「七星剣武祭で優勝することだけが卒業への道なんだろう?」
桐原が突然発した言葉に会場の生徒たちは困惑の声を数多く上げる。
「どういうことだ?」
「あいつだけ卒業の条件があるのか」
生徒の多くが卒業する条件があることに関心を持っていてそこらじゅうから疑問の声が上がっている。
「優勝?七星剣武祭で?」
「バカじゃねーの」
「あいつFランクだろ?マジかよ」
そして中にはFランクであることを馬鹿にし、七星剣武祭で優勝することなんてできないと決めつけて嘲笑する者までいた。
「おやおや笑われてるぞ悔しくないのか。必ず優勝するって今みんなに宣言したらいいじゃないか、なぁ!」
桐原の精神攻撃と観客の嘲笑に黒鉄は攻撃を避ける素振りすら見せなくなった。それでも桐原は攻撃の手を止めず黒鉄を痛めつけ続ける。
「へっ、無様なやつ」
「Fランクの癖に優勝とかありえねぇ」
「一回まぐれでAランクに勝っただけでよー」
観客たちの罵声が響く中、隣ではヴァーミリオンがなにやらぶつぶつと呟いているが何をいっているのかはわからなかった。おそらく観客や桐原に対しての不満なのだろうがここは見なかったことにしておくのが一番のようだ。
そして俺が視線を戻すとちょうど黒鉄が背後から矢を受け倒れるところだった。しかしここまで派手にやられても黒鉄は意識を失ってはいないようで試合終了の音声は流れない。そこで桐原は最後の追い討ちとしてさきほど黒鉄を馬鹿にしていた観客達に応援するようけしかける。
「ハハハハッみんなぁっ!挫けそうな黒鉄君を応援してあげてくれぇっ!それワーストワン!」
「ワーストワン!」
桐原の声に続いて観客達も黒鉄の二つ名を呼び、会場全体はワーストワンコールに包まれる。そして桐原と観客の声によって黒鉄の心が折れかけたその時、とうとうヴァーミリオンの怒りが爆発する。
「黙れぇぇぇぇっ!!アタシの大好きな騎士をバカにするなぁぁぁぁっ!!イッキ、こんなところで諦めかけてんじゃないわよ!上を見てるアンタがアタシは好きなんだから!アンタはアタシの前ではずっとカッコいいアンタのままでいなさいよこのバカぁぁぁっ!!」
ステラは自分の心の中に秘めていたものを解き放ち一輝を鼓舞する。
ヴァーミリオンのやつ、まさかこんなところで告白染みたことをするとは。だがこれほど男に気合いが入る言葉は存在しないな。
ヴァーミリオンの声に黒鉄は立ち上がり膝に力を入れると右の拳を握り締め自分の右頬を殴り気合いを入れる。そして再び桐原を見据えた。
「ありがとう、ステラ。いい喝が入った」
黒鉄の緊張が解れたみたいだな。これなら視野を狭めることなく解決策を考えられるだろう。さぁ黒鉄、ここからが正念場だ。
「喝が入ったからなんだっていうのかい?僕の狩人の森は遠距離攻撃でなければ絶対に破れない。それでも僕に勝つつもりなのかな?」
桐原の訝しげな声を無視して黒鉄は刀を構える。桐原は舌打ちを一つすると再び姿を消す。
「黙りか、まあいい。今更頑張ったところで僕の勝利は揺るがない」
黒鉄は深呼吸を一つして目を開ける。そしてついに切り札となる伐刀絶技を解放した。
「一刀修羅!」
ここで切り札を切ったということは勝負を決めるつもりか。だが桐原の狩人の森は姿や気配すらも消える完全ステルスで居場所を捉えるのは難しい。居場所がわからない相手をどういう風に突破するのか楽しみだ。
「欠陥だらけの技で避けられるかよ!」
桐原が弓を引き絞って矢を黒鉄に向けて放つ。そして桐原から放たれた矢は黒鉄に向かって一直線に飛んでいく。
