異世界無差別配信ラジオTS之型   作:ぴんころ

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個人的なイメージはニコニコで見る(重要)カルデアラジオ放送局。


第一回

「ふぅ……これで準備は整ったか?」

 

 少年が室内をぐるりと見渡せば、そこには数多くの機材がある。

 なんとなく使い方がわかる気がする見たことのある機材もあれば、どう使うのか予想することも難しいオーバーテクノロジーの塊まで。

 わかっているのは、それらが全て配信用の機材としてこの物部学園に運び込まれたことだけ。

 

「えっと、おにーちゃん。これにゆーくんの力を流せばいいの?」

 

「ああ、聞いた話だとそうらしいな」

 

 少年が隣にいる少女、ユーフォリアの言葉に頷く。

 ユーフィーという愛称で呼ばれる少女が指差したのは、機材の中でも一際大きなものの一つ。

 どういう機材なのか想像もつかないけれど、使い方だけはわかっているものの筆頭。

 

「不安か?」

 

「うん、ちょっとだけ……」

 

「気にするな。誰もこんなものに期待してない」

 

「そうは言っても……」

 

「うるさい」

 

「わふっ」

 

 少女の頭を乱雑に撫でる。

 物部学園生徒の希望を一身に背負ったことで、もとより嘘がそこまで得意ではないため緊張を隠せていないユーフォリアの頭を。

 

「お前は俺の妹なんだから、俺のいうことを聞いてればいい」

 

「むー……」

 

「返事は」

 

「はーい」

 

「よろしい」

 

 かなり傲慢な発言。けれどユーフォリアは逆らうことはせずなんだかなぁ、と苦笑い。

 口下手ではあるけれど悪い人ではないことはわかっている。

 今だって、「緊張する必要はない」「これをやるように提案したのは自分だから、失敗しても悪いのは自分だ」なんて言おうとしたのだろう。

 それがわかっているから、ユーフォリアも苦笑い程度で終わっている。

 

「……なんだ?」

 

「なんでもなーい」

 

「なら、とっとと始めろ。成功するにせよ失敗するにせよ、ユーフォリアがやらないとどうにもならん」

 

「うん!」

 

 先ほどの緊張が解れた様子のユーフォリアが「お願い、ゆーくん」と呟きながら取り出したのは、彼女の髪色と同じ空色の槍剣*1だった。槍剣である。大事なことなので二回言った。必要なら何度でも言う。

 

「よいしょ、っと。ゆーくん、大丈夫?」

 

 誰が見ても配信に使うなどとは思えない物騒な代物。

 ユーフォリアはそれに話しかけながら、彼女の身の丈ほどある、優美な光を刃とするその武器に巻きつけるようにして大量のコードやケーブルを繋ぐ。

 美しい大剣が、一瞬でタコ足配線*2のような有様へと早変わり。

 

 それを横目に、少年も手元から燻んだ宝珠を取り出す。

 少女が繋いだケーブルやコードの先、接続部分が宝珠の中に溶けていき、また別の接続機器が宝珠を中継機器としてパソコン、あるいはカメラなどの機器と繋がっていった。

 最終的な様相を見てポツリと一言。

 

「……これ、本当に動くのか」

 

「……た、多分」

 

 結果は、すぐに出た。

 

「動いた!」

 

「……驚いたな。この計器の文字が読めるのか」

 

「え、読めないよ?」

 

「……どうせそんなことだろうと思ったよ」

 

 文字の意味は少年にもわからないが、計器盤の示せる針が限界をぶっちぎっていることだけは目に見えてわかる。

 だから、目的を果たすための出力はちゃんと出ているのだと信じるほかない。

 準備はできたと言わんばかりに、ユーフォリアは配信用のスイッチに触れて──

 

「……え?」

 

「どうかした、ユーフィー?」

 

 少年の方を振り向いたところで、動きが止まる。

 視界に映った光景が本当なのかどうかを疑いごしごしと目を擦っているが、その瞳が捉えるものは何一つとして変わらない。

 

「お……」

 

「お?」

 

「おにーちゃんが、女の子になってる……」

 

「……何言ってるのさ?」

 

 そう、ユーフォリアの視界が捉えたのは、つい先ほどまで兄がいたはずの場所に一人の少女が立っている姿。

 兄が女性になったらこんな雰囲気なんじゃないか、とそう思わせる少女。

 自分の体を見て「おや、本当だ」と呟きながらぺたぺたと触っているので、この少女こそが兄であるとユーフォリアは理解する。

 

「まあいいさ。別に女になったからと言ってやることが特段変わるわけじゃないからね」

 

「え? ……え?」

 

