黒鉄妹やオルフェさん、有栖院と別れた俺とヴァーミリオンは、試合後に倒れた黒鉄の様子を見に行くため医務室に向かっていた。その途中では俺とヴァーミリオンの間に一切会話はなく、ただ無言で歩いているだけであった。そのまま互いに無言で歩いていると隣を歩くヴァーミリオンが俺に声を掛けてきた。
「ねえヒキガヤ。さっきの試合でアンタは努力について大勢の前で語っていたけどどんな努力をしてきたのよ?」
「はあ?なんでそんなこと俺に聞くんだよ。ヴァーミリオンが敗れた黒鉄と同じ部屋に住んでいるんだし黒鉄に聞けばいいだろ」
「それもそうだけどアンタが昨年の首席だっていうことも知ってるし、アタシと同じAランクだからこの際参考にしたいのよ」
同じランクのやつの努力を参考にするのは理に叶ってるか。強くなるために努力を欠かさないやつは個人的に共感もてるし教えてやってもいいかね。って教えてやってもいいとか我ながらすごい上から目線だったな。
「まあわかった。ただ俺は自己流でやってきたから参考になるかわからないからな」
俺はあらかじめ自己流であることを伝えるとヴァーミリオンが了承の頷きを返した。そして俺は今まで行ってきた努力について話し始める。
「まず初めに行ったのは体内の魔力を循環させる魔力循環訓練だ。この訓練を行うことで魔力制御が格段と巧くなるから、一番この訓練を多くやったな」
「確かにアタシもこの訓練はやったわね。これのおかげでよく暴走させていた炎の能力を制御できるようになったもの」
どうやらヴァーミリオンの話によると、この訓練を行うことでよく暴走させていた炎の能力を制御できるようになったらしい。それならあれほどの炎を剣の形に変えるのもそう難しくは無いのだろう。
「そしてこの訓練を行って魔力制御ができるようになってきたところで、体内の魔力を自分の好きな場所に好きな比率で分配する魔力分配訓練を行う。俺が伐刀者の能力で一番重要視しているのは魔力制御だからこの二つの鍛練に一番時間を使っているぞ」
俺が伐刀者として一番重要視している能力を明かし、その能力の鍛練方法を明かすとヴァーミリオンは感嘆の声を上げた。
「へえー。循環の訓練はあたしもやってたからわかるけどそんな魔力制御訓練もあるんだ。中々参考になるわね」
(訓練内容を2つ聞いただけでも魔力制御にどれほどの努力を重ねてきたのかわかるわね。これはヒキガヤに話を聞いてよかったわ)
「魔力制御についてはわかったわ。それじゃあ戦闘の訓練とかはどうやってるのよ」
「戦闘訓練か・・・戦闘訓練は大体1人でやってるな。ヴァーミリオンではまず不可能だが、俺の能力で自分の姿と同じ人形を創れるからその人形に対して戦闘訓練を行っているぞ」
この方法だったらほとんどの人が真似できないし、実戦に近い形で鍛練を行えるしで一石二鳥なんだよな。とはいえ、これは間違いなく参考にはできないだろ。
案の定ヴァーミリオンの参考になるようなものではなかったらしく、そんな訓練方法もあるのね程度に話は収まった。ただ色々な訓練方法を行っていると確信できたヴァーミリオンは他にもなにかないか問い掛けてくる。
「じゃあ剣術は?どうやって剣術を覚えたのよ?」
「剣術なんて特に我流だぞ。ヴァーミリオンの剣術みたいに型がある訳じゃないし、華やかさもない。ただの実戦剣術なのにそれを聞きたがるとはな」
俺が扱っているのは戦場を渡り歩き人を殺すことを念頭に置いた無駄を省いた剣術だ。その技術を後ろ暗いことをなにも知らないただの学生に教えていいのか・・・いや、伐刀者の学園に入った時点でそれは今更だな。となると多少は教えても問題はないな。
「よし、なら少しだけな。俺は小さい頃に親から剣術の基礎を習いその後はひたすら戦闘技術を身に付けたって感じだな」
「最初だけ教えてもらって後は自力でやってきたっていうことね。なんていうかイッキと似てるところがあるわね。強くなるために1人で頑張ってきたところとか」
「いやいや、黒鉄と俺は全然似てないだろ。確かに1人で頑張ってきたというところは同じかもしれないが、黒鉄は伐刀者ランクが最低のFランクな上に実家に疎まれまともに武術も教えてもらえなかった状況からここまで這い上がってきた。だが俺はランクが高かった上に基本だけでも習うことができていてスタートラインから格差があった。その格差をものともせずあれほどの実力になったんだから俺と比べたら黒鉄に失礼だ」
俺は両親を亡くして生きるために戦場に出ていたが、小さい頃に両親から武術の基本を習っていたなど黒鉄に比べれば恵まれていた方だ。だから黒鉄と俺は断じて似ていない。
「確かに言われてみればイッキはヒキガヤみたいにランクは高くないし家族との仲も悪かったわね。だからイッキは本当の意味で1人でやってきているんだわ」
ヴァーミリオンが自分の中で黒鉄と俺の違いについて考えている間に黒鉄が休憩している医務室の近くにたどり着いたため、話を打ち切る。そしてヴァーミリオンにもうすぐ医務室に着くことを伝える。
「おいヴァーミリオン。医務室に着くぞ」
「ええわかったわ。ヒキガヤもありがとう、アタシの話に付き合ってくれて」
こうして俺とヴァーミリオンの努力についての話が終わると再び無言になり医務室までの道を歩きだした。
そして少し歩いて医務室に着くと俺は黒鉄を意識しているヴァーミリオンに一言声を掛ける。
「俺はこの辺で失礼するからな。ヴァーミリオンも黒鉄のルームメイトなんだししっかりと話して仲を深めておくんだな」
「わかってるわよっ、大きなお世話ね!」
この反応からしてやはりヴァーミリオンは黒鉄のこと大分意識しているんだな。今回のことで仲が進展すればいいがそれこそ大きなお世話か。
こうして俺はヴァーミリオンと別れて医務室を後にするのだった。
今回の話で八幡の伐刀者としての価値観がほんの少しだけ明かされましたね。これから段々と八幡の話が明かされていきますのでそれもお楽しみに!