こいしちゃんの能力についてはかなり濃い独自解釈を含んでいます。
原作沿いにしてしまうと自己同一性をほとんど持たない夢遊病患者になってしまうので……
いや、原作風こいしちゃんもすごく可愛いとは思うのですが、それはそれとして。
「それで、えーっと……こいしさん?」
「こいしちゃんでいいよー。立花ちゃんたらなにか訊きたいの?」
「じゃあ、こいしちゃん。さっきのマシュと所長……この二人の目をかいくぐってたのは、あれはいったい何をしたの?」
立花の疑問はもっともだった。警戒している相手、それも二人に睨まれた状況で相手の傍へ近づくなど、常識で測れる技ではない。当のマシュとオルガマリーも「私も何をされたのか分かりませんでした」「そうよ、一体あなた何をしたのよ」と追従し追及するのを前に、こいしは何でもないように「んーとね」と指を振った。
「簡単に言うと、私は無意識を操れるの」
「無意識?」
「色々できるのよー? 周囲の意識を逸らして誰かの気配を薄くしたりとかー、相手が動いていないかのように錯覚させたりとかー、距離感を狂わせたりとか」
「それは……」
殺し屋のようだ、と立花は思った。不穏な雰囲気の能力だと続けて思うその隣で、オルガマリーが「うわあ……」と引いたような声を漏らす。
「悪意の塊のような能力ね……」
「そんなにですか?」
「当り前よ……前から来ると思ったら後ろから切りつけられる、みたいなことを当然のように起こせるって言ってるのよこの子。絶対に敵には回したくないわ……貴方しっかりこの子の手綱を取りなさいよ? いいわね?」
「はあ……」
そう言われても、立花にはいまいち実感が湧かなかった。彼女はこれまで戦いの場に身を置いたことなどないのだから、当然と言えば当然だろう。マシュのごくりと唾を呑むのがちらりと横目で見えたこともあり、立花は「強いんだなあ」とざっくりとした認識をするに留まった。
「すると、こいしちゃんのクラスはアサシンなのですね」
「それが、魔力パスの解析をした限りだと、彼女のクラスはどうやらキャスターみたいなんだ」
マシュのこいしへ向けられた言葉に、けれど答えたのはDr.ロマンの困惑気味な声であった。
「キャスター……彼女の能力が妖術として判断された、ということでしょうか」
「どうなんだろうねえ……」
「ねーねー、ちょっといいかしら?」
マシュと揃って黙り込んでしまったDr.ロマンに、首を傾げてこいしが声をかける。
「二人の言ってるクラス?って何のこと?」
「ああ、こいしちゃんは知らないんですね。ということはサーヴァントのことも?」
「聞いたこともないかなー」
「なるほど」
一つ頷いて、マシュはこいしへサーヴァントについて説明する。高名な人物が死後に座に記録されること、異常事態に特定の儀式を以てそれらの霊体の一側面を召喚できること、そのそれぞれの側面をクラスと呼び、例えばキャスターとは術師としての側面を表すこと。……そしてこの先、敵性サーヴァントが現れる可能性が高いこと。
「……聞いてますか?」
「あーうん、聞いてる聞いてる」
とは言いながらも、説明の中盤辺りからこいしがぼんやり虚空を見つめていたことは確かであった。「大丈夫なのこいつ?」と思わず、今までとはまた違った意味で不平を漏らすオルガマリーに、こいしは妙に楽しげな様子でにこりと笑いかけた。
「んーまあ概ね大丈夫よ。大体のことは
「……本当に?」
「ほんとほんと」
オルガマリーの追及にひらひらと軽い調子で手を振るこいし。そのまますっと彼女の後方に目を向けて彼女は言葉を続ける。
「とりあえず、私がキャスターなのはその通りだと思うわ。私は暗殺なんかしたことはないし、妖術以外に碌な手札を持ってないもの。それと――」
「っ、敵性反応、北西方向に10体! スケルトンだ!」
こいしの言葉を遮るようにDr.ロマンが叫ぶ。立花たちの振り返った先、偶然にもこいしの向いていた方角から、多数の骸骨が走ってくる。
立花はごくりと唾を飲み、マシュが二人を庇うように前に立つ。
そこへ――三人の背後から、
「……え?」
予想外の現象に困惑する立花たちをよそに、伸びた茨がスケルトンへと絡みつく。動きを封じられた後に茨の棘に貫かれたスケルトンたちは――
――直後、膨らむように形を崩すと、原形を失い、地面へ吸い込まれるかのように消えていった。
「――それと、その敵性サーヴァント?ってひとたちは、霊体みたいなものなのよね?」
そして立花は、何事もなかったかのように言葉を続けるこいしの声を聞いた。立花が振り返ると、先程までとまるで変わらない幼げな笑顔で、両手の袖口から無数の茨を伸ばしたこいしが立っていた。
「それなら話は簡単ね。相手に無意識のある限り――
そう、無邪気に言い放ったこいしのことを、ようやく立花は恐ろしいと感じ始めていた。
ここまでお読み頂きありがたい限りです。
それと、本作とはあまり関係ないのですが、現在「東方人気投票」という企画が行われています。今年で16回目となる、そこそこ歴史ある企画です。→https://toho-vote.info/
本作は、この人気投票のこいしちゃんへの支援作品として筆をとったものである、という側面もあります。
気が向いた方がおりましたら、是非こちらの人気投票でこいしちゃんへ票を投じて頂けますと幸いです。
※人気投票でのこいしちゃんの得票数と本作の更新頻度に相関性はありませんのでご了承ください
次回の投稿は本日18時頃予定です。その次はまだ未定です。