魔導物語 Seven Catastrophe   作:アヤ・ノア

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某ゲームを元にしたため、結末は二つになっています。
それはどちらも正しく、どちらも間違っているのです。

アルルが選んだ選択は……。


40「二つの結末」

 ――神を討たない場合。

 

「……ごめん、やっぱり、ボクには神様なんて、倒せないよ……」

 アルルはからん、と杖を地面に落とした。

「……我を討たないのか」

「考えてみれば、ボク達だけじゃ、世界はどうにもならないよ。

 だって現に、キミが住む現実世界のニホンは、もう終わりかけてるし……」

「そ、そんなわけ……!」

 最早、アルルに戦意はなかった。

 りんごは彼女を止めようとするが、アルルは「もういいよ」と諦めたように吐き捨て、

 そして古のものにこう言った。

「ねえ、神様……古のもの、だったよね? こんな腐った人類と世界、キミに全部あげるよ。

 キミならきっと、世界を良くできるよね?」

「うむ……」

「ぐー! ぐーぐ、ぐぐっぐー!」

 カーバンクルは「やめて」とでも言うようにアルルにしがみつく。

 しかし、アルルの意志は揺るがなかった。

 古のものはアルルの言葉を受け取り、頷く。

「汝の意志、しかと受け取った。これより、我、古のものは、この世界を再構築する――!」

 

 そして、世界は古のものに支配された――

 

 古のものの統治下において、人は己の欲のために動く事はなくなった。

 美しい自然が広がり、景気も良くなり、戦争も、差別も、偏見も、全て存在しない。

 それが、この再構築された世界の日常だ。

 

「カーくん、今日のカレーは美味しいね♪」

「ぐー♪」

 アルルは、いつものようにカーバンクルと共にカレーを食べていた。

 ルルーとシェゾは、いつものようにわちゃわちゃと痴話をしている。

「あ、また騒いでる。やっぱり喧嘩友達だな」

 笑いながらアルルが二人を見ていると、空から角の生えた男が現れた。

 自称アルルのフィアンセ、サタンだ。

「アルル! それにカーバンクルちゃんも! 私と星空のハネムーン☆に」

「却下」

「ぐーぐ」

 サタンの求婚をアルルはプイっと無視した。

 これも、いつも通りの光景だ。

「今日こそ、あたしと決着を……」

「まさか、美少女コンテストの!?」

「ふふん、あたしの美しさに敵うと思って……じゃなーいっ!! ぷよ勝負よっ!」

 ドラコが、いつものようにアルルに勝負を吹っかけてくる。

 アルルはやれやれといった様子で、彼女と勝負をした。

 

 一方、アミティが暮らすプリンプタウンでは。

「では、1時間目、魔導学の授業を始めます」

 プリンプ魔導学校の1組で、アコール先生がいつものように授業をする。

 今頃2組では、同じような授業を受けているだろう。

「ふむふむ……なるほど……」

(平和だねぇ。何も波風は立たない……ううん、立てないんじゃないかな?)

(ZZZ……)

 クルークが真面目に話を聞いている中、ぼんやりしているアミティと、

 目を開けて寝ているシグを見たアコール先生は、眼鏡を光らせて二人にチョークを投げる。

「いったぁ!」

「なにをする」

「アミティさん……シグ君……授業はちゃんと聞いてくださいね」

 アコール先生はニコニコ笑っていたが、閉じている目は笑っていないのだろう。

 アミティとシグは怯えながら、アコール先生の方を向いて彼女の話を聞くのだった。

 

 一方、りんごが暮らすチキュウでは。

「へえー。○○と××が婚約したって。結ばれるといいですね」

 りんごは、チキュウの自宅で新聞を読んでいた。

 隅々まで読んでいるが、以前は見慣れていた暗いニュースは全くなく、

 明るくて読みやすい新聞となっていた。

「本当に、チキュウは平和になったんだなぁ……」

 窓から外を見ると、美しい自然が広がっていた。

 動物達の鳴き声も聞こえてきて、

 まるで、この世界にいながらファンタジーの世界にいるようだ。

 何の苦しみもなく、誰も彼もが幸せに暮らしている……これが、今のチキュウだ。

 

