身を乗り出す。
喧噪に揺れる松明の、黄金の陽火に煌めいて、真銀の髪が広がった。
「―― ねえフラム。
芯の通った快活な声で、銀髪の持ち主である少女はそんな事を
「まずは理由を聞かせてくれ。どうしていきなりそんな事を言い出したんだ、イリーカ」
酒場の木製机に肘をつき、酒の入った樽杯を傾けながら彼は尋ねる。貼り付けているのは仏頂面。尋ねられた少女は彼の様子に頬を膨らませ、フラムに言い募る。
「私達も、そろそろ上位の端っこに手をかけても良いかなと思ったの」
「それはそうかも知れないね。時期的にも、業績的にも遅くない」
彼らがハンター業を営み始めて、既に6年が経とうとしていた。積まれた経験は、彼と彼女をランク3のハンターとギルドに認めさせる程度には濃いものだ。
その、さらに上。ランク4からは上位ハンターという明確な区分けが成される。上位ハンターとなれば、ハンターとの闘争経験があり……その上で尚生存しているような、個体としての経験を積んだモンスターを相手取る事となる。危険度は増すが当然、知名度と収入は抜群に良くなってくれる。
ハンターという職業は、決して楽なものではない。自然の真ん中で、言葉の通じない人と獣の間に立つ仕事なのだ。収入と名。賭けるのは自らの命。そんな綱渡りを何度も繰り返し、続け、すり減らしていく生業である。
……ただそれは、下位の依頼をこなすハンターだとて同様なのだとフラムは実感している。ハンターとして大型モンスターの狩猟依頼を受ける限り、相手取るのはいずれも強大な生物なのだ。
だとすれば力の限り、手の届く所には腕と足を伸ばして
問題は ―― 率直にただひとつ。フラムは唇をへの字に曲げてみせる。
「僕たちで狩猟できるのか? 相手は『空の王者』だろう」
リオレウス。それはここドンドルマでも象徴となる程に有名なモンスターだ。
巨大な体躯を持ち、翼でもって空を飛び、
そしてリオレウスは、ネームバリューに恥じない強さを持ってもいる。少なくとも駆け出しのハンターが相手取るモンスターでないのは確かだ。自分たちは駆け出しでないとは言えど、その狩猟の成否に疑問が沸く程度には。
加えて。
「それに、許可は出たのか? 今は繁殖期。この時期にリオレウスを狩るって言う事は、つまり火竜の
「なんで決めつけるの、もぅ。お独りを狙うのかも知れないでしょ」
「いいや、ようく知っている。君は用意周到さ、イリーカ」
言い切る。銀髪を弄りながら拗ねる正面に向けて、フラムはドスマグロの燻製切り身の乗った木皿を差し出した。きちんと説明して見せる腹積もりである。
順を追って、と身振り手振り。燻製を口に含みタンジアビールを手元に寄せたイリーカに向けて、諸手を返す。
「上位ハンターを、と君は言った。既に受付嬢とは話を付けてきているのだろう。僕たちが受諾できる範囲で、かつ査定にも影響する依頼となれば、それは多数のモンスターを相手取る依頼であると考えられる」
イリーカの瞳は嬉しさに満ちていた。それはフラムに掛ける信頼であったり、こうして自分を理解してくれている事……親愛の深さ、への期待に由来する物である。そんな視線を向けられているのを十分に理解しながら、フラムは続ける。
「繁殖期の最後に、リオレウスを狩猟対象に含み、多数のモンスターが目標となる依頼。リオレイアも居ると考える方が、むしろ自然なんじゃないか?」
「やー! そうね!」
喜色を前に押し出して、イリーカが頷く。
「お察しの通り。手伝ってくれたのは受付嬢さんと、もう1人!」
左手をすいと前へ。するとフラムの後ろ側から、竜人族の老人が歩み出てきた。老人はそのまま、全身を使って大きく跳ねると、常の如く机の上に腰かけた。黒煙草を煙管に詰め、ぷかり。耳は尖り指は少ない。竜人だ。彼こそはここ大衆酒場を任され下位クエストを仕切る、ギルドマスターである。
