腐り目騎士の英雄譚   作:アルビノ

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明けましておめでとうございます、これからもこの作品をよろしくお願いします。

新年初投稿が約3ヶ月ぶりの投稿となりました。それではどうぞ!



武術の指導

 

 

 

 

「これから皆には体の力を抜いて水中を漂ってもらう」

 

 

 

 

一輝による武術の指導が始まってまず最初に行われたのは水中を漂うという一見武術に関係のないものだった。しかし一輝が言うところによるとこれも武術に関係のあるもののようで、一輝は次のように武術の関係性を説明した。

 

 

「この訓練が武術になんの関係があるのかと疑問に思っている人もいると思うんだけど、これには肺活量を鍛えるということの他に、自分の内側にだけ意識を向けることで身体の感覚を研ぎ澄ますといった目的があるんだ」

 

 

 

 

この訓練には肺活量を鍛え呼吸することによる隙を減らすことと、身体の感覚を研ぎ澄まし自分の思い通りに身体を動かせるようになることの二つの目的がある。この二つの目的は一輝の言葉通りどちらも武術に深く関係があるためまずこの訓練を行うことになった。

 

 

「ということで早速水の中に潜ってもらうよ。水中での呼吸は水泳時と同じでいいから潜水前に息を大きくしっかりと吸って酸素を確保することを意識してね」

 

 

黒鉄が訓練の内容を伝えると生徒達は黒鉄の指示に従い水の中に潜っていく。その後に続いて俺も水の中に潜ると先ほど黒鉄が説明した通りに身体の力を抜き水中を漂う。

 

 

確かに黒鉄の言った通り身体の感覚が研ぎ澄まされていくような感じがするな。それに肺活量を鍛えるのにも有効なようだしこの訓練は結構いいかもしれん。俺のいた場所は山奧だったから高地トレーニングくらいしか呼吸器官を鍛える手段がなかったが、こっちに来ている時は水中を漂う訓練を行うことにするか。

 

 

考え事をしていて長い時間水中にいたことに気づいていなかった八幡は、水から顔を出して周囲を見渡したことでようやく自分が長い時間水中にいたことに気づく。

 

 

「・・・意識を集中させすぎたか、俺以外全員水から顔を出してるじゃねぇか」

 

 

「比企谷くん、かなり長い時間潜ってたわね。こういった訓練は前からやってたのかしら」

 

 

「いや、これをやったのは初めてだが俺がいたところが同じような環境だったからな。酸素が少ないところでの訓練に慣れているだけだぞ」

 

 

「慣れていた感じの雰囲気があったから聞いてみたのだけど当たっていたみたいね」

 

 

俺の答えに納得したのか有栖院はそれ以上なにか聞いてくることなく再び黒鉄の指導を聞き始めた。そして俺もなにか自分の訓練に取り入れられるものがないか黒鉄の指導する声に耳を傾ける。

 

 

「一回みんなに水中を漂ってもらったけど自分の身体の内側に意識を向ける感覚をなんとなくでもいいから掴めた人はいるかな?」

 

 

黒鉄が訓練に参加している生徒達に自分の身体の内側に意識を向ける感覚を掴めたかどうかを聞くと、感覚を掴めたと答えたのが俺と有栖院、なんとなく感覚を掴めたと答えたのは黒鉄妹とその他数人だけだった。そのため全く感覚を掴めなかった人の為に黒鉄がアドバイスを送る。

 

 

「感覚を掴めなかった人は、水中で目を閉じて身体の内側の音を聞くことを意識してもう一度漂ってみよう」

 

 

一輝のアドバイスを聞いた生徒達は今度こそ感覚を掴めるようにと再び水中に潜っていく。その後、4分の1程度の生徒がなんとなく感覚を掴めたという状態となったところで加々美がやって来て一輝になにか耳打ちした。

 

 

そして数分で加々美が耳打ちを止めると一輝は指導を受けている生徒達に一旦休憩に入ることを伝える。

 

 

