「それならその試合を解説をする人に反則のジャッジを取らないようにお願いすることってできませんか?」
「ちょっと何言ってるのよイッキ!もう一回も負けることはできないってわかってるでしょ!」
ヴァーミリオンの言う通り既に全勝のまま試合を進めている生徒は何人もいて今のペースで行けば全勝でなければ代表にはなれないだろう。そのことには黒鉄も気付いている筈なのだが、なぜ綾辻先輩を救うためにわざわざ負けるかもしれないというリスクを背負おうとしているのか俺には想像もできなかった。
「そうだね。ステラの言う通りもうここからは一度も負けることは許されないというのは僕も分かっているよ。自分が確実に勝つためには解説の先生に反則を使ってくることを伝えることが正解なんだって」
「それならどうして···」
「だけどそれじゃあダメなんだ。確かに綾辻さんとの縁を切って解説の先生に綾辻さんが反則をしていることを伝えれば僕の不戦勝になる。でも本当にそれでいいのか・・・縁を切って後悔しないのかって考えて。そして考え抜いた結果僕の中に残ったのは縁を切りたくないっていう気持ちだった」
ということは綾辻先輩の反則をみて見ぬふりすることになるのは確定だな。当事者の黒鉄がお願いしたのなら俺達にそれを止める権利などありはしないのだから。
「だから綾辻さんと正面からぶつかって彼女の本当の声を聞き出す。最後にそれだけはやっておきたいんだ」
黒鉄が言い切ると理事長は一つ息を吐く。そして黒鉄の気持ちを尊重して反則を黙認することに決めたのだった。
「・・・わかった。当日黒鉄達の試合を監督する先生にはそう伝えておこう。ただしそれで黒鉄が負けた場合には後から文句は受け付けないからな」
「ありがとうございます僕のお願いを聞いてくださって」
「礼には及ばんさ。後は戦いに勝利し綾辻の心を救うことだけ考えていればいい」
黒鉄と綾辻先輩の試合の方針について決まると俺達は理事長室から出たのだった。
「それではお待たせしました、本日の第三訓練場の第3試合はもう間もなく開始されます!今日の試合の実況は私、放送部の月夜見半月、解説は折木有里先生です!」
「よろしく〜」
午後3時になり黒鉄を除いたいつものメンバーは観客席にやって来た。その直後には会場を盛り上げるために解説と実況が話し始める。
「おや先生今日は顔色良いですねぇ」
「うんまだ始まったばかりだしね〜。すぐにみんなが大好きなユリちゃんになるわよ〜。でも大丈夫、血液の予備はリットル単位で・・・ゴボッ」
実況が解説の先生の体調を言及するとそれに呼応して元気であることを伝えるがすぐに口から血を吐いた。
めっちゃ早くフラグ回収したな。これはすぐに予備の血液がなくなりそうだ。
「なるほど、本日も実況席は血の雨が振りそうですねぇ。おっとお話はここまで、今回の対戦相手に登場していただきましょう」
実況の声の後に闘技場内でアナウンスが流れ、黒髪の男子生徒が現れると会場が熱気に包まれた。
「ます初めに現れたのは6戦6勝のパーフェクトゲームを続けるFランク騎士、
黒鉄が闘技場の所定の位置に立ち止まるとすぐにもう一人の紹介が始まる。
「そして反対側から現れたのは同じく6戦6勝の素晴らしい成績を持つDランク騎士、3年綾辻絢瀬選手!」
遅れて登場したのは綾辻先輩だ。ゆっくり闘技場の中央まで歩いてくると黒鉄から20m程離れた位置で立ち止まる。
「やっぱり出てきたね。少しは不戦勝も期待してたんだけどなぁ。流石は黒鉄君だ」
「来てくれ陰鉄」
「そんなに僕が許せないかい?でも勝つのは僕だ。赤く染まれ緋爪!」
綾辻先輩は霊装を呼び出すと剣先を足元に向けて構え試合開始の合図を待つ。
下段の構えか。綾辻一刀流はカウンターを軸とした受けの剣術。ならばあの構えは最適解といえるな。
「綾辻先輩ってどんな
「それが彼女に関してはほとんど情報がないのよ。去年までの公式戦には出場していないからデータが残ってないし今年は剣技一本で勝ち上がってきてるから。それに能力もまだ見せていないし」
「つまりどんな能力を隠し持っているかが」
「戦いの行方を決定づけるってわけだ」
剣技や身体能力などの伐刀者としての能力以外の部分では黒鉄が圧倒的に格上で綾辻先輩とは埋められないまでの絶対的な差がある。しかし伐刀者としては身体能力倍加という誰でも使える能力しか持っていないことが知られていて切り札たる一刀修羅も封じられている黒鉄と、戦闘データが全くなくどんな能力かもわかっていない綾辻先輩とでは情報面において綾辻先輩が有利だ。そのため綾辻先輩を倒すまでに能力の絡繰りを見破ることができるかが勝利の鍵となるだろう。
俺達が綾辻先輩について話している間に準備は整ったみたいだ。そして互いに無言のまま数秒が経過したその瞬間に試合開始の合図が闘技場内に鳴り響いたのだった。
多少動けるようにはなりましたが来月の通院まで激しい動きはできないので執筆に集中できると思うので少々お待ちいただけると嬉しいです