腐り目騎士の英雄譚   作:アルビノ

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少し遅れてしまいました。ではどうぞ


痴話喧嘩みたいなもの

「ようやく見つけました」

 

 

そう言ったのはここから少し離れたところにある柱の下に佇む銀髪の少女だ。

 

 

「・・・珠雫?」

 

 

一輝が少女の名を呟くと銀髪の少女はゆっくりと黒鉄の方へと近づいていく。

 

 

「お久しぶりです、お兄様」

 

 

銀髪の少女の名は黒鉄珠雫。今年の新入生次席にして深海の魔女(ローレライ)の二つ名を持つBランク騎士だ。

 

 

見たところ魔力量はCランクくらいだが体から漏れる魔力はごくわずかなところから魔力制御Aか。これだけの制御力はあまり見たことがないし、魔力制御だけ見ればプロクラスだな。

 

 

「お久しぶりです、お兄様」

 

 

「珠雫!見違えたよっ!この後会いに行こうと思ってたんだ。探させちゃって悪かったね」

 

 

「いいえ、私が待てなかったのです。お兄様・・・はむっ」

 

 

一輝が自分を探させてしまったことを謝ると気にしていないと優しく言う珠雫。そして一輝を後ろの柱に押し倒すと口づけした。

 

 

「はぁ!?」

 

 

「あっ!」

 

 

突然行われる兄妹の濃厚な行為に間近で見ていた二人が驚きの声を上げる。それに対して珠雫は一輝に長いキスをし続ける。

 

 

まさかの兄妹でキスかよ。俺も自分がシスコンで小町がブラコンの自覚はあるが兄妹でキスはないぞ。妹として好きなだけだからな。

 

 

「なっ!ナニゴトーっ」

 

 

「きたーっ!スクープ、スクープ、スクープ!!」

 

 

兄妹でのキスを激写する加々美と信じられないとばかり叫ぶステラ。そんな中で珠雫はゆっくりと黒鉄とのキスを楽しんだ後口を離す。一輝と珠雫の間に銀色の橋が掛かる。

 

 

「ずっと、お会いしたかった・・・」

 

 

「し、珠雫・・・」

 

 

一輝と珠雫の間におよそ兄妹とは思えないほどの空気が流れる。その空気を破ったのはステラだ。

 

 

「ちょっ、ちょっとイッキ!あ、あ、アンタなにやってんのよ!」

 

 

「ぼぼ、僕だってわからないよ!」

 

 

それはそうだ。なにせ再会したと思いきや突然のキスなのだ。しかも兄妹で。これで動揺しない方がおかしい。

 

 

「もちろん口づけですよ。口づけとは親愛の証、恋人という浅い絆の男女でも行っていることです。ならば固い絆で結ばれた兄と妹が口づけするのはごくごく自然な流れ。外国では挨拶みたいなものですし」

 

 

「え?そうなの?」

 

 

「アタシの国じゃ兄妹でそんなキスしないわ!」

 

 

「他の国でもしないと思いまーす」

 

 

「俺も妹はいるがそんなことしたことねぇよ」

 

 

珠雫の本気なのかからかいなのかわからない言葉に八幡たち3人は口々に否定する。

 

 

「だそうだけど」

 

 

「他所は他所、うちはうちです。四年分の愛おしさを考えれば、今の私たちには夜のまぐわいですら朝の挨拶」

 

 

『そんなわけあるかっ!!』

 

 

衝撃的な発言をする珠雫にこの場にいる全員が雫の言葉を否定する。いつもは一輝を貶めるのに一致団結しているが今回は珠雫の発言を否定するのに一致団結していた。

 

 

「珠雫、そんなこと女の子が言っちゃダメだろっ」

 

 

「冗談ですよ。でも、もしもお兄様が望まれるのでしたら」

 

 

「ダメぇっ」

 

 

「キャア」

 

 

そう言って一輝に再びキスしようとする珠雫だったがステラによって阻まれ、珠雫は後ろに投げられる。そしてステラは一輝に詰め寄った。

 

 

「しっかりしなさいよイッキ!なに流されそうになってんのよ!!」

 

 

