起きたら虚無の申し子   作:一億年間ソロプレイ

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原作キャラ出すと口調とか話し方とかが合っているか不安になります。

最近雨が凄くて自分の脳まで湿っているんじゃないかと思うくらいじめじめしてます。

早く晴れて欲しいですわい。




第9話 思い出してからは

 いつものように海面を滑空し、宛先の無い道を行く中で気になることがあった。

 

(上空から視線を感じる。)

 

 気のせいなのか、上を見ても空を飛ぶ鳥と太陽しか見えない。最初は鳥が見ているのだろうと思っていたが、その鳥が離れていった後も奇妙な視線を感じたままだった。

急に足を止めた俺に気付いたのか、足元の方でクジラが突いてくる。

 何故か落ち着かない。

 

 ピピッ

 

 何だ。急に現在地周辺のマップが現れた。確か、緑の丸が俺の反応で、赤い丸はフェストゥム、水色の丸がファフナーの反応だ。そのマップでは、俺の後ろから三つの水色の丸が追いかけてきているのが見えた。

 

(まさかっ!)

 

 後ろを見れば人類軍のファフナーが三機。それぞれに銃を持っている。

 そして、こちらに銃口を向けながら移動してきている。あの様子だと、射程距離内に入れば撃たれることは確実だ。

 

 …応戦するか?

 だが、それで人が死んでしまったら?

 可能な限り人は殺したくない。人を殺すことに慣れたくはない。

 

 いや、応戦せずともこのまま逃げるというのも有りか。グノーシス・モデルのエンジンはザルヴァートル・モデルの物とは違い、動力に限りがある。

 

 

 …あのファフナーの動力切れを狙ってみるか。

 

(すまんなクジラ、ちょっと飛ばすぞ。)

 

 進んでいた方向に向き直り、先程よりも強い出力で推進ユニットを動作させる。スピードも段違いで少し酔いそうになるが、振り切れるまでは我慢だ。

 

 

 

(頼むから、追いかけてこないでくれ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ。はぁっ。」

 

 息切れをするほどに飛ばしたが、人類軍のファフナーは一応振り切れたようだ。少し遅れてクジラも追いついてきた。

 

「一体何だったんだ…。」

 

 元から道など気にしてはいないが、何かに追われるというのは気分が悪い。未だにまだ追いかけられているのではないかと感じてしまう。

 

 …いいや、大丈夫だ。もう大丈夫だ。流石にあの距離まで行けば動力切れする筈だ。

 

 その筈なのに、未だに視線を感じる。肩から力を抜きたくとも抜けない。

 

 上から見られている。

 見ても、星が見えるただの夜空だ。

 

 

 

 何故こんなにも嫌な予感が止まらないんだ。

 

 

 

 ピピッ

 

 

 

 突然現れたマップ。

 5つの水色の丸。俺を囲むように水色の丸が展開されている。

 

 まるで、待っていたと言わんばかりのタイミングだ。

 後ろを向いても、前を向いても遠くの方で人類軍のファフナーが見える。こんなに暗くてもはっきりと小さな輪郭が見える。

 

 どうすればいい。このまま逃げ続けても、この状態を切り抜けても人類軍に追い詰められるのか?

 なぜ急に追ってくる?なぜ位置を追跡できる?

 

 疑問ばかりが浮かんでくる。肝心の対応策は出てこない。こう考えている間にも人類軍はすぐやってくる。

 

 咄嗟に出てきた自分の言葉に引っかかる。

 すぐやってくる?

