃ魔王だからな。だが、転生後とはいえ身を危険に晒して子供を助ける者の行き場は地獄にはない。となると天国しかないが、どうなんだ、神?」

「勿論、天国にも奴を迎え入れる予定はない。かといって魔を極めた奴の事だ。放っておけば何らかの方法で生き返るに決まっている。だから、この世界では生き返らないように、奴を異世界に転生させた。」

すると、天井の空間が突然裂け、黒いマントを羽織り、黒い甲冑で身を包んだ、魔王が降ってきた!




悪魔な主人公なら絶対、神に挑戦するだろうと。
なので、トラック転生は簡単だとしても、まさか神様転生を満たすとは…。
タイムパラドックスまで盛り込んでおり、何を書いているのか自分でも分かりません。
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