ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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【義勇兵】

 

 俺は師匠に促されて狩人ギルドの外に出ようとしていた。

 歩いていると少しふらついたがすぐに師匠が支えてくれた。師匠が言うには解毒するのに体力を使ったせいだろうがよく食べて休めばすぐ治るはずなので心配はいらないということだ。

 

 ギルドから外に出ると暗い室内から一気に太陽の照り付ける外に出たので一瞬目が眩んだ。思わず目を瞑った途端体に走る衝撃ーー。

 

 殆ど反射的に剣鉈をつるした腰に手をやり警戒するが、殺気を感じなかったので手を緩める。

 感じたのは体にかかる重みと顔にかかる生暖かい空気と湿った何かが顔を触れていく感触だった。

 

 目を開けてみればそこにいたのは俺の顔を舐める白狼だった。

 倒れそうになり慌てて白狼の体を支える。ふと前足に包帯が巻かれているのが見えた。俺がやったときより丁寧にまかれてはいるがその位置からしてどうやらこいつは俺が森で出会った白狼で間違いないらしい。こいつも無事なようでよかった。

 わしゃわしゃと白狼の顔をなでてやると白狼は嬉しそうに身をくねらせる。そんな白狼の姿に思わず頬が緩む。しかしなぜこんなところにいるのだろうか。

 

「やっと目がさめたのか」

 

 低い声が聞えた。

 白狼から目を離して、その後ろに目をやると一人の男が立っているのが見えた。均整の取れた体に髭を生やした以前にも見かけたことのある男、イツクシマだ。白狼に目を奪われて気付かなかったが俺がギルドから出てきたときから中庭にいたのだろう。

 先ほど師匠の言った白狼にもイツクシマにもすぐに会えるという言葉の意味をようやく理解しながらイツクシマに相対しお辞儀をする。

 

「イツクシマさん、だよな。師匠から助けてもらったと聞いた。ありがとうございます」

「……いや、頭を下げるのは俺のほうだ。俺がきちんとメンターとして指導をしていればこんなことにはならなかった」

 

 そう言って頭を下げる男を見て思ったことは、実直そうな人だなということだった。服の上からでも分かる鍛え抜かれた体躯や何気ない動作の中でも隙のない姿をみると腕のいい狩人なのだということがすぐにわかる。

 師匠よりも余程狩人らしい狩人だ。

 

「まぁまぁ、いつまでも二人で頭下げ合ってないで早く顔上げなよ。結局サク君は軽いけがで済んだし白狼の密猟だって防げたんだから」

 

 それもそうだと顔を上げると、同時に顔を上げたイツクシマ。

 

「ああ、それから一狩人として礼を言う。よく白狼を守ってくれた。まぁ見習い義勇兵にしては少々やりすぎだが、それからしっかり絞られたみたいだし俺からいうことはないな」

 

 それとはなんだ、とキレる師匠を横目にイツクシマは俺になにかをぽんと放ってくる。

 ぱしっと受け取り、手元を見やると金色に光る何かが。

 

「金貨!?」

「ああそうだ。密猟者捕縛の報奨金を先に受け取ってきた」

「だ、だがこんな大金受け取れない」

「まぁ俺からも多少色を付けといたが、お前の仕事に対する正当な報酬だ。黙って受け取っておけ」

 

 初めて見る金貨に動揺して思わず師匠の顔色を窺うと、イツクシマをあきれたような表情で見ながら俺に向かって頷いてくれた。

 師匠の反応的に、イツクシマのつけてくれた色というのは相当なものなのだろう。とはいえここで好意を固辞するのもおかしな話だ。もう一度イツクシマに感謝をこめて頭を下げてから腰の袋に金貨をしまい込む。

 

「ああ、それからこいつもやろう」

 

 今の思わぬ金貨の登場により、イツクシマの言葉に警戒してしまう。

 そんな俺の様子に苦笑しながらイツクシマは革の帯のようなものを取り出した。

 

「これは……?」

「首輪だ」

「首輪? 何のために?」

「そらこいつにつけるためだろうが」

 

 そういってイツクシマが指さすのは未だに俺のそばから離れようとしない白狼だった。

 白狼は話を分かっているのかいないのか楽しそうに尻尾を振っている。

 

「は、なんで?」

「この白狼、お前から離れようとしないし、スズランから聞いたが狼犬を欲しがっていたらしいじゃないか。ちょうどいいからこの白狼を連れていけばいい」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなこと出来る、というかしていいのか? 現に白狼は狩猟禁止だ」

 

 俺がそういうと師匠が横から口を挟んでくる。

 

「あー、サク君にはまだ教えてなかったかな。サク君、そもそもなんで白狼が狩猟禁止なのか知ってる?」

「そりゃあ、白狼の個体数を守るとかか?」

「うん、確かにそういう側面もないとは言えないけどもっと実際的な理由があるんだよ」

「実際的?」

 

 白狼を狩猟することによって害獣が増えるから、とかだろうか。

 

「正解は白神の怒りに触れるから、だよ」

「は?」

 

 それが実際的な理由? 