ドンドルマに滞在を始めてから、彼にはとても世話になった。住居に戸籍、ハンター登録に依頼まで。借り過ぎて返せないのではないかと尻込みする程の恩だ。しかし彼が言うには、フラム達がここに逗留しハンターとしてギルドに協力している事自体が、それ以上の意味を持つのだと言う。
「ワシも少ぅし手助けはしたがの。依頼を優先的に回すくらいのもんじゃ。常々、オヌシらには借りがあるでの」
「……いつも有難いのですが、借りがあるのは僕たちの方では?」
ここドンドルマへ移ってきてから、精力的に協力はさせてもらっている。学術院などとの間を取り持ったこともある。しかしそれらは、フラムやイリーカに出来る範囲での話だ。特に恩義を感じて貰うような無茶を通した覚えも、いちハンターとして以上の明らかな成果をもたらした覚えも、フラムにはなかった。
「これだからのう。オヌシは自分の立場を過小評価しとるて」
ギルドマスターは軽い調子でフラムの腕を叩くと、最初から手に持っていた瓢箪に口をつける。酒精の香りがふわっと漂う。
「飲むか? 取り寄せちゃるぞ?」
「必要以上に飲みたいとは思いません。僕たちはこれから狩猟に向かうのでしょうし、酒精の強いものは控えたいと考えています」
「真面目だのう」
「まぁまぁ」
イリーカは両手を広げて2人の間に入り込み、そのまま掌をぱんと合わせる。
「とにかく。そんな訳で、もう話を通してあるの。あとはフラムの同意が貰えれば、すぐにでも受諾できるようにね」
そういってイリーカが手を振る。その先で、受付嬢がひらひらと手を振り返した。あの人は本来の業務は闘技場に関わるもののはずだが、そう言った書類仕事全般に関する事ならばと引き受けてくれたようだ。
「オヌシらの努力は知っておるよ。書類上での査定も問題ない。そも実力だとて、2人ならば飛竜の番が相手でも遅れは取らんと考えておる。ワシらの会議でも反対意見は出なかったもんで、安心せい」
「……ありがとうございます。イリーカ、ギルドマスターにあまり迷惑かけないように」
「あはは、気をつけます! まぁ、上位ハンターが増えてくれるなら心強いって太鼓判もくれたからね。折角だし頑張ろうよ、フラム!」
この程度の小突き合いは、2人にとっては日常茶飯事なのであった。
口に咥えた煙草をもう一度ふかして、ギルドマスターは額に皺を寄せる。この2人が「立場」を欲しているのは知っている。恐らく、下位のハンターでは十分でないと感じている事も。だからこそギルドマスターは可能な限り手を差し伸べる。応援すること、そして、狩猟の成功を祈ること。
「―― 同じ瞳を持つオヌシらじゃ。力を合わせて狩猟を成し遂げい。期待しておるぞ」
力強く激励を送るギルドマスターに礼を言って、フラムとイリーカは大衆酒場を後にした。先に立ったイリーカは指を絡めてフラムの手を握り、引き上げ、出口へと駆けて行く。
こうして彼と彼女は「火竜の番」の狩猟を目的とするクエストを受諾した。
発行元はミナガルデのハンターズギルド。縁を寿ぐ祝宴を彩る物として火竜の夫妻の竜鱗を併せ持つ風習があるそうなのだが、それは2人もよく知っている。別段疑問を抱くこともなかった。
アプトノスの竜車を引いてドンドルマを出立する。目的地は遥かに西、アルコリスの森丘だ。
森丘は2人にとって馴染みの深い猟場である。ハンターの生地ココット村から最も近い猟場であり、駆け出しもよく利用する。フラムとイリーカも例外ではなかったのだ。
