『未来の世界を』滅ぼしてから数日。二度目のラジオ配信から一週間経った日のこと。
「あー、マイクテスマイクテス」
「みなさーん、聞こえてますかー?」
向かった先は、前回と同じく配信を行うための部屋。
ただ、前回とは違って『悠久』と『奏星』を機器に繋いだりはしていない。
これでは放送が届くのは通常の校内全域だけになるのだが……今回に関してはそれでいい。
「聞こえてるなら反応くださーい」
「生徒会、校内の様子はどうなっている?」
物部学園のライフラインは全てものべーが担っている*1ので、当然電波も作ろうと思えば作れる。
スタッフ枠の生徒会の人たちが伝えてくれた生徒の様子から聞こえていると判断。
「はい、聞こえてるみたいなんで、そろそろ始めていくぞ」
「とわまじラジオっ! 番外編!」
「出力低めでスタートします……」
「始めちゃいますっ! もー、おにーちゃんもちゃんとやろうよー。おねーちゃんならちゃんとやるよー?」
そう、今回のラジオは番外編。全世界に届けることで元の地球に届けることが目的のラジオの本筋ではない話となると、それはやはり校内のみを目的とした放送だろう。
「今回のラジオですが、『結局俺たち一度もあの世界に降りてねーぞ』『一体あの世界で何があったの?』という質問が多すぎて捌くのに疲れた生徒会長から、何があったのかを簡潔に説明してくれ、との頼みがあったので発生したものです」
「だから、このラジオは校内だけでいいんですね」
「ああ。ついでに、今回のラジオも俺とこいつだけで進めていきます。語るならスバルさんも連れて来た方がいいんだろうけど……自分の世界が滅ぶまでを詳細に語れってどんな地獄だ、という話になるので」
あの世界は単純に滅びたわけではない。
最後に一つだけ、残せた存在があった。
それがスバル=セラフカという少年。とはいえ、今回のラジオには関係ない。むしろ、ラジオの存在意義を考えればこれからも呼ぶ必要がない。
「そういうことなので、これからの番外編ではあたしとおにーちゃんで『降り立った世界では何があったのか』を語ります。基本はナンバリングがある回で『降り立つことができる世界』なのかどうかを確認するまでを、結局降りることができなかった場合は番外編で語りますねー」
「……今回に関しては『滅んでた世界のロスタイムが終わった』、『降りる間も無く戦闘になった』くらいしかないがな」
「でも、さすがにこれだけで終わるととっても短くなっちゃうので──」
「ここからは前回と同じく、全世界配信で」
一瞬溜めた次の瞬間のことだ。
ユーフィーの言葉を引き継いだところで彼女の手元には『悠久』が現れ、俺の手元には『奏星』が現れる。
二度目ということで多少は慣れた手つきで、ユーフィーが蒼の槍剣に様々な機材を取り付けている最中に、一旦全校放送のスイッチを切って──
『第三回とわまじラジオっ! 出力過剰でスタートするよ!』
『始めちゃいますっ!』
準備を整えもう一度スイッチを入れた瞬間、その放送は校内から全世界へと届く範囲が移り変わった。
幸の姿も男の状態から女へと変わり、用意していたパソコンの配信画面には多種多様なコメントが。
”うわ、始まった” ”見る幻聴” ”聞く幻覚” ”あー、困りますっ! 戦争中にいきなりこれをやられるのは困りますっ!” ”始まった〜” ”やべぇ……既に慣れてる奴がいる……!” ”ユーフィー!” ”うわ、マジでこれ物部学園じゃん”
『戦争中の人には悪いね。いきなり頭の中に映像流されて、耳から入ってくる音がこれってなると、戦場だと怖いと思うだろうけど。まあ、安心してくれたまえ、君の相手も同じ状態だから』
『うぅ……あたしたちで頑張って考えたラジオがちょっと異常な出来事に思われてます……』
『まあ、そこは仕方ないさ。三回目ということで慣れてくれる人が出てきたことの方を喜ぼう。さて、気を取り直して……みなさん、おはよう。あるいはこんにちは、それともこんばんは? 今回のラジオは、こちらの時間で前回からぴったり一週間で開始しています』
『今回も、パーソナリティーはあたし、ユーフォリアと』
『高柳幸の美人姉妹でお送りするよ』
”なんかここまでくるとホッとしてくるわ” ”残念美人” ”お姉さん、ユーフォリアちゃんを僕にください!” ”ユーフィーは、誰にもやらんぞ……!” ”今日もいつもみたいにお父さんが殺意の波濤に目覚めてる” ”ユーフォリアちゃん養子にしたいって言ったら妻に『そりゃ別れたいってことかい!』って締められたぞ”
『あ、この人、多分前回もコメントしてくれたあたしの知り合いっぽい人!』
『いえーい、ユーフィーはぼくがもらったよー』
”貴様ぁっ!” ”全力で煽っていくスタイル” ”でもユーフィーちゃんめっちゃ幸せそう……” ”ところで、今日の衣装可愛い……可愛くない?” ”やってることは全く可愛くない” ”締められた兄貴は早く現実に戻ってきて” ”嫁さんは現実にいるぞ……?”
