>>じょ、上映前だからセーフだよセーフ<<
ふぅ……。ということで私は最終章の上映前に最新話を更新することが出来たということにしておいてください(本当は前日に投稿するつもりだったなんて言えない……)
「これまでの行動に怪しいものは見られませんね……」
「フェストゥムの方も大人しいっちゃ大人しいしな」
作戦会議室、そのモニターで流れているのは石上榊の映像だ。フェストゥム――榊の言葉からはクジラと呼ばれる個体の水の入れ替えをしつつ、何処へ行く訳でも無く部屋で待機していた。
どこへ行くこともなく、クジラと戯れながら――時折寄越される視線から監視されていることは気付かれているだろう。
こちらで一方的に定めた期間の一週間はもう終わる。
これまでの行動に何も問題はない。島の反対派も少しは軟化しており、石上榊の受け入れには何ら問題はない。
しかし、はっきりさせなければならない。
――彼がファフナーのコアであるのか。何らかの組織に所属しているのか。
後者は一週間程度で気付ける問題では無いので、これから地道に探りつつ……という方針ではあるが、やはり問題となるのは前者。
一度、竜宮島はフェストゥムに同化されたマークニヒトに襲撃された結果、皆城総士を北極のミールへ拉致されている。蒼穹作戦に参加した戦士たちからは隊列を分断され攻撃を加えられたとも聞いている。
あのマークニヒトがフェストゥムに同化されたままならば、今の様に意思を持って行動している石上榊は何者だ。
それを問いただすに当たって、マークニヒトの拘束と監視をエンジニア班が担当し、暴走した際の鎮圧の為に出撃準備可能のファフナーを配置した。
ファフナーは、島内で唯一マークニヒトに対抗できるマークザインと他二機。
真壁一騎のマークザイン搭乗には反対もあったが、本人の強い意思によって半ば押し切られた。彼の父親の苦労は計り知れない。
対談の場にはアルヴィス総司令真壁史彦と特殊部隊が警護に付く。
この場の誰もが、何事も起きなければいいと願っていた。
◇
扉が開いて、姿が現れる。
クジラの入った水槽を抱える黒い僧服の少年、石上榊。彼は銃口を向けられていても、その自然な体が崩れることは無かった。
榊を案内した遠見千鶴はここで別れ、真壁史彦の真向かいにある席に榊は近付く。
掛けてくれという一言で席に座り、溝口達が背後に立つ。
暫くの間、誰も何も喋らなかった。クジラが自由に泳ぐ水音が響いた後、その静寂を壊したのは榊であった。
「私の行動で、何かおかしい所でもありましたか」
「いや、君とクジラの行動に何も問題はなかった」
やはり気付かれていたか、と特殊部隊たちの警戒は跳ね上がる。
このまま黙っていても何も事態は動かない。本来の目的も達成できない。
ほんの少しの緊張を持って真壁史彦が口を開く。
「君は……、石上榊はファフナーのコアなのか?」
その言葉に顔を伏せた。溝口達の銃を握る手に力が籠り、標準を合わせていた。
「正解です。いつ気付きましたか」
顔を上げた榊は僅かに笑っていた。
「早い段階で検討をついていたが、確信が欲しかった」
「そうですか。はい、今の俺はマークニヒトのコアです」
今まで硬く閉ざした口は何処へ行ったのか、言葉には軽さが見えた。
得体の知れない気味悪さが覗く中、真壁史彦は視線を強めた。
この話はエンジニア班にも中継がされている。画面の向こうで誰もが固唾を飲んでいた。
「君はマークニヒトを手に入れたと言っていたが、それは嘘だったという訳か」
「手に入れるも何も、マークニヒト自体が俺ですから」
「では、蓬莱島の島民だったという話も?」
「そこは事実です。俺は蓬莱島の人工子宮で生まれて育った、蓬莱島の人間です」
確認の為の質問であるが、蓬莱島の島民であったことは本当だ。三ミリほど下がった眉とトーンの低くなった声がその証拠でもある。
「では、君に聞こう。君の機体――君がフェストゥムに同化され竜宮島へ襲撃してきたことがある。その時、君は何処にいて、何をしていたのか」
