起きたら虚無の申し子   作:一億年間ソロプレイ

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結構悩みながら書いたので後から修正するかもしれません。
難産ってこういうことですかね…。
HAE編からやりたいこととかたくさんあるんですが、そこに行くまでが難しいですね。


それはともかく、THE BEYONDのopを逆再生するとおっっそろしい意味になる動画を見てしまったんですね。予告された9話の第二次L計画といい、今後が怖いです。
でもこれがファフナーなんやなって…。




第4話 滅私

 

 真っ暗で静かな空間にいる。いや、海?嗅いだことのある潮の匂い、静かに鳴る波の音。一度来たことがあるような…。

 一度じゃないな。何度も何度も来た覚えがある。とはいえ、こんな真っ暗な空間じゃなくて誰か一人はいたような気がする。例えば茶髪でおかっぱの少年とか。なんでそんな具体的な容姿が思い浮かぶんだか。

 

 いつものように歩いてみようと体を動かそうとしたら動かなかった。

 

 何が起きていると思いきや、体に結晶が刺さっている。って、これ同化結晶だ。でもこんな緑から赤に変色する物だったか?刺さった箇所から赤くなっているような。

とはいえ俺は串を刺された鶏肉の如く、同化結晶が無数に体を固定するように刺さっている。それでも血は流れていない、幽霊だから流れないのか、それとも血が同化されていっているのか。不思議と痛みも感じない。

 

 (じゃあ機体の俺の方で状況確認でも…痛っ)

 

 機体の俺と視界を繋げようとすると、ちょうどぼやけた状況だったのか、何が起こっているのか分からなかった。そして、急に目に痛みが走って繋がりを切られた。目玉に何か生えているみたいな痛さだ。もしかして機体の内部の方にも結晶が生えているのだろうか。結晶が機体の俺との繋がりを邪魔しているのか…?

 

 (…どうしよう、あれから一体どうなったのかも分からない。)

 

 とりあえず、狩谷が同化されて俺も同化されたことは分かっている。研究者や整備士、ミツヒロも殺してしまったことも。それで、あの後の状況が一切分からない。視界を繋げることも出来ない。八方塞がりだ。

 …いや、機体の俺の状況は分からなくとも、幽霊の俺の方で何とかできないか。体を串刺しにされているからってなにも出来ない訳じゃない。

 

 首は結晶が刺さっていなかったから動かせた。

 周りを見渡せば真っ暗だった空間が赤い結晶の…筍だらけになっていた。

 

 よくよく見れば雨のように人間や戦闘機、ファフナーが落ちていっている。人間に関しては一人だけじゃなくて大勢の人間。戦闘機やファフナーだけじゃなくて土とか、木とか、コンクリートとか。

落ちていった人の中には狩谷らしき姿もあり、赤い結晶の筍に触れては消えていった。そして、その分だけその筍が大きく育っていた。どんどんと背丈が大きく伸びていく。根元の周りも落ちていった人や物の分だけ太くなっていった。

 そうして時間が経てば経つほど、赤い結晶の筍が成長し、また増えていく。筍は今や見上げる程大きく太い竹。それが何本も成長して暗い空間は一瞬で竹林になっていった。はらはらと赤い結晶の粉が降ってくる。

 

 

 「お前は誰だ。」

 

 

 声を掛けられた方向を向くと、あの茶髪の男がいた。自然と眉が寄る。人の形をしたフェストゥム。目は、最近見たことのあるような特徴があった。

 

 (島のコア…?)

 「お前は何故完全に同化されない、何故我々の祝福を受けない。」

 

 何処か苛立った様子で聞いてくるその男は、年相応ではなく子供が癇癪を起しているようにも見えた。…疲れているのかもしれない。

でも、相手はフェストゥム。人間の年齢における表情や動作の幼さなんてものは関係ないのかもしれない。

 

 …それよりも、茶髪の青年と会話が出来るならしてみたいと思った。なんで俺がここに刺さっているのかとか、感情を理解しようと思ったのかとか、色々と聞いてみたいことがある。

 