『うーん、さすがは永遠神剣由来のラジオ。大体のコメントがこっちに理解できる言語になってる……』
『パパも言語の壁には苦労したって言ってたような*2……』
『お、ちょっと思い出してきたかな?』
『パパ……あれ、パパって誰だっけ?』
『あちゃー』
”ユーフィー……” ”どんまい、お義父さん” ”うわ、地雷に突っ走ってる……” ”……ところで、今回は何するの?” ”そういやそうだな” ”前回はなんだっけ、ただのミスから始まったんだっけ?”
『うん、そうだね。今回からがこのラジオの本格始動だ』
『そういうわけなので、まずはこちらから!』
どん、とユーフォリアが前に出したスケッチブックには大きな文字で”お悩み相談”と書かれている。
”え、なんて書いてあるのこれ?” ”異世界の言語なんですかねぇ……” ”異世界とかマジかよ” ”えー、異世界も知らないの? おっくれってるー” ”こう、ちっちゃ女の子が大きな板を持ってるのは可愛らしく感じるものがあります……”
『これは前回も少し触れたお悩み相談だね。基本的には生徒のお悩みの解決のお手伝い、時折コメント欄のお悩みにも対応していくよー』
『というわけで、まず最初のお悩み……と行きたいところなんですが……』
『実は前回のアレで、全世界にお悩みが発信されるのは恥ずかしい、ということでまだ相談のハガキが来てません。しょうがないので、今回はコメントのお悩みに答えて行こうかな』
『えっと、個人を特定できるようなお悩みには答えられないらしいですので、そこは気をつけてくださいね?』
お悩み相談と聞いて加速するコメント欄。
ざっと目を通すだけでも大小様々なお悩みが。
『うん、そうだね。こういう質問多いから、先に答えておこうか』
”ユーフォリアちゃんをお嫁さんにください!”
”幸ちゃん付き合って〜”
『答えは両方”いいえ”。ユーフィーはぼくのもの。誰にも渡すつもりはないからね』
『あぅ……おねーちゃんってば』
『ほら、ユーフィーも言っていいんだよ? おねーちゃんはどこぞの馬の骨には渡しません! って』
『もう……』
”百合の花が咲いている……” ”イチャイチャしてる” ”毎回イチャつくつもりか” ”いいぞ、もっとやれ” ”これは……どっちが嫁?” ”ユーフォリアちゃんの方でしょ”
『そういうわけなので、この質問をしてくる連中はまず百合の間に挟まろうとすると殺されても仕方ないということを覚えておこうね? 多分、コメント欄のユーフィーの関係者的にも、ユーフィーに手を出そうとしたら殺されるだろうから。ぼくの方は……』
『おねーちゃんにひどいことするのは許しませんよー』
『ってことなので、次のコメントに行こうか。ユーフィーが選んでいいよ』
『う、うん……それなら、これとかどうかな?』
”少し前から、家の中に見たこともないペンダントがあります。怖くはあるんですが、見てると捨ててはいけない、という気持ちにもなって不思議です。どうしたらいいでしょうか?”