 

 …疑問の種がすぐそこにやってくるなら、聞けばいいじゃないか。逃げるのは止めだ。

 

 五機だと通信を繋いでいる間に俺が捕らえられたり攻撃されたりする危険もある。

 なら、一機くらい残して後は足を潰すくらいで大丈夫だろうか。いや、武装も剥いでおかないと反撃されるか。

 

「よし。決まったぞ。」

 

 人類軍に直接聞く。ああでも、クジラはどうしようか。

 何となくクジラを巻き込みたくはない。

というか、今の状況でフェストゥムが出てくれば人類軍とまともに話が出来なさそうな気がする。

 

 機体を海に潜らせてクジラの近くに行く。クジラは何だ、と口をこちらに向けた。

 

「お前が言葉を理解できるかは分からないが、今は下の方に潜っていてくれないか。」

 

 ジェスチャーでも伝わるか分からないが、一応指で下を指差す。

 クジラはあくまでもフェストゥムだ。読心能力だって使えそうだが、言葉の意味までは理解できないかもしれない。いや、フェストゥムの内情なんて知らないが。

 

 暫くしてからクジラは深く潜っていった。

 

「なんとか伝わった…のか?」

 

 クジラの姿を背に海中を上昇していく。マップを見れば反応はすぐ近くに来ていた。

 このまま浮かべば恐らく持っているであろう銃で蜂の巣にされるだろう。海面から見える人類軍はきょろきょろと辺りを探している様子だった。…あいつら、位置は分かるが、高低差までは分からないのか?

 

(なんなら、今がチャンスか。)

 

 すぐ傍に見える人類軍のファフナーの足を同化ケーブルで引っ掛けることにする。

がくり、と突然姿勢を崩し海へ沈んでいく仲間に動揺するも、まだ海の中にいるとは気付いてはいない様子だ。

素早くケーブルを引いて俺の手前にまでファフナーを動かして無防備に出された足を掴んで握る。まるで豆腐のような柔らかさで簡単に足は壊せた。それから手に持っている銃を奪い取る。よし、これで大丈夫だろうか。

一連の作業を終えたらそのファフナーを海面上に浮かせる。ぷかりと泡の様に無惨な姿になったファフナーを浮かせた。溺死はさせてはいけない。

 

(やっぱり気付くか…。)

 

 それによって、俺が海中にいることを悟られたがやることは変わらない。敵の無力化と意思の疎通を図る。

 今度は四本のケーブルを同時に射出して、先程のように海に沈める。こちらを狙って銃を撃ってくるが錯乱しているのか、的外れな射撃ばかりで避けるのは簡単だ。足を潰し、銃を奪い、海に四機浮かせた。

 

 それから海から出て適当な一機に同化ケーブルを指す。

 これで俺と相手のファフナーとで通信が出来る筈だ。

 

「なんだっ、勝手に通信が…!」

「お前たちは何故俺を追いかける?」

 

 単刀直入に言えば、ぐっと喉を詰まらせたような音が聞こえる。

 

「俺にお前たち新国連と敵対する意思は無い。追いかけるのを止めてくれないか。」

「…それは出来ない。俺達にはお前が乗っているザルヴァートル・モデルの回収を任されている。」

「なるほど。では、この機体を渡すとして何のために扱うつもりだ。」

「そこまでは分からない。俺達はそのモデルの回収命令だけ出されている。」

 

 そうか。ザルヴァートル・モデルの回収が目的でこいつらは追いかけてきていたのか。新国連の最終兵器にでもするつもりか?新国連のことはよく分からんが、素直に要求を聞いてくれるとは思わない。

 そうやって俺の島も滅んだからな。…あれは自業自得っていうのもあるが。

 

「…信を切り替……さ…。」

 

 突然年を取ったような女性の声が聞こえてきた。俺と通信していた奴は普通の男性の声だった筈だ。

 暫くざざざと音がして、声が聞こえてくる。

 

「初めまして。ザルヴァートル・モデル、マークニヒトの搭乗者。」

「…どなたで?」

「ヘスター・ギャロップ、と言えば分かりますか?」

「…ああなるほど。」

 

 

 新国連事務総長、ヘスター・ギャロップ自らが通信をするだと?

 それだけザルヴァートル・モデルを回収したいのか?

 

 

「貴方は我々にザルヴァートル・モデルを差し出す権利があります。」

「権利、とは?」

「貴方が操縦してきたことにより、数多の兵士が貴方によって殺されてきたのです。

 貴方がフェストゥムを殲滅する為のマークニヒトを奪い、ミツヒロ・バートランドを殺害し、

 どれだけの人類が貴方に怯え、殺されてきたと思いますか?」

 

 貴方がマークニヒトを奪い?

