有里が血を吐いて倒れたことによって発生した騒ぎを収めた一輝はステラと二人で有里を抱えて運ぶと医務室のベッドに横たわらせた。八幡の能力の都合上向こうにいたときにこういった事故や事件の時にはとても重宝されていたため、一輝達の後をついて医務室に入った。
「実は先生、1日1リットルは吐血する体質でね」
有里はベッドに横たわりながら自分の体質について教える。
曰く、普段から患っていない病気が少ないほど病弱なのだとか。
「確かにほとんどの病気にかかってるな。折木先生よくこの状態で今まで生きてこられましたね」
「うん、体は弱いけど生命力は強いみたいでなんとか1日1リットルの吐血で済んでいるんだ」
確かに生命力が強いって言われればそうだなって思うけど、1日1リットルの吐血をなんでもないみたいに言うのは違うと思うんだが。
「・・・大変ですね」
「あんまり無理しちゃ駄目ですよ先生」
「うん、でもおめでたい日だし不健康な顔は似合わないかなって」
「僕がここに入学できたのは先生が認めてくれたからなんだ」
しんみりとした空気を変えようと話を変える一輝。
「あれは黒鉄くんの実力があってこそだよ。昨年は残念なことになったけど」
当時のことはよく覚えている。入学試験にFランクが来たって話が上がっていてどんなやつか見に来たのだが、そこで見たのが折木先生と黒鉄の試験での戦いだった。その結果を見てすごいやつが入ってきたって思ったのだ。そしてそんなやつが不当な理由で授業を受けられなくなったと聞いたときは驚いたものだ。
「あれだけのことがあっても腐ることなく努力を続けられるのは才能だろ。才能の上に胡座をかいて努力しないやつには一生わからないことだが一部の者には黒鉄の努力は目に見えているぞ」
このことは俺やヴァーミリオン、そして生徒会長も気づいたはずだ。そういうやつはしっかりと評価してくれる。スイスで会った傭兵とかあいつとかな。
「そうよ、イッキの努力は実際に戦った私にはわかってるわよ!」
「黒鉄くん、いい友達ができてよかったね。これならこれから先は大丈夫そうだね」
そう言って笑みを浮かべる有里だった。
医務室で少しの間話し込んだ3人は外に出て歩いていた。
「ねぇ、去年は残念だったって?」
さっきの有里の話を思い出したように一輝に問うステラ。
「ああ、ほら。授業受けさせてもらえなかったって話だよ」
そういわれてステラは一輝の方を見る。
「僕が入学するまでは能力値の基準なんてなかったんだ」
そうだな。なんでこんなありもしないものを作られたのか疑問に思っていたが、今にして思えば黒鉄の邪魔をするために生まれたものなのだとわかる。理由は何個も想定できるが黒鉄の邪魔をするためだけに変なルール決めるなよって思うわ。
「それってどういう」
ステラが黒鉄に聞き返そうとした時だった。
「黒鉄せんぱーいっ!」
「うわっ!?」
「えっ!?」
「は?」
向こうから一人の女子生徒が走ってきて一輝の腕に抱きついてきた。その奇行に三人は驚きの声を上げる。そんな三人を無視して一方的に話しかける。
「やっと先輩とお話できる~」
「ななな、なにやってるのよっイッキ!」
「それは僕が聞きたいよ!?君誰?」
「おい、話があるんじゃないのか?」
「あ、すみません。忘れてました~」
一輝とステラが今もテンパっている中、実は二人の関係とは部外者な八幡はいち早く復活して話の続きを促すと女子生徒も平静を取り戻し、腕に抱きついたまま話始めた。
「私、同じクラスの日下部加々美です~。先輩のだーいファンなんです」
「え!?ファン?」
突然のファン発言に戸惑いの声を上げる一輝。この空間にはファン発言によって戸惑っている一輝と、その隣でむーっという声を上げるステラ、そしていつもよりも目を腐らせた男という奇妙な図式が浮かび上がっている。
「見ちゃったんです、この間の模擬戦。先輩、強いんですね~」
「い、いや別に」
黒鉄の模擬戦見ていたんだなこいつも。あれを見てFランクの癖にとか思わない辺り、他のやつらよりよっぽど現実見れてるんじゃないか?それと黒鉄、お前挙動不審すぎだぞ。
「実は私、新聞部を創ろうと思っていて、先輩に記念すべき第1号を飾って欲しいんです。是非取材させてくださいっ」
たくさんの人がいるところで申し込むのは中々だが、黒鉄の場合それは悪手だぞ。目をつけられると厄介だから断られると思うんだが。
「いや、それほどの者じゃ・・・はは」
一輝は周りのすごい視線に引いた笑い声をあげる。それにしても男の嫉妬の視線が強いんだが。
「よかったじゃない、新学期早々モテモテで。取材受けてあげたらいかがですか先輩?」
男が嫉妬の視線ならヴァーミリオンは私不機嫌ですオーラかよ、はぁ。
「ヴァーミリオン追いかけるぞ。弁明した方がいいだろうからな」
「あ、うん。そうだね。ちょっと待ってよステラさん!?」
「見出しももう決めてるんです。脅威の伏兵黒鉄一輝、噂の天才騎士に白星!どうですか?」
「あ、ああ。とにかくその話はまた今度ね」
一人で盛り上がる女子生徒に一言声をかけるとステラを追いかけ始めた。その時だった。
「ようやく見つけました」
どこからか女の子の声が聞こえてきた。一輝にとって聞き覚えのある声に声の主の場所を探すために周りを見る。すると柱にもたれ掛かるようにこちらを、いや一輝の方を見る女子生徒がいた。
「・・・
その姿に見覚えのあった八幡はその女子生徒の二つ名を呟いたのだった。
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