起きたら虚無の申し子   作:一億年間ソロプレイ

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[言い訳]

 実は…滅多に筆が乗らない時があって。
 それで違う作品の方も書いてたんですけど中々の文量になったので乗せてもいいかなって…。
 でもこっちの方を完結させるのを優先するので許し亭ゆるして…。




第8話 異文化交流

 目の前にいるフェストゥムはあの口を広げることなく、同化現象もワームスフィア現象も起こすことはなくただ俺の周りを泳いでいた。あのフェストゥムが一切の敵対行動をせずに、ただじっくりとこちらを見つめながら周囲に漂っているというのは凄く…気分が落ち着かない。

 

(どうするんだ…これは、攻撃すべきなのか?)

 

 攻撃さえしてこなければ人類だってフェストゥムだってどうでもいいんだが…、しかしいつまでもこの状況を保っていられるというか、いつ襲われるかも分からない。ここで俺が敵対行動をすれば、相手だって敵対行動をしてくるかもしれない。一応疲労が抜けたとはいえ、無駄な労力は避けたい。

 

(一体なんなんだ…このフェストゥム……。)

 

 俺が上に動けばフェストゥムも上に動く。右に動けば…。といった状態で確実に向かった先がたまたま同じだった、なんてことではない。多分だが、俺に付いてきている…?

 

(こういった時にフェストゥムと会話出来ればいいんだがなぁ…。)

 

 フェストゥムの言語はフェストゥムでしか分からないのだろう。竜宮島のコアや、俺の内側にいるコアだって半分はフェストゥムらしい。俺は以前、竜宮島のコアに同じ存在だと言われたが厳密には違うだろう。

 人工的に作られたフェストゥムの核のようなものだ。人とフェストゥムの両方と意思疎通が出来て、ミールに影響力を与えるような存在とはまったく違う。どこまでも凡庸な存在だ。

 

(うっ。

 …急に腕に衝撃が。)

 

 そう思って腕を見れば、俺の腕に先っぽだけ噛みつくフェストゥムがいた。

 

(うっ、嘘だろ。こんな悶々と考えてたから出遅れた…!)

 

 すぐさま攻撃態勢に移ろうとしたが、フェストゥムが腕を引っ張っていき、ぐんぐんと上昇させられていく。不味い、主導権を握られている。どうやって奪回すれば…って。

 

(…?海上戦が得意な筈なのに陸へ行こうとしている?)

 

 突然起こったフェストゥムの奇行によって、俺は海から陸へ移動させられた。

 大きな水飛沫が飛び散りながら、俺は空を見上げる姿勢になっていた。俺の腕を引っ張り上げて陸へ移動させたフェストゥムのことも一瞬忘れて、その光景を見ていた。

 

 玉のような飛沫によって輝いて見えた空は、また別の魅力があった。

 

 ハッとしてから未だに腕に噛みつくフェストゥムを見た。するり、とそのフェストゥムは噛んでいた腕を離してこちらを見ていた。心なしか、つぶらな目まで見えてきてこちらを見つめているような気さえする。

 

「お前…本当に何がしたいんだ?」

 

 こちらの言っていることが分かるように掌にグロテスクな口を擦り付ける。…意外とフェストゥムの表面はつるつるとしていた。

 

 …いや、それよりもこのフェストゥムのフェストゥムらしからぬ行動を見て、このフェストゥムで悩んでいることが馬鹿らしくなってきた。

 はぁ、と溜息を吐いて冷たい海面を出た。動作に異常の無さそうな推進ユニットを動かして空を滑空すると、後ろの方であのフェストゥムが付いてきているのが分かる。

 

 

 

「旅は道連れ…って言ってもなぁ。」

 

 

 

 その言葉を言った人も、まさか地球外生命体にも通用するとは思わなかっただろ。

 

 

 

 

 

 あのフェストゥムに名前を付けることにした。あの形状から、昔蓬莱島の図書館で見たクジラという生物に近いからクジラと名付けた。

 あの後もクジラは俺の後を付いてくるようだった。

 やっと見つけた人のいなさそうな島に着いた時でも砂浜にその大きな巨体を乗せて隣にいる。今もそんな状況だ。時折あのグロテスクな口が開くのは恐ろしいが、大抵は甘噛みで同化したりはしない。本当に謎のフェストゥムだ。

 

 うわ、ちょっと翼を噛むな噛むな。微妙に痛いんだぞ。

 

 強めに口を押して戻せば少し大きさが萎んでいるような錯覚もしてくる。まるで人間のように表情や心があるみたいな行動だ。

 

(いや、もしかしてだが。)