 

 …あっ。

 普通はファフナーの中に操縦する人間がいる筈だ。だったら、今の俺はマークニヒトを奪った罪人…という認識にもなるか?普通に考えて、マークニヒトが自律的に動いてるとは思えないか。

 

「悪いが差し出すことは出来ない。」

 

 ヘスター・ギャロップは途端に黙った。通信の細やかな音だけが流れている。

 

「…そうですか。

では、あの北極大戦から消耗の激しいマークニヒトをここまで動かしてきた貴方を新国連に所属させるチャンスを与えましょう。

貴方が殺害してきた者の分まで新国連の元で働き、人類の為にその身を尽くすのです。」

 

 …俺が殺害してきた人の分まで。

 

 改めて、そう言葉にされると無意識下であっても俺が行ってきた事の重さを感じる。きっと、それぞれに家庭があって、それを守るために志願した兵士や国?に尽くすことを決めた兵士たちの思いを俺は軽く踏み潰してきた。

 それを思うと、ヘスター・ギャロップの言う通り、新国連の元で償うのも一つの道なんだろう。

 

 

 

 だがな。

 

 易々と新国連に入れるほど、浅い感情を持っている訳ではない。

 

 

 俺は知っている。お前たちが蓬莱島の技術を一方的に盗もうとしたことを。

 

 島を踏み荒らし、コアを傷付けたことを。

 

 あの人の墓石を、島の墓地を破壊していったことを。

 

 

 

 だから、答えは決まっている。

 

 

 

 「断る。確かに俺は人を殺してきたが、お前らの元でなくとも償いは出来る。」

 

 「交渉決裂ね。ならば、無理矢理にでも来てもらいます。

 …覚悟をしておくことです。」

 

 

 ブツリと通信は切れた。

 もうここにいる理由も無い。その場を去ろうとしたが、クジラを呼ばなければいけなかった。

 結局使わなかった銃をその場に放り捨てて迷いなく海中へと潜る。

 

 クジラと話していた所よりも深く。深く潜れば暗闇の中でハッキリと分かる金色が見えた。

 その色へ近付くと、あちらもこちらへ近付いていく。

 

 …別のフェストゥムだったりしないか恐ろしくなってきたな。

 いつでも戦闘できるようにしておこう。

 

 恐らくクジラと思われるフェストゥムは俺に近付いて頭に噛みついてきた。

 しばらくもみもみと噛まれてぱっと口を離して頭を掌に擦り付ける動作をした。

 

(…いや、これはクジラだな。)

 

 ふぅ、と息が出る。どうやら少し緊張していたようだ。空中から感じる視線も無くなっていた、というのもあるか。

 

「いくぞ、クジラ。」

 

 暫くは空を飛べそうにない。今は海中で移動することにした。

 クジラの隣を泳ぎながら移動するのも、いいだろうと思えた。

 

 

 

 

 

 

「そうだよ。忘れちゃいけないんだよ。あいつらのしてきたこと。

 愚弟にしてはよく考えたじゃん。」

 

 僕と同じ目の色の竹の周りをくるくると回る。これは蓬莱島のミール本体だ。

 …ここの中に、たくさんの島民の思いが詰まっているんだ。

 

 

 たくさん、踏みにじられた思いが辿り着いた場所だ。

 たくさん、無意味に殺された者たちの墓場だ。

 

 …もう二度と、壊されてはいけないんだ。

 もう二度と、同化されそうになってもいけない。

 

 

「僕らは僕らだ。ちゃんと個々の性質を持っている。決して同質ではない。」

 

 そんな単純な事を、あの大人たちは理解できていなかった。僕らを消耗品として数えていた奴らに、この領域に至れる筈は無い。あんなに知りたがって研究し尽くしたいと考えていた領域に指一本すら触れられないなんて、とっても哀れで…。

 

 

 

 ざまあないね。

 

 

 

 

「さぁ、愚弟はどんな風に死んでここに来るのかな?

 兄は君が役に立ってから死んでくれることを願っているよ。」

 

 

 

 




次回


 空を綺麗だと思ったことはある?




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