腐り目騎士の英雄譚   作:月村手毬ちゃん親衛隊

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一刀修羅封じ

 

 

 

 

あれから時間が経ち今の時間は夜中の3時。俺は東堂さんを起こさないように部屋を出ると黒鉄が呼び出されている建物に向かっていた。建物に着くが黒鉄と綾辻先輩はまだ来ていなかった。

 

 

黒鉄は罠じゃないって言っていたが絶対に罠だ。黒鉄がどう考えているのかはわからないが、綾辻先輩が指定した屋上は大事な話をする場所としては悪くない場所だが呼び出した時間が問題だ。

 

 

綾辻先輩が黒鉄を呼び出した時間は深夜の3時でほとんどの人間が眠っている時間だ。そのためなにかことを起こすのなら人目がほぼないこのタイミングが一番なのだ。

 

 

念のためなにかあった時にすぐ駆けつけられるように黒鉄から少し離れた場所で待機しておくとするか。

 

 

俺は黒鉄と綾辻先輩に見つからないように自身の存在を世界が見失うほどにまで希釈させる。その直後屋上の扉が開き綾辻先輩が入ってきた。

 

 

なんであの人浴衣なんて着てきているんだ?

 

 

八幡はなぜ絢瀬が浴衣を着てきたのか疑問に思ったが姿を現して指摘するわけにもいかずそのまま様子を見る。そして少し経った時黒鉄もこの場に現れた。

 

 

「遅くなってすみません。待ちました?」

 

 

「大丈夫だよ今来たところだから」

 

 

「それはよかったです。それで僕に相談って?」

 

 

呼ばれた理由に全く心当たりのない黒鉄は綾辻先輩の相談がどんなものなのか尋ねた。

 

 

「あのね、今日君を呼び出したのはちょっと聞きたいことがあったからなんだ」

 

 

「聞きたいこと?」

 

 

黒鉄が聞き返すと綾辻先輩は黒鉄に質問を投げ掛けた。

 

 

「黒鉄君はヴァーミリオンさんと七星剣武祭の決勝で闘う約束しているんだってね」

 

 

「うん、どこであろうと必ず再び相見えようと誓い合っている」

 

 

「だけどそこにたどり着く前に自分では到底勝てない敵と戦うことになってしまったら黒鉄君はどうする?」

 

 

「正々堂々全力を尽くして戦う」

 

 

綾辻先輩の質問に黒鉄は即答した。

 

 

「勝てなくても?」

 

 

「あぁ、全力を尽くして戦うこと以外にできることなんてない」

 

 

黒鉄が言い切るが綾辻先輩はそうは考えていないようで黒鉄の言葉を否定した。そして次に出てきた言葉は黒鉄からすれば予想だにしないものだった。

 

 

「僕はそうは思わない。結果が伴わない正しさなんてただの戯言だよ」

 

 

へぇ綾辻先輩ってそういった考え方もできたんだな。だけど優しい性格の綾辻先輩にはその考え方は合わないだろ。どっちかというと俺みたいな使えるものはなんでも使うようなタイプが考えることだろ。

 

 

俺はそんなことを考えながらこっそりと二人の会話を聞き続ける。

 

 

「だから僕はどんな手段を使ってでも必ずその相手を蹴落とす」

 

 

そう言い綾辻先輩は手元に霊装を顕現させる。その手に握られているのは緋色の刀身を持つ日本刀だった。そして綾辻先輩が日本刀の柄を小指でトンと叩くとその直後何かが斬れる音がした。

 

 

何かを切断した音と綾辻先輩の動き・・・この2つから考えるに綾辻先輩は何かを斬ったということか。いったい何を斬ったんだ?

