「じゃあなんだ!AランクやあのFランクは努力しているというのか!?」
「しているさ。他の奴等が思っている以上にな」
Aランクが努力しないで才能で戦ってきたと言いたいかのような大杉の発言に俺は否定の言葉を返すと努力について話し始めた。
「まずAランクってのは国家の顔を担う存在だから圧倒的な力が必要となることは知っているだろう。だからこそ国を侮らせないためにAランクは人一倍努力している」
闘技場の空気を掴むためにAランクの責務について自分の考えを話し始めると俺がAランクであることも関係あるのか観客たちは静かになった。
「しかしほとんどの者は才能を言い訳にしてAランクも努力しているという事実から目を背けている。だがな、才能の有無は努力しない理由にはならねぇ。むしろ努力ってのは才能という生まれ持っての差を埋めるために必ず必要となってくるものなんだよ」
黒鉄がしてきた努力をまぐれだとか八百長だとか文句をつけて否定されることがまるでAランクも努力するのがいけないことであるかのように聞こえたことがなによりも嫌だった。そのためAランクということで話に耳を傾けて貰いやすくなる俺の試合で努力について演説したのだ。
「確かに伐刀者の世界はランクによって才能に優劣が付けられているが、それが絶対的なものであるという保証はない。いいか?才能を羨むことができるのは真剣に努力してきた者のみだ。真剣に努力をしない者に努力してきた者を笑い、否定する権利はねぇんだよ」
そこまで言って左腕を斬られた痛みで蹲っている大杉に視線を移す。大杉は顔を涙で濡らしながらも俺を睨み付けていた。大方俺に腕を斬られたことに加えて自分よりも下に見ていた黒鉄の努力をAランクが称賛していることが琴線に触れたのだろう。俺に対して怒りをぶつけてくる。
「努力がなんだって言うんだよ!Fランクのクズができる努力程度でAランクに勝てるならそれこそ努力しなくても俺にだって勝てるはずだろ!?」
さっきまでの低ランクじゃ高ランクには勝てないって発言はどこいったんだよ、さっきまでとは真逆のこと言ってるじゃねぇか。まあいいや、これだけ言っても努力を否定する上にAランクを甘く見るなら直接言わなければダメか。
「なにを言っているんだお前は。大した努力もせずに勝てるほどAランクの名は安くねぇよ。それとこの際だからはっきり言わせてもらうが魔導騎士連盟が決めた伐刀者のランクなんて戦場じゃ参考程度にしかならないからな」
俺はここで話すのをやめると床に蹲っている大杉のところへ行き目の前で立ち止まる。
「さて、無駄話はこれくらいにして終わらせるとするかね」
俺がこの試合を終わらせようとしたその時、大杉が地面に蹲ったまま伐刀絶技を発動した。
「その無駄話のお陰で伐刀絶技を使う時間が作れた。これでAランクとはいえ動けないだろっ
うん?確かに若干動きにくいような感じはするがそれくらいだな。 少し身体強化するくらいで普段と変わらない動きができるようになるんだからそれほど倍加されていないんだろ。
「なんで動けるんだよ!重力を5倍には倍加しているんだぞっ!」
「なんか少し重いような気がするなと思ったら5倍にしてたのか。普段と変わらない動きができるから気のせいかと思ってたわ」
「なっ、 5倍にしてても重い気がする程度にしか感じてないのかよ・・・」
「まあ、そういうことだ。片腕もないし降参するなら今のうちだぞ」
戦意を失ったのを感じた俺は大杉に降参するように促すと一言呟くと大杉は降参した。
「クソッ勝てるわけがない・・・降参だ」
「試合終了!!比企谷八幡選手!Aランクの圧倒的な強さを見せつけ初戦に勝利だぁっ!」
会場が歓声で包まれる中、言いたいことを全て言った俺は足早に闘技場を後にした。
闘技場を出ていった後、俺は控え室に戻り着替えることなく荷物をまとめると控え室を出る。通路を通って外に出るとそこには試合前に集まっていたメンバーが揃っていた。向こうは俺に気づくと口々に労いの言葉をかけてくれる。
「お疲れヒキガヤ!負けるかもって思ったじゃない!」
「お疲れ様でした比企谷くん」
「お疲れ様比企谷くん。圧勝だったわね」
「ハチマンくんお疲れ~、余裕だったね~」
戦場に出たことすらない人間には勝てて当たり前だろ。 逆に傭兵組織の部隊長であるにも関わらず戦場に出たことのない学生に負けるようだったら部隊長の座を返還しなくちゃいけなくなるわ。
「ありがとうございます比企谷君、お兄様の努力を肯定してくれて」
デネットさんの言葉に脳内でツッコミを入れていると黒鉄妹に今ここにはいない黒鉄に代わって礼を言われた。だが、お礼を言われるようなことをしたわけではないと俺は弁明する。
「真面目に努力をしていないやつが努力を否定するのが気に入らなかっただけだ。別に黒鉄のために言ったわけじゃない」
「・・・比企谷君って捻くれてるとか言われたことないかしら」
有栖院が呟くと俺たちは一斉に黙り込んだ。俺は否定はできなかった。だって自覚はあるもの。
「・・・こほん。比企谷君が捻くれているのかどうかはともかく、ここにはいない一輝も含めて全員が初戦を白星で飾れたのはよかったわ」
なんともいえない空気になった俺達の中で初めに復活したのは有栖院だった。有栖院は全員が初戦を勝利したことを称えるとそれに続いてデネットさんも俺達のレベルの高さに驚いていた。
「ハチマンくんが強いのはよくわかっていたけど~他のみんなも強かったよ~特にステラちゃんは相手になにもさせなかったしさすがAランクだな~って思ったよ~」
「私も日本の学生騎士のレベルの高さには驚いたわよ!この学園を選んで本当によかったって思うわ!」
「日本の学生騎士のレベルが高いって聞いて思ったがなぜヴァーミリオンは日本の学校に来たんだ?」
俺はヴァーミリオンの口から日本の学生騎士のレベルが高いという言葉が出てきたのを聞き、この際にヴァーミリオンがなぜ自分の国の学校に行かず日本の学校に来たのか聞いてみた。するとヴァーミリオンは俺の問いにこう答えたのだった。
「向こうにいた頃はヴァーミリオン皇国唯一のAランク騎士で周りから天才だと持て囃されていたわ。だけど周りはアタシを天才という枠の中に押し込んでアタシのしてきた努力を見ることはなかった」
人は目で見えないものよりも目で見えるものを信じる生き物だ。だからこそ努力よりもランクを見てしまい、ランクの高い者を特別視してしまう。それが嫌でヴァーミリオンは日本へ留学したのだろう。
「だからアタシはあの国にいると上を目指せなくなると考えて伐刀者のレベルが高い日本に留学したのよ」
日本に来る外人の学生騎士の一部は確かにこのような理由で来る者が多い。それだけ日本の伐刀者のレベルが高水準にあるのだろう。
「さて、他の闘技場で試合しているやつで注目する生徒はいないしここらで別れるか」
俺の提案に反対する者はおらず俺とヴァーミリオン、黒鉄妹と有栖院、そしてデネットとで別れたのだった。