「ほら、ユーフィー。配信を始めよう。この学園の生徒は皆待ってるわけだし」

 

「おにーちゃん、順応早くない?」

 

「配信の間は”おねーちゃん”、ね」

 

「むー……なんかあたしだけ焦ってるような気がする」

 

「焦ることなんて何もないよ。この配信は原作者(かみ)が発想をくれたものだからね」

 

「配信の方じゃないよ。おにーちゃんは、もう少し自分の体に興味持とうよ……」

 

「ぼくが何もないっていってるんだから何もないさ。それに、配信するなら女の子(こっち)の方が視聴者ウケは良さそうだし」

 

「それでも! ちゃんと、終わったら何が起きたのかは調べるよ!」

 

「はいはい。……それじゃあ、始めようか」

 

 兄……姉? が何はともあれ、と配信を始めようとするので、ユーフォリアも仕方ないなぁと思いながら目を擦るために離した指を再度スイッチに触れた。

 スイッチを入れるための言葉なんて古来から決まっている。

 少女もまたそれに則り、口にしたのは「ポチッとな」という可愛らしい掛け声。

 二人の生まれて初めての配信が、今始まる。

 

「あー、あー。マイクテスマイクテス。聞こえてますかー?」

 

 配信が始まるのと同時に、コメントが流れ始めた。

 『え、何これ?』『俺たちは何を聞かされているんだ……?』などなど、そこに見られるのは困惑の声が多い。

 

「あ、聞こえてないってことはなさそうだね」

 

「えっと、申し訳ないんですけど、しばらくの間あたしたちに付き合ってくれると嬉しいです!」

 

「まあ、付き合いたくないっていっても、半強制的なものなんだけど……」

 

 隣に来たユーフォリアを膝の上に乗せて、わわっと驚く少女にくすりと笑みを漏らす。

 どういうこと、と見上げて来た少女の疑問を流しながら「……もう」と口にする少女にアイコンタクトで合図をとって。

 

 

 

 

 

『それじゃ、第一回とわまじラジオっ! 出力過剰でスタートするよ!』

 

『始めちゃいますっ!』

 

 ”は?” ”え、なにこれ?” ”幻聴聞くくらい疲れてるのか俺……休もっかな……” ”なんか耳ん中に響くわこれ……” ”ユーフィー……?” ”始まってしまいましたか……”

 

 それが届いたほとんどの人間が、ぎょっとして動きを止めた。

 

『えー、皆様はじめまして。あるいはこんにちは。それともこんばんは? ……とりあえず、落ち着くまではちょっと待ちますねー』

 

 数分、あるいは十数分、それくらいの時間コメントが一気呵成に流れる様を見届けて。

 

『はい、それでは気を取り直して。この”とわまじラジオっ!”は物部学園のとある一室よりお送りしております』

 

『配信そのものは無差別で、物部学園の生徒さんの御家族に届けるために出力を限界まであげてるので、聞こえてるほとんどの人は無関係だと思います』

 

『この配信は魂そのものに届けるので、”見ない聞かない”は基本的には無理なんだ、ごめんね?』

 

 そこに映り込んだのは、対照的な二人の少女。

 一人は、艶やかな黒髪、黒曜石のような瞳、どこか愛嬌のある顔といった、どこにでもありそうなものが適度なバランスで組み合わさった少女。

 美少女という称号がふさわしくはあるが、それでも探せば見つかりそうな程度の美人である。

 

 もう一人は、流れるような空色の髪、紺碧の瞳、妖精を思わせる整った美貌といった、幻想の内にのみ生息を許されるような美が緻密に組み合わさった少女。

 美少女という称号がふさわしくはあるが、創作の世界にしか存在を許されないような美人である。

 

 どちらか単体だけでも十分に「美人だ」と思えるような少女たちだが、二人揃うと余計に美人に見える二人だった。

 

『この配信は、永遠神剣第三位”悠久”の契約者、ユーフォリアと』

 

『高柳(ゆき)の美人姉妹でお送りするよ』

 

 ”自分で美人を名乗るか普通……?” ”残念美人” ”美人なのは認めざるを得ない” ”なんかユーフィーに姉ができてる……” ”永遠神剣かぁ……ならこんな謎の現象でも仕方ないよなぁ……”

 

 黒の少女は幸を名乗り、青の少女はユーフォリアと名乗る。

 どう見ても姉妹には見えない二人に、脳内で見ている配信画面で一気にコメントが加速した。

 見ている人間の考えたことがそっくりそのままコメントとして排出される配信では、こちらの方が普通かもしれない。

 一部の人間が”永遠神剣*3”という単語を聞いてこの現象に納得しているが、そんな真面目なコメントは押し流されてしまっている。

 

