黒鉄と桐原の試合が終了した後、俺たち5人は2試合後にある俺の試合を観るために闘技場を出て門の前に集まっていた。今回の戦いの功労者である黒鉄は先ほどの激闘により治療が必要な状態となっているためここにはいない。 まず初めに口を開いたのは桐原との戦いに勝利した黒鉄の妹だった。
「一時はどうなることかと思いましたがお兄様が勝ってよかったですねステラさん」
「そうね。キリハラとの相性はかなり悪かったけどイッキなら勝てるって信じてたわ」
まあ、選抜戦の初戦で躓くようでは七星剣武祭の優勝は疎か選抜戦を勝ち残ることすらできないからな。だからどのような形であれ初戦に勝利できたことは黒鉄の実力から考えれば大きな一歩になるだろう。
「どこかの誰かさんが告白染みた叫びで黒鉄に活を入れたからな。それがなければ負けていただろ」
「うっ、うっさいわね。私は別にイッキのことが好きなわけじゃないわよ!ただあんなチキンに負けるのが嫌なだけっ」
伐刀者はある程度の慎重さがなければいけないから桐原の勝てる相手としか戦わないってのは否定できないんだよな。ただ逃げてばかりだと本当に大事なときに戦えなくなるから慎重すぎてもいけないが。
「ステラちゃんも素直にならないと彼を取られちゃうわよ。今は有名でないからライバルは珠雫しかいないけど、勝ち上がってきて有名になればファンも増えるしイケメンだからライバルもきっと増える。そうなったら黒鉄一輝争奪戦が起こってもおかしくないわ」
確かに黒鉄は見た目からしてイケメンだしファンとかライバルとか増えてもおかしくないわな。俺だったら見た目で寄ってくるようなやつは嫌だけど。
「確かに黒鉄は顔も性格もいいな。強いってことがわかったら言い方は少し悪いが結構優良物件だと思しライバルは増えるんじゃねぇか?」
「別にイッキのことが好きなわけじゃないんだから関係ないわよ」
黒鉄のことが好きなわけではないと口にするヴァーミリオンであったが、その顔はうっすらと赤くなっていて異性として意識しているのは丸わかりな状態であった。この話題から無理矢理話を変えたのはヴァーミリオンだ。
「そんなことより次はヒキガヤの試合じゃない。ヒキガヤの相手ってどんな奴なの?」
「あ?俺の相手は大杉剛ってやつだ。桐原と同じ低ランク差別者で黒鉄と一緒にいた俺にAランクの恥さらしだとか言ってたな」
「なんですかそいつ。ランクに関係なく接してくれる比企谷君を恥さらしとか何様なんですか」
兄を蔑ろにした黒鉄家と似たようなことをする大杉剛に対して怒りを露にしている黒鉄妹を見ながら俺は口を開いた。
「単純にランクにふさわしいやつと仲良くしろって言いたいんだろうあれは。互いにランク差のあるやつと仲がいいからそれが気に食わないんだろ」
自分のことでありながら他人事のように話していると珠雫は呆れたように溜め息を吐いた。
「なんでそんなに他人事なんですか」
「八幡くんにとってランクはそれほど重要ではないからですよ~。伐刀者のランクを当てにして戦っていたら死んでいてもおかしくない環境で生活してたからね~」
デネットさんの言う通り、油断している者が敵の攻撃によって死ぬのを戦場で散々目にしているため、ランクで実力を判断せず実際に見たり戦ったりして判断している。そのため俺にとってランクは強さを図る指標の一つなだけでそれほど重要視していない。
「ということは比企谷君と同じ経験をすればランク差別が減るってことね」
逆にいえばそういった経験をしなければ考え方は変わらないって捉えることもできるのだが。ていうか俺と同じ体験をするのは少し酷だと思うぞ。
「闘技場の観客席の入り口に着いたな」
闘技場に着き俺は時計を確認すると時間は試合開始の15分前となっていたため待機室へ向かうことを告げる。
「そろそろ時間だし待機室に向かうわ」
「頑張りなさいよヒキガヤ!負けたら承知しないからねっ」
「比企谷くんご武運を」
「頑張って」
「ハチマンくん頑張ってね~」
俺は4人に見送られて待機室に向かうのだった。
4人と別れた数分後、俺は入り口から少し離れた待機室に入った。待機室はロッカールームのようになっていて水道もついているなど更衣室に近い形状をしている。俺はそんな待機室の中央で目を閉じて意識を体の内側に集中させていた。
意識を集中させてみてわかったが魔力が若干荒れていて意外と緊張しているな。とはいっても戦場にいるときのように周囲に気を張り続けて空気が張りつめたようなピリピリしたものではなく、体が落ち着かずソワソワしたくなるようなものだからまた違った感じがするが。
とにかく緊張で体が固まるようなことにはなっていないためほどよい緊張を感じているということがわかる。荒れていた体内の魔力を落ち着かせると意識の集中を解き目を開ける。
今まで目を閉じて体内に意識を集中させていたため時間感覚があやふやな俺は待機室の時計を見ると時間は午後4時55分となっているのが確認できた。試合時間まで後5分ほど残っているが他にやることもなかった俺は魔力を一瞬で体の隅々まで均等に行き渡らせることと、時間をかけて魔力を体の中心に集めるといったことを交互に繰り返しながら努力について考える。
Aランクは国の顔とも言える存在であるため他の伐刀者に舐められることがないよう並々ならぬ努力をしている。しかしほとんどの伐刀者はその事実に目を背け才能には勝てないと思い込み努力をするだけ無駄だと諦めている。現にFランクがAランクに勝った時にはAランクに勝てたのはまぐれだとか八百長だとか騒ぎ、Fランクが勝てるなら他のランクでも勝てると努力を否定していた。
そこで今回の選抜戦でAランクの俺が圧倒的な戦いを見せ、強者に勝つためには強者以上の努力をしなければならないと演説することで黒鉄が強さが努力にあることと努力の重要性を伝えられる筈だ。
このように今回の試合を勝つことで伝えられることを考えているとアナウンスで俺の名前が呼ばれ、闘技場に入場するように促される。
やっと俺の出番か。実像形態とはいえiPS
俺は歩く早さを一切落とすことなく通路を通り、闘技場の扉を開けたのだった。
次はとうとう八幡の初陣です。どのような戦いになるかはお楽しみに