「ホラホラァ!当たっちゃうぞっ!死んじゃうぞっ」
透明な矢が黒鉄を貫く・・・ことはなく黒鉄の手によって矢を掴まれたのだった。
「へ?」
掴んだ矢を素手で粉々にすると桐原の口から間の抜けた声が聞こえた。
「やっぱりね。桐原君ならここは必ず曲げてくると思った」
「バッ、バカな。見えてるっていうのか!?」
これまでこのような形で破られたことはなかったのだろう。未知の状況に今度は桐原が唖然としている。
「影や形も見えちゃいない。でもわかるんだ」
俺も驚いた。見えてはいないけどわかる、そんなこと勘が鋭すぎるならともかく普通ならありえないことだ。今のところどうしてそうなったのかは皆目見当がつかない。
「そんなことあるかぁぁぁっ」
桐原の言葉から現実を受け止められないという感情が透けて見える。実際黒鉄の強さは戦ってみて初めて理解できるもので動画では絶対にわからないものだ。そこに桐原の油断が重なって今の状況になったのだが取り乱している桐原にはそんなことは知る由もない。
「君の手順が、痛みの深さが、声音に宿る感情が、君の全てを教えてくれる」
続けざまに放たれる透明な矢をまるで見えているかのように全て切り落とすと攻撃が途切れたタイミングで再び息を整えると言葉を続けた。
「ならそれを辿ればいい。その果てに必ず君はいるのだからっ」
最後の一発で桐原の居場所を突き止めたようで黒鉄と桐原の視線が交わる。
「捕まえた。僕はもう君を逃がさない」
黒鉄と完全に目が合った桐原は一歩後ずさった。
「マジか。まさか桐原の狩人の森をそんな風に破るとはな」
「ヒキガヤ、どういうことよ!」
「黒鉄は相手の剣技の理を暴く
本当おかしいだろ、これ俺の体質の上位互換じゃねぇか。
「君の器はもう見切った」
桐原の居場所を完全に捉えた黒鉄はとうとう反撃に打って出た。
「いくぞ、桐原君。僕の最強を以て君の最強を捕まえるっ」
黒鉄は開いていた距離を詰めるため急速に接近を試みる。対する桐原は近寄らせまいと後ろに下がりながら矢を何本も放つ。
「うわァァァァァッ」
しかし黒鉄には当たらず段々と距離が近くなっていく。桐原は伐刀絶技で同時に無数の矢を放って足を止めさせようとするが黒鉄の足を止めさせることはできていないようだ。
「
無数の矢が黒鉄を襲うがほとんどの矢は黒鉄の横を通り過ぎ、稀に真っ直ぐ飛んでくる矢があるがそれらは黒鉄によって全て切り落とされる。
「待て待てっ!止まれっ!やめてくれェェェっ!」
黒鉄には止まれと言っているが自分は攻撃しているところに桐原の屑さが表れている。
「そうだ!ジャンケンで決めようっ」
なんとしても斬られたくない桐原は言葉でも行動でも黒鉄の動きを止めようとするが黒鉄は止まらない。そして最終的に散々虐めてきたことを棚にあげて友達面するが黒鉄には無視される。
「友達じゃないかっ」
固有霊装が消えていて完全に戦意を失った桐原は後ろに下がりながら悪足掻きをしているが黒鉄は完全に勝負を決めるつもりなようで一切動きを止めない。
「それ刃物!死んじゃうっ死んじゃうよ!分かった敗けでいいっ僕の敗けでいいから!痛いのは嫌だァァァ!!」
そして黒鉄が最後の一撃を桐原に振り下ろし刀が地面に突き刺さったところで桐原が気絶した。
「1ミリ予測とズレたな。僕もまだまだだ」
黒鉄が一言呟いたところで機械音声での桐原の戦闘不能が宣言され試合が終了した。
落第騎士の一輝と狩人の桐原の試合はこれで終了です。次話は選抜戦後の話を入れてから八幡の選抜戦の初戦の話を少しだけするでお楽しみに。