『おいおい、うちのユーフィーを見なよ。どこからどう見てもパーフェクトな美少女だろう? どうしてこの子を見て”残念”なんて言葉が出てくるのさ?』

 

『多分、言われてるのおねーちゃんだよ』

 

 ”妹に責任を押し付けるな” ”あ、なんだか慣れて来たぞ” ”これ……運転中の人とか悲惨なことにならない?” ”ユーフィー、頑張ってる……”

 

『えっと、おねーちゃん。配信ってことだけど、何をするの?』

 

『雑談の予定だけど……学校だからゲームもないしね。今日のところは面白そうなコメントがあったら拾っていく、程度の話になるね』

 

 ”学校……?” ”学校ってなんぞや” ”そもそもユーフォリアには姉妹がいないはずなんですが……”

 

『お、ちょうどいいコメントがあるね。どうやらユーフィーの知り合いみたいだよ?』

 

『え、本当?』

 

 幸が指し示したコメントは、『ユーフィー、頑張ってる……』というコメント。

 ちょくちょく見受けられるユーフォリアの知り合いのようなコメントの中にあった最新のもの。

 

『いやぁ、良かったような残念なような。ユーフィーの記憶が戻らなかったらうちの子になってもらおうと思ってたんだけど……』

 

『……なんだかおねーちゃんがいつもと違う』

 

 ”配信であっぱらぱーになったか” ”無駄にテンションあげてもいいことないぞ” ”黒歴史確定だろうなぁ……” ”俺たちの魂に変なの流してるんだからいい気味だ”

 

『あっはっは、酷い言い草だな君たち』

 

 性転換しているのでいつもと違うのは当たり前である。

 

 とはいえ、そんなことは画面の向こうの人たちは知らない。

 なので好き放題言わせて反論はしないが、このような事態を持ち込んだ人間には罰を与えねばならないだろう。

 そう考えて、見ている人間が総じてヤバイと感じる笑みを湛え、幸がユーフォリアの耳元で「ユーフィーはあとでお仕置きね」と囁けば、擽ったいのか少女はぶるりと震えた。

 

 ”なんか妙にエッチ” ”うっ……ふぅ……” ”ほうほう……百合姉妹でしたか” ”ああっ……ユーフィーが変な道に……!”

 

『変な道とは失礼な。麗しき姉妹愛だよ』

 

『おねーちゃんと仲がいいのって変なことなんですか……?』

 

 ”そんなことないよ(手のひらクルー)” ”仲がいいのはいいことだよ” ”この二人、一緒にお風呂入ってそう” ”なんか幸ちゃんの手、やらしい……やらしくない?” ”ユーフォリアちゃんのことを抱きしめてる手すらやらしいとか……” ”ユーフォリアちゃんにそういう目を向けるのは解釈違いだぞ”

 

 二人の性格がなんとなく掴めなかった視聴者たちも、ここまでくれば少し程度は掴めてくる。

 ユーフォリアはこういうアンダーグラウンド的な話に対する知識は一切なく、逆に幸はそういう話にもある程度はついていけそうだ、という程度には。

 

『あぅ……おねーちゃん、そろそろゆーくんが限界だ、って』

 

『ん……? そうかい。なら、最後に一つくらい質問に答えて終了としようか。……お、そうだね、これにしよう』

 

 ”結局、これってなんだったの?”

 

『うん、そうだね。そういえばまだちゃんとは説明していなかった』

 

『これは、どこかの地球から消え去った物部学園から、その時に学園の中にいた皆の安全を家族の皆さんに知らせるための放送です』

 

『あとは、記憶喪失のユーフィーの家族にも運良く届けば、ユーフィーの記憶も戻るんじゃないかっていうのもあるよ』

 

『え、そっちは聞いてないですよ!?』

 

『言ってないもん。……ほら、それはあとで説明してあげるから』

 

『絶対ですよ? ……次の配信日時は、まだ決まってません。物部学園と届いた場所の時間の流れが一緒でない可能性もあるので、次の配信の時に前回から何日経ったのかは説明しますね。それで、大体の時間の流れの差を考えてくれると嬉しいです』

 

『この配信は、仮称”未来の世界*4”在中、物部学園より、物部学園が敷地ごと消えた*5地球へ向けてお送りしたよ』

 

 配信が、終わりを告げる。

 異世界から生まれ育った世界へと届ける、物部学園生徒の無事を伝えるための配信が。

 

 彼らがいうところの『未来の世界』と別の世界を隔てる壁を超えて。

 彼らが求める『地球』に届いてもまだ止まらず。

 その二つを含めた数多の世界が枝葉のように内包される時間樹という宇宙すら、この声が届く全域としては役者不足。

 