 

 まじまじと隣の巨体を見上げると、クジラは迷いなく頭を噛んできた。そのままもみもみと口を動かして、徐々に口に付いた歯で削られるような痛み。…俺が、少しの傷は周囲の微生物を同化して治していくザルヴァートル・モデルでなければ今頃終わっていたな。もう何十回目もこんなことを繰り返している。

 

 もしや、新たなフェストゥムの侵略方法なのではとも思ったが、段々アホ面に見えてきたクジラを見るとそんな考えは雲散霧消した。考えるのがアホらしくなるほど、このクジラというフェストゥムは今まで見てきたフェストゥムと違いすぎた。

 

(やっぱ無い。そんなことは無い筈だ…!)

 

 一瞬でも考えたことを捨てて、クジラの甘噛みから脱出する。毎回視界の上部が赤黒く血液の様に脈動しているフェストゥムの内部を見せられる気分になって欲しい。しかも今は夜中だ。とっくに寝られるような体ではないがとにかく心臓には悪い。

 クジラから少し離れた場所に座る。

 …クジラは目敏く、距離を詰めながら転がってきた。

 

「お前、陸でも大丈夫なんだな…。」

 

 何か言ったか、と言わんばかりに巨体を揺らす。そして砂埃が立ち、近くにいる俺の目や鼻に入る。

 

「何でもねぇよ」

 

 暫くはその島で一人と二体で空の月を眺めていた。

 あの空間のように、作り物ではない。太陽の光を受けて輝く月を見つめていた。

 

 

 

<ちょっと!?何やってんの?何でフェストゥムといる訳?>

 

 …あの腹立つ声だ。まだ聞こえたのか。

 

<まだってねぇ…。君は僕に情報を知らせる端末だよ?まだも何も、君が死にそうになるまでは使うからね。>

 

 あぁなるほど…。

 つまりここで自害すればお前の声は聞こえなくなると。

 

<そんなことさせる訳ないでしょ。

 というか、そんな簡単に自害するなんて言っていいのかな?前の端末のことは考えてないの?>

 

 

 ……。

 

 …それくらい、お前の声や言動、存在が不快だって感じているんだ。さっさと出ていってくれ。

 

<ちぇっ。なんでそんなに嫌うんだか。

 ま、精々色々な情報を持ってきてよね。僕らのためにさ。>

 

 そう言って、声は途切れた。

 

 

 あの声に情報を知らせる端末、声に出さずとも何故か会話が続く、情報は僕らのために。

 

 

 そういや、フェストゥム以外でも謎はあったな。

 あの腹立だしい声…もとい、蓬莱島のミールのコアはコアだった筈だが、あの声の主は一体何なのだろうか。コアのように島を維持していたのか、コア以外にもコアがいたのか。

 

 

 

 世の中、何もかもが分からないことばかりだ。

 

 

 

 まったく、これが兄だったなら解けるのだろうな。

 

 

 

 

 

 夜が明けていくのが見えた。暗い空が徐々に明るく、色を取り戻していく。

 

 お前は寝れるのかよ、という言葉を飲み込みながら盛大な鼾をかいていたクジラを小突いて起こす。

 しかし寝起きが悪いようで何度も小突いていく。

 

 …。

 

 それでも起きなかったので平手打ちをしたら起きた。

 不服そうな顔をしているが、俺に付いてくるっていうんならここに置いておくのもなんだか気分が悪い。

 

 …何より、旅は大勢で行った方がいいと思う。ぶらぶらと散歩するのも一体のが嬉しい時もあるが、たまに人寂しくなることもある。面倒くさい人間の心理と俺の考えだけど、話が合うなら人でなくてもいい。多分言葉が伝わらなくても、ある程度のことは伝わっている。

 

「ぐぉぉぉぉぉ…」

 

 あくびのような音を立てながらクジラは数回体を揺らして海に入っていった。しかし陸では身動きが取れないも同然なので、クジラの体格が入る深さまで俺が体を押して海に入らせる。意外と軽く押すのは簡単だ。

 ゆっくりと入ってゆき、クジラが泳げるようになったのを確認したら、俺もある程度の汚れを同化してエンジンの動力に回す。クジラが鼾をかくのと寝相が悪いことで、砂埃が酷く舞って機体に大量に積もっていたからな。

 

 

 

 「行くぞ、コア、クジラ」

 

 

 

 推進ユニットを使い、どこへ行くかも分からない道を一人と二体で行く。

 

 一体だった時よりかは、心も足も軽い道のりだ。

 

 

 




次回


待 た せ た な

待 っ て な い


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