起きたら虚無の申し子   作:一億年間ソロプレイ

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この話の連載を開始してから一年が過ぎているという事実に震えて急遽続きを書き足しました(ガクブル)
なのでこの話は他の話よりも短めです
あとそれからキャラがブレブレやんな……

※タイトル入れ忘れはっず~い(恥ずか死)


第16話 またの名を理想郷

 ある程度の生活リズムも定まってきた頃、俺は暇な時間に遠見先生から渡された本を読んでいた。

 監視カメラのついている室内で読むのも良いが、如何せん殺風景だ。なら、一応出歩くことのできる水中展望室のベンチにでも座って本を読もうと思った。

 それで『変身』という話を読み終わった。とにかく胸糞の悪い終わり方をした。

 一体何を思って遠見先生はこの本を渡してきたのかが分からない。内容が内容なので、漫画の様に読み返そうとも思えない。

 とんでもなく気分が悪い。でも感想を言いに行かなきゃいけなかったんだっけか。

 どうする。このまま最悪な気分になったと感想を伝えるのか。

 遠見先生はもしかしたら、この本が好きでオススメしたくて渡した――とまで考えて、そんなことはないよな。考えが落ち着いてきた。

 

 胸で虫がのたくりうつような気持ち悪さを抑え付けた。

 多分、これも心理テストの一種だ。この話についてどう思うのかとか、共感したポイントなどを聞く。そして、俺の人となりを判断するものか。

 わざわざ人が虫になった話を持ってきた。もしかすれば、俺が蓬莱島で加工されたコアであることに気が付いたのか。まだ判断途中なのか。

 感想はそれとなく、誰もが思う感想を言おう。とても気分が悪いではなく、普通にどうして虫は幸せになれなかったんだろうとか、そんなことでも答えておけばいい。……この話を書いた作者の意図は考えないものとして。

 

 酒でこの気持ち悪さを押し流したい。こういう時はいつもより度数の高い、焼酎とかに手を出してみるのがいいんだ。

 なんなら浴びる様に飲んで気絶したい。頭を痛めながら朝を迎えたい。

 もちろん、石にならず、いつも通りの寺の中で。井草とむせ返る程強い酒の匂いを嗅いで布団か、居間かで起き上がる。怠い体を起こし、無くなった酒を山の麓にある酒店で買いそろえて戻る。

 意識がはっきりしてきたのなら墓場の掃除。たまに墓参りにくる奴もいるが、基本的に墓場に人は来ない。俺が管理しておかないと汚れたままというのも気分が悪い。

 自堕落に飯を食って、酒を飲んで、寺に籠って、墓場の掃除をしているだけの生活が欲しかった。

 そこに他人の生死は入ってきて欲しくなんて無かった。他人は他人で、俺は俺。それでいい筈だったんだ。

 どうして俺が石になる奴をアルヴィスに連れて行かなければならなかったのか。それはもう、一重にクソ野郎の趣味だ。そうに違いない。

 

「ーーーーーーーーー」

 

 キュゥイという音が聞こえた。

 

(……そうだよな。酒は逃げだ)

 

 クジラの声が聞こえた。そうとは言っていない、俺を気遣った声だった。

 でも、それで逃げそうだった意識を止める事が出来た。

 酒を飲まない――逃げることのない様にしようと考えたのは自分だ。気分の悪さだって何時間かぼーっとして日を過ごしていれば消える筈だ。

 

(そろそろ……、向き合うべきかもしれん)

 

 酒と同じく逃げ続けていた"こと"について。まず俺が変わりたいと思うなら、根本的な物をどうにかしなければならない。

 

 

 

 

 そうこう考えている内に三日は過ぎた。遠見先生には一般的な感想を伝えてからは何も動きがない。時折溝口が食事の時に隣にやってきてはクジラに色々と与えている程度。それから記憶領域へのアクセスが完全に途切れた。これは嬉しい。

 竜宮島としては俺の状況を考えあぐねているのか、判断しかねる事態になったのか。

 

 そろそろはっきりさせたい。

 

 恐らく遠見先生――というか、アルヴィス内で医療に従事している大人はアルヴィスの中でも重要な位置にいる筈だ。兵器を発展させるなら、医療技術もそれ相応に。吐き気を催す男の口癖だが、理に適っている。

 ということで、夜が明けたら遠見先生の元に行って揺さぶろう。

 こっちは開き直ってコアだと言えばいい。追放されても何も問題はない。何なら数日視線に悩まされずに三食食べて過ごせただけで十分だ(クジラにゃ悪いが……)。良い休憩地点だったで済ませられる。なんなら変わろうとして禁酒の誓い的な物を立てたが即効で破れてお得だ。

