あとやっと主人公の名前出せたので満足です。
来るべき北極での戦い。
我々はフェンリルによって消滅したマークニヒトの機体を一つだけ再構築し、我々がその機体に搭乗していた。
我々のミールが空と繋がる為の準備が整い、空を飛ぶ人類を、ファフナーに乗る人類を殲滅していく。
「効果的に部隊を入れ替え、敵の主力を誘き出し各個撃破」
「最小限の犠牲で敵を倒す」
「犠牲を考慮し、敵を倒す」
アルヴィスの子の思考を理解し、人類から学んだ憎しみで数多の人類を殲滅していく。
しかし、何処かに違和感を感じる。胸、足、腕…様々な場所に小さな違和感を感じている。
アルヴィスの子らが、入れる筈の無い内部に侵入し始めた。
目の前のアルヴィスの子に撃退の方法を教えさせた。
「連携を分断し、各個撃破」
「防衛すると見せかけて誘き寄せ、犠牲を払って分断」
早速その戦法を使った。ファフナーの一機を我々によって近くの池に沈めさせ、救助に走る子らを分断することに成功した。
その筈なのに、分断した子らはまた集結し我々を傷付ける。
「なんだ……。
これは、なんなのだっ」
小さな違和感は、感じたことのないものへと。いや、何処かで感じたことのある、懐かしい感覚。
「それが痛みだ、フェストゥム!」
痛み…?これが、痛み。痛みだ。
これは、痛みだ。
“私”がかつて…捨てたものだ。
橙色のファフナーがニヒトの腹にルガーランスを突き刺した。
腹部に走る、鋭い痛み。
「フェストゥム!教えてやる、僕がお前たちに教えた戦い方の名を!
消耗戦だ!
痛みに耐えて戦う戦法だ!」
緑色の機体が背中を刺す。
背中に刺激が走る。耐えられない、耐えられない!!
「それが戦いの痛みだ。
存在することの苦しみだ。
いなくなることへの恐怖だ!フェストゥム!」
痛い、痛い、痛い!
苦しい、痛い、苦しい、痛い!!
捨てた物が、あの日に捨てた物が返ってきた。
痛い、怖い、苦しい!
この場から、痛みを与える物から逃げたい!
ホーミングレーザーを放射し、アルヴィスの子らの足止めをするっ!
「戻せ。私を…無へ、戻せぇぇぇ!」
口から出た、言葉。
ワームスフィアを使い、この場から逃げ出した。
息が絶え間なく出る。胸が、激しく動いている。
痛みから逃げられた。
生きている。痛みから逃れて…生きている。
「生きていることに感謝したな。
それが今ここにいることの喜びだ、フェストゥム…」
喜び?
生きている。
我々は。
いや、我々じゃない。
「“私”は…今、ここにいる。」
生きている。苦しみを感じる。痛みを感じる。あの日にむせ返る程感じた感覚が蘇っている。
島を抉られるのは、内臓を切り取られるような痛みだった。島民が死んでいくのが、とても胸が苦しかった。あの場から一切動けず彼を死地へ向かわせた自分が嫌だった。
だから逃げた。唯一の逃げ場すら、私で潰してしまった。
そんな私が取った行動は更なる逃亡だった。
存在に、苦しみと痛みに耐えられなかった"私"は同化された筈だが、アルヴィスの子によって教えられた痛みが、苦しみが再び"私"を引き戻した。
"私"を"私"にした。
…かつて蓬莱島と呼ばれた島のコアだった私は、苦しみに耐えられずフェストゥムの道を選んだ。その際に、瀬戸内海、…蓬莱島のミールも同化された筈だ。
しかし、同化されて尚蓬莱島のミールは存在を保っていた。同化されていなかった。いや、同化を拒んでいた。
そして、私が同化されても蓬莱島のミールとの繋がりは途切れていなかった。今の"私"になら分かる。
"私"は両方のミールと繋がっていた。
そして、蓬莱島のミールが私という端末を通して北極のミールから情報を得て、着々と
それでも蓬莱島のミールから戻れと呼ばれている。このまま拒否し続けていても強制的に戻されるだろう。