『……これは、うーん……うん、別にいいか。要するにこれは”このペンダントが恐ろしいものなのかどうかを判断したい”ってことでいいのかな?』
どことなく歯切れの悪い幸。
不思議に思って見上げたユーフォリアの頭を苦笑しながら撫でて、画面の方に向き直る。
『ぶっちゃけ、そちらの世界がどういう状況なのか判別がつかないとよくわからないけど、とりあえず永遠神剣とかの謎パワーは知られてる? ……そう、やっぱり知られてないよね』
『永遠神剣絡みってこと?』
『まあ、感情に作用するってなるとそうじゃないかなぁ。問題は、それがどっちのパターンなのかってことだけど』
”パターン?” ”……どこかで聞いたような話だな” ”これ、精神を操ってるようなものだから恐怖の域だろ” ”割と重たい相談で草すら生えない”
『一つ目は、普通にストーカー目的で永遠神剣パワーを使ってるってこと』
『もう一つは?』
『相談者さんがもともと大事にしてたけど、永遠神剣関係のせいでそのペンダントに関わること全部忘れてるってパターン』
”うわ、えっぐ……” ”忘れられてる側も忘れてる側も……” ”これ、エターナル案件では……?” ”エターナル?” ”永遠神剣関係の言葉は理解できんぜよ”
『エターナルになっちゃうと、世界の外に出た瞬間に存在そのものがなかったことになるからね。どこかのエターナルがエターナルになる前に相談者さんと知り合いでした、ってことになるともうどうしようもないのさ』
『うーん……これ、どうするのおねーちゃん?』
『……うん、そうだな。ちょっと相談者さんの知り合いに巫女さんとかいたら、その人に聞いてみるのもありかもしれない。時折、そういう謎パワーを発揮する立場の隠れ蓑として神職やってる人もいたりするから』
『えとえと、ごめんなさい。ちゃんとした答えをあげられなくて』
”いえいえ、問題ないですよー。あとで聞いてみますね”
『……あ、本当に神職の知り合いいるんだ』
『えっと、もしもあたしたちがそちらの世界にお邪魔することがあったら、その時にもう一回相談に乗りますね』
『うん、それじゃあ次のお悩みに行こうか。一番重要なやつだね』
”物部学園はいつになったら地球に帰ってくるの? うちの子も一緒にいなくなってしまって……”
『これって保護者の方、ですよね?』
『そうだろうね。……正確な答えは”わからない”です』
『え、これを読めばいいの? うん、わかった。……今、学園の方では前回から一週間の時間が経過しました』
”え? こっちだとまだ三日なんだけど……” ”こっちはまだ二日” ”そもそも一時間も経ってないぞ” ”は? 一ヶ月過ぎたんだけど”
『と、まあコメント欄にもある通り、時間の流れは世界ごとに様々です。そのため、いつになったら帰還できるかは謎なのですが──』
『やらないとダメな
『うん、そうだね。えー、今現在、物部学園は未来の世界を出発し、次の世界に向かっています』
『次の世界に、元の地球から物部学園がなくなる際にいなくなった人がいる、とのことなのでその人を捕まえたら元の世界に戻れるらしいですねー』
『これが終わると、ようやく元の地球がある座標を探すことができるようになります』
『今までは、元の地球の座標が見つかっても他の生徒を探してる間に地球の位置が移動したりしてたんですよね?』
『おう。……ですので、ようやく帰還の目処が立ってきた、ということです』
『といったところで、今回の配信はここまで!』
『お、もうそんな時間か』
『うん、未来の世界の崩壊時のことでゆーくんがちょっと疲れてるみたいで』
『そういうことらしいので、ユーフィーが言った通り今回はこれでお開き。今回の配信は、世界と世界の間の空間からお送りしました』
『聞いてくれてありがとうございます〜』
次の世界は、名付けるならば『枯れた世界』。
『未来の世界』が滅びを認めなかった世界ならば、『枯れた世界』は滅んだ上で何かを残そうとした世界。
物部学園が降りることになる、二つ目の『滅びた世界』である。
・ものベー
超絶スペック神獣。
鏡を通して、外部の情報を内部に伝える。多数の人間を連れて世界を渡る。時間感覚を失わないために擬似太陽と月を生み出す。生徒から少しだけエネルギーをもらって学園全体のライフラインを維持し続ける。などなど。お前、スペックおかしいよ……?
・永遠のアセリア
永遠神剣シリーズ第1作目、発売は2003年のPCゲーム。
このゲームで一番とんでもないのは、やはり聖ヨト語だろう。
なんと、最近では「言語翻訳」などのスキルで完全に無視されている『異世界との言語の壁』をしっかりと描いている。
主人公が少しずつ異世界の言語を覚えていくのである。
現在、Youtubeにある「悠久のユーフォリア・永遠のアセリア永遠神剣公式チャンネル」にてちょくちょくプレイ動画が挙げられているので、絵は古いが見てみる価値はあるんじゃないかなって思います。