 急にオカルトじみた話をし始めた師匠に思わず白い眼を向けてしまう。

 

「疑うのもわかるが、それはスズランの話は事実だ。といってもそう言い伝えられている、という話だが」

「そうなのか」

「なーんで私が言っても信じないのにイツクシマが言ったら信じるのかなぁ?」

 

 ぶつぶつと文句を言う師匠を無視してイツクシマの話を聞く。

 

 彼の話によると、昔、ある町が白狼の狩猟を認めるどころか街の財政を立て直すためというお題目で狩猟を推奨していたことがあったらしい。初めは町は潤ったそうなのだが、すぐに異変が起こった。

 なんと森で採れる恵みがほとんど採れなくなってしまったのだ。白狼は勿論、兎、猪、鹿などの動物や、山菜や薬草などの植物類もピタリと人の目から消え失せてしまったのだという。

 白狼の狩猟を始めたころから白神が怒り狂っている夢を見たと訴える狩人が急増していた。初めはバカにして取り合わなかった領主も森での採集物が採れず町が飢え始めたことで流石に肝を冷やしたのかそうも言ってられなくなり、捕まえた白狼をすべて解放したうえで今までの所業を白神エルリヒに陳謝し、白狼の狩猟の禁止を言い渡した。

 するとやがて山に動植物が戻り、町は九死に一生を得た。それ以来アラバキア王国では基本的に白狼の狩猟は禁止。密猟者は厳しく罰せられるようになり、今でもそれは受けつがれている、らしい。

 

「なるほど、そんな話が。なら余計に白狼に首輪するなんてダメなんじゃ」

「いやいや、この話で大事なのは白神を怒らせちゃいけない、ってことなんだ。無理やり狩人が白狼を従えるならともかく、白狼もそれを望んでいれば全く問題なしってこと」

「それに狼犬を産ませるためにも白狼を狩人が管理することも珍しい話じゃないしな」

 

 二人の話を聞いて、足元の白狼を見遣る。

 じっと俺の目を見つめる白狼に向かって「俺と一緒に来るか?」と呟くようにして聞くと白狼は「ワウっ!」と吠えて俺の膝に頭をこすりつけてくる。

 

「よし、ならお前は俺の相棒だ」

 

 そんなかわいい姿に頬を緩ませながら白狼の顔をわしゃわしゃと撫でてやる。

 ふさふさな毛の感触を楽しんでいると、こいつを連れて行くのにはもう一つ問題点があることに気づく。

 

「そういや見習い義勇兵は狼犬を持ってはいけないんじゃなかったか?」

 

 俺がそう疑問の声を上げると、耐え切れなかったように師匠とイツクシマが笑った。

 

「サク君、いつまで君は見習い義勇兵でいるつもり?」

「へ? でも金に余裕ができるまでは……」

「意外と鈍いんだな。お前にさっき渡したのはなんだ?」

「何って……そうか」

「ははは、金貨持ってる見習い義勇兵なんてきいたことないよ。というか金貨もらってること忘れるなんて。ぷぷぷ」

 

 師匠がバカにするように、というかバカにして笑ってくる。

 恥ずかしいやら悔しいやらで顔が熱くなってくるが、金貨があれば余裕で義勇兵になれてしまう。そのことにすぐに気づかないのは確かに間抜けだった。

 ねぇねぇサク君顔真っ赤になってるよー? とちょろちょろと俺の周りに纏わりついてくる師匠を押しのける。

 

「からかうのはこのくらいにするとして。金貨があれば流石に君が義勇兵になるのに倍額必要だとしてもお釣りがくるでしょ。それを使って装備を整えるといいよ。義勇兵にふさわしいようにね」

 

 倍額? と聞き返すイツクシマにそれがねーと話始める師匠をわきに俺は布袋に入れた金貨の感触を確かめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は狩人ギルドを後にした後、義勇兵事務所に向かい所長に四十シルバーを支払い、晴れて義勇兵と相成った。

 金貨で支払うと銀貨や銅貨に換金するための手数料として多めに額を引かれることが多いらしいのだが、所長は何も言わずに六十シルバーを返してくれた。なんだかんだいいやつなのかもしれない。