戻された私にミールが望むことなんて、もう伝わっている。
私は…まだ彼と話していたかったと感じている。
閉じた瞼に浮かぶのはいつも疲れたような顔をして、私が強請った昔話を柔らかな笑顔で話す彼だ。
何も知らなかった、知識を与えられなかった私にとって、彼の話はとても興味深い物だった。あの時間が私に心を持たせ、その心を震わせる程に、また望んでしまう程に楽しかった。
あの襲撃さえなければ、今頃も話せていただろうか。
…いや、それは無理な話か。彼もいずれはあのモデルに乗り、私の前に現れることも無くなっただろう。
呼吸を深く、とても深くした。
眼前に移る北極のミールと人間たちの大きな戦い。
…自分も共に引き起こしたことだが、きっと私が形を持ってここにいられる時間は少ない。
北極のミールとフェストゥム、人類たちには申し訳なく思うが…。
最後くらい、自分のやりたいことをやっても良いだろうか。
きっと許されないだろうが、それでも構わない。いくらでも憎んでくれたっていい。
きっと君達にはその権利がある。私には憎まれる権利がある。
それでも、私は自分のやりたいことを優先した。きっと、彼が見れば悪い子と言うのだろうか。
心に深く繋がる、懐かしき風を感じるミールの元へ。
何度も強請った話の風情を思わす景色へ。
"私"が"私"である内に、伝えたい。
私が君に貰ったものへの感謝を。
…これから君が知る真実はとても残酷な物だろうから。
少しでも、助けになりたい。今度こそ、彼と共にいたい。
◇
フェンリル解放後から、一切機体の俺との繋がりは戻せなかった。
恐らく肉体だけはフェンリルに巻き込めたが、本体であるコアはアイツが移動させたのかもしれない。
どうあれ、俺の意識がこのヘンテコな竹林にあるということは、自爆作戦は失敗したということだ。はぁ…。
起きた時の俺は、周りの竹よりも一際太く高い竹の所で凭れかかっていたようだった。…この竹だけは赤くないな。嫌な鶸色だ。
(でも感触は結晶なんだな…。)
…それはともかく、本格的に外がどうなっているか分からない俺はまたもや竹林で迷い込んで反省会がてら歩いていた。何処行っても身の丈超える竹、竹、竹…。
本当にこの竹なんなんだよ。まったく分からない。軽く殴ってみてもこちらの拳が痛みに腫れるだけでビクともしない。見た感じは結晶で構成されている様だが、中身は違う気がする。竹の様に中身が空洞ではなくて、もっといろいろな物を詰め込まれているような。
開ければ正体は分かるけど、出来れば開けたくないこの微妙な気持ち。
コッと軽く頭を殴られるような衝撃。
何だ?と思いきや、上から結晶の粉が降りかけられたらしい。笠からぱらぱらと光を反射した結晶の粉が落ちてくる。
頭を大きく振って笠に被った粉を振り落とす。
何だと上を見れば、そこには満月。欠けも穴も無い。白く光る球体だ。
いつも島で見ていた物よりもはっきりと鮮やかでいて、大きい。
(…はぁ?ここに月なんてあったか?)
あんな満月、串刺しにされた時には見えていなかった筈だ。集中してたから見えてなかったのか…?
なんて、空を眺めていれば目の前の空間が揺れて一人の男の姿が現れた。
作られた月を背にした、跳ねた茶髪の青年。
アイツだ。
蓬莱島のコアが来やがった。
「私は、君と話がしたい」
そう言って見つめる眼差しは、あの時の様に無機質ではなかった。
目と目が合う。…懐かしさを感じる。赤い培養液に入れられたおかっぱの少年。
それが今や成長して目の前にいる。
「…その言い草だと、お前は思い出したのか?」
「あぁ。思い出した。そして、またこちらに引き戻されたようだ。
…久しぶりだな、"さかき"」
コアは、空中からゆっくりと地面に降り立った。
さかき。さかき。さかき。…榊?