真壁史彦の眼光が榊に強く突き刺さる。
「その時、俺は竜宮島のコアによって俺に掛けられた制限を解いてもらっていました。それから指揮系統を取り戻した俺は海の方で自爆……してましたよね?」
「あぁ、海の方でマークニヒトは確実にフェンリルを起動させていたな。そうか、あの動きは君が……」
「竜宮島への襲撃、いえ……
流れる様に頭を下げる直前、そこから見えた表情は真剣そのものだった。
少しの間呆気に取られた後、真壁史彦は一つの決意をした。
「……顔を上げてくれ。あの襲撃で竜宮島の施設は損壊を被ったが、あの襲撃によって死人は出なかった」
あのままマークニヒトが攻撃を続けていれば施設だけではなく、人にまで影響が及んでいただろう。
今や島中にいる彼女が背負う痛みも、今より苛酷であった筈だ。
それが少なからず軽減されたのは、今目の前にいるファフナーのコアの働きによってのものだ。
「それは……良かった……」
――思わず胸に手を当てた。ここには蓬莱島のコアによって再構成された疑似的な心臓が動いている。
少なからず、あの行動には意味があった。蓬莱島のコアの記憶を呼び戻す以外のことが。
自分の選択は、失敗ではなかった。
万感の思いを込めて呟かれた声には銃口を下げさせる効果があった。
「……今の君は、北極で我々に見せた姿とは違うと明言出来るか」
「北極、北極……。あぁ、はい。俺に竜宮島と敵対する意思はありません」
北極でのマークニヒト。その記憶を参照して榊ははっきりと答えた。
インカムから「噓発見器に反応はありません」と応答が来た。
史彦から見ても、こちらを見つめる目に嘘はないと断言できるものがあった。
「今の君はフェストゥムに同化されているのか」
「いいえ。もう同化はされていません、これからされる予定も無いです」
次々と出される質問の答えに何ら嘘は無かった。
もう竜宮島側の答えは決まったようなものだった。
「我々竜宮島は石上榊を受け入れることをここに宣言する」
「俺を受け入れることによって、俺にまつわる諸々の事情がこの島に降りかかるかもしれませんよ」
「その時は君にも力を貸してもらおう。頼めるかね」
「いやまぁ……いくらでも力は貸しますけれども……。どうぞ、これからよろしくお願いします」
すっと出された皺の多い手。それを榊は――握る。
質問はいつの間にか他愛のない世間話に変わっており、警戒していた溝口が陽気に会話してくるくらいには警戒が解かれていた。
何故こんなにもお人好しなんだろうか、頭を悩ませながら榊も――密かに決意した。
ここに、石上榊とクジラの正式な竜宮島への入島が決まった。
◇
何度も言った。「俺を受け入れることで厄介ごとが来る」と。でも受け入れるとはこれいかに。
いや、これはこれで良かったとも言うべきか。竜宮島で過ごしていれば、蓬莱島との違いが更に分かる筈だ。良い機会だ、存分に学ばせてもらおう。
あの対談後は受け入れに当たって俺の引取先とやらをどうにかするって話をされたが、丁重にお断りしてアルヴィス内部に部屋を用意してもらうことになった。何やら前例がいる様だし、あちらも監視が手軽に出来て良い筈だ。
この場合の引取先というのは、アルベリヒド機関のプロジェクトの一つ、人工子宮コアギュラの子供の引取先のことだ。単に養子の受け入れとも言う。アルベリヒド機関の定めた標準にある家庭であればコアギュラの子供を引き取ることが可能になるが……。
他人に引き取られたって微妙な気持ちになるのが本心。俺は確かに蓬莱島の人工子宮から産まれたが、親は生涯あの人だ。あの人が俺を見ていなかろうがな。
余計な思考は逸らし、あの会議に使われた部屋から医務室に溝口の警備と共に移動している。
しかし、何やらパイロットスーツを着た集団が向かい側から見えた。
その先頭に立つ黒い髪に黒い目の少年と目が合った。
「ザインのパイロット……」
真壁一騎だ。
もしかしてあの対談時に俺が暴走した場合に抑える戦力としていたとか……?
