それと、UA2000頂きました。ありがとうございます。
そろそろ区切りが見えてきましたが、今しばらくお付き合い願います。
「バーサーカー!? なんでこんなところにこいつがいるんだよ!」
「知ってるのキャスター!?」
「ああ。奴の真名はヘラクレス、ギリシャ神話の大英雄サマだ!」
焦りを滲ませた表情で応えるキャスター。その余裕のない表情に、ぞっと立花は顔を蒼褪めさせる。彼女たちの相対している大男が、今までの敵とは比べ物にならないほどの強敵であると理解したのだ。
「■■■■■――――!」
「先輩!」
その立花の方へと向き直り、叫びながら剣を振り上げるバーサーカー。そこにマシュが割り込み盾を掲げるが、それで防ぐことができるかと言えば、恐らく疑わしいだろう。
「令呪を使いなさい!」
「分かりました――――【マシュ、逸らして】!」
「はい――『
オルガマリーの悲鳴にも似た指示に、立花が魔力の籠った言霊を紡ぎ、呼応してマシュが宝具を展開する。斜めに構えられた障壁を割り砕きながらも、敵サーヴァントの大剣は間一髪のところで彼女たちを捉えきれず、そのまま地面に突き刺さった。
「キャスター!」
「おう! ――『
間髪入れず、続いてキャスターが宝具を放つ。炎を纏った木々の集合体たる巨人が大男へと殴りかかり――
「――【今から電話をするから出てね】?」
「■■■■■――――!!」
「なっ――!?」
――しかしその炎の拳が届くのと同時、バーサーカーの大剣が巨人を吹き飛ばした。
形を失い崩れ落ちる巨人。対して敵サーヴァントは肩を焼け爛れさせたものの、まるで動じた様子も見せずに再び剣を振り上げる。
「クソッ、とんでもねえ引きの悪さじゃねえか……!」
「もう一度、令呪を以て命ずる! お願い、マシュ――」
「もう無理よ! 終わりよ! どうしろっていうのよこんなの!」
キャスターが舌打ちし、立花が二画目の令呪を切り、オルガマリーが半狂乱に叫ぶ。その一切を叩き潰さんと、ヘラクレスの刃が振り下ろされ――――
「
その金属塊が、唐突にその動きを止める。
「――【没我の愛】」
囁くように紡がれたその声は、確かに先程吹き飛ばされた少女のもの。
それを呼び水に、まるで焦点が合わさったように姿を現す幻想種の少女。
そして――その周囲を取り囲むように生成され、彼女の元へと飛び込んで行く、壁と見紛う数の妖弾。
「……綺麗」
思わず立花は呟いた。
鎖鎌を持ったサーヴァントとの戦いのとき、こいしは茨の弾幕を使っていた。それは美しくなかったのかと言えば嘘になるが、けれどもむしろその弾幕は、不気味さの方が勝っていた。
髑髏のサーヴァントとの戦いは、立花は目にはできなかった。マシュに指示を出すのに精一杯で、背中の様子など気にする余裕がなかったのだ。
そして、今。彼女は初めて、こいしのハートの弾幕を目にしていたのだ。
「■■■■■■■――――」
「っ、嬢ちゃん! そいつは耐性を持ちやがった、もう同じ手は効かねえぞ!」
崩れ落ちるように膝をついたバーサーカー。けれど未だに消滅の兆しを見せないその姿に、キャスターがこいしへ警告を送る。
「効かない? まっさかー」
それをこいしは、笑い飛ばす。けらけらと軽い笑い声を響かせながら、いいこと?などと、愉快気に言う。
「サトリの妖術は、魂を侵す妖術。瞳より入り、情動を狂わせ、精神の根幹を崩壊させしむ純粋な力。防ぎたいっていうのなら、【無名の存在】でも連れてこないと」
そうして、再びこいしは壁の如くの妖弾を放つ。
「■■■■■■■――――」
「……どういうことだ? なんでバーサーカーは動かねえんだ」
二波、三波、四波と繰り返される弾幕が、座り込んだ大男の全身を貫く。キャスターがふと疑問を漏らすが、それに答える声はない。
「■■■■■■■――――」
「……泣いてる」
「先輩?」
繰り返しが十に届かんとする頃、立花はぽつりとそう漏らした。疑問符を浮かべ立花をみやるマシュに、彼女は首を傾げながら言う。
「分からない。よく分からないけど……何となく、そんな気がするんだ」
「そいつは――」
立花の言葉にキャスターが何事か言おうとする。それに合わせるかのように、バーサーカーの影がぐにゃりと膨らむと、溶け落ちるように消えていった。
♡ ♥ ♡
「うん、あのお兄さんは泣いてたよ。まあ、最初からだけどね」
バーサーカーを倒した後。
令呪の連続使用、宝具の連続使用、更に突発的なサーヴァント契約と、魔術回路を酷使する状況が続いたために立花がグロッキーになり倒れたり。
マシュの「こいしちゃん、吹き飛ばされてましたけど大丈夫だったんですか?」との質問に、「うん、そりゃもう全身の骨がばっきばきよ?」と笑顔でこいしが言い放つので、皆が揃って大混乱に陥ったり。
諸々の都合で一時休憩と相成った彼女たちは、先の英霊について意見を交わしていた。
「そっか、私の勘違いじゃなかったんだ……」
ぐったりとした様子で、マシュに膝枕をされつつ横になりながら、立花はそう言葉を漏らす。それに軽く頷きながらキャスターが口を開いた。
「あいつ――ヘラクレスは、
先に倒した英雄の悲惨な境遇に、沈痛な空気に包まれる立花たち。
「そうなると、あのお兄さんには私、ちょっと意地悪しちゃったかな」
その中で、こいしはぽつりと声を漏らす。
「私の妖弾は無意識を侵す妖弾。最初の一発でトラウマを引き出してみたら、お兄さんたら思ったよりも堪えちゃったみたいで、びっくりしちゃった」
「そりゃあ……」
当然だろう、とキャスターは考えて、けれどそのまま口を噤んだ。
びっくりした、とこいしは言うが、その表情は、けして納得の顔ではない。拗ねたような、失敗したとでも言いたげなそれは、まるで「勿体ない」とでも言いたげな様子。しかもその目は酷く冷たく――恐らく想起しているであろう先の敵性サーヴァントを、正しく道具を見るかのように貫いているのは間違いなかった。
これだから幻想種は、と彼は胸中で一人ごこちつつ、マスターである立花を見る。彼女はこいしの言葉を額面通りに受け止めていて、その瞳の冷酷さにはまるで気付いていないようだった。
「……藤丸立花。少しの間この子を借りてもいいかしら」
「え、うん、私は構わないですけど……所長、どうしたんですか?」
「何もしないわよ。ちょっと気になることがあるから話をさせてもらうだけだから。……貴方も構わないわよね?」
「大歓迎よー。私も所長のお姉さんとは少し話してみたかったもの」
先程までの会話に混ざらず一人考え込んでいたオルガマリーが、唐突に声をかけるとこいしを連れて、幾らか離れた所へ向かう。
古明地こいしという存在の持つ不穏さについて立花に伝えるのであれば、今を除いては他にないだろう、と冬木のキャスターは考えた。
考えただけだった。この先に待つであろうセイバーを倒すには、あの不気味な幻想のキャスターの手を借りる他ないことを、彼はよく理解していた。折角上手く回っている関係に、わざわざ罅を入れることはないと思ったのである。
明日は一旦休みとして、次回の投稿は明後日の18時頃を予定しています。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。