あぁ。それは俺の名前だった。暫く呼ばれてなかったし、その名前すら忘れていたから反応が遅れた。
「私はかのアルヴィスの子によって送られた祝福により、”私”を思い出した。」
「はぁ…。今まで接してきたお前と、今目の前にいるお前は違うってことか?」
「いいや。どちらも私だ。
…私は苦しみから逃げたのだ。逃げて、フェストゥムと同化し、苦しみを忘れる道を選んだのだ。」
フェストゥムと同化して苦しみを忘れる。苦しみという概念を知らない自分になる道を選んだってことか。
「…あぁ。それで?」
「同化へと逃げた私だが、蓬莱島のミールと未だに繋がっていた。」
「…確か蓬莱島で分けられたミールとお前は繋がっていたんじゃないのか?
お前が同化されたらそのミールだって同化される筈だと思うんだが。」
そう本人が言っていたことを思い出す。
ミールと自分は繋がっている、自分を通してミールは学んでいるのだと。
「蓬莱島のミールは静かに進化していたのだ。…自らが許可したもの以外の同化を拒否するように進化させた人物がいる。
その人物がミールと接触し繋がった。
様々な知識を与え、その人物がミールと言っても過言では無い程に繋がり、私という端末を通して北極のミールから情報を得ていた。」
こちらを見つめていたコアはふっと視線を下にやりながら、声を落として言った。
「私はもうあの人物にとって用済みの端末らしい。
もうすぐ私は、蓬莱島のミールと同化するだろう。」
「…用済みの、端末?同化するだって?」
力無く、コアは頷いた。
「蓬莱島のミールが、そろそろ目覚める。
完全に目覚めて形を取り君に接触するだろう。
その前に私はミールと同化される。
お願いだ。"さかき"
私を君に同化させる許可を、与えてくれ。」
お前を用済みと判断した人物がいて。
もうすぐコアはミールと同化する。でも、俺と同化したいって?
「お前はまた逃げる道を選ぶのか?」
「…もう逃げないと決めた。
ミールと同化すれば、私は君を傷付ける行いに加担してしまう。
ならば、君の傍で戦いたい。君を傷付けるような存在になりたくはないのだ。」
細い薄緑色の目が俺を射抜いている。
…強い目だ。あの人もしていた。決して曲げない遺志の強さを嫌でも感じさせる目。
どうして俺はそんな目をよく見る、いやさせてしまうのだと、思ってしまう。感じてしまう眼差し。
自分の道を選んだ者の目。
もう、コアがこの場からいなくなるのは決定事項なんだろう。
コアは用済みの端末としてミールに同化される。
…何も情が無いって言ったら嘘になる。
あの島で過ごすことが凄く苦痛だった。命を石へと加工されるのを待つだけの日々だった。
そんな中で出会ったコア。
何も動かなかった表情が、徐々に動き始めて、最終的には毎日毎日話を強請るようになっていく。
嬉しそうに笑顔を浮かべて話をしろと言われるのは嫌じゃなかった。その時だけは俺も生きていたような心地がしていた。…苦痛を忘れられた。
「私は君から様々なことを教えてもらった。
興味深い昔の人間が考えた物語を。
他者と意思を疎通できることの喜びを。
誰かを守りたいと思う気持ちを。
大切な人がいなくなることの辛さを。」
コアの体が薄く、金色に光る粒子となって空へと昇っていく。
悲し気な色を宿してこちらを見つめている。
それに胸が苦しくなる。痛い。他者と繋がるのはこんなにも辛いことだった。
誰かを失うことは辛い、痛い。そんなの、あの人でよく知っていたのに。
ああもう、分かったよ。
「…いいぜ。同化するなら、お前を用済みと判断するようないけ好かないミールよりも、俺にしな。」
そう言えば、驚きに満ちた顔をして、泣きそうな顔で近付いた。
「今度は私が…。君が私を守ってくれたように、私が君を守る。」
そっと背中に腕を回される。俺もコアの背中に腕を回して抱き合った。
意外と俺よりも身長が高いことに気が付いた。
「大きいな、お前。」
「…命とは暖かいのだな、"さかき"」
空へと昇る金色の粒子が流れ込むのを感じる。
目の前で体が透けて、微笑むお前の顔が見えた。
悲しいけれど、存在が消えてしまうのは怖いけれど、自分は俺の中に生きているのだと。
回した腕の中に体は無く、然し心は俺の中にあるのを感じる。
ありがとう"さかき"。私を"私"にしてくれて。
次回
あなたと一緒にヘスターマート~衛星も取り揃えてます~