異世界無差別配信ラジオTS之型   作:ぴんころ

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第五回

 嵐が吹き荒れる。

 永遠神剣の力で擬似的に作られた嵐ではなく、自然に発生する嵐でもない。

 龍という災害の化身が、人の胴体ほどもある腕で空間を薙ぎ払ったことで生み出した人為的な自然現象。

 爪を避けようと意味をなさない、隙を生じぬ二段構え。

 

 それに対して幸がとった行動はいたって単純(シンプル)

 周囲の空間に満ちるマナと同調、並びに掌握。そして精霊光(オーラフォトン)へと変換し突風を生み出す。

 激突した二つの風は同威力だったようで、触れた端から相手を喰らいあって消滅する。

 

 そして、風が止むころには幸の姿は正面にはない。

 

「ォォ──ッ」

 

 赤き鱗の龍、守護者レクーレドの背後から狙うのは、翼の付け根。

 ビルの側面を駆け上がった幸は、乱立する摩天楼の中に姿を隠しユーフォリアを狙う龍種を、まずは己が戦いやすくなるように空の王者としての特徴を奪い去る。

 突き刺さったのは重たい一撃。前世の戦闘経験など存在しない彼の一撃は、まるで狂乱したかの如く。

 型など存在しない剣撃なれど、爆発を思わせる衝撃が精霊光で構成された刃が触れた瞬間に炸裂する。

 

 痛みに由来する咆哮をあげる龍の片翼は、もはや切り裂いたという形容が相応しくはない有様。

 爆裂に巻き込まれたと言われた方が納得できそうな状態になった翼では、片翼が無事だろうと決して飛ぶことはできないだろう。

 

「グルァァァァァァァァッ!!」

 

 けれど、龍はこの世界を守る者。

 この世界と敵対する者は命に代えてでも倒しきることだけをその本能に刻まれた存在。

 ビルの二階ほどの大きさを持つ龍に比べて矮小な幸には小回りで負けていると悟り、振り向いて攻撃を行うという二工程(ダブルアクション)を切り捨てて、人体には存在しない機関での攻撃へとシフト。

 

「ちぃっ……!」

 

 視界の外から襲い来る尻尾による薙ぎ払いに、咄嗟に精霊光の刀身を差し込んだが幸は一気に弾き飛ばされる。

 差し込んだ刀身に収束するマナは、見る者が見ればただ強度を上げたのではないとわかる代物。

 オーラフォトンバリアと呼ばれる防御技を剣状に束ね、攻撃を防ぐための刀身にて威力を極限まで減衰させた幸の瞳に映ったのは龍の姿勢。

 口元に収束するマナが次から次へと獄炎に移り変わる様が幻覚でないことは、視覚だけではなくマナを感じる第六の感覚すらも告げている。

 もはや姿勢を整える時間すら惜しいと、両手で握った剣より左手を離して守護者へと向けた。

 

「息が臭い」

 

 だから口を閉じろと宣誓し、幸の手繰ったマナが精霊光となりて彼の意思を実現させるための形を手にする。

 巨大な弾丸へと変化した光が瞬きより早く距離を詰め、レクーレドの真下から顎門をかちあげるようにして飛び込む。

 息吹を放つ瞬間、強引に閉じられた口。体内のマナを錬成し災害として放射されるはずのドラゴンブレスは、無理矢理に終わりをもたらされた。

 

 一瞬の怯みの間に再度、ビルの側面を利用しながらの立体的な攻撃。

 精霊光の密度が上がり、強度を高め、切れ味を上昇させての神速の突きは鱗によって防がれるが、それでも十分。

 鱗に通らぬことがわかったのだから、それ以外の場所を狙えばいいだけのことだと鱗に触れた先端から精霊光を炸裂(オーラバースト)させながら距離を取る。

 

「まずは一発──」

 

 砕けた精霊光の刀身を再構成しながら、それとはまた別に二種の精霊光を同時装填。

 体内でマナから練り上げた精霊光が、刀として結晶化した同一の力の表面を這い、内側より新たな力を引き出す。

 表面を這う燐光が炎となって刀身を延長させるのならば、内側から漏れ出る光は紫電となって周辺空間を焼く。

 

「叩き込んでやるかっ!」

 

 蓄積された戦闘経験という意味では、『聖なる神名(オリハルコンネーム)*1』を持たず、エターナル*2でもない幸がもっとも少ない。

 だがラジオ配信、並びにそれの大元である神剣通信を使用する幸は、マナの扱いでは『旅団』の中でもっとも長けている。

 それ故に成し遂げられた神剣魔法の複合行使。獄炎の精霊光と紫電の精霊光を同時に纏う彼だけの支援魔法『デュアルレゾナンス』。

 