「まぐろ君、りすせんぱい、おはようございます」

「やあ、おはよう」

「おはよう、あんどうりんご君」

 りんごは自宅を出て、まぐろとりすくませんぱいと合流する。

 いつものように、三人で学校に向かうのだ。

「本当に、平和になったね」

「はい。今も昔もチキュウは平和です」

 古のものが思考も作り変えているためか、

 今の三人には最初から平和だという記憶しかなかった。

「おっと! 立ち止まってはいけないんでした。早く学校に行かなきゃ!」

「そうだね」

「では、帰りにまた会おう」

 

「……平和、ですね……」

 アリアは、古のものに支配されたプリンプタウンの、ふれあい広場のベンチに座っていた。

 元々、大きな異変以外の事件が少なかったプリンプタウン。

 いずれ、このプリンプタウンでも、戦う必要が完全になくなり、

 大規模な攻撃魔法は衰退していくだろう、とアリアは感じた。

 五人の精霊も、古のものが力を強めた事で力を失い、

 小さくなっていくのも、アリアには感じ取れた。

「アリア、何をぼんやりしている」

「あ、ジルヴァ……ごめんなさい。私、もう戦えないかもしれません」

 ジルヴァがアリアの隣に座る。

 彼はアリアが困った表情になったのを見て、心配なのかアリアに声をかける。

「世界は平和になりました。でも……本当によかったんでしょうか」

「何を言う、平和はいいんだろう?」

「誰かが支配した形での平和って、本当に平和なんでしょうか……」

 確かに、全ての世界は平和になった。

 しかし、大きな存在が支配し、正しく導いているからの平和だ。

 アリアは、そんなものは平和ではないと思ったのだ。

「まったく、お前は14歳の癖に考えすぎだ。少しはあの赤ぷよ帽の女を見習え」

「おや、アミティさんを見習えというのは、珍しいですね」

「考えすぎると疲れるからだ。頭を休ませろ」

「……はい、分かりました……」

 アリアはジルヴァの言葉に従い、今はこの平和な世界に生きる事にした。

 

 所変わり、異世界にて。

「……失敗した。世界は平和になったが、守る事はできなかった」

 この世界にとっての異世界に戻ってきたトライブレードは、

 今回の出来事のレポートを書いていた。

 古のものを倒せず、世界が彼に支配されて平和になった、と。

「え、失敗? なんでそう書くのよ。平和な世界になったんでしょう?」

 ソードがそう言うと、セイバーは首を横に振った。

勇者(わたしたち)の使命は、今の世界を守る事。

 たとえ悪い未来になるとしても、世界を大きく変えようとするものは、

 排除しなきゃいけないんだよ」

「だから、失敗したと書いたのね」

「そうだよ。はぁ……だから、勇者っていうのは、こんな事もしなきゃいけないのさ」

 セイバーは、レポートを書きながら溜息をついた。

 勇者、それは勇気ある者の事を指す。

 彼らにとって大切なものを守るために、どんなに強大な敵にも勇気をもって立ち向かう者。

 たとえ、潰れるほど重い使命や、多くの命を救うために人間を滅ぼす使命を背負っても、

 勇者が勇気を失えば、勇者ではなくなるのだ。

「まあ、平和にはなったし、何より、オレ達はそこまで頑張ったんだ。結果オーライだろ?」

「エッジ……」

「それに、古のものが暴走したら、また止めればいい。私達はそのために勇者になったんだから」

「父さん……」

 エッジと父カインが、落ち込むセイバーを元気付ける。

「……そうだね。ありがとう。じゃ、これを書き終わったら、私は少し休むからね!」

 

 ――たとえ、神が管理する仮初の平和だとしても。

 ――四人の勇者が、任務に失敗したとしても。

 ようやく、世界は完全に平和になったのだから、この幸せを謳歌しようではないか。

 アルル、アミティ、りんご、アリアは、

 神が築いたこの永遠の楽園の中で、いつまでも幸せに暮らすのであった。

 

 魔導物語 Seven Catastrophe

 ~神による新たな時代~

 

 完

 

 ――神を討つ場合。

 

「……こんな我儘な奴に支配される世界なんて、ボクはもう、嫌だ!」

 アルルは毅然とした表情で古のものに杖を向けた。

「我儘な奴……だと?」

「そうだよ!