 「お前が生かしてるんじゃないのか。」

 「違う。我々はお前を同化した。」

 「へぇ…。」

 「我々は、人間の感情を理解した。人間の道具の使い方を理解した。

 お前はなぜ存在している。同化した筈なのに、なぜお前はそこにいる。」

 「なぜそこにいるかだって?」

 

 そんなことを言われても困る。眉が更に寄るのが分かる。

 同化した筈だって?確かに俺は、意識を失う前に狩谷も俺も、同化されたのを感じたけれど。

 なぜここにいるかなんて分からないし。それらしいことを知ってそうな記憶は未だに思い出せてないし。

 

 「記憶が曖昧というのなら我々はお前に思い出させてやる。」

 

 青年が俺に手を翳す。何だか嫌な予感がしてその手を見ないように目を瞑る。

 それでも閉じた瞼を無理矢理こじ開けられるように、映像が泡のように浮かびあがる。

 

 

 

 尼僧に叩かれた誰かがいる。怒鳴られて縮こまった誰かが、怒号を聞いて目を見開いてその場を飛び出した。

 赤い液体に包まれた少年がいる。楽しそうに誰かに話をねだっている。

 誰かの墓石の前に立っている。笠を身につけた誰かが経文を説いている。その遺体の無い墓石に、胸が潰れてしまいそうな程の悲しさを感じる。

 誰かの前に、白衣の人物が立っている。その人物から吐き気を催す程の嫌悪感を感じる。

 金色に発光するフェストゥムがいる。「あなたはそこにいますか」と問い掛けたフェストゥムのコアを握り潰した誰かがいる。

 

 

 

 ぐらり、一気に情報が流れ込んできて気が遠のきそうになる。あの尼僧、あの誰か、あの少年、あの白衣の人物。それから、それからーーー。

 目の前のお前はーーー。

 

 

 

 

 「“お前は息子の代わりにはなれない“」

 

 

 

 

 その声にはっと意識を引き戻される。

 

 聞き捨てならない言葉。

 

 言われたのはたったの一回、それでも何度も何度も脳に刻み込まれたその忌々しい言葉。

 かっと体が瞬時に熱くなる。混濁した記憶も朦朧とした意識すらもはっきりとしていく。

 

「お前はお前の母親にとっての出来損ないだ。」

 

 記憶がはっきりとしていく。頭を揺らされる感覚がする。何が浅ましいだ。何が出来損ないだ。その言葉を何度も飲み込むほど体が震えていく。体内の血が沸騰していく!

 

 あの時の頬の痛みに倒れた体の痛み。言われた言葉で殴られた衝撃が蘇る。

 

 

 

 「それなのにお前は浅ましく、お前の母親に泣き縋っている。」

 

 

 

 「その言葉を言っていいのはあの人だけだ!!!」

 

 

 

 殴りたい。

 目の前にいる青年を殴りてぇ!

 体に刺さる結晶が動きを邪魔する。思い通りに体を動かせない。殴りに行かせない!

 指すら動かせなくなるほど結晶が育ち、体に刺さっていく。ああ邪魔だ!

 目の前の青年はそんな俺の様子を見て笑ってやがる。ああ憎たらしい!

 

 「…我々はお前を同化するのは保留にする。」

 「何が保留だ!さっさと俺の中から出ていきやがれ!」

 

 澄ましたツラを睨めば何も言わずに青年は出ていきやがった。

 

(さっさとコアを破壊されろあの腐れ土人形!!)

 

 ぶつけようのない感情が体内で回っている。あの言葉を言っていいのは俺の母親だけだ。他人が勝手に言っていい言葉じゃない。

俺の記憶を覗き見ただけの他人が、ただの人型の土程度が口にしていい程あの言葉は軽くない!

 

 

 (あぁクソ!クソしか言えねぇ!!)

 

 

 体はますます動かなくなる。動こうとする俺を制するように結晶が育ち、動きを阻害する。

 

 そんなことをしている間にも怒りは収まらず、苛立ちで体温が沸騰していくだけ。

勝手に記憶を読まれて、強制的に記憶を思い出させられた。その記憶を読まれて一番忌々しい言葉を吐かれた。ただの土くれ如きに!

