「さあ――素敵な薔薇園で遊びましょう?【コンファインドイノセント】」
短刀がひゅうと風を切る。繋がれた鎖がじゃりじゃりと金属音を奏でる。そして――ずるずると巨大な蛇が這いまわるような奇怪な音を響かせながら、その後ろから無数の茨が追いすがる。
それは、圧倒的な光景だった。
鎖鎌に似た武器を操り、ビルとビルの間を自在に高速で飛び回る人影――敵性サーヴァント。
それを追いかけるように袖口から茨をばら撒いては、少女――古明地こいしが追いすがる。
――サーヴァント同士の衝突は、
「すごいですね……」
「サーヴァント同士の戦いって、こんなに激しいんだ……」
「いや、二人とも勘違いしてもらったら困るんだけど。今目の前で起こってるそれは、普通のサーヴァント同士の戦いからはかなりかけ離れているからね?」
「……そうなんですか?」
思わずと言った様子で感嘆を漏らすマシュと立花。それに幾らか呆れたようにDr.ロマンが口を挟むと、二人は驚いたように問い返した。
「当たり前でしょ……サーヴァントだって基本的には元人間よ。普通は空中戦になるわけがないじゃない」
へたり込んだまま、半ば放心したような様子で指摘を返したのはオルガマリーだ。
「本当、なんなのよ……
震える声で不平を漏らし続けるオルガマリーへ、唐突にマシュがカバーに入る。直後に金属同士のぶつかり合った甲高い音を耳にして、オルガマリーは声にならない声を上げた。
「ありがとうマシュ。所長は大丈夫ですか?」
「なんなのよ……なんなのよお……」
「……あまり大丈夫ではなさそうですね。早く終わるといいのですけれど」
そう言ってマシュは上空の攻防を見上げる。
空中での機動力、そして遠距離攻撃の手段。そのどちらも持たない彼女では、眼前の衝突に割って入ることは不可能だ。そしてそれは、人間の身である他の二人も同じであった。
幸いなことに、空中戦はこいしが押しているようであった。
何しろ手数がまるで違う。敵性サーヴァントがその手の鎖一本で機動と攻撃を全て捌いている一方で、こいしの袖から伸びる茨は合わせて二十にも及ぶ。敵が未だに捉えられていないのは、偏にこいしの動きがそこまで早くないのと、茨を伸ばしてから回収するまでには幾らか時間がかかるからだった。
――そして、それもじきに終わる。
敵サーヴァントへ再び茨が襲い掛かる。鎖を伸ばしてそれを避け、反撃とばかりに短剣を飛ばした敵性サーヴァントだが、その目前へ
♡ ♥ ♡
「こいしちゃん、本当に強いんだね」
「んー、別にそんなことはないんだけど……でも嬉しいー。ありがとねー立花ちゃん」
地面に降り立ったこいしに向かって、立花が納得したように声をかける。当のこいしは何処か困ったような素振りを見せながらも、けれども照れ臭いと言わんばかりにぱたぱたと袖を振ってみせた。
「今回はあまり力になれませんでしたね……」
「えーそんなことないよ? 誰かを守りながら戦うなんてこと、私には無理だもの。マシュさんがいてくれたおかげで結構助かっちゃったわー」
「そ、そうですか……?」
申し訳なさげに謝るマシュにこいしは手を振って否定する。そしてくるりと振り返ると、未だにへたり込んだままのオルガマリーに目線を合わせてにこりと笑った。
「それで、所長のお姉さんは大丈夫?」
「貴方がもう少しまともだったら私ももう少し大丈夫だったかもしれないわね……」
「わーお、もしかして怒ってる? きゃーこわーい」
「この、ひとが弱ってるっていうのに馬鹿にしてくれるじゃない……!」
くすくすと楽し気に笑いながらこいしは彼女から距離を置く。そして――
――その胸に黒い短刀が突き立った。
「こいしちゃん!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、このくらいじゃ私全然死なないから」
慌てて駆け寄ろうとする立花をこいしは手を上げて制する。そのまま胸の短刀を引き抜いてくるくると回し、「魅力的なナイフねー。一本持って帰りたいわー」などと嘯きながらにへらと笑った。その胸からは血の一滴も零れなかった。
「所長のお姉さんが心配だったんだけど――それだけ言えるなら問題ないよね」
「マサカ、避ケル素振リスラシナイトハナ。化ケ物トハイエ、舐メラレタモノダ」
その言葉と共に、こいしの振り向いた先へ髑髏の仮面をつけた男がゆらりと現れる。
「残念なんだけど髑髏のおじさん、私を殺したいーっていうのなら、八つ裂きにぐらいしてもらわないと足りないんだよねー」
「……ツクヅク馬鹿ニシテクレル。ナラバ四肢ノ肉カラ削リ殺シテシマウトシヨウ」
「素敵なお誘いで悪いんだけど、遊び相手にはあいにく先約がいるの。だから代わりに――貴方の
互いに口上を謳い上げて、こいしと髑髏の敵性サーヴァントは短刀と茨を飛ばし合った。
「こいしさん!」
「待つんだマシュ! 反対方向からサーヴァント反応が来てる!」
「――っ!」
こいしの支援に動こうとしたマシュは、Dr.ロマンの言葉に慌ててそちらへ向かう。どちらの支援をするべきかと混乱する立花に、再びこいしが声をかけた。
「立花ちゃんはマシュさんの方に行ってあげて? 私は一人で余裕だし、それにひとを守りながら戦えるほど器用じゃないもの」
「……分かった。こいしちゃんもやられないでね!」
そう言い残して立花はマシュの側へ向き直った。それを眺めるこいしに向かって黒の短刀が襲い掛かるが、こいしはそれを全て踊るように避け切る。
「戦イナガラヨソ見トハ余裕ダナ化ケ物!」
「化け物じゃなくってこいしちゃんって呼んで欲しいんだけどなー!」
互いに煽り、同時に声を張り上げる。
戦いはまだ始まったばかりだ。
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