「行くぞ、相棒」

 

『おう!』

 

 雷炎を剣に纏い、弾丸のように飛び出す。先ほどのように背後を狙うわけでもなく真っ直ぐに。

 翼を捥いだ以上相手は空を飛べないというのもあるが、それ以上に背後に回るためにビルの側面を使用する、ということがいちばんの問題。

 そうなった場合、途中で走っている、あるいは次に飛び移るビルを破壊するというインターセプトが容易になってしまう。

 

 そして何より──

 

「妹に無駄な心配をかけるわけにもいかないからなぁっ!」

 

 巨大なビルが崩れる、というのは遥か上空で戦うユーフォリアにも目に見えてわかりやすい地上での変化。

 そうなれば、心優しいユーフォリアのこと。幸のことを心配するだろう。それだけは断じてゴメンだと幸は唾棄する。

 兄としてのプライドが、彼にはあるのだ。

 

 激突。一瞬遅れて衝撃が響き渡る。

 吹き飛ぶのは瓦礫だけで、巨大な肉体と真正面から激突しながらも幸は力負けしていない。

 それどころか一気に押し込んだことで龍に踏鞴を踏ませ、態勢が崩れたところでいちばん柔らかいと思われる腹へと一撃を叩き込む。

 

 開いた距離は数十メートル。龍であれば一瞬で埋められる程度の距離を吹き飛ばしたところで、刀身たる結晶化した精霊光を一気に砕く。

 瞬間、纏っていた雷炎に物質の軛から解放された精霊光が飲み込まれる。

 無色の燃料が均等に雷と炎に吸われ、刀身という纏う対象を失った災害は、主人の意思によって龍という屠るべき対象を見据え、津波となって喰らいつく。

 

「これでまずは一発」

 

 レクーレドが復帰するよりも前に、再度刀身を形成しようとしたタイミングで──

 

「……っ!?」

 

 一瞬、死を覚悟した。

 

 

 

 

 

 小さな咆哮が土煙の中で轟く。

 それは王者の宣誓というよりは復讐者が復讐を成し遂げた時のような、どこかねちっこいもの。

 だが、体内から放つのではなく、己を構成するマナの一部すらも使っての、己を顧みない一撃(ブレス)は、何よりも空の王者に相応しかった。

 

 空の王者たる己を地上へ墜とした者への天罰だ、と龍は笑う。

 けれどこうして罰を与えながらも、己を墜とした者への殺意は消えることなく。この世界の敵としてだけではなく、己の誇りを傷つけたものとして許すつもりは毛頭ない。

 それでも、龍は知性もつこの世界の守護者。己の殺意に引っ張られて優先順位を間違えることはしない。

 空を駆ける青い彗星を追い立てる同胞への手助けこそが最優先。

 あれは、同胞がどれほど集まったとしても倒せる気がしない雌の人型。

 土煙の中にいる己の姿は見えず、一撃だけであれば確実な奇襲としてあの少女に当てられるのではないか。

 空を飛んでいるから狙いをつけるのは難しいだろうが、それでも不可能ではなく、あの雌を殺すことができるならば──

 

「おい」

 

 そう考えて、一歩踏み出した龍に背後から声がかかる。

 とっさに振り向けば、そこには見たことのない雌の姿。けれどどこか先ほど翼を切り裂いた雄の匂いがするような気もする。

 ありえない、と目を見開く。耐えるだけならばまだわかる。だが、無傷で切り抜けるのは、こうして目の前に立たれても納得できない。

 見れば、手に持った武器もあの雄と同じもの。ならば、目の前に立つ雌こそが先ほどの雄だとどうにか納得をして──

 

「きみ、どこを見ている」

 

 次瞬、その場を飛び退くが既に遅い。

 精霊光を結晶化することでどこまで伸びる刀身が、無尽蔵に注がれたマナによって少女が一歩も動かずとも龍にまで届かせる。

 鱗に覆われているはずの肉体を、障害など何もないと言わんばかりに切り裂いたその一撃を、幸は視認して、にぃっとどこか愛嬌すら感じさせて笑う。

 

「まったく、あの子は嫌になる程優秀だな」

 

 まあ、そのおかげで助かったのだけれど、なんて。

 少女は上空を飛び回る蒼い流星と化した妹へと思考を向けながら呟く。

 

「おかげで、ぼくもあの子の()として相応しくあろうと思うと大変だ」

 

 通信を通じて流れ込んだ力は、二つの神剣魔法。

 一つ目はコンセントレーションと呼ばれる力。

 それは集中力を高め、あらゆる攻撃に対して活路を見出すもの。そうして与えられた極限の時間で、幸は己が活路を見出した。

 

