それは、『未来の世界』の真実が告げられてから二日経った後のこと。
「目的は、とても単純だ。この世界の中枢たるセントラルを落とし、そこにある『浄戒』を奪還する」
生徒会室にて告げられたのは、この世界を滅ぼすという宣誓。
だから今、幸はユーフォリアと二人、走り回っている。
そして、彼らの走り回るスラムの一角で、ぐしゃり、と何かが潰れる音が響いた。
「……これはラジオで語れそうにないな」
そう呟いた幸の周りには、無数の
けれど、一瞥すればそこにまともな”人間”がいないことは誰の目にも明らかなこと。
砕けた肉の中から機械が覗く人形。肉体の末端から黄金の粒子へと解れるように消滅する少女。
機械を宿す者は、男女問わず半身が消え去ろうと「敵を排除します」とだけ口にする。
消滅の最中にいる少女に至っては、髪型や髪色、服装の違いで目立たないがその全てが同じ顔。
「貰うぞ」
まるでクローンか何かのような、ガードナーと呼ばれる少女たちの死骸が消え去るよりも先に、幸に迫り来るのは五色から構成された同じ顔の少女兵隊。
それを目にして少女の亡骸と連動して消え去ろうとする墓標のように突き立つ武器の中から一本を引き抜く。
だが、位階は低くとも永遠神剣。それも少女と対応するようにして生み出されたもの。
当然、主人を殺した幸に無条件で従うはずもなく、握った手から抜け出そうと反発するが──
「やれ、『奏星』」
主人と共に消滅間際のその意思は、捻じ込まれた宝珠から流れ込む強大な意思に一瞬で押し流される。
実行犯は宝珠型永遠神剣、第四位『奏星』。幸と契約した永遠神剣。
その力が流れ込んだ次瞬、ガードナーが手にしていた永遠神剣は自我を失い、器は『奏星』の一部に。
シンプルな構造の片手剣、元が非常に低位の永遠神剣なので、強敵と戦えば一撃で粉砕される程度のものだが、急造の武器としては悪くない。
この世界に至るまでの戦闘でガードナー……他の世界ではまた別の名で呼ばれる存在の使う神剣の大体の強度は知った幸は、この程度の相手ならばこれで問題ないと判断する。
そうして、近接戦の準備が整った瞬間、ついに少女たちとの間合いは一瞬で詰められる距離へと至った。
白の少女の支援魔法によって肉体を強化された青の少女が、緑の少女による障壁にて身を守りながら迫る。
青の少女の道行を明るくするため、黒の少女は幸への
永遠神剣の属性と同じ五色の少女たちが行うのは、それぞれの属性色の特徴を端的に示した攻め。
五つの対応が、少年に同時に求められる。
「そんな程度、効くわけがないだろう」
その
永遠神剣のあらゆる行動の基礎となるエネルギーを過剰なまでに受け取った『奏星』が戦意高揚し、刀身を燐光で染め上げながら、その光を炎へ変化させる。
白と黒の魔法は邪魔しようのない代物だと切り捨てて、迫る青のガードナーと赤の魔法への対処へと。
「所詮は数合わせの雑魚で、俺たちの邪魔をできると思うな」
交錯の瞬間、青のガードナーの型に沿った一撃が届くよりも先に炎を纏った刀身が少女の矮躯へ吸い込まれる。
緑属性の障壁は、その特徴通り剣による
第四位の力から生み出される炎は、一瞬で少女の肉体を黄金の粒子へと変換させた。
その炎の向こうから、ガードナーが生み出した炎が飛んでくる。
「言ったはずだぞ、効くわけがないって」
足元に展開されたのは青の魔法陣。
生み出される魔法は、周囲の空間を凍結させていく。
それは迫り来る炎もまた、例外ではない。
「凍てつけ」
器である片手剣が持つ青属性の神剣魔法、サイレントフィールド。
魔法ではなく空間そのものへと干渉する魔法によって、永遠神剣の力によって励起したマナも強制的に鎮静させられた。
ガードナー達の放つ魔法がなかったことにされ、意志薄弱なはずの彼女達が目に見えてわかるほど動揺する。
その瞬間を狙って、強制鎮静作用よりもより強力な働きかけによって再度マナを励起させ、生み出したのは白の魔法陣。
「星の息吹を受けろ」
炎へと変化させるのと同じ要領で、纏った燐光が新たな形を生み出す。
神剣魔法、オーラブラスト。ありとあらゆる力の根源たるマナが、
巻き込まれたガードナー達に、未来などない。理力に特化した赤属性には突風という
適切な配分で物理と理力両方に対する防御性能を持つ青、黒、白の三名は、永遠神剣の位階の差でゴリ押し。
突風がやむ頃には、そこにはもはや誰も残っていない。
「……ん?」
そして、一旦戦いが終息したタイミング。遠方にてマナの高まりを幸は感じる。