王都から2人でドンドルマへ移り、ハンターの最前線で活動を始め。思えば遠くへ来たものだ、とフラムは自らの境遇を回顧する。後悔はない。かつての高貴たれという教えよりも、イリーカ共々囲う籠よりも。2人が毎夜同じ窓から夢見たハンターとしての活動は、彩り鮮やかで刺激的で。どんどん夢中にさせてくれるものだと実感しているからだ。
猟場に到着。木の葉と水の音に囲まれたベースキャンプで身支度を終えると、2人は早速出立する。
フラムは「ハンター装備」一式に身を固めている。鉱石と生物由来の合皮が程よくつなぎ合わされており、可動性と強固さを両立した、愛用するハンターも多い品である。位の高い装備品と比べると防御能力は一段劣るが、素材が汎用的な物であるため修繕費用も安く済む。汎用性があるからこそ、良い素材が入ったら、それを注ぎ足す事も可能なのだ。
数歩前を歩くイリーカは、びっしりと敷き詰められた白の鱗に、黒い金属の肩当て。ギアノスと呼ばれる雪山に生息する走竜の鎧である。ドンドルマのギルドは現在ハンターの育成に力を注いでおり、遠征費を肩代わりしてまで雪山への研修なども行っていた。それに便乗した際、イリーカが気に入って作成した防具がこれだ。何でもゴーグルなどの付属品との相性が良い点が好きらしく、彼女はこれを嬉々として着回していた。何より、彼女のつや消しの銀の髪がよく映える。その一点だけを鑑みても、否定する理由は見当たらないとフラムは思っている。
しかしこれら防具は高い買い物とはいえ、ハンターであれば用意できない代物では無い。それでも手持ちが……あるいはいつでも心許ないのは、両人共に武器の側にゼニーをかけた結果である。
先を行くイリーカは身構えながらも、一層楽しそうな様子だった。フラムも森丘の空気は嫌いではない。猟場という緊張感は別として、謳歌的な雰囲気も、生物達が時に厳しく時にのびのびと生きている環境も。以前の2人では体感できなかった、得がたい経験であるからだ。
雄大に広がる森丘の向こうに、草を食むアプトノスの親子が見える。彼らは、敵意のないハンターには一瞥をくれてそのままだ。
防具を静かに揺らしながら、2人はその横を通り過ぎ。丘の側へと進んで行くと、右手側の景色が一層開ける。青々しい草の香りを巻き上げた風が階段状の崖を吹き昇っては鼻腔をくすぐる。
「あっ、フラム」
エリアの区分けの目印として使われる一本木を抜けた所で、イリーカは立ち止まって声を上げた。腰のポーチから取り出した千里眼の薬をぐいっと飲み干した後、額の高さで掌を広げて庇にすると、じっと崖の側を見つめて目を細める。察したフラムは、背の武器に手を伸ばし傍に立つ。
「もう来るかい。どちらだろう?」
「勘で良いのかな」
「いつものことさ」
「判った。……多分、雌火竜かな。旦那さんは……巣の方。そんな気がする」
「了解した」
相方の言葉を疑うこと無く飲み込んで、フラムは少し距離を取ると、崖の側へ向けて身体を開いた。風下を選ぶと、2人は別々の木の陰に隠れる。
より崖際を陣取ったイリーカが、空に向けてふんふんと鼻を鳴らす。近いのだ。草原が靡く音がした。裾野で河川の上を滑り、湿り気を孕んだ風が舞い上がる。その風に紛れて一押し。
すぐそこの崖下から。翼に張られた翼膜がはためいて、肌が震えた。
陽光を遮って、草木に溶け込む深緑の竜鱗がきらめいた。
勘の通りに、リオレイア。陸の女王の降臨である。
ずしりと降り立った両足は、傍にある木の幹よりも太く重く。ゆらりと波打つ尻尾は、それら全てをなぎ倒す程に柔く強く。背に、翼に棘を。前方へ擡げた首の先に、空気を割いて飛ぶ為の流線型をした甲殻の兜。
万人が想像するであろう飛竜を体現したその姿。全高も、体長も、フラムやイリーカとは比べ物にならない程の体躯である。
とはいえリオレイアは、両人共に相手をしたことがある種類の生物だ。今はまだ経験の範疇にある。怯える理由は無い。雌火竜が森丘の草原に降り立ったその瞬間、イリーカは駆け出していた。
