起きたら虚無の申し子   作:一億年間ソロプレイ

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いつの間にかファフナーの二次が増えているじゃないか(歓喜)
いいゾ~もっと皆書くんだ……書くんだよ!(豹変)


第15話 迷情

 

 竜宮島内で子供たちが夏休みを謳歌する中、美羽は自宅の縁側で絵を描いていた。

 白い画用紙には黄色いクレヨンで魚の様なシルエットが描かれている。その隣には黒い人のような形の物体がいる。

 美羽はその周囲にある白紙の部分をがさがさと青いクレヨンで埋めている。

 後ろからは母親である弓子がやってきた。

 

「あら、美羽ったらお絵描きしてるのね。これは……なにかしら?」

 

 弓子は黄色い魚を指した。

 

(隣の黒い物体が人だとして、こんなに大きな魚なんていたかしら……?)

 

「それはね、クジラさん!クジラさんから色んな"おはなし"を聞いてたの!」

「"おはなし"?これは……クジラさんってお魚さんとお話しているのね?」

「うん。海が広いーとか、さかきっていう人について! 美羽、二人に会ってみたーい!」

「え、えーと……。いつか出来るわよ。ええ……」

 

 弓子は眉を下げながら、会いたいと駄々をこねる美羽を抱きしめる。

 "さかき"というのは、最近島に来た人物――石上榊のことだ。そして、クジラさんというのは恐らく石上榊の傍にいるリヴァイアサン型のフェストゥムのこと。

 つい最近まで、美羽はボレアリオスミールと対話していた。今はこうして無事な様子を見せているけれど、一時は体が赤い結晶に包まれた。

 

 ……またあんな思いをしなければならないの?

 

 美羽がフェストゥムと対話が出来る人物だということは弓子自身がよく知っている。美羽を通して人類がフェストゥムと和解した瞬間を直前で見せられては、その事実を飲み込むしかない。

 

 だがしかし、石上榊という人物には人類軍か竜宮島が認識していない第三勢力から送られたスパイの容疑が掛かっている。彼の傍にいるフェストゥムだっていつ暴走して美羽を、人を同化するかも分からない。

 それでも美羽は会いたいと言っている。出来るなら美羽のお願いを叶えてあげたいと思うが……。

 

(……道生と相談してから司令に伝えるべきかしら)

 

 自分では考えが煮詰まってしまいそうだった。

 

 

 

 

 パソコンの前に座り、何かを記入していたらしい女性がこちらを向いて笑った。

 医務室にいた女性、確か遠見先生と呼ばれている人の前に置かれた椅子に座らされ、「じゃあなー」と言って溝口が退出していった。

 遠見先生の前に座り、膝の上にクジラを置いた。……もしかして、先日の検査結果がもう出たのか?

 

「石上くん、昨日はよく眠れたかしら」

「はい。ええと……一体、何の用事でしょうか」

「先日の検査結果の報告よ」

「なるほど」

 

 遠見先生は検査結果を教えてくれた。

 

「染色体に異常が発生していないの。()()ザルヴァートル・モデルに乗っていてこれは凄いことよ」

 

 その言葉に薄く笑って返した。「体組織が結晶体構造よ」と返されることを構えていたが、染色体に異常は無いときた。

 遠見先生の言葉をそっくり受け取るのなら俺は完全に人間の肉体を持っていると考えていいのだろうか。そもそも、目の前の人が本当のことを言っているのかが不明だが。

 ……それにしても、()()ザルヴァートル・モデルと呼ばれているのか。何だか複雑だ。

 人類軍の方でも乗れば人の命を食べるとか噂されていたからまぁ……、どちら側でもそう忌々しく言われるものか。

 でもこればっかりはどうしようもない、俺でも制御できない。

 

「けど、体に不調があるならいつでも言って頂戴ね」

「はい」

「それから血液型はA型で合っているかしら」

「ああ、はい。多分合っています」

 

 血液型もあるのか……。そうなると何故俺が霊体の時と変わって肉体を持てるようになったのかとか、どうやってそれを切り替えているのかが気になってくるな。大体幽霊になりたいと思えばなるし、肉体の方になりたいと思えばなれる様だけど。

 それから遠見先生は身長とか体重、生年月日などは間違えていないかと確認してきたが全部「はい」だ。これに関しては誤魔化す余地も無い。(生年月日についてはうろ覚えだが)

 