あの土くれが感情なんて分かるものか。狩谷の憎しみを同化して学習して、それを感情だなんて呼ぶような奴が。憎しみだけで人間の感情は構成されていないんだ。そんな単純だったら人間なんて直ぐに滅びている。

 

 

 

 

 (いった!)

 

 

 

 

 急に脳に刺激が走る。なんだこれ、膨大な情報が流れ込んでくる…!

 いや、この情報は第一アルヴィスの物?第一アルヴィスのブルク内の情報に、第一アルヴィスに格納されている機体情報、地形にその他諸々。

 

 一体、俺の体に何が起こってるんだ?

 

 

 

 

 <ーこーてるー?>

 

 

 …この声。あの竜宮島のコアの?いや、何でこんな時に聞こえてるんだ。

 

 

 <聞こえてるの?>

 

 

 ああ、聞こえる。竜宮島のコアの声が聞こえている。

 

 

 

 <…あなたは、私。私は、あなたよ>

 

 

 

 どこか暖かいその言葉が聞こえた瞬間、俺の体に刺さっていた結晶が割れた。

 急に割れたおかげで受身も取れずに倒れた。その衝撃なのか、胸がとても痛い。

 

 

 (いや、絶対倒れたからじゃない。何でこんなにも心が痛い?“苦しい“?)

 

 

 <良かった、貴方はまだそこにいるのね>

 

 

 崩れた姿勢を直す。誰かに急かされるように機体の俺と視界を繋げさせられて見えたものは、二機のファフナーが俺の胸を突き刺した瞬間。

 心臓と胸に穴が開いたような痛みが走る。

 

 <私が貴方にできるのはこれくらい。

 でも、今の貴方なら動かせる。今の貴方なら悲しみを伝えられる。>

 

 胸を抑えながら、竜宮島から送られてきた情報を読む。

 

 (あぁ、なるほど。)

 

 アイツが俺を通して竜宮島のコアと強制的にクロッシングした際に、俺の存在を見つけてくれたようだ。

 今、アイツがアルヴィス内に残したフェストゥムを成長させて動かそうとしている。

 

 

 (ありがとう。竜宮島のコア。俺を同化から解放してくれて。)

 

 <…ううん。ありがとうを言われる覚えはないわ。

 私は貴方に酷いことをさせようとしているのよ。>

 

 (それでもだ。お前のおかげで動かせなかった体が、繋げられなかった体が動かせるようになったんだ。

 どんな形であれ、俺に抵抗できる手段を与えてくれたんだ。感謝しかないな。)

 

 

 

 何もできないより、何かを出来た方がいい。例えそれが自分が死ぬ道だとしても、それが良いと俺は思う。

 

 

 

 目を閉じる。

 機体の俺と更に深く繋がるように。機体の俺の指先までしっかりと。

今の俺に必要なシステムも使えるようになっている。機体の体はぎこちなくだけど、俺が動かせるようになってくる。一時的だけれども、アイツの同化から解放されたおかげだ。

 

 (クロッシングを解除)

 

 竜宮島のコアとのクロッシングを解除して、これ以上アイツを通してフェストゥムに情報を与えないようにする。これで送り込まれてきた情報の濁流が塞き止められて脳内もスッキリとした。

 

 (さてと、…やりますか。)

 

 少しばかり震え始めた体を強く掴む。

 閉じた目を開けば、そこは赤い結晶の竹林ではなくて飛行機上から見た竜宮島の一部。俺の周囲に崩れ落ちているファフナーが二機。片方はコクピットで脱出したからか遠くに、片方のファフナーにまだ生命反応はある。

 

 (まだ治療が間に合う。さっさとここから離れなければ。)

 

 アイツは焦った様子で操作権限を戻そうとしている。

 だがしかし、俺が竜宮島のコアのおかげで同化から解放された今、俺を動かそうと動かさないと決められるのは俺だ。パイロットは俺を動かすための電池でしかない。

 けれど、また同化されることもありえる。それで折角のチャンスが潰されるなんざ目も当てられない。

 

 

 

 …最後くらいアイツと話でもしてみるか。

とても憎たらしくて忌々しい言葉を吐きやがったが、アイツがそうなったのには俺にも一因があるからな。

 