まぁ、マークニヒトが暴れたならマークザインに。竜宮島で運用されているノートゥングモデルよりもザルヴァートルモデルの方が拮抗出来るしな……。
「聞きたいことが一つある」
「何でしょう」
「俺達は一度、駄菓子屋で会ってないか?」
駄菓子屋……? あっ。
「なるほど。確かに駄菓子屋で会ってますね」
「じゃあ、その時は黒いもやの姿で、今は人の姿をしているのは何でだ?」
「おいおい、んなこと初耳だぜ?」
「すみません。あの後にあった事でちょっと忘れてました」
「あー……そりゃ仕方ねーか」
悩んでいる俺を他所に溝口と真壁一騎が喋っている。その後ろから茶髪の少女からの視線をひしひしと感じてる。
「んで、どうなんだ?」
「俺があの時はもやで、今は人の形を取れている理由ですよね? 少し難しい問題ですが……」
何度も内容を確認するとパイロットたちが頷いている。
あの時の俺はもやの姿だった。それはここにいるパイロット達も、そして俺に乗っていた狩谷だって俺のことをもやだと視認していた。アイツの時は……微妙だから置いておく。
最初の俺は確か……ファフナーのことをロボットだと思っていて……?
あっ、なるほど?
「俺がミツヒロについていた時は自己認識がしっかり出来なかったので、ああいうもやの形で視認されてたんだと思います」
「自己認識……だと?」
見覚えのある赤い髪のパイロットが反応した。
「俺でも少し微妙な気がしますが……、ファフナーのコアになると自分が自分たる証明である記憶がとても重要で、それがあるからコアになっても俺は石上榊のままでいられる……ような?」
「……なるほど?」
頑張って言語化してみたはいいものの、互いに首を傾げる状態になってしまった。
いや、真壁たちは『昔はもやで今は人の形しているのは何故?』だから回答としては間違いのない筈だが、前置きした通り俺でも微妙に思う答えだな……。
その場はそれで解散して、溝口に俺の部屋になる予定地までのルートを案内してもらってから、医務室へ連れて行かれた。溝口による監視は続行らしい。
そこで話されたのは体内のチップのコードを使って行われていた制限の解除について。
今まで俺の体内チップのコードには制限が掛けられており、俺がアルヴィスから出ようとするとアラートが鳴る仕様だったらしい。……部屋の中で大人しくしているのは結果的に良かったってことか。
「貴方は竜宮島内を歩けるようになったわ。でも、明日また医務室へ来てもらえるかしら」
「分かりました」
「それで、聞きたいことがあるの」
「何でしょう」
「石上くん、学校に通ってみる気はあるかしら」
「えぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇ…………?」
「今は夏休み期間だから、お前さんが行くのは二学期からだな」
「さっきまで銃口向けてた奴に言う言葉かぁ?」
思わず敬語が外れた言葉で話してしまった後、背中をバシバシ叩かれた。
「ファフナーのコアだろうとお前さんは子供だよ。子供は元気に学校通って勉強して飯食って遊ぶのが仕事だしな」
「……」
いや、よく考えれば俺は高校生辺りの年になるのだから、島民として与えられる第一種任務――非常時以外は学校の教師やら酒造屋やらをして子供にアルヴィスの仕事を悟らせず、平和を継承していく為に定められたもの――は学生が妥当か。
「俺が編入されるとしたならどの学年に?」
「そうね……。これから行う学力テストの結果にもよるけれど、高校二年生辺りかしら……」
「ははぁ……」
高校二年生、学生としては一番青春を謳歌出来る時期じゃないか?
蓬莱島じゃ最大で中学生までだったからなぁ。となると、島の中で俺が一番年長だった訳か……?
とんとんと書類を整えた遠見先生の眉がキリッと凛々しくなった。
「それでは、早速別室に移ってテストを始めますからね」
「了解しました」
あの会議室で筆記試験、英語に関してはリスニング試験込み。英語は散々だろうが、他の教科に関しては少しばかり自信がある。なんたって、数学に関しては公式が見覚えのある物ばかりだったから
結果は後日知らされるらしい。英語の方は返されても点数を見たくないな……。