東方で友人以上百合未満・共依存ないしは奇譚風味の小説を書いていたのですが、ふと思い立ってクロスオーバーなるものを初めて書いてみることにしました。
とりあえず冬木の異聞帯は書き切ろうとは思っています。10話はかからないかと思います。それ以降については未定です。上手く書けそうであれば考えます。
とりあえずは短い旅路の予定ですが、どうぞお付き合い下さいませ。
「……何かしらこれ?」
彼女――古明地こいしは奇妙な孔を前に、こてりと首を傾げた。
幻想郷――ではない。
夢の世界の更に下。精神領域の一つ――彼女の言葉を借りるならば「深層無意識領域」と呼ばれる場所である。
無意識を司る幻想少女、古明地こいしはこの場所がいっとうのお気に入りであった。
ユングの言葉に曰く、ありとあらゆる生命は無意識の深層において確かにつながっているという。集合的無意識と呼ばれるその概念を体現するかのようなその場所は、距離の概念も、時間の概念も、どころか自他の概念ですら存在しない空間であった。そしてそのような曖昧さが、彼女がそこを気に入っている理由の大きなものであった。
そこに唐突に現れた、孔。
彼女にとってしても、初めて見る現象である。
いくら彼女が無意識を司る存在であるとはいえ、この「深層無意識領域」について、全てを知っているわけではない。
けれど、黒い球体のように見えるそれが、辺りに満ちたものものを吸い込んでいるその様子は、古明地こいしの目にはしっかりと映っていた。
「……落ちてみようかな」
古明地こいしは呟いた。
もとより彼女の精神は、好奇心旺盛な少女のそれである。都合五百年ほど生きているとはいえ、それを傍目に察されるような老獪さは微塵も持ち合わせていない。そういう役回りは、全て彼女の姉の役割であったから。
「うん、行こう」
彼女がそう決めるには数秒もかからなかった。
この小物語は、このようにして幕を開けた。
彼女は知らない。
その孔の向こうがいずれ、幻想郷もかくやとばかりの神話の坩堝となることを。
彼女は知らない。
その孔の先にある世界が、幾つもの策略に囚われて、破滅の危機にあることを。
彼女は知らない。
その孔が、カルデアという機関によって行われた、英霊召喚の魔術によるものであることを。
♡ ♥ ♡
「優しいひとだといいんだけど……」
不安そうに、少女――藤丸立花は、眼前の青白い光を見つめつつ呟いた。
異聞帯、冬木。諸々の事情により、つい最近まで正真正銘の一般人であった彼女は、この地に起きた異常を解決しなければならないこととなっていた。
現在の彼女は、そのためのある種の助っ人――サーヴァントと呼ばれる、過去の英雄の写し身たち――を召喚しようとしていたのである。
「大丈夫です、先輩ならきっとどんなサーヴァントとでも仲良くなれますよ!」
「あはは……マシュにそう言ってもらえるとうれしいよ」
隣に立つ、背の丈ほどある盾を構えた少女――マシュ・キリエライトに励まされ、立花は曖昧に笑ってみせた。荒事慣れしていない彼女にとって、英霊の相手は荷が重いのは恐らく間違いない事実。けれど一方で、信頼できる後輩の言葉が彼女の重荷を和らげたこともまた確かだった。
「それより僕としては、強いサーヴァントが来てくれると嬉しいんだけどね……」
「……ねえ、おかしくない?」
通信に乗せて緩い青年の声が届くが、それに被せるように二人の少女の隣に立つ女性――オルガマリー・アニムスフィアが声を漏らす。
「普通の英霊召喚はもっと一瞬で終わるものよ。なんで光を放った状態から先に進まないわけ?」
「そうなんですか、所長?」
オルガマリーの言葉に首を傾げて問う立花。彼女はそれに呆れたような目を向けるが、その口から文句が紡がれることはなかった。
「――――っとと」
英霊が、降臨する。
三本の光輪が収縮すると共に、召喚陣から聞こえたのは幼い声。
光の中から現れたのは、年を十数えるかどうかといった背丈の少女。
ぱしぱしと服の汚れを払う素振りを見せるが、その一挙手投足で小動物のような、或いは純真な童女のような愛くるしさを振りまいていた。
「……可愛い」
「きゃー褒められちゃったー嬉しいー」
立花の思わず漏らした呟きに反応し、袖をぱたぱたと振る少女。姿相応の幼い仕草に立花は思わず緊張をゆるめる。対照的に、立花の両側に立つ二人は明確な警戒感を滲ませていた。
「……初めての英霊召喚で幻想種を引き当てるとか、貴女一体どんな縁を持ってるのよ」
「幻想種?」
オルガマリーの言葉に首を傾げる立花。その疑問に答えたのは先の通信を通した声――Dr.ロマンの言葉だ。
「幻想種っていうのは、鬼や吸血鬼や妖怪……つまり、物語に伝わるような怪物とかの総称だよ」
「へー、こっちではそんな呼び方するのね。お兄さんありがとー、ってどこにいるのか分かんないけど」
無邪気な少女の反応にますます立花は困惑する。両側を固めて睨む二人の、警戒する理由が分からない、と。
少女の出で立ちは大きな黒帽子を被った緑髪緑眼。身体に奇妙な紫色の管を絡ませてはいるものの、それを除けば普通の少女と変わらない。きょとんとした顔で首を傾げるその姿も姿相応の様子に見えて、警戒すべきとは感じられない。
……当然だ。神秘に触れず過ごしてきた彼女には、人ならざるものの恐ろしさが理解できるはずもない。ましてや相手に戦意がなければ猶更である。
「……あれ?」
困惑のまま、立花は眼前の少女に声をかけようとして――ふと、気付く。
二人の睨む召喚陣の上――そこには既に、
慌てて辺りを見回す立花。その耳に先の少女の声が届く。
「ふーん……変な文字ね、パチュリーさんが使ってたような気はするんだけど」
振り向くとそこには、オルガマリーの腕を至近で眺める少女の姿。
「いつの間に……?」
「「――――っ!?」」
立花の思わず漏らした声に、遅れて気配に気付く二人。特に、近寄られたことすら気付かなかったことを理解したオルガマリーは愕然としている。それをまるで気にしない様子で、少女はきらきらとした瞳で立花を見つめた。
「なにもしないで私を見付けられるなんて、貴女とってもすごいのね!」
「へ? いや、そんなことは」
「気に入ったわ、何するのか知らないけど手伝ってあげる! 私は古明地こいし、貴女は?」
「え、ああ、藤丸立花です」
急速にテンションを上げる少女――古明地こいしの勢いに半ば押されるように立花は答える。それに満足したように、こいしは満面の笑みを花開かせ、言った。
「じゃあ立花ちゃん、
次回の投稿は7日の12時頃を予定しています。
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