彼女らに策はある。竜はこちらに気付き咆吼を上げた。敵対した相手には最初に威嚇を入れる。可能な限り闘争を避けるための知恵だ。しかしそれは、ハンターが相手となる場合は例外である。びりびりとした頬の震えが頂点を超えてから、2人は耳を塞いでいた脱脂綿を取り払った。
「さあ、狩猟の幕開けだよっ」
「いつも通りいこう」
イリーカが背の強弓、クイーンブラスター ―― リオレイアの素材らによって作成される弓だ ―― を構える。
フラムは手に持った強弓、プロミネンスボウ―― リオレウスの素材らによって作成される弓だ ――に矢をつがえる。
「予習は上々だものね!」
「そうとも。……もし
「やー!」
2人はリオレイアの左右へ散った。
両脚を地面に付けたまま、黄色の瞳が対象を選ぶべくして惑い、ハンターらはその隙を逃さなかった。イリーカはリオレイアの側面を狙う。傾けて構えた弓から、扇状に複数の矢を放つ。頭から翼までを広く捉え、竜鱗に弾かれ翼膜には辛うじて傷を付けた。フラムは尾側へ回り込み、鱗の少ない尻から足腱部を一矢ずつ狙って行く。
草原。遮蔽物は数本の木しかない。崖際の細く長いエリアでの接敵である。ただでさえガンナーが2人。直線上に被らない事だけは注意したい。フラムとイリーカの腕の見せ所である。
リオレイアは手近な側、イリーカに狙いをつけたようだ。45度横を向き、ブレス。先ずは回避をと心がけ爆風の範囲外にいたイリーカは難なく、技後の硬直を狙って再び扇射。
フラムも矢筈を弦に強くかませ、放つ。尾に阻まれる。可能なら矢の通る口や目、粘膜の周囲を狙いたいが、そのためには正面に立つ必要があった。危険性の高い立ち回りは、まだ時期では無いだろう。後ろから腹や尻を狙い撃ちたい。
2人共に同様の、中遠距離を常とする武器だ。矢が最大限に威力を発揮できる距離を。加えて、攻撃を受けてはことだ。リオレイアとの間隔には特に気を配る。複合素材で手入れは楽になったものの、矢を消費して撃たなければならない分、防具の強度を削って積載量を増やさねばならない。ガンナーに共通した代表的な弱点である。
ズオッ!
緑の尾がフラムの眼前を通過した。大丈夫。当たってはいない。尾は周囲をぐるりと薙いで、辺りに棘を散らした。地面に突き刺さった細かい棘には、リオレイアが狩猟に用いる毒が滴っている。あまりよろしくない環境だ。
「戦う場所を少しずつ変えながら行こう」
「わかった!」
足底側にはある程度の堅さを持たせているものの、足元の防具の柔軟性はハンターの好みが別れる部分だ。フラムは堅めで刃物を踏んだくらいでは貫通しない、弓を射る際には安定感のあるものを好む。イリーカはというと真反対で、足裏で地面を掴めるような革素材を中心とした物を好んでいる。これは単純に、狩猟のスタイルによる部分が大きい。例えば。
「せやっ!」
身体ごと翼爪が振るわれる音に被せて、イリーカが跳躍。中空で身を捻りすぐさま頭、背、尾に矢を射かけた。背の棘の幾つかが折れて辺りに散らばる。
彼女の持つクイーンブラスターは矢を広範囲に放つのに長けた、長ける様に設計された弓だ。その性能を引き出すためにはモンスターとの距離は付かず離れず、中距離を保つことが望ましい。アクティブな性格もあってか、やたらと動き回るこの立ち回りは、彼女にとって扱い易いものなのである。
「―― 怒った!」
矢を半分ほど消費した所で、リオレイアが再び咆吼する。ハンターのしぶとさ、もしくは自らの不甲斐なさに焦れて本気を出したのだ。
フラムは掌で耳を塞ぎ、イリーカは備え付けの耳当てを既に装着している。リオレイアが咆吼と同時に踏み出した左脚に、間違っても踏まれないようにとイリーカが引く。空気が震え、そして、ハンター2人も同時に火を入れる。
