突然の大きな音にステラと絢瀬は何事かと音の聞こえた方を振り向く。そこには地面に霊装を突き立て荒い息を吐く一輝と蔵人の2人の姿があった。
なるほどこれが神速反射の弱点か。相手が1回行動を起こす間に倉敷は3回行動することができる。ということは他者の3倍の早さでスタミナを消費していくということだ。おそらく黒鉄は蔵人の神速反射の種を見破った時からこの作戦をを思いついていたのだろう。
「ハァハァハァ・・・おいテメェ、しぶといにも限度ってモンがあるぞ」
「生憎・・・負けず嫌いなんでね。それにここまで剣戟で圧倒されたのは久し振りだったからどうにも楽しくてね。終わらせるのが惜しかった」
「楽しいか。フハハッテメェも大概イカれてやがる」
倉敷も自分がイカれてる自覚があったんだな。まぁ一つのことに人生の全てを賭けているような人間は大概どっかおかしいか。
「最後に一つ聞いていいかな」
「あぁ?」
攻防が始まる前に黒鉄は戦っている最中の綾辻海斗の様子を倉敷に尋ねる。
「僕達が憧れたあの偉大な剣客は今の僕らのように笑えていたかい?」
その問いに倉敷は綾辻海斗の当時の様子を思い出すとフッと笑い答えた。
「くだらねぇことを聞くな。こんな熱い死合を楽しめねぇヘタレが最後の侍なんて呼ばれるわけがねぇだろうが!」
そして倉敷の言葉を聞いた黒鉄は宣言する。
「絢辻さん。今から僕の最強を以て、君達の2年間を取り戻す!」
そう言って黒鉄は刀を中段で構える。対する倉敷は大蛇丸を頭上で掲げて構えた。そして同時に動き出す。
「来い!
黒鉄は剣先を倉敷の方へ向けて突進し、倉敷は神速反射を駆使してほぼ同時の八連斬を放った。
倉敷の攻撃が黒鉄を斬り刻むかと思ったその時、倉敷の攻撃が黒鉄の肌を舐めるようにして逸れていった。
倉敷が攻撃を外した?・・・いや違う。黒鉄の僅かな体捌きによって攻撃が受け流されたのか。なるほど、相手の攻撃を受け流す時に刃を使うとその分だけ自分の刃が攻めの位置から遠ざかってしまうから、刃の位置を動かさず僅かな体捌きだけで攻撃を受け流すことで最速のカウンターを狙えるということみたいだな。
剣技の絡繰りを見抜いた俺の目の前では縦横無尽に動き回る大蛇丸による連撃を完璧に受け流しながら倉敷へと接近していく光景が繰り広げられていた。そして倉敷はそれを見て大声で叫ぶ。
「2年間待った甲斐があったぞォォォッ」
歓喜の声を上げながら倉敷は攻撃の手を激しくしていく。しかし黒鉄の動きを止めることはできず、数mあった距離はすぐに1mを切る。そして互いに剣の間合いに入ると同時に交錯しながら剣が振るわれる。
反対側に駆け抜けた両者は剣を振り終わった体勢のまま静止する。その後床に血が垂れて倉敷の方が膝を付いた。
倉敷の傷は決して浅くない。これは勝負あったな。
「ああっ今の技は・・・最終奥義、
試合が終わる決め手となった技を絢辻先輩が叫ぶ。
あの技は天衣無縫っていうのか・・・あそこまで無駄な動きを削り取っていたら超一流の剣士にしかあの防御を破ることはできないだろうな。そうかあれが綾辻一刀流の真髄というわけか。
黒鉄は残身の構えを解くと刀を払って倉敷の血液を払う。その様子を見ながら天衣無縫の強さを噛み締めていると絢辻先輩が呟く。
「何故黒鉄君がそれを・・・まさかあの時既に!?」
絢辻先輩の呟きを隣りにいたヴァーミリオンが拾うと黒鉄が綾辻一刀流の奥義を使えた理由について教える。
「
ヴァーミリオンが黒鉄の強さを再認識していると倉敷が大蛇丸を杖にして立ち上がった。そして自分の敗北を悟ると自分を負かした者の名前を知るため黒鉄に名前を尋ねる。
「・・・テメェ、名前は?」
「黒鉄一輝」
「黒鉄・・・」
黒鉄の名前を知った倉敷は名前を一度呟くと歩き出し真横をゆっくりと横切ると少し歩いた後で立ち止まる。そして黒鉄に告げる。
「この続きは七星剣武祭でだ。そこで決着をつけようじゃねぇか。だからそれまで絶対負けるんじゃねぇぞ」
そしてそのまま道場を出て行こうとする倉敷の後ろから黒鉄が問いかける。
「この道場は?」
「好きにしろ。もう待ってる意味もねぇからな」
そして今度こそ倉敷は綾辻剣道場を出ていった。
「ふぅ、なんとか取り戻せたな・・・ぐっ」
倉敷が出ていったのを確認した黒鉄が一息ついて言った直後黒鉄の体がぐらりと揺れて倒れそうになった。
「一輝!大丈夫!?」
「うん。なんとかね」
それを隣にいたヴァーミリオンが受け止める。そしてその様子を見ていた綾辻先輩が自分のせいだと頭を下げた。
「黒鉄君・・・ごめんよ本当に。僕のせいでこんな目に」
「綾辻さんが謝る必要はないですよ。僕が綾辻さんの力になりたいと思ってやったことですから」
黒鉄がそう言うが絢辻先輩の後ろめたさが減ることはなさそうだった。
「ボクは何もわかっちゃいなかった。剣士として生きるということも、お父さんの考えていたことも。こんなボクになんて綾辻一刀流は背負えっこない」
そんな絢辻先輩に黒鉄が声をかけた。
「そんなことはないさ。今日僕が勝つことができたのは綾辻さんが海斗さんの剣を寸分違わず覚えていてくれていたからだ。だからこそ僕はあの技を・・・天衣無縫を放つことができた。君以上に海斗さんのことを理解している人なんていないよ。綾辻さんこそが最後の侍の後継者だ」
「綾辻先輩、武術の後継者は武術の奥義を修めればなれるような簡単なものじゃないです。武術をしっかり扱えるだけでなくその武術が持つ理念や生み出した人の想いを理解している者でなければ務まらない。だから後継者は綾辻先輩以外にはありえませんよ」
俺と黒鉄からお墨付きをもらった綾辻先輩はやっと自分の力を認めると綾辻一刀流を背負うという覚悟を固めた。
「黒鉄君、比企谷君ありがとう。僕が綾辻一刀流を背負えるように声をかけてくれて。でも綾辻一刀流の後継者を本気で目指すならもっと強くならないといけないね。胸を張って後継者を名乗れるように」
そう言って綾辻先輩は玄関に道場が運営されていることを示す看板を立て掛ける。こうして綾辻一刀流の道場を巡る戦いは黒鉄が勝利し道場を取り戻したという形で幕を下ろした。
そして黒鉄が綾辻先輩の道場を取り戻した次の日には破軍学園の新聞に黒鉄が他校の有力生徒を決闘で下したことが掲載され大きな話題となったのだった。
次は一回休憩して倉敷蔵人戦後の破軍学園の様子を書きますのでお待ち下さい。