 いくら世界を良くしたいと言っても、キミみたいな我儘な奴じゃ、すぐにダメになっちゃう!」

 古のものは、世界を滅ぼし、新しく作り直す事で自分にとって良い世界を作ろうとした。

 だが、そんな事をしても、また悲劇が繰り返されるだけだ……。

「それに、あたしは他に世界を平和にする方法を知りたい。

 今はまだ分からないけど、いつか必ず見つける!」

「それを見つける前に世界をもう一度やり直すのは、まっぴらごめんです!」

「私達は、人の可能性を信じます。だから……」

 四人は頷き合うと、呪文を詠唱し、古のものにとどめを刺す準備に入る。

 

あなたを倒します! レインボーブレイカー!!

私は、私自身の手で未来を掴み取る! パーミテーション!!

自分で答えを見つけるのが最高の結末だよ! ルミネシオン!!

ボクが欲しいのは今だけだ! ばよえ~ん!!

ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!

 四人の思いがこもった大魔法が、古のものにとどめを刺した。

 

 そして、古のものは倒れ、世界は彼の脅威から救われた――

 

「……終わった、んだ」

 全ての戦いは、終わった。

 それにより次元の裂け目が消え、アルル達は不思議な力で元の場所に戻っていた。

 世界を支配しかけていた古のものが消えた事で、この世界は人の手に委ねられる事になった。

「うん……終わったね」

 古のものという大いなる存在がいなくなり、新たな世を託す事となった、人。

 それは、世界を支える者が、大いなる者から、小さき人へ代替わりする、一大転機。

 かつての神話時代と、今の人の時代のようだった。

「……という事は……」

 古のものが消えた事で、

 これからは、何か悪い事が起こっても大いなる者が助けてくれる事はない。

 もしも、人が道を外せば、この世界は「本当に」滅んでしまう――

 だからこそ、今を一生懸命に生きなければ、と四人は思った。

「今度からは、私達がしっかりする必要があるようですね」

「ぐっぐぐー」

「すぐには上手くいかなくても、みんなが力を合わせれば、きっと、世界は良くなるよ」

 世界がこれからどうなるのかは分からない。

 唯一分かっているのは、人が秩序を作る、という事だけ。

 人が正しく生きれば、世界は正しくあり続ける。

 そうある事を、四人はずっと願っていた。

 

「これからは、ボク達が世界を支えていく番だ」

「だから、キミはゆっくり休んでいてね」

「大丈夫です、もう安心してください」

「私達が、これからの未来を紡いでいきますから」

 

「まったく、復興作業も大変だな」

「そうだね~。ま、これもさぼった報いからかな?」

 サタンとエコロが瓦礫を運んでいき、アコール先生がくすくすと笑いながら見守る。

 カタストロファーセブンや魔物、古のものの攻撃によってボロボロになった世界は、

 住民の懸命な復興作業によって少しずつ元に戻っていった。

 被害は大きかったが、だからこそ、「協力する」という心が求められるのだ。

 

「もう、神様はいないのね……」

「ええ。でも、神様はいつでも私達を見守っている。そうよね、アージス隊長?」

「ああ……。もう、彼らの役割は終わった」

「今度は僕達人が背負っていく番、というわけだね」

「そうだな」

 フェーリ、レムレス、リレシル、そして魔導守護隊長アージスが天を仰ぐ。

 古のものを失い、アルカディアは以前とは確実に異なる、新たな世界を迎えた。

 人々も、大いなる者に縋れなくなった事で、この世界に責任を持ち始めていた。

 そう、世界は人と共に、良くなっているのだ。

 