 時間樹という宇宙すら飛び越えて、それが当然のように乱立する無限の宇宙にまで響き渡った二人の声は、そんな言葉を最後に途切れたのだった。

*1
プレイ済みの人にはお馴染み、永遠神剣第三位『悠久』である。今回のお話の役割は増幅器。

*2
一つのコンセントにたくさん繋いだやつ。埃が溜まってることが多い。火事の元なので気をつけよう

*3
意思を持つ武器。契約した相手にすっごい力を与える。剣じゃないことの方が多いのでもっと自分たちの種族名を二度見しろ

*4
聖なるかな第5章舞台。『地球を発展させたような技術』が数多くあることでこう名づけられた

*5
第1章参照




あとがきではその話で初めて出てきた単語を説明していくよー!



・永遠神剣
 神剣、という名前の通り神のごとき力を契約者に与える「意思を持つ武器」であり、各々固有の力を持つ。
 そして、神”剣”という名前に反し、その全てが剣の形をしているわけではなく、本やランタン、果ては指輪などなど、武器ですらないものも。
 彼ら彼女らの特徴として「マナ」と呼ばれるエネルギー源を集めることを契約者に強要し、対価として絶大な力を与える。、というものがある
 その力は、永遠神剣の契約者は永遠神剣の契約者でなければ倒すことができない、というのが永遠神剣を知る者の共通認識になるほど。(第1作目では本気で走っていないのに、普通に車と競えるほどの速度を出していた)
 例外を除き十位から一位まで存在する永遠神剣は、数字が小さくなるほど位階が上がり、位階が上がれば上がるほど与える力も、固有の力も強力なものとなる。
 「永遠神剣が契約者を選ぶ」のが基本であるが、偶にその世界の特徴として永遠神剣を「与えられる」ということも。

・たこ足配線
 なんで君まで紹介コーナーにいるの?
 テーブルタップなどを使用して一つのコンセントに複数の電子機器を接続すること。
 コンセントを胴体、多数の配線をタコの足に見立てて作られた俗語のことである。ちなみに並列つなぎ(wiki調べ)
 主人公は、これを見て「クソ野郎がいろんな女に手を出してるように見えるな」「いや、それともいろんな女に金を搾り取られてるかわいそうな男かも?」とか思ってたり思ってなかったりする。

・ユーフォリア
 第1作、『永遠のアセリア』のアセリアルートエピローグで初登場した、『永遠のアセリア』の主人公夫婦の娘。第2作目こと『聖なるかな』ではプレイアブルキャラとなり、第3作目こと『悠久のユーフォリア』(発売日未定)では主人公を務める。
 契約している永遠神剣は第三位、『悠久』。愛称はゆーくん。契約時期は生まれた時点で。
 この話を思いついた理由である『アガスティア異世界放送局』という永遠神剣シリーズのラジオのパーソナリティーは彼女の声優さん。
 真面目で、礼儀正しく、天真爛漫で、子供っぽい。そんな彼女は非ヒロインであるにもかかわらず人気投票一位である。
 相棒のゆーくんの固有能力は「あらゆる不可能を可能とする」というもの。え、ちょっと待って。なにそのとんでもない能力!?
 ……ちなみに、上で語った十位から一位の枠組には入らない永遠神剣の一つ、鞘『調律』の転生体でもある。
 原作が18禁であるにもかかわらず「この子をえっちな目に合わせることはない」と原作者直々のお墨付きをもらった。

・未来の世界
 聖なるかなの本編、第五章で原作主人公たちが訪れることになる世界。
 「未来の世界」というのは仮の名前で、主人公たちから見て「地球の科学技術が成長すればこうなるんじゃないか」と思わせる世界だったのでこんな名前に。
 第四章時点で主人公を利用している男、暁絶によって「俺を追ってこい」と言われ与えられた座標にあった世界が普通であるはずもなく……?

・時間樹
 聖なるかなの本編の全面的な舞台。
 時間樹という一つの宇宙の中に、未来の世界、地球、本編の第二〜四章での世界が存在する宇宙が入っている。時間樹という巨大な箱の中に、地球という小さな箱が入っていると思えば簡単かも?
 時間”樹”であるのは、それら内包される世界を枝葉として見ているから。当然、枝葉なので枯れれば……世界は滅ぶことになる。
 ちなみに、主人公たちがいる時間樹の名前はエト・カ・リファ。今もこの時間樹を運営する創造神の名前から取られているのだが……人気投票ではエ・ト・カリファさんなる謎の人物が19位に輝いたらしい。
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