 二つ目は、コンセントレーションによって強化された集中力によって組み上げたもの。

 インスパイアと呼ばれるそれは、鬨の声となりて幸を激励し、見出した活路を実現できるだけの身体性能を与える。

 

 神剣魔法単体では性転換する分には足りなかったが、三つの重ねがけによってそれに足る状態になったのはちょっとした誤算だったが。

 そんなことは、戦場では一切の関係がない。

 

(あと使えるのは──)

 

 ちらり、と周囲に視線を向ける。

 空から降ってきた、ユーフォリアによって倒されたドラゴン達の死骸。

 これら、誰も使用することのない高純度のマナの塊はそっくりそのまま攻防に転用することが可能。

 

「もう一回聞くよ」

 

 ぶん、と握った剣を振るえば、雷炎が刀身を包み込む。

 ユーフォリアによる集中力の強化は、二種の神剣魔法の同時行使による新たな魔法だけではなく、それとはまた別の神剣魔法を単一で行使できるまでに幸を強化する代物。

 その一つの追加によって、先ほどまでと同じ魔法の行使でありながらまるで違う代物のように見えるまでに至った。

 

 生み出された雷炎は結晶刀身を覆うことに違いはない。

 けれど、龍の死骸というマナ補給源を得たことで刀身すらも溶かしかねない代物へ。戦闘前に情熱の名を冠する精霊光によって強化された魔法の最大出力に武器が耐えきれていない。

 

 それを振るう肉体も、先ほどまでとはまるで違う。

 高位神剣*3の力によって生み出される強化は、幸が生み出す強化とは比較することもおこがましい。

 物質と化したことで現実の法則に囚われる刀身が耐えきれないほどの力を、今の幸は引き出すことができる。

 

「きみは、ぼくの自慢の妹に、何をしようとしていたんだい?」

 

 強化された身体能力で、幸が一気に距離を詰める。

 振るった刀は今度は首に吸い込まれるように。

 放つ殺意そのものは幼稚なものだが、確実に殺すという鬼気迫る何かがあって、龍すら一瞬萎縮する。

 

 けれどそれが炎の剣閃だというのならば話は別だ。

 萎縮は即座に解かれ、レクーレドの瞳に宿るのは大いなる自負。

 炎を司る赤属性を与えられた守護者として、この世界に逆らう反逆者の炎に負けるわけにはいかないと吠える。

 

「うるさいなぁ。いい加減に黙って消えなよ」

 

 真正面から戦うのなら問題などない。

 それで怪我をしたとしても、ユーフォリアが戦うと選んだ結果として負った傷だ。文句を言える立場ではない。

 けれど背後から、あるいは意識の外から不意打ちしようとするなら話は別。

 天真爛漫で純粋無垢な少女を卑劣な手段を以て殺そうなどと、戦場では当たり前のことだろうと幸には我慢できそうになかった。

 理由はわからないけれど、あの少女には、そんな卑劣を知らないままでいてほしい、という気持ちが溢れ、この龍を殺せと叫んでいる。

 

「面倒だなっ!」

 

 放った一閃は過去最高。けれど、その一撃では殺しきれない。

 龍もまた、己と敵対し、この世界と敵対した幸を殺すために、その瞬間に博打に出た。

 

 いつものように空間を薙ぎ払う一撃。放つ一閃よりも、あるいは障壁を展開するよりも先に届くそれを、幸は剣で迎撃せざるを得なかった。

 吹き飛ぶ龍の左腕。されど、マナの霧と変わる龍の腕を本体であるレクーレドが吸い込む。

 己の肉体の一部を放棄しての一撃。体内に保有するマナを絞り出さなければ放つことができないはずのブレスを、体外に存在する己の肉体を材料に本来よりも短い時間で完成させる。

 

 それ自体は大した一撃ではない。赤き守護者が奇抜な発想で放ったとはいえ、チャージの時間を減らした程度。

 幸が押し流されながらも障壁で防ぎきったことからもそれはわかる。

 

 だから、本当に奇抜だったのはその次の行動。

 

「そんなことまでできるのかいっ!?」

 

 体外から吸収したマナを使用しての一撃と同時に、次の息吹の”溜め”を行う。

 凌ぎきった次の瞬間には、さらなるブレス。

 舌打ちをこぼしながらも、幸は空から降ってきた龍の死骸の一つに駆け寄った。

 

「悪いけど、使わせてもらうよ」

 

 駆け寄った瞬間、龍の息吹が解き放たれる。

 そちらには目をくれることもなく、幸は死骸に刀身を差し込んで。

 