「あれ? トライブレードのみんなはどこに行ったの?」

「ああ……それなら、こんな手紙が届いてますわよ」

 そう言って、ルルーはアルルに手紙を渡した。

 その手紙には、こう書かれていた。

 

 私達は、世界の「今」を守るという勇者の使命を果たしました

 でも、この手紙が届いている頃には、この世界にはもう私達は現れないでしょう

 何故なら、私達はもう、この世界を救うという役目を終えましたから

 でも、安心してください

 私達はずっと、この世界の外から君達を見守っていますよ

 トライブレードの代表 セイバーから

 私の友達 アルルに宛てる

 

「……セイ、バー……」

 手紙を読んだアルルが、涙をぽたぽたと流す。

 紙にはアルルが流した涙が落ち、濡れていった。

「ちょっと、アルル、なんで泣いてますの?」

「だって……ボク、やっと分かったんだよ……。ボクとセイバーが、友達だって事を……!」

 自分の父親がそうだったように、本当に大切な人なら、ちゃんと手紙をよこしてくれる。

 つまり、セイバーは、『アルル』の事を、

 別世界の存在ながらちゃんと大事に思ってくれていた事が証明されたのだ。

「ま、二度と会えなくても、セイバーや父、ソード、それにカインは絶対に死にませんわよ?」

「あいつらは『勇気ある者』だもんな。どんな事があっても勇気を捨てたりしないさ。

 お前のように、な」

 そう言って、シェゾはアルルの肩に手を置いた。

「ちょ、シェゾ! ボクはこっちじゃ勇者じゃない、ただの見習い魔導師だよ!」

「あはは、アルル顔が赤くなってる~」

「本当だ、照れてますか?」

「ふふっ」

「アミティにりんごにアリアまで、ボクをからかわないでよ~~~!!」

「ぐぐぐぐ~~~!!」

 三人にからかわれるアルルは、ぷんぷんと湯気を立てるのだった。

 今、アルルの味方は、カーバンクルだけだった。

 

 所変わり、異世界にて。

「世界を古のものから救う事に成功。

 これにより、プリンプタウン、魔導世界、チキュウは人の世界となる」

 この世界にとっての異世界に戻ってきたトライブレードは、

 今回の出来事のレポートを書いていた。

 古のものを倒し、世界を救った、と。

「ふふ、世界を救えてよかったわね」

 ソードは微笑みながらそう言った。

 セイバーとエッジも彼に釣られて笑みを浮かべる。

「これからは人類(わたしたち)が世界を支えていく時代だ。ちょうど、神々の時代が終わったみたいに、ね」

 数万年前は、神や竜などの大いなる者が世界を支配していたが、今は人の時代になっている。

 それと同じだとセイバーは言っているのだ。

「そうだな……この世界と同じだ、な。どこも、時代の流れには逆らえないんだな」

 エッジはふぅ、と溜息をついた。

 時間は前にしか進まない、すなわち時代の流れには逆らえない。

 無理にせき止めれば、世界は壊れてしまうだろう。

 だから、今の現実をそのまま受け止める事が、彼らにできる唯一の事なのだ。

「これからの世界がどうなるかは誰にも分からない」

「でも、人の気持ちはだんだん良くなっている」

「この気持ちがずっと続けばいいんだけどね」

「私は信じているさ。人の強さ、人の輝きを。

 人は一人ではただの明かりだけど、集まれば世界を照らす光源となるよ」

 

 ――世界は、古のもののの手から解放された。

 ――時代は、確実に変わっていった。

 それでも、人は大いなる者の力を借りずとも、世界をより良くできるだろう。

 アルル、アミティ、りんご、アリアは、

 人の時代となった世界を守るため、より一層努力をするのであった。

 

 魔導物語 Seven Catastrophe

 ~人による新たな時代~

 

 完




どちらが正史なのかは、皆様の想像にお任せします。
というわけで、魔導物語のカタストロファー編セガぷよアレンジは完結です。
読んでくださった方々、本当にありがとうございました。

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