プールで一輝による武術の指導が行われた次の日、八幡は一輝の試合がある闘技場の観客席にやって来ていた。観客席は試合開始を待つ生徒達の声で溢れていてこの試合に注目している者が多いことが窺える。
それもそのはず、今から行われるのはランクに似合わぬ強さで勝ち上がってきて人気が出てきた一輝と、生徒会の一員で序列4位の生徒の試合なのだ。そのため観戦者が多いのもわかる話だ。そしてとうとう選手入場の時間となり新聞部の生徒が実況を始める。
「さあ、始まりました七星剣武祭代表選抜戦。第7試合の対戦カードは1年Fランク、
実況の声と共に姿を現したのは日本刀型の
「黒鉄選手は初戦に狩人の二つ名を持つ桐原選手に勝利を収めるとその後も勝利を積み重ね五戦全勝。果たして無冠の剣王の快進撃は一体どこまで続くのか!そして対する兎丸選手は全試合危なげない試合運びで黒鉄選手と同じく五戦全勝。兎丸選手は生徒会の役員にして序列3位の底力を見せ、黒鉄選手の快進撃を阻むのか!それでは第7戦バトルスタート!」
試合開始のブザーが鳴り響くと、恋々は試合が始まっているにも関わらずその場でステップを踏みながら一輝に話しかける。
「やあ黒鉄くん、狩人との試合を見せてもらったけどいい試合だったよ。まさか狩人に勝つなんて」
「あの試合は決して楽なものではなかったのでそう言ってもらえると嬉しいです兎丸先輩」
「僕と同い年だし敬語じゃなくていいよ黒鉄くん。確かに楽なものではなかったのはわかるよ、ボロボロになっていたからね。だけど狩人程度の強さで苦戦しているようではこの僕には勝てない。そのことを教えてあげる」
そう言って恋々は一輝の周囲をグルグルと回りだす。そんな恋々の動きを追おうと一輝は視線を動かすが恋々の姿を捉えることはできず、残像が辛うじて見えるだけだった。
「出たぁ!マッハグリードだぁぁぁ!自分にかかる速度を累積し、停止しない限り無限に加速し続ける。これが速度中毒兎丸恋々選手の伐刀絶技。そのスピードは既に音速を超えています!」
なるほど。始めに会話をしながらステップを踏んでいたのは速度を累積する能力の弱点となる初速を確保するためというわけか。ルールのある試合ならともかく戦場だと状況によっては弱点となるが概ね強力な能力といえるな。
弱点となる初速を確保した恋々はさらに加速を続け、とうとう一輝の動体視力でも視認できない速さに到達する。
「どう?驚いたっしょ黒鉄くん」
「ああ、流石に生徒会役員を務める兎丸さんだ。目ではとても追いきれない」
確かに黒鉄の言う通り目では追いきれないが、目で見えないだけじゃ桐原と大して変わらないな。それに能力の都合上兎丸は黒鉄に接近しなければならないが、黒鉄にとってクロスレンジは自分の領域だしもう勝負は決まったな。
「そうだよねっ、確かに黒鉄くんの身体能力には目を見張るものがある。だけど音速を遥かに超える僕を捕まえることなんてできないよ!さあ、捕まえられるものなら捕まえてごらんよ黒鉄くん。いくよっブラックバード!」
一輝の背後から恋々の音速を超えた拳が襲いかかるが一輝はその攻撃を回避しながら恋々を捕まえると地面に叩きつけた。恋々はすぐに立ち上がろうとしたが目の前に刀を突き付けられたことで動くのを止めて降参したのだった。
一輝の試合の後にはステラの試合もあったのだが、その試合はステラの勝利という形で決着がついた。実力者から見たこの2試合は特に見所のないものだったが、ほとんどの生徒からすると注目度の高い試合であったため会場のボルテージは最高潮になっていた。
そして今から行われる試合の実況をする放送部の生徒は、前の試合によって高められた会場のボルテージが覚めない内に出場する選手の紹介を始める。
「さあこのままの流れで次の試合に参りましょう!まず始めに長い黒髪をはためかせながら現れたのは2年Cランク、鷺沼慎之介選手です!昨年の代表選抜戦では惜しくもあと一歩のところで七星剣武祭出場はなりませんでしたが今回は違うぞ!これまでの成績は5戦5勝、今回格上に勝利して七星剣武祭出場へ一歩近づくことができるのか!」
実況の声と共に長い黒髪を束ねた背の高い男子生徒が現れると会場の女子達が大勢歓声を上げる。歓声を受けた男子生徒は歓声をものともせず闘技場を歩き、所定の位置に着くと直立した。そして次に紹介されたのは八幡だ。
「対するは1年Aランク騎士、比企谷八幡選手だ!これまで5戦全勝、2戦目以降全ての試合で対戦相手を一太刀で沈めています。今回も対戦相手を一太刀で沈めてしまうことになるのか!」
八幡が闘技場に姿を現し男子生徒の対面に立つと、相手の方から八幡に話しかけてきた。
「こうして会うのは初めましてだな。しかしお前のことを初めて見た時からわかってはいたが只者ではないな、隙が微塵も見当たらない」
「俺のことを只者ではないと言うが、かの有名な鷺沼流の師範代に高校2年で就任したあんたも大概だからな」
「確かに他の人から見たらどっちもどっちか。さて、観客も試合開始を待っていることだし始めるとするか比企谷」
「そうだな。お互いにいい戦いをしようか」
二人は話を終えると互いに霊装を展開して試合開始の合図を待つ。そして両者の準備ができたところで実況が試合開始を宣言する。
「それでは参りましょう、第9戦バトルスタート!」
試合開始の合図と共に両者はぶつかり合ったのだった。