 

 そんなことを思った瞬間、流し目で俺を見ながら今夜どう? などふざけたことを言い始めたのでけつを守りながら急いで事務所から逃げた。一緒に付いて来ていた白狼も若干ビビってる様子だった。所長はやっぱりヤバい。

 

 それはともかく、ようやく見習い義勇兵を脱した俺は、師匠の言われた通り装備を整えることにした。

 イツクシマから受け取った金貨はもちろん、その前から義勇兵になれるだけのシルバーは貯めていたし、先日のゴブリンたちから剝ぎ取った装備類が良い値で売れたので資金はそれなりにある。

 

 まず買い換えたのはメインウェポンである剣鉈。そもそもこの剣鉈という武器は茂みを払ったりするなど乱暴に扱うことを前提に作られているのでかなり頑丈だ。とはいっても生き物をぶった切ったり砥石でガシガシと研いだりしていると当然消耗してしまう。俺の剣鉈もかなりボロボロになっていたので買い換えることにしたのだ。そもそもの品質も高くなかったというのもある。

 初めジャン達の店に行ったのだが、選べば買えないことはないものの他の装備を買う金がなくなることになると分かったため断念。落ち込んでいるとオルバが声をかけてくれた。

 

 曰く、ジャンの弟子だった男が近くで店を出しているのだとか。まだ若く経験不足ではあるものの腕はよいらしい。彼らのお墨付きであれば信頼できる。まだ顧客となる人間が少ないので良ければ行ってほしいと言われたので行ってみた。

 

 そいつは二十代後半の男で、こいつの口は悪いし値段も安くはなかったが売っている剣の質はよかったので、ここで剣鉈を新調した。他にも数点仕事を頼み、ぶつくさ言いながらもそれも作ってくれた。仕事が早く腕もいいようだったのでまた何かあれば頼もうと思う。

 

 俺が剣鉈の他に買ったものは、まずは鉄板の入ったブーツだ。

 露天商で売っていたのを前から目をつけていたのだ。当然のように中古の品で少々くたびれてはいたが少し手入れすれば気にならない程度のもので、素材も悪いものではないようだったので値引き交渉しながら買った。

 サイズを合わせてもらってから履いてみると足を持ち上げるときにずしりと重さを感じた。重くなるのを承知で鉄板入りのものを選んだのは単純に何か踏んでも怪我をしにくいこともあるし、蹴りやスタンピングなどの威力を上げたかったという理由がある。

 このブーツならばゴブリン程度なら頭を思い切り踏みつけたら一度で殺せるだろうし、つま先も鉄で補強されているので遠心力の乗った蹴りにも期待ができる。

 

 後は、パーツごとに防具を売っている店で、膝から足首にかけて守ってくれる足甲を購入した。

 

 それから厚手の服も何着か買った。服といっても戦士が全身鎧の下に着こむ頑丈なもので、綿などで補強されているため布鎧なんて言い方もされることもある。後はこの上から心臓を守る胸甲、両腕に腕甲ーー足甲と一緒に買ったものーーを身に付ければこれが俺の装備となる。

 勿論胸元では義勇兵章が揺れている。

 

 改めて見ると足回りばかりの装備は充実して上半身がおろそかになっているように思えるが弓を使う関係上あまり上半身の動きを阻害するような装備をつけられないし、狩人の命ともいえる速さや俊敏さを思うとこれでも結構ギリギリの重量だ。もっと筋力が付けば変わるかもしれないがこれが今の俺にできる最高の装備だ……と信じたい。

 

 それから弓はそのままだ。

 これは見習い義勇兵になったとき狩人ギルドから支給されたいわゆる初心者装備で、大して質の良いものではないが頑丈ではあるので折れたりしない限りまだまだ使うことが出来る。勿論、もっと良いものを買えば飛距離や命中率に差が出るので買い換えた方が良いには良いのだが、いくらあぶく銭が手に入ったとはいえ俺の懐には限界があり、泣く泣く今回は諦めることにした。

 

 パーティを組んだ狩人ならば迷わず初めに弓を強化するのだろうが……。

 

 これは俺が遠距離戦よりも近距離戦を重視していることの表れでもある。

 弓が折れ、矢が尽きたのでもう何も出来ません、なんて考えただけでもぞっとする。弓は狩人のアイデンティティといってもいいくらい重要な武器ではあるが、正直俺は、剣か弓どちらかを選べと言われたら剣を選ぶ。

 

 まぁ、それはともかく、これらの装備を身に着け傍らに白狼が控える、というのがいよいよ義勇兵となった俺のスタイルということになる。

 

 

 

 

 

 

 

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