もう歌詞が不穏だけど必死に前へ進めー!って感じで良いですよね…流石angelaさんやで…
――しまった。コクピットを開きながら出るんだった。こんなんじゃ普通じゃないってわざわざアピールしているようなもんだ。
特に薄茶の方の少年の視線が辛い。何か鋭すぎて刺さっている気分になる。
「えーと、君らがアルヴィス内部に案内してくれる訳?」
「いいえ、そろそろ来ると思います」
マークザインから出てきた搭乗者が向けた目線の方向には、銃器を持った黒服の大人たちがこちらに向かっていた。
インカムで通信を取り合い、俺から搭乗者たちを守る様に庇い、俺は黒服の男たちに囲まれた。
銃口を突き付けられたら手を挙げるしかないよな…。
「話が早いな」
「経験があるもんで」
通信から聞こえたことのある男の声だ。一人だけ頭の装備をしていない男が溝口とやらなのか。
「暫くはこのままでいてもらうぜ」
「気が済むまでご自由に」
背中に銃口で突かれながら黒服の男たちが先導する道を歩く。…そういや、今ここに肉体を持っている俺が攻撃を受けたらどうなるんだ?普通に血が出るか、機体の俺にも風穴が空いたりとか、そんな状況になるのか?
そんなことを以前見た時よりもボロボロになった竜宮島を見ながら考えていた。あらまぁ、こんなになっちまって。これじゃ竜宮島のコアもかなりダメージを負ってそうだ。
道中、男たちは何も喋らずに竜宮島の地下、もとい第一アルヴィス内部の一室へと案内した。アルヴィスといっても第一と第二で結構構造が違うものだと気がついた。
「ここで待ってろ。すぐに司令官が来る」
そう溝口が言い残して二人ほど黒服の奴を置いて室内から出ていった。
そろそろ手を降ろしても良さそうだ。背中から強い視線を浴びながら手を降ろす…その前に今まで付けていた笠を外す。対話するのに流石に笠は付けていられない。俺の一部みたいなもんだけど。
笠は膝に置き、手も膝に置いて司令官とやらを待つ。
…話す前にどうやって言い訳するかを考えないとだな。
まず、自らがマークニヒトであることを言う必要は無い。普通に考えて人がファフナーになってるだなんて奇天烈な情報を出す訳が無い。というか、俺としてはさっさと竜宮島を抜けてクジラと二人旅でもしたいんだが。何の為に対談なんてするんだ…?
あ、もしかして以前竜宮島に突撃してしまった件についての説明要求?それは素直に謝ろう。コアの不祥事は俺の不祥事だからな…。
部屋の扉が開く音がした。そこには先程の溝口と厳つい顔をした大人が立っていた。
「君が石上榊かね」
「そうですが」
「私が司令官の真壁史彦だ。よろしく頼む」
そういって右手を差し出す。握手の構えだ。俺も立ち上がって差し出された手を握る。…大人の手ってこんなに骨張ってるもんなんだ。
握手も終わり自然と向かい合う形になる。真壁史彦が俺の座っていた席の向かい側に座り、俺も座る。
目を逸らしたら負ける、そんな緊張感が張り巡らされる。
「単刀直入に言おう。どこでマークニヒトを手に入れた?」
「話せば長くなりますが…」
そう一拍置いて即席で考えた偽経歴を話す。
「元々蓬莱島にいたのですが、諸事情があって島を追放されました」
「蓬莱島の島民だったのか…」
「ええ。追放され、その先で人類軍に拾われて入り、マークニヒトのテストパイロットに選ばれてあの機体に搭乗したんです。しかし…」
「しかし…?」
「その後の記憶が思い出せなくて…。機体の搭乗には成功したんですがそこから一切の記憶が無くて、…いつのまにか北極の方にいたんです」
「…ふむ」
実際は狩谷も俺もコアに同化されてー…っていうことだが、経緯がややこしいので省略だ。
でも、狩谷は確か竜宮島出身だったっけ。狩谷の親しい友人とかにそれとなく伝えて置くべきか…?
