「どういうつもりよイッキ!あんなクズどもに好き勝手言われてっ。大体ね、最初の一撃だってわざと避けなかったでしょ!」
「・・・っ」
「下手に避けたらややこしくなる。こんなところで揉め事を起こすわけにはいかないよ」
「そうだな。俺やヴァーミリオンはAランクだからよほどの事がなければ退学になんてならないが黒鉄は違う。日本支部は黒鉄を伐刀者にはさせたくないから色々理由をつけて退学させようとするぞ」
そうならないためにはああいった面倒事は時間が過ぎ去るのを静かに待つのが一番だ。そのことはヴァーミリオンも理解しているが納得は出来ていないといった様子だ。
「それはそうだけど・・・イッキなら隕鉄を使わなくてもあんな連中・・・」
「それはどうだろう?」
黒鉄の実力をよく知るヴァーミリオンは霊装を使わずとも簡単にさっきの者達を倒せるだろうと訴えたが当の黒鉄本人はそれを否定した。
「彼は相当強い」
サングラスの男か。確かに俺が手を掴む直前に酒瓶の振り方を変えて俺の手を避けていた。あの動きは身体能力が優れていなければできないということは黒鉄なら気づいているだろうな。
そこまで言った時目の前から少年の声が聞こえてきた。
「いやぁ、災難だったね厄難だったねぇ。目についた人間誰彼構わず噛みつく貪狼学園のエース、
・・・全く気づかなかった。これでも気配察知には自信があったんだが。それにしてもさっきの男の名前が分かってスッキリしたわ。
「だけど君の判断は正しかったぜ黒鉄君。なにしろ彼は去年の七星剣武祭ベスト8だからね」
ベスト8ってことは去年の学生の中でも8番以内に入る実力者ってことか。それならあの風格も納得だな。
そうなると挑発に乗っていたら間違いなく激闘になって学園に連絡が行っていただろうな。そうなったら黒鉄は絶対退学になっていた。
「えぇ、全くその通りです。もし貴方達まで暴れだしたらこの場でわたくしが全員取り押さえなければならなかったところです」
続けて姿を現したのは白色の日傘にドレスを着た女性だ。その女性の身体からは香水の香りがするのだが、その香水の香りを上回る血の匂いを感じ取り、俺はこの女性が多くの戦場を経験していることに気づいた。
そして一輝とステラも女性の雰囲気に気づいたようで警戒し始める。
「イッキ、こいつらいったい誰なの?」
「覇軍学園生徒会副会長の御祓泡沫さんと会計の貴徳原カナタさんだ」
「生徒会・・・」
「そうだ。御祓の方は戦闘能力が皆無だが、貴徳原先輩は何度も特別召集を受けて戦闘を経験してきている人だ」
ステラの問いに一輝と八幡は二人の紹介をした。御祓泡沫はDランクの学生騎士で
「さぁ治療しようか後輩君。頭の傷見せてみるがいいさ」
黒鉄はどうしたのだろうかと思いながら言われた通り頭を出すと御祓が頭に手を翳す。すると頭に負った傷がきれいさっぱり消えてしまった。
「今のは・・・」
「まあ、僕の能力さ。デバイスを出すのは違反だけど能力を使うのは問題ないからね。それに怪我したままにしておくのもよくないしね」
生徒会の役員がそんな屁理屈言っていいのかよとも思ったが黒鉄の怪我を治してくれたのは事実なため見なかった振りをしておく。
「はい、治ったよ後輩君。それじゃあ騒ぎも収まって怪我も治したことだし僕らはこれで失礼するよ」
そう言って御祓泡沫と貴徳原カナタの二人は帰っていったのだった。
二人が去った後はとてもではないが話をしながら食事をするという気分にはなれなかったため、八幡達は残っていた食事を無言で平らげると足早にファミレスを出た。そして無言で歩き続けること数分。なんとかこの空気を変えようと綾瀬が一輝に話しかけた。
「黒鉄君、怪我は大丈夫?」
「うん、御祓さんのおかげでね。でもなんか治療というかまるで傷そのものがなくなったようだったけど」
綾辻先輩の質問に黒鉄が答えたことでどんよりしていた空気が少し和らぐ。しかしここで口を開いたのはやや天然なのではと個人的に疑っているヴァーミリオンだった。
「それより先輩、あいつらなんなのよ」
このタイミングであの男達との関係を聞くとかタイミング悪すぎるだろ。せっかく綾辻先輩の気分も元に戻ってきていたのに逆戻りだよ。
「・・・・・」
「答えたくないなら答えなくていいよ。でももしなにかトラブルがあるなら友達として力を貸したい」
「黒鉄君・・・」
黒鉄の言葉に綾辻先輩が返事をしようとしたその時メールの着信音が鳴った。黒鉄がメールを開くと俺は後ろから生徒手帳を覗く。そこにはこう書いてあった。
・・・・・黒鉄一輝様の選抜戦第七試合の対戦者は3年1組綾辻絢瀬様に決定しました・・・と。
このメールは目の前にいる綾辻先輩も見ているだろう。空気がいっそう重くなったのがわかる。そしてこの空気に耐えられなくなった綾辻先輩は無言でこの場から去っていったのだった。