「・・・っ」
試合開始の合図とともに黒鉄が絢瀬先輩に向けて高速で接近し斬りかかる。
「おおっ黒鉄選手跳躍!開幕速攻だっ」
試合開始直後で迎撃準備ができておらず無防備のまま斬られると思ったその時空中にいる黒鉄が一瞬停止し出血ともに後ろに飛ばされた。
「ななななんだっ今のは!と、突然黒鉄選手の身体が滅多斬りに!一体何が起こったんだぁぁぁっ!」
幸い傷は浅かったようで床に着地すると後ろに跳躍し距離を取った。どうやら仕切り直すつもりのようだ。しかしその跳んだ先でも先ほどと同じ現象が起こり黒鉄はとうとう膝をついてしまった。
なるほど、試合開始前にあらかじめ空間に太刀傷を作っておき、物が接触した瞬間に空間につけた傷を開くというものが綾辻先輩の策か。圧倒的格上との戦闘中にはこんな罠を作ることは難しいしこうするしかなかったんだろうな。
「お兄様っ・・・」
反則をしてくるということが黒鉄の口から事前に伝えられていても実際に目の前で起きているのを見るとやはり心配になってしまうもので、ヴァーミリオンと黒鉄妹は黒鉄の様子を固唾を呑んで見守っている。
膝をついたことで黒鉄に隙ができたため綾辻先輩はすぐに距離を詰め攻撃を仕掛けるが黒鉄は後ろに大きく跳躍し防御のための時間を作ると攻撃を受け止めた。そして綾辻先輩と黒鉄は鍔迫り合いになる。
「どうだい?僕の伐刀絶技、風の爪痕の味は」
「中々・・・堪えますね」
そう言う黒鉄だったが出血の量はそれほど多くなくまだ戦えそうな雰囲気だ。そして綾辻先輩もそれには気付いているようで再び黒鉄に攻撃し始めた。
「ここで綾辻選手、黒鉄選手に猛攻!黒鉄選手はこの攻撃を凌げるか!?」
綾辻先輩の不可視の攻撃のことも気にしながら攻撃を何度も防ぐ黒鉄に今度は綾辻先輩が後ろに跳んで距離を取ることになった。
「綾辻選手の猛攻を防いだ黒鉄選手と仕留めきれなかった綾辻選手、同時に一旦後ろに下がる!両者一息吐こうということかっ」
黒鉄は離れた位置で着地すると綾辻先輩を見る。その眼差しはさっきよりも鋭くなり何かを考えている様子だ。そして数秒で黒鉄の表情が少しだけ柔らかくなったのを見て俺は悟った。
リング上の空間に無数の太刀傷が仕込まれていることに気づいたか。そうなれば後は
そして黒鉄が自分の頭の中で考えを纏めた直後綾辻先輩が攻撃を再開した。
「綾辻選手再び黒鉄選手に襲いかかる!次々と黒鉄選手に斬撃を浴びせていきます!!」
この空間内のどこに鎌鼬のトラップが仕掛けてあるのか分からない中黒鉄は綾辻先輩の攻撃を避けたり防いだりし続けていた。
(よし、折木先生はまだ気づいていない!なら黒鉄君はっ)
綾瀬は自分の攻撃を避ける黒鉄を追いながら一瞬だけ実況席の方を見た。そこには口から出た血をハンカチで拭いている折木の姿があった。それを見て綾瀬は折木を出し抜いたと判断し一輝との戦闘に意識を集中させる。
そして一輝に向けて振り下ろしの一撃を放つが横に跳んで回避されてしまった。しかし体勢は悪く次の攻撃を回避するのはかなり難しそうだ。そこで絢瀬は一輝が通るところの傷を開いてダメージを与えようとしたが一輝の身を捻る動きを見て愕然とする。
(避けた?まさか僕のトラップに気づいたの!?でも確証はないはず。今のうちに!)
しかしすぐに冷静さを取り戻し横薙ぎを放ち黒鉄に小さい切傷をつける。そして緋爪の柄を軽く叩くことで傷口を開きダメージを与えた。
「おおっと!堪らず黒鉄選手膝をついた!だが今の攻撃はなんでしょう?まるで傷が独りでに開いたように見えましたが」
実況の言う通り黒鉄が膝をついたのは傷を開くという綾辻先輩の能力によって掠り傷を直接開かれたためだ。そして掠り傷ですらこれだけの怪我になるのだから攻撃が急所に当たったらそれこそ一発で致命傷だ。
膝をついていた黒鉄が立ち上がると綾辻先輩はすぐに攻撃を仕掛ける。
「ハアァァァッ!!」
横薙ぎ、振り下ろし、袈裟斬りと連続で斬撃を放つが綾辻先輩の攻撃は黒鉄の体を捉えることはできていない。しかし黒鉄の方も綾辻先輩に攻撃を仕掛ける余裕はあまりないようで防御に回るのが精一杯なようだ。そしてそんな状況を変えるためなのか黒鉄は綾辻先輩の攻撃の一つを一瞬受け止め弾き返すとそのままの勢いで刀を振り下ろす。しかし黒鉄の攻撃は綾辻先輩によって防がれてしまい、そのまま綾辻先輩のカウンターが炸裂する。
「お兄様!」
黒鉄の無防備な胴に向けて綾辻先輩の一撃が襲い黒鉄妹が大声を上げる中、俺は綾辻先輩の一撃が黒鉄の持つ刀の柄の部分で防がれているのを確認した。
「黒鉄選手!ギリギリで攻撃を防いだ!得意の変則ガードですっ」
綾辻先輩は自身の渾身の一撃を完全に防がれたことで動揺したのか後ろに大きく跳ぶと15mほど離れたところに着地した。そしてすぐさま刀を構えて攻撃に備えるが黒鉄から追撃はなかった。
あのカウンターも防ぎきるとは本当に黒鉄のクロスレンジでの防御は鉄壁だな。剣の腕だけなら俺の知ってる剣士の中でも確実に10本の指には入るぞ。というか黒鉄のやつ綾辻先輩の攻撃を誘ったな。普通ならあの攻撃をあのような形で防ぐことはできない筈だし。
一輝がすぐに攻撃をしかけてこなかったことに内心安堵していた絢瀬だったが次に放たれた一輝の言葉に先ほど以上の動揺を見せることになるのだった。