 

 

俺が周囲を見渡すと同時に黒鉄も異変に気付く。綾辻先輩の後ろにあるフェンスが屋上から落ちていったのだ。そしてその後を追うようにして綾辻先輩の身体がゆっくりと後ろへ倒れ込んでいく。

 

 

おいおいマジか、あの体勢でこの高さから落ちたら絶対死ぬぞ。なにを考えているんだ。

 

 

俺が綾辻先輩を助けようと動き出すと同時、黒鉄が横を一瞬で通り抜けた。その身体からは黒鉄の能力を表す青白い光が放出されている。

 

 

そうか黒鉄のやつ自身の切り札を1つ切ったのか。これなら綾辻先輩を助けられそう・・・まさか。

 

 

黒鉄が伐刀絶技を使ったことで俺はある1つの考えが頭に浮かぶ。

 

 

黒鉄の唯一の伐刀絶技を試合中に使わせないためにわざと飛び降りたのかっ。だが仮に黒鉄が追い付いて助けられたとしても二人とも地面に墜落しては意味がないだろ。これは仕方ない俺が助けてやるか。

 

 

俺は月光で照らされた校舎にできた影の中に入り込むと影の中を通って一階に移動すると街灯の明かりの近くにできた影から出ていく。そして足元の影から触手状の影を大量に出すと大きなネットのようにして上から落ちてきた黒鉄達を受け止める。

 

 

ふぅなんとかなったか。だけど綾辻先輩の狙いはしっかり達成されてしまったようだな。

 

 

俺は綾辻先輩と黒鉄を下ろすと黒鉄の横に立った。そして二人の様子を見ていると黒鉄が綾辻先輩になぜこのような暴挙に出たのか問い質した。

 

 

「綾辻さん、なんで・・・もし僕や八幡が助けなかったらあのまま死んでいましたよ、どうしてこんなことしたんですか!」

 

 

「使っちゃったね」

 

 

「えっ?」

 

 

「使っちゃったね、切り札」

 

 

綾辻先輩の返答に困惑した黒鉄が思わず聞き返すと綾辻先輩は薄く笑いながらそう言った。その返答に黒鉄は綾辻先輩がなぜこのような暴挙に出たのかすぐさま理解した。

 

 

「まさか・・・まさか初めから僕に一刀修羅を使わせるためにこんなことをしたんですかっ」

 

 

「・・・一刀修羅は1日1回しか使えない大技だ。ただでさえ実力差があるのにそんな技まであったら僕は絶対に勝てない。だから僕は黒鉄君の優しさを利用して黒鉄君に一刀修羅を使わせた。そして選抜戦の試合は今から10時間後で回復は間に合わない。これなら僕にも勝ち目はある。剣士としての力量は届かなくても伐刀者としての能力を合わせれば切り札を失なった君を倒せる」

 

 

綾辻先輩の策略は完璧だった。黒鉄が全く気が付かないほどに。そして黒鉄は一刀修羅の反動で息切れしながらも綾辻先輩に策略を思い直すように懇願するが聞き入れられることはない。

 

 

「・・・なぜこうまでして勝ちたいんですっ・・・騎士の誇りを捨てて綾辻一刀流の志に泥を塗ってまで・・・なぜそんなに」

 

 

「黒鉄君がなんと言おうと僕は絶対君に勝つ・・・勝たなきゃいけないんだ」

 

 

そう言って綾辻先輩は反転するともうここに用はないといった感じで1度も振り返ることなく出ていった。

 

 

そして黒鉄は出ていった綾辻先輩を追おうとしたが全く足は動かずその場に転びそうになる。そんな黒鉄を俺が支えるとまだ後を追おうとする黒鉄を窘めた。

 

 

「止めておけ黒鉄。その満身創痍の身体じゃ走って追いかけることなどできないだろ」

 

 

「わかったよ八幡。それと身体を支えてもらってて悪いんだけど動けそうにないからこのまま一緒に部屋に戻ってもらってもいいかな?」

 

 

「いやいや動けないくらいに消耗しているしこのまま医務室に向かった方がいいだろ」

 

 

「それもそうだね。わかった、医務室に行くよ」

 

黒鉄は追いかけるのを諦めたようで体の力を抜いた。そして八幡に支えてもらいながら医務室に向かったのだった。

 

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