少し間を置いたが、真壁史彦からは何も言葉を発さない。続きを話せ、ということか。
「そこから海であのリヴァイアサン型のフェストゥムと出会って、何となく付いてくるのでそのまま同行しているんです」
「フェストゥムと?君は同化されたりしなかったのか?」
「ええ。今のところ同化しているのは同族のフェストゥムだけです。それから、不思議とこちらの言葉を理解している様な素振りも見せます」
「それは…なんと…」
クジラのことを話せば少し驚いた顔をした。やっぱりクジラって特殊な個体なのか…。
「それで、君はこれからどうするつもりだ?」
「自分の寿命が尽きる限りクジラと過ごそうと考えています。人類軍からもマークニヒトを盗んだとかなんとかで追われていますからね」
「ふむ……」
本来なら寿命なんて関係無いけどな。それでも本当だ。帰るべき場所も無いなら適当に過ごすしかない。ならクジラとこれからを過ごすのも悪くない。酒が無いのは問題だがな。
…人類軍基地でも襲撃すれば酒は手に入るだろうか?だが俺が求めているのは日本酒であってワインやらウィスキーなどでは無い。それらを一度飲んでみるのも楽しそうだが、今はあの日本酒の刺激が恋しい。竜宮島には酒造屋とかあるのだろうか。あったら一瓶だけ持ってクジラと二人旅でもしたいんだが…。
真壁史彦とその後ろにいる溝口は難しい顔をしたままだ。もうこちらから話すことは無いと黙っていれば溝口が真壁史彦に何やら耳打ちをしていた。何だろう。
「君は蓬莱島出身と聞いたが」
「はい、そうですね」
「リディル・モデル、この単語について聞き覚えは?」
「…」
は…?リディル・モデル?何で竜宮島からその単語が出てくるんだ?
「その様子だとあるらしいな」
「っ…」
つい態度に出てしまっていた。口元が歪んでいくのが分かる。あんな、あんなクソモデルのことについて聞きたいだと?一体何を考えているんだ?
「あんな悪趣味なモデルを作ろうとでもしているのですか?」
「悪趣味?それはどういうことだ?」
「悪趣味も悪趣味、文字通り
「…詳しく聞かせてくれるか」
一層、真壁史彦の顔の皺が険しくなった。この人に話しても良いのか、そんな疑問が過る。
目の前に座る真壁史彦という男は蓬莱島の大人達よりかは誠実そうだ。だが、それが演技だとしたら?リディル・モデルの構造を聞き出して、それをあのパイロットたちに応用させるのか?
黙りこくっている俺に真壁史彦が語り掛ける。
「言うのも憚られることなのかね?」
「…いえ、話します」
何か起きたら島を落とす。僅かでも喜ぶのなら即刻機体の俺を動かして消す。
そう決意して俺が知るリディル・モデルについて目の前の大人に話す。
「蓬莱島ではシナジェティックコード形成値が低い子供が多かったのです。
竜宮島の様に生身でファフナーを動かせる様な存在は誰一人としていませんでした。
…そのファフナー自体も開発途中でしたがメインシステムにコアを組み込む設計思想はあって、それに使用するコアを人工的に製造する技術はあったんです」
「コアを人工的に製造する…?」
「ファフナー開発当初はミールから分岐したコアを組み込まれましたが、全て動作確認で砕け散りました。
そういった事情でコアを人工的に製造しようということになったのです。
ファフナーもそれを動かすパイロットもいない、そんな状況でコアの加工技術だけが発達しました」
「…おいおい、まさかその子供が材料とか言わないよな?」
徐々に冷たくなっていく部屋の中で茶化すように溝口が言った。
でも、その言葉が紛れも無い事実だった。
「正解です。蓬莱島は
そのモデルの名をリディル・モデルと言います」
その言葉に目の前の二人、それか背後の二人も驚いている様な気配を感じる。空気が凍り付いて、喉に張り付く様な緊張感を少し感じる。
このリディル・モデルも、コアの製造方法も手法や材料を聞いているだけで俺が実行に移せる物ではない。でもそういったアイデアがあるというだけで試行することは出来てしまう。
四人ばかりの呼吸音を感じながら静まり返った空間に佇む。真壁史彦の顔ははっきりと歪み、その眼差しを俺に向けている。
「確かに…悪趣味なモデルだ。竜宮島で製造を行うことは一切無い」
きっぱりと、決意を固めた眼差しで言い切った。その目に喜色も、偽りの色も全く見えなかった。
…島が違うと、こうも大人の気風というのも違う物なのか?
「…そうですか」
ああやっぱり、蓬莱島のやってきた行いとは非人道的で畜生にも劣る行いだった。目の前の大人の反応を見ればそう感じたのは間違いではなかった。
誰一人として止めようとしなかったコアの製造研究、リディル・モデルの開発。こぞって自分の引き取った子供を金のなる木へ変換させる親なんて、この竜宮島にはそうそういなかったのだろう。
『人間の体を捨てて俺達の防波堤になれ!時には金になれ、時には戦え、戦え!