先ほどまでのこちらとは比較にならないほどのマナの奔流。それが生み出す結末は、当然派手なものになる。
屹立したのは光の柱。飲み込まれた寂れたビルが一瞬にして消失した。
「あいつ、体力配分考えてるのか……?」
解き放たれた光の柱は、ライトバーストと呼ばれる神剣魔法の一種。
マナを感知する力がなくともとても目立つ一撃は、普通ならば敵に居場所を教えるようなものだから好ましくないのだが、今回に関しては話は別。
今の彼らには、これ以上ないほどに目立つ必要があった。
他の誰も目に入らないほどに。
リセットを止める。この世界を滅ぼす。そうと決まったならば、やるべきことは決まっていた。
だが、この作戦を実行する上で考えなければならないことは多かった。
まずは、リセットの存在。
正確には、俺たちがリセットを目撃した際の住民の動き。
リセットのためにセントラルが操った、ということならば、『浄戒』を奪取されそうな場合にも操ることができるのではないか、という疑念。
実際にできるかどうかは問題ではなく、可能性があるというだけでも十分。
神剣使いは唯一無二であるために、物部学園にはごく少数。住民すべてが敵となれば進撃そのものが止められかねない。
だから、彼らが無視できない囮が必要だった。
「おい、まだやれるか」
「うん、もちろん! まだまだいけるよ!」
その囮こそが、俺とユーフィー。
物部学園に集った神剣使いの集団……『旅団』における最強戦力たるユーフィーと、ラジオの配信にも使用する永遠神剣間での通信能力を持つ永遠神剣と契約をした俺。
常にチャンネルは開いてあるので適宜会話をすることはできるが、そんなことをすれば永遠神剣の反応が向こうでも出てしまうので、基本は終わったタイミングでこちらにタレコミを入れるためのものだ。
なので、向こうから終わったという報告が出るまでこちらは戦い続けなければならない。
そういう意味では、先ほどの膨大なマナが費やされたライトバーストは失策だと思ったのだが、ユーフィーはまだまだ大丈夫な様子。
「よし、なら行くぞ」
「うん!」
愛らしい笑みを浮かべる少女に背中を任せ、マナの高まりを感じて集合する兵士たちをその目に見据える。
ガードナーは、人工的に生み出された神剣使い。人類の叡智では未だ理解の及ばぬものを強引に生み出しているからなのか、天然物の神剣使いに比べて性能が劣化している。
少なくとも、俺の知る限りではガードナー……別の世界ではミニオンと呼ばれるそれらの最高値がどうにか通常の神剣使いに及ぶかどうか。
けれど、発生するかどうかは半ば運に頼った神剣使いより、安定して生み出した存在に忠実な神剣使いを生み出せるというのは防衛戦力として優秀だ、というのは目の前の光景を見れば一発でわかることだった。
そして、彼女たちの力を信じて大量に生み出せばどうなるのか、ということも。
「よくもまぁ、こんなに揃えたもんだ」
口から出た言葉には、この世界への嘲りが多分に混じっている。
背後のユーフィーが驚く気配を感じたが、こんな言葉が出るのも仕方ないことだろう。
マナが足りずに滅びる世界で、全て同時投入すればスラムを埋め尽くせるのではないかと思うほどには無尽蔵に湧いてくるガードナー。
さらにそこに守護者などという肉体をマナで構成された存在が多数いるのだから、これらを生み出さなければまだ多少は世界を維持できたのかもしれない、なんて。
「言っても仕方ないことか」
そうはわかっていても、言いたくなるのはここが”未来”の世界なのだからだろう。
この世界が陥った袋小路が、どうしようもなく地球が至る可能性を感じさせるから、こうはさせたくないという気持ちが湧き上がる。
「おにーちゃん……」
「なんだ」
「大丈夫……?」
ユーフィーの心配そうな言葉を無視して、生み出したのは十の魔法陣。
そこから射出されるのは、嵐の如くスラムを包む光の殺意。
波濤となって防御の上から全てを飲み込む八つ当たり。
「天空より響く行軍歌、地を踏みしめる者へ届け!」
放つ寸前、差し込まれるのは澄んだ声。
言の葉に触れた瞬間、魔法陣が膨張した。
「パッション!」
極限の活性を経て
ユーフィーの、第三位永遠神剣による魔法は他の人間が使った時と比べても桁違い。
思わず舌打ちを漏らす。ただの八つ当たりに彼女の力を使わせたことにイラついて、必要のないマナまで込めてしまった。
「あぅ……ごめんなさい」
「別にいい」