 

 

 ふっと視界が切り替わる。機体の俺との繋がりはそのままにして、幽霊の俺を分離させてコクピット内に送る。

 

 目の前では全裸のアイツがコクピット内で俺を操縦していた。アイツがいきなり現れた俺を見つけると顔を歪めた。

 

 「何故お前がここに!」

 「何故って…お前の同化から解放されたんだよ」

 「なっ」

 

 焦った様子に自然と笑えてくる。いい様だ。

 これからやることにも驚くだろうか。…おぉ、あったあった。この機能だ。

 

 

 死にたくねえなぁ

 

 

 ふっと湧き出た感情を押し込めて、いつでも起動できるようにセットしておく。少し時間は多く取っておく。

 それと同時にスムーズに動かせるようになった俺を島の外へ動かす。島から離れた遠く。何もない海上まで。竜宮島にまで被害が出たら嫌だしな。

 

 「何をするつもりだ」

 

 アイツが問い掛ける。目が心なしか怯えたように揺れている。目の模様は竜宮島のコアと同じような模様。

 お前の正体は、俺の過ごしてきた記憶を合わせれば答えは導き出せた。

 

 今、目の前にいるアイツが“アイツ“だって、どこかで確信している俺がいる。

 

 「なぁ、なんで俺を同化できないと嘘を吐いたんだ」

 「嘘などではない、お前に何らかの原因があって…!」

 

 

 「…ま、その答えは冥土で聞かせてくれよな」

 

 

 <フェンリル、起動>

 

 

 その機械音声にアイツは顔色が青褪めていく。色を失っていく。

 

 「今すぐやめろっ!」

 「だったらお前が出ていけばいい。フェストゥムは自由に移動できるだろ?

 なんで未だに移動せず、俺に乗ってんだか」

 

 俺もあの声を聞くと一層、戻れないと感じた。だけど、これが今の俺に出来ることだ。

 フェンリルは簡単に言ってしまえば自爆装置。そして、俺や他のザルヴァートル・モデルには今の俺に起きている事態の対処として、他のモデルよりも三倍ものフェンリルが搭載されている。竜宮島なんかで起動したら、竜宮島が全て吹き飛んじまうくらいの威力だな。

 

 

 …機体の俺として生まれて約一か月。記憶が戻って数分くらいか?

 これといって意味の無い生き方をしてたな。ただ機体の周りを浮遊して、ぐだぐだと人間に戻りたいだの泣き言ばっか吐いて努力なんざしてなかった。記憶が戻った今じゃ、どうあがいても人間に戻ることは無理だと分かるけどな。

 

 結局、記憶が無くなっても飲んだくれのろくでなしは変わらないってことだな。

 

 「はぁ…。死ぬ間際くらいに一杯くらいは飲みたかったなぁ。」

 

 出来れば度数が強い日本酒。俺がコアになる前に飲みかけだった「輝夜」を飲み切りたかった。それに家にあった筈の「さぬき」も飲んでみたかったな。他には「宝貝」も美味かった。舌がピリっとして、一瞬落下死しそうになる程の衝撃だったけど、後味が意外とあっさりしていて…。

 

 なんて考えていると、信じられないと言わんばかりにアイツが叫んだ。

 

 

 「…正気か!

 

 それは、お前の存在が消失するということだ!

 

 何故その道を選ぶ、何故そんな道を!!!」

 

 

 そんな叫びに、やっぱりお前は理解できてなかったんだなと思う。中途半端に学ばせて、その道を選ばせてしまった。これは、俺の責任でもある。子育ては子供が一人前になるまで放り出しちゃいけないと言うだろ?少なくとも、俺はそうあの人から教わった。

 

 

 

 

 「…()()()を選んだお前には分からないだろうよ」

 

 

 

 

 フェンリルを解放する時間は迫ってきている。

 もうここら辺で大丈夫だろう。あまり行き過ぎて竜宮島以外の島にも被害が出たら嫌だしな。

 

 

 

 

 

 <フェンリル、解放>

 

 

 

 

 

 「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 …視界が白く染まった。

 

 

 




次回


君の名は~まだ名前が出てない君へ~



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