「これで検査結果の報告は終わりよ。それで、ここからが本番なのだけれど」

「はい?」

「この前は身体検査を受けてもらったけれど、今回は心理テストをしていくわ」

「心理テスト?」

「ええ。竜宮島ではパイロットに選出されたら必ず行うことよ」

 

 ふむふむと頷きながら、遠見先生は立ち上がった。

 どうやら場所を移動するらしい。

 

 

 

 

 連れてこられたのはアルヴィスの作戦会議室。

 席を指定されて座ると、コンソールの画面が出てきた。

 

「今コンソールに表示している曲や小説、絵画などの作品の中から特に自分が共感するものを選んでね」

「分かりました」

 

 曲の鑑賞用に渡されたヘッドホンを装着しながら、その作品たちを見てみる。

 どれもこれも海に関係している作品のようだ。

 

(小説はまだしも分かるが、絵と曲?どうやって共感するんだ?)

 

 コンソールで表示された作品はあまり自分が手に付けない、というか多分読まないし見ることもない作品ばかりだった。

 曲や絵に共感というのが分からないので、まずは手始めに小説から読むことした。

 

 選ばれている作品のテーマが海のせいか、よく鯨やイルカが出てきた。鯨に復讐する話とか、若い漁師と海女との恋愛ストーリーとか、潜水艦に捕虜として連れてこられた三人がその潜水艦から脱出するとか。

 その中でも鯨と同じ夢を見たいという人物の小説はなんとなく共感が持てたのでその作品を選んだ。

 

 次に、曲の鑑賞をしてみたはいいものの、出だしが静かに始まるのがクラシックという曲の特徴なのか、としか思い様がなかった。

 それから長い。曲の構造というのが関係しているらしいが、長いとしか思えない。盛り上がったと思えば盛り下がるし、盛り上がるまでに凄く時間が掛かるし。

 ……適当にちょっと好きかなと思った曲を選んでおいた。

 

 最後に絵画。

 日の出の出ている海、二人の子供が海辺で遊んでいる絵、海辺でパラソルを持つ女性。

 大抵ヨットや船、女性が出てくるものばかりだ。他に題材とか無かったのか。

 どの絵も何となく違う気がするので、どんどん絵画が表示されている画面をスクロールしていく。

 

(これは……)

 

 出ているのは岸のみで、夕日とその光りで照らされた雲が広がる絵を見つけた。

 他にも探したが、結局その絵ほどしっくりと来なかったのでそれを選んだ。

 

 共感というか、自分の好き嫌いで選んだのは良かったんだろうか。

 ちらりと向かい側に座っている遠見先生を見ると、気難しそうな顔で俺が選んだ作品群を見つめていた。

 そしてパパパと指を動かしてこちらを見た。

 

「以上で心理テストは終了です。次はメディテーションをしてもらいます」

「メディテーションですか?」

「そう、ファフナーと一体化する感覚を学習できるコクピットに入ってもらって、自分の心のありようを知ってもらいます」

「心のありようですか?竜宮島には凄い訓練があるんですね……」

 

 心というか、精神面での訓練ということだろうか。

 痛みに屈しない精神とか、外敵――フェストゥムが来ても驚かない肝が必要なのだろうか。

 メディテーションとつくから、何かのイメージでも体験させられるのか。

 

(出来れば痛いのは止めて欲しいな……)

「移動続きで申し訳ないけれど……。そのコクピットに案内しますね」

「あ、はい」

 

 横の机に置いといたクジラを持って、また部屋を移動した。

 

 

 

 

 俺の予想とは逆に、メディテーションとやらは穏やかだった。

 いや、この瞑想に入るまで実に長い時間が掛かったのだが、何とか瞑想している状態にはなった。

 

 俺は海底に立っているらしい。光が差し込んでいるのなら底が浅い気もするが、周囲は深海魚でも出てきそうな暗さだ。

 何らかの魚類が泳いでいるという訳でも無い。何の生物もいない。そんな海域なんて聞いたことも見たことも無い。

 

(というか、海の見える場所で心の訓練をするってどういうことだ)

 

 遠見先生からは自分の心のありようを知る為とは言われたが、その為にはどうすればいいのかが分からない。

 取り合えず足を進めると、やけに足元に石があることに気が付く。先程からごつごつと足裏や爪先などに当たって痛いくらいだ。

 なるべく踏まない様に進みたいところだが、そうはいかない。海域の暗さによって、石がある場所の予測が付かない。

 それに、俺は毎回このような海を泳ぐ際にはナイトビジョンを機能させていたのだが、今はまったくその機能が使えない。この暗い視界で石を踏んづけながら歩くしかないようだ。