「あ、ありがとうステラ」

 

 

流されそうになっていたところへステラが目を覚まさせるかのように言う。そして一輝はそんなステラへお礼を言った。

 

 

「あなたが噂のステラ殿下・・・」

 

 

そこへ珠雫がやって来たためステラは珠雫の方に視線を向ける。

 

 

「なぜ私たち兄妹の庶民的コミュニケーションを邪魔するのですか」

 

 

「こんな糸を引くような兄妹のコミュニケーションなんてないわよっ!」

 

 

「それは私とお兄様が決めることです、あなたには関係ありませんよね?わかったら田舎のお姫様は黙っていてください」

 

 

「うっ・・・か、関係ならあるわよ・・・」

 

 

「へぇ・・・どんな関係ですか?」

 

 

ステラが言い淀むと珠雫は次の言葉を待つ。

 

 

「どんな関係ですか?」

 

 

言い淀むことわずか、とうとうステラが言い放った。

 

 

「・・・イッキはあたしのご主人様で、アタシはイッキの下僕なんだからぁぁぁっ!」

 

 

ステラの発言にこの場にいる者達が騒がしくなる。

 

 

「ちょっとステラっ、それはなかったことにしようって」

 

 

なんで今それを持ち出すんだよ。そんなことしたら新聞部が騒ぎ出すぞ。

 

 

「特大スキャンダルキタァァァァ!」

 

 

ほれ見ろ、日下部が騒ぎだしたじゃねーか。

 

 

「違うからね、誤解だからっ」

 

 

加々美の誤解を解こうともがくがなぜかステラが加々美の言葉を肯定し始める。

 

 

「誤解じゃないわ。決闘で勝ったのを引き換えに一輝は命令したじゃない『ステラ、俺と同じベッドで寝ろ』って」

 

 

「誰だそのカッコいいやつ!?そんなインモラルなテンションじゃなかったし!?」

 

 

「ブッ・・・黒鉄あの後そんなこと言ったのかよ。お前のことだから友達になってくれとか言うと思ってたんだが」

 

 

「八幡も誤解だからね!ルームメイトになってくれってお願いしただけだからねっ!」

 

 

八幡と一輝の二人で掛け合いをやっていると珠雫が黒鉄に事実確認をし始める。

 

 

「本当ですか?」

 

 

「えっ?」

 

 

珠雫の冷たい声に思わず反応して珠雫の方を見る一輝。八幡も一輝と同じように珠雫の方を見た。そこには目を細めている珠雫の顔がある。

 

 

怖っ!!とてもじゃないが小さい子供には見せられない顔になってるぞ。

 

 

「お兄様、本当なのかと聞いています」

 

 

「えっと・・・一応本当かな?つまり二段ベッドのことで」

 

 

一輝の言葉に珠雫は不気味に笑った。

 

 

「・・・そうですか、本当ですか・・・フヒヒッ」

 

 

「あの・・・珠雫さん?」

 

 

「珠雫が今、お兄様を自由にして差し上げます。飛沫(しぶ)け、宵時雨」

 

 

「珠雫!?それはダメだって!」

 

 

一輝が珠雫を止めようとするが、珠雫は止まらず小太刀型の霊装を展開した。

 

 

「大丈夫ですお兄様。私の属性は水、炎属性のステラさんを殺れます」

 

 

それのどこが大丈夫なんだよ。こんなところで怪我人が出たら大変なことになるぞ。

 

 

「そんなこと言ってるんじゃないよ!?こんなところで霊装なんか使ったら」

 

 

「傅きなさい、妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!!」

 

 

一輝が言い終える前にステラも大剣型の霊装を展開してしまい、戦闘態勢が整ってしまう。

 

 

おいおい、こんなところで始める気かよ。確か許可なしで霊装を使うのは禁止だろ。

 

 

そして戦闘態勢が整ったと思ったら今度は悪口合戦だ。少しの間言い合った後最後に珠雫がデブ、ステラがブスと言った瞬間二人は同時に動き出した。

 

 

はぁ。結局俺が動かなきゃいけないのかよ。

 

 

「それ以上はダメだろ。怪我人がでるぞ」

 

 

 


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