戦い、俺達に死ぬまで尽くせ!それから呆気なく死ぬんじゃねぇぞ!!
テメェらの存在の搾りカスですら俺達が利用しつくしてやる!!いいか!
じゃあさっさと死ね!!』
リディル・モデルの仕組みを一々解説してきたクズの声が蘇る。
アイツも蓬莱島が滅んだと共に死んだのだろうな。それは良かった。
「なるほど、蓬莱島がそのような研究をしていたとは」
はぁ、と溜息を吐いた真壁史彦の目は明らかに疲れていた。背後の溝口も同じような顔をして、今まで見せていた警戒を若干解いている気がする。
「ご理解いただけた様で何よりです」
「……君には帰る島も無いのだな」
「事実上では、そうですね」
一応蓬莱島のミールは生きてるらしいが、あの無人島での通信以来胸糞悪い声が聞こえたことは無い。それにほっとしているんだが、何だか。現状を聞きたい気もするが、あの声が無理だ。
島は滅んだが中心にあるミールは生きている。それは伝える必要も無いか。
「ならば、竜宮島に来ないか」
「そうですね……ってへ?」
「お前さんみたいな子供が寿命を擦り減らす必要はねぇってことだな」
「いや、俺が子供?ええ…?」
「どう見ても高校生ぐらいだろお前さん」
コウコウセイ…あ、高校生のことか。そうか竜宮島は高校まであるのか。何から何まで蓬莱島とは違うんだな…。
って、そういうことじゃない。何普通に受け入れようとしているんだ、マークニヒトに乗ってた不審者だぞ俺は?しかもフェストゥムを引き連れているような奴を受け入れるか?
「く、クジラとかの件もあるのでご迷惑になるかと…」
「人の言葉が分かるのだろう。であれば、人との共存も可能な筈だ」
「いや、共存ってそんな夢物語ある訳無いでしょう」
「人とフェストゥムは共存できる、竜宮島はそれを信じている」
「ははぁ……」
インカムで何やら溝口が誰かと通信している。真壁史彦は先程の顔つきから打って変わったように僅かに笑っている。
…そんな目で俺を見るな。おかしい、「俺こんなクレイジーな島出身なんです」って紹介で遠ざける筈が…同情?あの目は同情か?そんなものをされているだと?
どうする、どうすれば竜宮島から離れられる?どうすれば…。
――貴方がこの島に入ることを許してあげる。その力を…私たちに貸しなさい。
「…竜宮島のコア?」
迷う俺の脳内に少女の声が響いた。以前の竜宮島のコアの時と同じ声だが、僅かに声音は低めで口調は強めだ。
…結局、何で俺はこんなにも竜宮島に入ることを恐れているのだろうか。"羨ましい"と感じたからか?蓬莱島よりも豊かに、人の笑い溢れる島にいるのが辛いのか?
竜宮島に入るメリットを考えよう。ヴェルシールドが遮ってくれるのか、海上で感じた視線を感じなくなること。クジラを受け入れることに何故か寛容であること。えーと、飯とか食べられそう?酒造屋もありそうで…。
それから…、狩谷の訃報を伝えることが出来て墓を作って貰えるかもしれない。例え島を裏切ったとしても彼女はこの島の一員だった。せめて地元で死を弔ってもらうのは、島に良い感情を持っていなかった彼女に対する冒涜だろうか。
デメリットは人類軍に追われ続ける生活を送ること。…メリットの方が確実に大きいな。
黙りこくって考えている俺に、その場にいる人物全てから生暖かい視線を感じる…。何であんな嘘話で絆されてるんだ、どれだけ人が良いんだここの島民。
「………ご迷惑になったら速攻で島から追放してくださって構いません」
「ああ、――ようこそ竜宮島へ」
再び伸ばされた手を握り返す。冷たい空気が瞬時に温くなって張り詰めていた緊張感も解れていった。
俺とクジラは竜宮島へ入島することになった。
史彦さんこれの前に船で日野親子を連れてミールと対話していたのに加え、機械とも対話して…と過労を疑いますが、この時空の史彦さんは弓子さんに撃たれてませんので幾分か気力があります。道生さんが生きてるので止めてくれました。やったぜ。