「みんな少しいいかな?武術の指導を始めて2時間経ったしこれ以上長時間訓練しても集中力が下がるだけだから休憩にするよ。それで後5分程休憩したら再び指導を再開するけど、僕は今から少しこの場を離れるから戻ってくるまで比企谷くんから武術の指導を受けてね。八幡もそれでいいかな?」

 

 

「なにがあったのかは知らんが別にいいぞ。人に教えるのは今までやってきたことの振り返りに有用だからな」

 

 

八幡から了承をもらった一輝は加々美からステラがいる場所を教えてもらい、そこへ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

一輝がステラのいるところへ向かってから5分経ち休憩時間が終わったため、生徒達は八幡から武術について教えを受けていた。

 

 

「黒鉄が用事で席を外したから戻ってくるまで代わりに俺が指導する。まずは指導の前に武術をどのような技術だと認識しているのか教えてくれ」

 

 

八幡が武術についてどのような技術だと認識していたのか生徒達に尋ねると、とある一人の女子生徒が八幡の問いにこう答えた。

 

 

「私は黒鉄くんの試合を見るまで、武術は能力に恵まれない人が覚える小手先だけの力だと思っていました」

 

 

女子生徒が答えた後に他の生徒達数人にも同じ質問をしたところ、どの生徒からも同じような答えが返ってきて武術を軽視していることがわかった。

 

 

「なるほど、つまりお前らは武術のことを覚える必要のない無駄なものと認識しているわけだ。それならまずはその認識をなくすことから始めるぞ」

 

 

そう言って俺は伐刀者の中で武術を習得していることで有名な者の名前を挙げる。

 

 

「まず始めに武術を高レベルで習得している伐刀者についてだが、学生騎士では昨年の七星剣王である諸星雄大や七星剣武祭ベスト4の東堂刀華、プロの魔導騎士であれば西京寧音や雪ノ下陽乃が武術を高レベルで習得している伐刀者に挙げられる」

 

 

八幡の口から挙げられた名前は誰もが知っているような強力な伐刀者ばかりだった。そんな誰もが知っている強力な伐刀者が武術を蔑ろにしていないのだから、武術の習得が伐刀者にとって重要なのは誰の目から見ても明らかだ。

 

 

「ここで挙げられた名前以外にも武術を習得している者は多いがその大半は強力な伐刀者だ。それでなぜ強力な伐刀者の多くが武術を習得しているのかわかるか?」

 

 

生徒達に聞いてみたが答えられる者はいなかった。なぜならこれまで武術のことをまともに知ろうとしなかった者が大半だからだ。ということで俺は強力な伐刀者が武術を習得している理由を説明する。

 

 

「理由は異能が戦闘向きではないからだったり自身の能力との相性だったりと色々あるが、総じて言えるのは彼らが強さに貪欲で、強くなることに余念がないからだ」

 

 

強者は強くなるために様々なものを自身のものにしようとする。それに対してほとんどの者は異能の鍛練を行うことが推奨されていることを理由に、武術を始めとする異能以外のものを覚えようとしない。その差が強者と弱者を決める要因となるのだ。

 

 

「そのため強力な伐刀者は、伐刀者としての能力である異能の鍛練と同等の時間を武術の鍛練に費やすことで自身に取り入れ、同時に武術に関する知識も蓄えている」

 

 

黒鉄の指導を体感し現時点の生徒達には黒鉄の指導が合うことに気づいていた俺は、武術の指導を黒鉄に任せて武術に対する知識の重要性について教えた。しかしその最中に黒鉄が戻ってきたため話のキリがいいタイミングで教えるのを切り上げる。

 

 

「ということでいかに伐刀者にとって武術が重要なのかわかっただろう。そこで君達には本格的に武術を覚えてもらうことになる訳だが、はっきり言って俺より黒鉄の方が指導は上手い。だからちょうど帰ってきた黒鉄に任せることにする。じゃあ黒鉄後は頼む」

 

 

八幡に指導者の交代を頼まれた一輝は八幡と交代すると武術の指導を始めた。そして半日かけて指導が行われたことで生徒達はクタクタになって帰路に着いたのだった。


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