「行くよ、『奏星』」

 

『はっ、いいだろう!』

 

 相棒へと声をかけ、一気に死骸をマナへと変えて、その全てを精霊光の刀身へと注ぎ込む。

 膨張する精霊光。先に行った刀身の破壊に似た技ではあるが、あちらとは違い刀身となった精霊光が注ぎ込まれるマナに形を保てなくなる。

 閃光の如く煌めくマナに指向性をもたせて──

 

「妹直伝の光の刃だ」

 

 同じ”マナでできた光の剣”を武器とすることからユーフォリアの意思で繋がれた術理を用いた、幸の新たな一撃の初お披露目。

 『奏星』が言う所の彼女への恩。切り札となる必殺技の存在である。

 

オーラフォトン──

 

 雷も、炎も、一気に増幅させて──

 

カリバーッ!」

 

 解き放った一撃が、周囲一帯をごっそりとなぎ払った。

 当然、レクーレドの存在も。

 

『……確かにこれは必殺技としては使えそうだな』

 

(でも、消費するマナが全く釣り合ってないぞ)

 

 周囲に敵がいないのでできる次に湧き出るまでの会話、のはずだったのだが、そこで幸は一つおかしなことに気がつく。

 

「……って、もしかしてこれで終わりか?」

 

 空から、大量のドラゴンが落ちてくる。ユーフォリアとは遠く離れた場所も含めて。

 気になって周囲のマナ反応を探してみるが、そちらにも全くと言っていいほど反応はない。

 

「おにーちゃん、もしかしてこれって……」

 

「ああ、そうだろうな」

 

 気がつけば、姿も男へと戻っている。

 この世界を滅ぼしたのだ、という実感が湧いてくるや否や、巨大な振動が世界全体を襲い始めた。

 

「きゃっ」

 

「っと」

 

「あ、ありがとうおにーちゃん」

 

「別にいい。倒れそうなら『悠久』にでも乗っておけ」

 

「はーい……あ、そうだ。おにーちゃんも乗る? 今から戻るんだし、こっちの方が早いよ」

 

「……そうだな、乗せてもらうか。さすがにちょっと疲れた」

 

「えへへ……はーい!」

 

 どこか嬉しそうな返答をしたユーフォリアの手を取って数秒後。世界と戦闘に入ったことで見つかりづらい場所へと移動していた物部学園の元へと青い流星が一つ、空を駆け抜けたのだった。

*1
『前世が神様である』と示すもの。ある意味、これが永遠神剣の契約者という神の転生体の大元であるかもしれない

*2
三位以上の永遠神剣と契約した存在。不老不死に近しい

*3
第三位以上の永遠神剣のこと






・聖なる神名
 オリハルコンネーム。第一話の後書きであげた「永遠神剣を与えられる」パターン。
 ”名”とあるように、これは名前。運命の一種、らしいのだが、作中世界でわかりやすく説明するのならば、これは「前世が神様である」ということの証明。
 前世の契約がそのまま生きているので、オリハルコンネームを持つ者は=で永遠神剣と契約している、と言うことができる。
 オリハルコンネームの力をどれだけ引き出せるのか、ということがこの時間樹における強さの指標……かもしれない。
 この世界で神剣使いを滅ぼすには、オリハルコンネームを破壊するしかないのだが、それができる唯一のオリハルコンネームが『浄戒』。ゆえにこそ、本当の意味で神を殺すことができるその神は恐れられている。
 ちなみに、この時間樹の外から来た場合にも、オリハルコンネームは与えられる。
 ゲーム的にはレベル制限。弱い神剣使いには「前世の神レベルにまで強くなれる」というものであり、強い神剣使いには「前世の神レベルまでしか力を出せない」という制限になる。

・エターナル
 第三位以上の永遠神剣と契約した者の総称。
 生命体としての寿命を失い、殺されない限りは死ぬことがない。一度時間樹から出てしまうと、世界の中からはなかったことになってしまう。
 普通に殺したとしても、神剣を手放していなければいくらでも復活することができる。殺すには「手放した」という過去を差し込むか、あるいは相手が契約を放棄する、といった普通ならないようなことが起きなければならない。
 以前あげたカオス・エターナルとロウ・エターナルというのは、エターナルの組合のようなもの。
 ちなみに、不老不死に近しいので成長することもないのだが、ユーフォリアはその例外。数百年というスパンではあるが、彼女は成長をしている。

・旅団
 物部学園を拠点としている神剣使いの集団。リーダーはサレス=クォークス。副リーダーはヤツィータ。
 未来の世界の一つ前、魔法の世界と呼ぶ世界にいたのだが、なぜかしれっと物部学園に入っている。

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