 

 少し歩いた先には俺より高い全長と幅を持つ石が転がっていた。

 不思議なことに、その石だけは上から光が差している。その下の隣に、こぶし大程度の大きさの石がその石に寄り添うかのようにあった。

 

(……)

 

 無性に腹が立つのでその石を突く。だが、水中での人間体では思う様に体が動かない。

 その石に手が触れるだけだった。

 きっとファフナーの俺であればこの石を破壊するのは容易だろうに、今はその体を呼ぶことが出来ない。同期することも出来ない。

 俺はその石を見上げる。石は何も言わずに光に照らされているだけだった。

 石だから当たり前だ。けれども、その石が俺を見てせせら笑っている気がする。

 人の姿をしていれば、きっと腹を抱えて笑い転げている。憎たらしい顔付きで俺を見ている。

 

 この石だけは破壊したい。これを破壊しないと俺は、俺は――!

 

 ……そこまで考えてハッとなった。

 

(この腹の立つ石に対して心を乱さないというのが訓練の内容だったのか!)

 

 心のありようを知るということ、つまりは心をいかにして制御できるかということか。

 だったら俺は失格だ。心を速攻で乱してしまった。いや、パイロット云々の前にパイロットが乗るファフナー自体なんだけど。

 いや、それを抜きに考えて……。

 

(竜宮島のパイロットはこんなことを要求されるのか……。いや、それも当たり前か。パニックになって敵が倒せない、なんてことになったら本末転倒だもんな)

 

 あのザインのパイロットや通信時に応じた女子もこのような訓練を受けてきたんだろう。それ以外の、この竜宮島にいるパイロットたちも同じく。

 

 石をじっと見る。苛立ちが募るが、ここは心を落ち着かせるのが正解だ。

 大きく息を吸って、吐く。水中なのに深く深呼吸しても肺に水が入らないことに驚きながら石を見つめる。

 

 

 

 …………。やっぱり駄目だ。とても腹立つ。破壊とまではいかないが殴り飛ばしたくなる。

 

 

 

 

 

 コクピットが開けられる音が聞こえた。デニムのジーンズが見え、次に豊かな茶色の髪が見えた。

 短髪で、にやけた男の顔ではないことに安堵した。

 

「お疲れ様。良ければ、メディテーションで見えた光景を教えて貰えるかしら」

「光景ですか?」

「ええ。メディテーションでどのような光景が見えたか、それによってパイロットたちの心象を把握するのよ」

 

 ……。

 

 思いっきり間違えた。心を制御とかそういうことじゃなくて、俺がどんな風景が見えたかが重要だったのか。

 

「……海底にいました。足元には大量の石が積んであって、周囲は深海のように暗かったです」

「他には、何かあったかしら?出来ればメディテーションで見えたこと全てを話してちょうだい」

「全てですか……」

 

 こっちが勝手に勘違いしてたことは言わなくても大丈夫だよな?後、石に感じた苛立ちとか。

 

「他には、少し歩いた先に自分の身長を越す大きな石が転がっていました。その石の隣には俺のこぶし大程度の石が転がっていました。後、大きな石の方には上から光が当たっていました。

 これくらいですね」

 

 遠見先生は真剣な様子でバインダーに何かを書き連ねている。

 このまま寝転がった態勢でいるのも失礼かと思い、上体を起こした。

 そして、バインダーの上に遠見先生が二冊ほどの本が乗っていることに気が付いた。

 一体何の本なのか。もしかして、読まなければならないとか……?

 

「……はい、これで心理テストとメディテーションは終わりよ。協力に感謝するわ。

 そろそろいい時間ということで、解散。……の前に」

 

 遠見先生は本を一冊俺に渡した。『変身』と大きく書かれた本だ。

 

「この本を読み終えたら医務室に来て欲しいの。そこで感想とかも聞かせて欲しいわ」

「は、はい」

 

 何だろう。思わず手に取ったはいいものの、戸惑いが隠せない。

 遠見先生ってこんな本を渡してくる人物なのか。

 疑問に思いつつも、その本を持って地面に置いといたクジラを回収した。

 クジラはいつも通りに泳いでいる。それに何だか安心した気分になる。

 

「食堂に行こうか。昼食食い損ねたもんな」

「ーーーーー」

 

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