「こっち強撃!」
「うん。なら僕は麻痺だ」
弓と矢の良い所は「鏃に帯毒の工夫さえしてあればどんな液体でも塗布できる」部分にこそあるとフラムは考える。神経毒はゲネポスやガノトトス、ガレオスなどが持つ液体毒を(管理に工夫とギルドへの申請こそ必要だが)そのまま塗布できる。ホルモンバランスを崩すことによって循環動態に負荷を掛ける……所謂ダメージを与える毒はもっと汎用性があり、キノコから目前のリオレイアを元とする物まで多数流用できる。流用できない理由が無いのだ。
瓶から取り出した液体毒を鏃に浸して、フラムは弓構え。イリーカが傷周囲の血流を促進するニトロダケの液体を塗り終えているのを確認した後、指を離す。
リオレイアはまだ動く。突進だ。イリーカはそれを避けようと大きく横へ退き、次いで、放つ。
反転、反転、ブレス。フラムの横数メートルが焼ける。衝撃によって、向かいの原にいたアプトノスの親子がびくりと鳴き、遠方へと去って行くのが見えた。
尾を鞭のように唸らせて地面を叩く。ぞりと抉られた地面。土塊が幾つかが左の手甲と兜にあたり、こつこつと跳ね返る。
兜によって遮られた狭い視界の中、もうもうと煙る草木に動じず射る。フラムの放った矢は会心の軌道をするりと抜けて、リオレイアの腹に突き刺さった。有効だ。
イリーカが射かけた3本ともが頭を捉え、その1つが頭殻を削り取る。リオレイアがイリーカに気を向け、交互、後ろから放ったフラムの矢が内踝を叩く。
「あっ」
リオレイアが顎の力だけでイリーカへと噛み付いた。身を引くが、間に合わない。
「……シィッ!」
一際強く引いたフラムの弓弦が震え、渾身の乙矢が放たれる。フラムの持つプロミネンスボウの強みは「これ」だ。
イリーカに噛み付いたその顎を、頭を ―― 眼を。反射的に閉じられた瞼の上から、貫いた。
リオレイアがよろけ、たたらを踏む。矢は突き立ったままだ。腹と背と、眼から赤い血が流れ落ちる。
すぐさま持ち直し、3連ブレス。フラムはひとつ避け損ね、足元に受ける。バランスを崩して転がった。延焼で足防具が焼かれる前にその場を離れ……イリーカの無事を確認しながら……フラムは今度こそ、正面から頭を狙う。
弾かれた。正面からの攻撃には、慣れているらしい。
「こちら、ちょっと腕甲が凹んだくらい!」
「こちら、足は無事だ!」
現状報告を返し合う。リオレイアとの攻防は続く。相手は飛竜。巌を削って山に穴を開けるような作業だ。柔らかい部分が見えているだけましであるとすら思える。
時に傷つけ、傷つけられ。暫くして。
「引いた」
イリーカが呟く。リオレイアはくぐもった鳴き声を残してハンターから距離を取り、そのまま空へと飛び去っていった。
斥候の方々の報告によって、巣はここの近くにある事を確認できている。急ぐ必要は無い。今は息を整えるべきだろう。
「結局来なかったね、リオレウス」
「君の勘を元に予測するけど、もう卵があるのかも知れない。どちらかが留守を預かっているんだろう」
なぁるほど、とイリーカは頭をコクコクと動かして頷く。クイーンブラスターを折り畳んで背負い(複合素材の弓なので折り畳む事が出来る)、回復薬をぐいと飲み干して、べぇ。舌を出して顔を歪ませた。
「なら巣の近くに行ったんだね。どっちも居ると思うし」
「ああ。ここからも遠くない。装備をチェックして、僕らも行こう」
「いいよ。一緒に行こうね。何時までも何処までも!」
リオレイアとの闘争の跡では青草が煙を立て、遠くでむせたチャチャブーの悲鳴が聞こえる。やたらとわざと食い違ってみせるイリーカの様子に呆れながら、フラム達は森丘の坂道を登って行った。