 

 けれど、出来るならミツヒロに同行した時の様に、普通の竜宮島っていうのをもう一度見たかった気がする。皆城から話された情報を聞いていたら更にな。

 今年はもう過ぎたようだが、夏には宇蘭盆をやるらしい。俺の知っている盆ではなく、どちらかというと漫画やアニメに出てくる夏祭りっぽいらしい。屋台が並んで、楽し気な人の声が絶えない……らしい。

 だが、この祭で大人達が――第一種任務に従事している者たちが重視しているのは灯篭流し。灯篭に戦いや研究の最中で亡くなった人物の名前を書いて流す。いつまでも人の死を忘れない為に。

 辛気臭い経より涼やかで、――死者を悼む行事なのが皆城の表情から伝わった。

 

 まるでアーカイブで見た通りのような、アルヴィスの設計思想を体現したような平和の島。

 それにもう少しだけ触れてみたいと思ったのは、間違いか。辛いのと羨ましいのもあったが、今は違う。島の空気のせいだろうか。

 

 しかし……、島を出ることになれば竜宮島のコアと交わした約束が果たせなくなる。

じゃあどこにいても呼べば来るよニヒトくん的な物でも作っておくべきか? 一応約束だけは果たしたい。

 だが俺にそれを作れる技量があるかというと……、ない。咄嗟に出たのは「この島のエンジニアチームに頼んでみる」だが無理だろう。

 俺の記憶の中にいる筈だろうエンジニアの技量を持った奴の記憶が。そこからどうにかして技術を持ってくることが出来ないか?

 

 記憶の……サルベージは……。サルベージは出来る。エンジニアの奴を乗っ取られている時に同化していたからその記憶はあった。だが技術までは無理だな……。

 根っからの文系に機械系統は無理だ。なんなんだあの文字の羅列と基盤の数は。手が竦むぞ。

 

 というかどこにいても呼べば来るって、どんな機能持っていればそうなるんだ?

 現実的に考えて無理じゃないかこれ。

 えぇー……、どうすりゃいいんだ。

 

 唐突に湧き出た問題に寝ながら苦戦するということをしていたが、無事に時刻は朝を迎えられた。

 今日も俺は監視日和。監視カメラのレンズがキラリと光るってな。

 

「石上くん、ちょっといいかしら。その、クジラさんも一緒に」

「はい、何か用でもあるんですか?」

「ええ……そうね」

 

 これはラッキー。鴨がネギ背負ってやってきた。でもその後ろからヒグマが護衛として来てやがる。

 ヒグマもとい溝口と食堂で見かける溝口と同じくタンクトップを来た男性。どちらもタンクトップではなく、物々しい装備に身を包んでいる。

 溝口はおちゃらけた感じだが目の鋭さはひしひしと伝わるし、隣の男性からは警戒心が隠しきれていない。いや、むしろ出してこちらを牽制している。

 そんな空気にいれば自然と無言にもなる。……念のために機械の俺の方とも視界を共有。

 おっとぉ……、手足が拘束されている。こっちにはエンジニアとファフナーパイロットが数名いる様だ。

 とうとうって感じか。間違ってもコアの破壊とか、人間の俺の殺害とかされないといいけどな。コアの破壊は本当の俺の死を現すだろうから。

 

「石上くん、一つ聞かせて欲しいことがあるの」

「なんでしょう」

 

 今まで背中を向けていた遠見先生が振り向いた。移動が止まる、というか目的地はすぐそこ。

 最初に対談をした部屋だった。

 

「貴方には、この島がどう見えたのかしら」

「……そうですね」

 

 青く澄み切った空に人の笑顔が絶えない。でもまぁ、その反面とでも言うのかフェストゥムや人類軍に狙われている。

 蓬莱島は二回目の人類軍侵攻とフェストゥムの襲撃が重なって滅亡したが。

 竜宮島は攻めにも防御にも転じられて、なるべく島の平和が守られていて、そして島民が周囲の人間を思いやっている。竜宮島に触れるのは数少ないが、それは強く感じた。

 

 一体どこで差が付いたんだろうな。同じ日本人で同じアルヴィスに乗って逃亡してきたのに。真壁史彦と――――倉津創一はどこが違った。

 

 ……それは未だに分からないが、一つだけは言える。

 

「まるで人間が考えうる限りに再現した様な……楽園ですかね」

 

 




本文に入らないだろう補足
未成年飲酒によって榊の肝臓はボロボロだったが肉体がコアによって再構成されたのでピッカピカの綺麗な肝臓になった
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