舌打ちのせいで萎縮した彼女だが、その力は絶大と呼ぶしかない。
魔法の威力は通常時の八割増しにまで引き上げられ、ガードナー程度であれば範囲内にいる存在の全てを根こそぎ消し飛ばせそうな程。
そんなタイミングで、異音が鳴り響いた。
「……面倒な」
「あ、おにーちゃんの武器……!」
元凶は、片手剣。よく見れば刀身に罅が入っている。
どうやら、ユーフィーによって強化された魔法の触媒として扱うには負担が大きすぎるようだ。
「問題ない」
「え、でも……」
「そもそも、こいつは武器じゃない」
本体が宝珠である以上、片手剣がいくら粉砕されても問題などない。
戦っている最中に砕けて『奏星』の本体を落とす、なんて隙も面倒なので宝珠を取り外す。
曲がりなりにも第四位の器だったことで得た強度を失い、一瞬で灰に変わったのを見届けて──
「お前はとっとと空に行け」
前方に見えたガードナーを、身を守るための障壁で包み込む。
障壁へと少女たちが一切の攻撃が通用しないと理解しながらも繰り出す光景を見ながら、障壁の内側に魔法陣を多重展開。
第四位の永遠神剣が生み出す障壁によって形作られた領域から彼女たちの力では抜け出すことができず。
かと言って青属性の神剣魔法の特徴とも言える、神剣魔法の
故に当然、ガードナーはその一撃で塵となる。
「……さすが、だな」
そして、それとほぼ同じタイミングのことだった。
空中より追い出された守護者が死骸に変じながら墜落して来たのは。
見れば、ユーフィーが空を舞いながらこちらに向かってくるドラゴンを一撃で粉砕している。
……わかっていたから向かわせたのだが、やはり彼女は俺なんかよりもとても強い。
兄として慕ってくれているのはわかっているので、もう少し、こう、妹が頼りにしてくれるような兄になりたいものである。
どこまでも自由に飛ぶ姿をどこか眩しく感じながらも、『奏星』へと意識を集中。
『空の方は任せるぞ』
『……! うん! 任せて!』
神剣間の通信能力を行使し、ユーフィーへ指示を出しながらも視線は一点に。
向いたのは、こちらへと向かってくる超密度のマナ反応の方向。
永遠神剣と契約したことで人類をはるかに超える身体能力を体得したガードナーたちであっても比較にならない速度で迫る、何者か。
「そういうわけだ」
捉えたのは、地上ギリギリを滑るように飛ぶ守護者。
ユーフィーが倒すためには空を舞う守護者に一手譲らねばならない高さを維持するドラゴン。
「妹に空は任せた」
精霊光が、宝珠を中心に溢れ出る。
集まる光が俺の意思に従って生み出すのは新たな形。
剣状になったそれを携えて──
「だから、地上を這うお前の相手は俺だ」
あの子に指一本だとて触れさせはしないと、斬りかかった。
・未来の世界(part3)
この世界の住人はアンドロイドである。
世界を滅ぼそうとする存在が現れた時、彼らはセントラルによって操られ、敵を排除するために動く。
・ガードナー
神剣使いの一種。永遠神剣が契約者を選ぶのではなく、生まれた時点で下位の神剣を携えているのだが……その最たる特徴は『人工的に生み出せる兵士』であるということ。
基本、オンリーワンの神剣使いとは違い、量産することが可能な存在。強さ以外、神獣を含めて全てが一緒。
未来の世界ではガードナーと呼ばれるが、他の世界ではミニオンと呼ばれたり、鉾だったり、
・属性色
永遠神剣の属性。赤、青、緑、白、黒の五種類がある。
赤属性は炎による魔法攻撃に特化していて、通常攻撃ですらも魔法ダメージに偏ったもの。
青属性は氷による、他属性の魔法の鎮静に特化している。
緑属性は風や大地。回復に特化した魔法と物理特化の防御能力が目立つ。
白属性は支援特化。バッファーとしての魔法や、精霊光と呼ばれるものを利用した攻撃を行う。
黒属性は弱体特化。デバッファーとして相手の能力を下げ、防御した時、カウンター性能で相手にもダメージを与える。
基本は一つの神剣に一属性。永遠のアセリアには二属性以上はおらず、聖なるかなではユーフォリアが青と白の二重属性、八章で仲間になるやつが全属性を使用できるに止まる。
・
白属性の魔法に関わるもの。基本、支援も攻撃もこれを使って行なっている。
マナを操作した時に生まれる粒子のようなもの、という程度しかわからない。
・パッション
青属性による
IとIIがあり、魔法攻撃力の40(80)%増加、魔法防御力の20(40)%低下の効果。
・『悠久』
槍剣としての姿と、サーフボードのような飛行形態の二つを持つ。